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メンヘラっけを感じるんだよなぁ……。9
しおりを挟むちらと後ろを振り返ると、割れた転がるティーカップと真っ二つになった大きなテーブル。今だって私に、傷一つ無いのが不思議なぐらいだ。
私の疑問に、彼は口を閉ざし、倒れている椅子を立て直して座る。
「そんな事より……話をするんだろう?君のこと……今の状況だけ聞くと正直、気が気じゃない、またおかしくなりそうだ。言ってくれ、もうなんでいい。俺は既に面倒事の渦中にいる、君とチームになってしまった時からな」
昔にあったことは、話したく無い事だったようで、あからさまに話題を変える。彼の昔話は聞きたかったが、大元はそこを話そうと思って、今日はここに残ったのだ。まったくもって話をするのは構わないが、彼の過去についても気になる。
……でも、無理に聞くのもなぁ。……よし、今度しっかり私も、魔法を使える状態で聞こう。とにかく今は、彼に知ってもらうことが先決だ。
私も椅子を引っ張ってきて向かい合うように座る。出来るだけわかりやすいように、私はすべてを語った。
前世がある事もあまり混乱しない程度に伝えて、クラリスと私の関係、エリアル先生の事、ローレンスが何かを企んでいるという事。私の魔法が使えない仕組み。
途中で侍女ちゃんが出てきて、慣れた手つきで粗方の掃除をして、こじんまりとしたテーブルとお茶が出される。サディアスの質問を挟んでゆっくりと話をしたせいか、いつの間にか、夕食の時間になってしまった。
この前にお呼ばれした時のような食事ではなく、寮食を少し豪華にしたようなものを出してもらいご馳走になる。
最後まで話をするとサディアスは黙って食事を口に運びつつ、長い間思案する。
彼が話し出したのは食事も、大方食べ終わった後だった。
「実際に、人が変わっていたなんて……まったく想像していなかったな」
食後のコーヒーを飲みながら、彼はポツリと呟いた。
「……信じられない?」
「信じてはいる、実感は湧かないが……君の魔法玉、それが何よりの証拠だろう?」
「うん」
彼は先程まで暴れん坊将軍だったと思えないぐらいの落ち着きようで、気品のある所作でコーヒーを嗜む。
私は貴族だなぁ、と思いつつ自分の魔法玉を出した。
「君がどこの誰かという事は追求しても意味は無いんだったな?」
「うん」
「…………はぁ……そうか」
何だか重苦しい空気に、私は自分の魔法玉をチカチカ光らせて気分を紛らわせる。私自身の事についてしっかりと話をしたのは、彼が初めてだ。すぐに拒否感を表されなくて良かったと言う思いと、それでも何だかはっきりしない彼の反応に少し落ち込む。
……言わない方が良かったのかな。
顔に出しているつもりは無かったが、サディアスは私の方を見て、それから、眉を下げて困ったような笑顔を浮かべる。
「君も、そう不安な顔をする事があるんだな」
ふと、何気ない仕草で私に手を伸ばす、そしてサディアスはまったく躊躇なく私の頭を撫でた。
……?……貴方こそ、そんな顔も出来るんだ。
心だけで思って口には出さない。緩く頭を撫でられて、何だか心地いい。眠たくなるような安心出来る手だった。
「……さっき、きつい事を言ったのは……決闘の時のような暴走をさせないよう……俺なりに考えた結果だ」
これ以上迷惑をかけるなと言った事だろうか。私が沈んでいるのは、その話題では無いのだが、勘違いするほど、彼に取って今の話はそれほど難なく受け入れることができる話だったのだろう。
それが少し嬉しい。
そして、やっぱりあの時の言葉は、心からの言葉ではなく、言うべきだと思ったから言ったのだろう。それにやっぱり決闘の時のことは気にしているらしい。
「君が本当にクラリス様ではないのならば、少し話が違うな…………はぁ……だが立場は完全にクラリス様同様……ややこしい」
撫でるのをやめて眉間を押さえる。もう少し撫でていてくれても良いんだけどなと思いつつ、私もコーヒーを飲む。
「君は、ローレンス殿下の事をどう思っている?」
「腹黒王子」
「……違う、関係的な面でだ。信頼できるだとか、後ろ盾なのだからついて行くだとか、はたまた、君もクラリス様のようにローレンス殿下の手から逃れたいと?」
……どうと言われても、どうもこうも、逃げられる気がしないなと思うし……果たして私は彼から逃げたいのだろうか?
「……、……?」
首を捻って考えるが答えは出ない。多分、最低な男だと思うのだが、深夜に勝手に人の部屋に入るし、婚約者を蔑ろにするし、そもそもララと付き合ってるんだよな?
え、でもそれって私に関係なくない?仕事上の付き合いだよね?あ、そういやいつだかキスされたな……。
「逃げられ……る、のかな?」
「俺に聞かれても困る……そもそも、その前に、殿下を敵に回すだけの理由はクラリス様やエリアルから聞いていないのか?」
……聞いてないな。これまでの行いについて、クラリスから話は聞いているが彼が何を企んでいて、何故、クラリス達は私を彼から遠ざけようとするのか、それは不明のままだ。
こうして、私を学園に入れるという事は何かを企んでいるのだろうという事は分かるが、実際問題、それが私の害になる事なのかもはっきりしていない。
「……そうだね……何か彼が企んでいる事を止めるために動くとクラリスとエリアル先生は言っていた。内容は……分からない。でも、多分、それは私がこの学園に居ないと成立しない事だと思う。幽閉されている時に、出された選択肢に、両方魔法使いになるっていう過程があった。だから、ローレンスの目的は私を学園に通わせる事で、それは既に達成だと思う」
「……君が魔法使いに……か。……何となくだが分かるな」
ここまで状況を整理しても私には彼のやりたい事は分からなかったのにサディアスは、また物凄く嫌そうな顔をした。
「わかるの?」
「……バイアット公爵家の血筋だろう……君は」
体は確かに、クラリス・ド・バイアットなのでコクリと頷く。
「うん、一応」
「過去にクラリス様が犯した罪、呪い関係だな」
サディアスはそう言い切り、私を見据える。
「正しくは“滅びの呪い”たちまち、人も物も消しされる旧時代の魔法の産物だ」
「……そんな禍々しいものだったんだ、それ」
原作では、そんな設定は登場していなかった、禁忌と言われているだけで、あまり深堀されず、恐れられているという事だけは何となく伝わってきたが。
「殿下の周りでは、いつも何かしら混乱が起こっている。それはクラリス様とララの件、以外でも多くあった……また、何かしら呪い関係で事件がある日も近いだろうな」
「うーん……なるほど?」
「……君はもっと、ローレンス殿下の事を知った方がいい。そして、自分の身の振り方について考えるべきだ」
話をまとめるようにサディアスはそういって、難しい顔をする。
それは確かにその通りで、いつまでも彼の言いなりでいたら、何か良くない事が起こるのだろうとも思う。
「まずは、ヴィンスの事だな。本人の感情以前に、君はローレンス殿下に話をつける必要がある。それは理解しているか?」
「うん、頑張ってみるよ」
「わかった……俺も君の言っていた模擬戦での作戦、検討してみよう」
「!……本当っ?」
「ああ、ただし、また君が傷つけば、本当に俺は何をしでかすか自分でも分からない……くれぐれも忘れないでくれ」
自分で言っていて、可笑しく思ったのか、自嘲気味にサディアスは笑う。私もつられて笑った。
こうして話ができて良かったと思う、頭の中を整理することが出来た。
でも、こうやって冷静に話をしている彼と、急に暴れる彼は果たしてどちらが本当なんだろうと思う。私は、サディアスの事も、ほおって置いたら何か良くない事が起きるのではないかとぼんやりと心の中で思った。
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