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クラリスの正体……。6

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 ……一応……クラリスみたいだけど……何してるんだろ?

 クラリスは無駄に塀の上を歩いたり、細い路地を進んだりしながら、学園街の広場の周りをぐるりとまわるように歩き、また校門に戻ってくる頃には私の髪は乾ききって、私の喉も乾いていた。

 道中、猫集会のような事をやっている場所へ行っては、同じように鳴いて驚かせていて、そして何だか彼女は楽しそうだった。

 ……まったくわかんない。でも、そろそろ眠い……。

 学園内へと戻り、クラリスは今度はグランドの方へと足を進める。私はもうここまで来たのだから、と引き返せないような気持ちで、彼女について行き、グランドの真ん中で、腰を下ろした彼女の側へと座った。

 夜が深くなるに連れて少し暑さが落ち着き、さらに冷たい地面が心地いい。

 この芝生に寝っ転がったら、どんなに気持ちいいだろうと思ったが、さすがにそんなことをしたら、はしたないとクラリスに怒られてしまう気がして彼女の方を見やる。

 すると彼女はゴロンと横になっていて、そしてぺろぺろと自分の毛づくろいを始めてしまった。

「……」
『……』

 結局どういうつもりか分からない私は、じっと彼女を眺める。けれど彼女は、そんな事は意に介さずに素知らぬ顔をして変わらず前足を舐める。

 私はばたんと芝生に倒れ込んだ。

 グラウンドの真ん中、私は空を見上げて、何も遮るもののない夜空を見上げる。

 今までの散歩で随分と目が慣れていたおかげか、とても光の波と夜空が美しく輝いて見える。

 ……なんで私、外なのに……こんなに心地良くて眠たいんだろ。

 自分の神経は割と図太いらしくて、横になっているとすぐに眠気が襲ってくる。
 仰向けから、ゴロンと、寝返りをうってクラリスの方へと視線を向ける。

 私が手を伸ばすと、彼女はピピッと耳だけこちらに向けてけ、相変わらずお腹をぺろぺろを舐めて毛づくろいをしている。

 私は普通の猫にするように、彼女の耳の裏を指でなぞるように触った。クラリスはなんの抵抗もせずに、毛づくろいを続けていて触ってもいいのかなと思いそのまま頭を撫でる。

 そのままわさわさと彼女を撫でて、彼女は毛づくろいをする。そんな時間がしばらく続き、寝っ転がったままの私に彼女は向き直り、そのまま香箱座りになりじっとブルーの瞳で私を見つめた。

「……クラリス?」

 頭を撫で付けながら少し疑問形で問いかける、すると少し口を開けて彼女は答える。

『何かしら』

 やっぱりちゃんとクラリスだ。
 驚く事はなかったが、じゃあ今までのあれこれ全部ちゃんと彼女なのだと思うと、ますますクラリスという人間の人となりが分からない。

「寮で何をしていたの?」
『あら、猫の行動に理由を求めるなんて無粋よ。ただ気ままにあそこにいただけですもの』
「……」

 ……そりゃ、普通の猫ちゃんならそうだろうけど……。

 彼女は私の手に少し心地良さそうにすり寄ってくる。その毛並みはふわふわで少し体温が暖かい。

『わたくしは今、何をしても許されるのよ』

 彼女はそう言い、ゆっくりと瞬きをする。私はその唐突な言葉の意味が分からなくて、何となく起き上がって座り、そして首を傾げた。

『夜、ひとりで出歩く事もできる。気ままに散歩をして、毛づくろいをして、敵対していても会いたい人に会いに行けるのよ』

 それはやっぱり私に会いに来てくれたと言うことなのだろうか。よく分からない。

 でも、気ままに散歩だって、夜に出歩くことだって普通に誰だってできる事じゃないのだろうか。

『気ままに助言もするわ、でも貴方を見殺しにもする、なんの脈絡なんてないのよ』
「……」
『意味の分からないって顔ね』
「うん……まあ」

 言っていて彼女はとても楽しそうに笑っているように思えた。

『エリアルから聞いたのでしょう?彼自身の話、そしてディックからは、わたくし達の目的の話も』
「……聞いたよ」
『呪いのお話をしてあげましょうか』

 こくんと頷く、そういえば、バーベキューの夜にヴィンスは全てを知っていると話していた。けれど彼の発言行動が色々と突飛すぎて聞きそびれていたなと思う。

 呪いの家系に生まれた彼女の話であれば、きっと正確だろうと思ったがふと思い直す。私にそれを話して彼女になんの得があるのだろう。さっき彼女自身が言っていた、私を見殺しにもすると。

「待って、ヴィンスから聞くから……やっぱり良い」
『……そうね……ヴィンスの知識は正確では無いわよ』
「そうなの?」
『ディックの方が少しはましね。まぁ、わたくしから聞くのが一番だと思うわ。何せ、私は貴方、貴方は私、当事者よ』

 ……それなら、後でディックにも確認して、情報の裏取りをすればいいんだろうね。そして話をしてくれるというのなら、それは拒否しなくてもいいと思う。オスカーに、判断をしろ、きちんと向き合え、甘えるな、そう言われたのだ。

「やっぱり聞かせて」
『ええ…………呪いを司る家系、メルキシスタ国バイアット公爵家は代々直系の血族に呪いの力が宿るわ』

 うん……私の知ってる知識と一緒だ。しかし呪いの話とは結局、その呪いがなんなのかという話だろうか。

 予想しながら、彼女の話を聞く。

『その力は、決して使ってはいけない禁忌の力、けれど血族を絶やすことは許されないわ。呪いの力とは古代の魔法ですのよ。それらを封印する際にそれぞれの高貴な家系が一つずつがその力を守る事を約束した。そのうちの一つ、それが、かけられた相手を必ず滅ぼす力』

 古代の魔法か……今の魔法だって、私にとってはまったく同じぐらい現実味の無いものだ。全てが現実的ではなくて、ファンタジーが詰まった能力。

『その力を監視管轄しているのは、ここユグドラシル魔法学園、世界の均衡を保っているこの場所は、その大きな力が家系の人間意外に渡らないように監視している』

 ……?でも、それだとクラリスがアウガスに婚約でやってきたというのは変な話じゃないだろうか。それとも王族だから問題ないとかいう話なのか?

『その力を守りつつも、バイアット公爵家には、貴族としての役目も存在しているわ、領地を守り、国を守る、だからわたくしの家にはからなず、秘密裏に直系血族以外の子供を養子にとる風習があるのよ』
「養子……?」
『ええ、そのようにしておけば、力を家の外に出さずに政略結婚が可能になるのですわ』

 ああ、なるほど。そうだよねこういう世界だ、結婚で繋がりを持ったりするのは当たり前か。

 ……だから、養子ね。……って事はクラリスは……。

『わたくし、生まれはとても田舎ですのよ。人攫いに攫われ、貴族の子として扱われたただの平民よ』
「…………だから、ローレンスは、私に直接呪いの力を使わせる事は要求しないって事?」
『ええ、目ざとい人ですわ。どこからそのような情報を……いいえもしかすると、自身でお気づきになられたのかもしれないわね』
 
 私の中でひとつパズルのピースが埋まって、この騒動の全体像が見えてきた気がする。




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