悪役令嬢に成り代わったのに、すでに詰みってどういうことですか!?

ぽんぽこ狸

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クラリスの正体……。5

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「~♪」

 鼻歌を歌いながら廊下を歩く、髪をバスタオルで拭きながら、水気を取ってお風呂上がりの心地よい外気に私の機嫌は最高に良かった。

 ……だって大浴場には誰もいないんだもんね。こんなお風呂を毎日独り占めできるなんて本当に夏休み様々だなぁ。

 普段はこんな濡れた髪のまま、部屋着で廊下を歩くなんてできないが夏休みで人がいないと言うだけで、これだけ寮が快適になるなんて思いも寄らなかった。

 貴族たちの部屋には、バストイレキッチン全てついているので彼らはいつもこんな自由な気持ちを味わっているのかと思うと少し羨ましい。
 階段を登ろうと、談話室の横まで来て、階段の手すりに何かちょこんと座っていることに気がつく。

「ン?」

 気になって振り返りきちんとソレを見てみれば、緩くしっぽを動かしているクラリスの姿だった。

 ……!…………何してるんだろう?

 この人の少ない寮内、それも談話室の手すりに置物のように座っている事に何か意味があるのだろうか。

 ……いや、クラリスの事だし……私に用事?まさか猫のように気まぐれにそうしていた、という事も無いだろう。部屋に案内した方がいいのかな?

 私は彼女に何度も痛い目を見せられているのに咄嗟にそう思った、結局どんな人だとしてもだ、外見が猫なのだから、仕方が無い。

「……あの、クラリス」

 私が声をかけようとすると、ちょうど玄関付近にある寮母室の扉が開く、ベラは、固まってベラを凝視する私と、手すりに乗っかっているクラリスを見て、それから「まあ!」と怒っているような声で眦を下げる。

 それからパタパタと部屋の中へと戻っていき、そして何かを手にして戻ってくる。

「クレア、寮内は動物厳禁ですよ」
「……」

 そう言いながら、ゆっくりとした仕草で、手のひらに乗せた煮干しをクラリスの前へと差し出す。

 ……いや、どこから突っ込めばいいんだ。ベラじゃ猫が好きだったのねというか、餌をやりながらそう言われても説得力ないというか、そしてクラリスは普通の猫じゃないし、食べないと思うんだけど……。

 そう思い、クラリスを見つめていれば彼女は、くあっと口を開いて、ハグハグと煮干しを口にする。

 ……え、えぇ……。食べるんだ。というか、この子本当にクラリスか?もしかしたら猫違い?

「クレアの飼い猫ですか?」
「や、違います」
「では野良猫ですかね……それにしても綺麗な毛並みだこと」
「……多分エリアルの猫ちゃんだと……思うんですけど」
「ああ!そうなのね、道理で上品!」

 私たちの会話を聞いているのか、いないのかクラリスは口の周りをぺろぺろ舐めて綺麗にしてそれから、手すりから飛び降りてトンっと軽い音を立てて床に着地する。

 足音のしない猫特有の歩き方でふわふわと歩いていき、玄関扉のまえへと移動する。それから『なぁん』と甘えるような声で鳴いて、扉を開けろとばかりに爪で軽くカリカリと戸を引っ掻いた。

「はいはい、今、開けますよ」

 ベラは、緩みきった頬を治すこともなく、そのまま扉を開ける。私はなんだったんだろと思いながらその光景を見ていると、扉を開けてもクラリスは一向に去っていかない。そして何故かじっと私を見た。

「あら、きっと送っていけと言っているんですよ、クレア、随分頭の良い猫ちゃんですね」
「え、送るって私がですか?」
「そうかもしれないという話です、お好きになさい、私は見回りの時間ですから、外に出るのでしたら消灯までにキチンと戻るんですよ」

 言うだけ言ってベラは、去っていってしまう。じっと私を見つめるクラリスを私も見つめ返して、ついて行くのは危険しかないような気がするが、それでも、何となく、ついて行くことにした。

 まったく確証はなかったけれど彼女は、今はまだ、きっと私の命に関わることはしないと思う。

 …………。

 まだ髪が濡れているし、部屋着のワンピースのまま私は彼女のそばによった。

 するとクラリスはやはりふわふわと歩き出して、私はまだ蒸し暑い夏の夜に一歩を踏み出した。

 彼女はゆったりと歩き、私はその後ろをついて行く。ぼんやり髪を手櫛で整えながらついて行くと、いつの間にか学園街だ。人は少なく、ほんの一部の街灯だけが街をぼんやりと照らし出している。

 ……そういえばヴィンスにお風呂に行ったまま消えたと思われちゃうな……どうしよう。

 そう考えている間にもクラリスは路地裏へと入っていき、私もそれに従う。月明かりのおかげでまったく何も見えないということはなく、物の輪郭や壁の場所はわかる。

 スルスルと歩いて行く彼女について行けば、暗闇に光るいくつもの光。

 それは多くの猫ちゃんがたむろして、こちらを見ている光だった。

 どうやらクラリスは猫集会に参加しに来たらしい。というか本当にクラリスかどうか怪しくなってきた。公爵令嬢だった彼女がこんな事をするだろうか。

 全然分からない、そして頭も回らない。
 
 ……今日も特訓頑張ったもんな。オスカーは容赦ないし、ディックは打ち込みながら私が弱すぎると文句を言ってくるし、いかにチームメイト達が私のやる気を削がない教え方をしてくれていたかが身に染みてわかる。

『にゃーお』

 クラリスは野良猫達に向かって嘘みたいな、まるで猫の泣き真似が下手な人間みたいな声で鳴いた。

 すると、ものすごく驚いたのか猫たちはバタバタガタン!と音を立てて、すごい勢いで蜘蛛の子を散らすように走り去っていく。

「わっ」

 一匹が私の足元をものすごいスピードで走り去って言ったので、思わず声をあげて驚いた。

『ふふっ』

 一瞬可憐な少女のような笑い声が聞こえて、バッとクラリスの方を見るけれど、彼女は猫然としてまた夜の路地裏を歩く。私はそれに駆け足でついて行った。





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