悪役令嬢に成り代わったのに、すでに詰みってどういうことですか!?

ぽんぽこ狸

文字の大きさ
173 / 305

もっと早くこうして欲しかったんだけど……。1

しおりを挟む



 サディアスを無事に寝かしつけた翌日の朝、彼はやっぱりサンドイッチを持って、ついでに夏休みのお土産も持って私の部屋へとやってきた。顔色はバッチリ、ついでに私のオイル櫛のおかげか毛艶もいい。

 私達は久しぶりに三人で朝ごはんを囲んだ。ヴィンスの淹れてくれる紅茶が最近は毎日いろいろな味がしてとても楽しい。

 そんな私とは裏腹にサディアスはばつが悪そうな顔だ。

 ヴィンスは相変わらずニコニコしていて、あまり空気を読まずに、発言する。

「クレア、昨日は危険はありませんでしたか?」

 その言葉に、サディアスはヴィンスをすこし睨みつけて、意を介さずヴィンスは私を見る。

「全然、ただちょっとお説教されただけ。ね、サディアス」

 出来るだけ自然に彼に話題を振り「ああ」とサディアスは肯定した。それから、私達の方を見て彼は言う。

「……昨日は申し訳なかった。俺は余計な事まで君に言っただろう。正直、記憶が曖昧な部分すらある」
「そうなの?……すごく怒ってたから少し怖かったけど、乱暴はされなかったよ」
「……そういう問題じゃないと思うが、君がそう言ってくれるのなら、もうこの話はやめよう。それより、少し君に話をしておかなければならない事がある」

 紅茶を少し飲んで、彼を見る。何やら真剣な表情で、わざわざチェルシーとシンシアがいない場所で話すのだから、私の抱えている方の面倒事の話かもしれない。
 
「王都の襲撃事件の事については、チームメイトに聞かれても問題が無いのでここで詳しくは話さないが、それに伴って、貴族派つまり、ローレンス殿下の派閥では無い貴族たちの動きが気になる」
「……気になるって……どういう事?」
「端的に言えば、君を手に入れたいという事だな。今までは俺が君について、少しは便宜を測っていたが、俺の信用など地に落ちた。いつ、誰がどのように君を狙うか分からない」
「……私を手に入れてどうするっていうの?意味なんかないでしょ?ローレンスじゃあるまいし」

 言っていてはっと、気がつく。私を引き合いに出して、ローレンスが呪いの力を手に入れられるという事は、別に、私さえ手に入れればローレンスでなくとも、コーディと面識があれば可能だ。

 そして、ローレンスがコーディと信頼関係を築こうとしているのを見ていれば私自身に呪いの力がないという事は、その他大勢が気がついてもおかしくは無い。

「……その貴族派の人も……呪いの力が欲しいの?」
「そうらしいな。それに誰かさんが、ララと親しくしている姿を晒しているのも、なんなら引き金になっているだろうな」
「え」
「考えてみろ、ララが君の事を離すまいとしたら?それをローレンス殿下がララに示唆したら?君を狙える機会は少ないだろう。近日中に、君は狙われる」

 ……そ、そんな。本当に面倒な事になった。確かに、そう考える人の気持ちだって分かるが、そもそもだ、私の敵さんは今の所ローレンスのつもりでいたのだが、急に貴族派という謎の組織が登場である。

 一応、何となく存在感は感じていた。特にリーダークラスの時、だいたいディックといる事が多いので、なんとも無かったのだが、視線や嫌な感情があることは理解していた。

 ……というか。

「ひとつ聞いてもいい?」
「なんだ」
「オスカー達に言われて、私も色々動いて見たし、今、知っている事も多くて、多分、その貴族派の話以外とだいたいの自分の状況の把握が出来たんだけどさ…………サディアスは何処まで知ってた?」

 別に何故助言をしてくれなかったのかと責めているのでは無い。単純に疑問だったのだ。ヴィンスは自分の考えがあって、動いたり動かなかったりするのは知っているし個人の自由だと思う。

 ……でも……サディアスについては上手く納得がいっていない。今まで、貴族派に便宜を測ってくれていたとしても、待つばかりでは、私は死に直面するのだと彼は知っていたはずだ。

 それを彼は言わなかった。あのサディアスが、だ。

 ……だって変だろう。あんなに、傷つくな、心配だ、死ぬという事すら言うな、という彼が沈黙していたなんて。

「……」

 サディアスは、少し黙る。それから、少し困ったように、言う。

「すまない……君と過ごして行くうちに……このままの日々が続くような気がしていてな。あまり不安にさせるような事を言いたくなかったんだ」
「……そ、そっか。気遣ってくれてたんだね。私こそごめん」
「いや、謝らないでくれ」

 咄嗟に、私は動揺を悟られないように、大人らしい笑顔を浮かべた。心臓がけたたましく音を立てる。

 どういうつもりだろうと、頭がぐるぐると回転した。ティーカップを持ち上げる手に少し力が入ってしまって、喉が渇いてすべて紅茶を飲み干した。

 どう思う?という意味で、とりあえずヴィンスを見ると彼はパッと気がついたような表情をする。

「おかわりをお持ちしますね」
「……ありがと」

 ……違う、そうじゃない。

 ……だって……だって今、サディアスは、嘘をついた。
 どう考えたって、あまりにもらしくない。平和な日々が続く?不安にさせたくない?そんな事、サディアスが一番言わない言葉だろう。

 彼が私より早く沢山の事を知っていて、そして何もしない理由、でも私の傷つく事や、心配事があると、ストレスですぐにおかしくなる彼がそうする理由がまったく分からない。

 先程のサディアスの話よりもよっぽど、寒気がして嫌な予感がする。私にはまだわからない彼の底知れない部分がある気がして、ぽっかり空いた深淵が見えるようで怖い。

 ……確か、クラリスがサディアスと交流があったって言っていたよね?そうだ、この間はクラリスに聞いていない。何か、彼のこの立ち回りについて、情報が得られるかもしれない。

 私はそんな作戦を頭でねりつつ食事を終えて、三人で校舎の方へと向かった。私達の夏休み明けの初日は、まだまだ始まったばかりである。






しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

転生しましたが悪役令嬢な気がするんですけど⁉︎

水月華
恋愛
ヘンリエッタ・スタンホープは8歳の時に前世の記憶を思い出す。最初は混乱したが、じきに貴族生活に順応し始める。・・・が、ある時気づく。 もしかして‘’私‘’って悪役令嬢ポジションでは?整った容姿。申し分ない身分。・・・だけなら疑わなかったが、ある時ふと言われたのである。「昔のヘンリエッタは我儘だったのにこんなに立派になって」と。 振り返れば記憶が戻る前は嫌いな食べ物が出ると癇癪を起こし、着たいドレスがないと癇癪を起こし…。私めっちゃ性格悪かった!! え?記憶戻らなかったらそのままだった=悪役令嬢!?いやいや確かに前世では転生して悪役令嬢とか流行ってたけどまさか自分が!? でもヘンリエッタ・スタンホープなんて知らないし、私どうすればいいのー!? と、とにかく攻略対象者候補たちには必要以上に近づかない様にしよう! 前世の記憶のせいで恋愛なんて面倒くさいし、政略結婚じゃないなら出来れば避けたい! だからこっちに熱い眼差しを送らないで! 答えられないんです! これは悪役令嬢(?)の侯爵令嬢があるかもしれない破滅フラグを手探りで回避しようとするお話。 または前世の記憶から臆病になっている彼女が再び大切な人を見つけるお話。 小説家になろうでも投稿してます。 こちらは全話投稿してますので、先を読みたいと思ってくださればそちらからもよろしくお願いします。

転生したら悪役令嬢になりかけてました!〜まだ5歳だからやり直せる!〜

具なっしー
恋愛
5歳のベアトリーチェは、苦いピーマンを食べて気絶した拍子に、 前世の記憶を取り戻す。 前世は日本の女子学生。 家でも学校でも「空気を読む」ことばかりで、誰にも本音を言えず、 息苦しい毎日を過ごしていた。 ただ、本を読んでいるときだけは心が自由になれた――。 転生したこの世界は、女性が希少で、男性しか魔法を使えない世界。 女性は「守られるだけの存在」とされ、社会の中で特別に甘やかされている。 だがそのせいで、女性たちはみな我儘で傲慢になり、 横暴さを誇るのが「普通」だった。 けれどベアトリーチェは違う。 前世で身につけた「空気を読む力」と、 本を愛する静かな心を持っていた。 そんな彼女には二人の婚約者がいる。 ――父違いの、血を分けた兄たち。 彼らは溺愛どころではなく、 「彼女のためなら国を滅ぼしても構わない」とまで思っている危険な兄たちだった。 ベアトリーチェは戸惑いながらも、 この異世界で「ただ愛されるだけの人生」を歩んでいくことになる。 ※表紙はAI画像です

我儘令嬢なんて無理だったので小心者令嬢になったらみんなに甘やかされました。

たぬきち25番
恋愛
「ここはどこですか?私はだれですか?」目を覚ましたら全く知らない場所にいました。 しかも以前の私は、かなり我儘令嬢だったそうです。 そんなマイナスからのスタートですが、文句はいえません。 ずっと冷たかった周りの目が、なんだか最近優しい気がします。 というか、甘やかされてません? これって、どういうことでしょう? ※後日談は激甘です。  激甘が苦手な方は後日談以外をお楽しみ下さい。 ※小説家になろう様にも公開させて頂いております。  ただあちらは、マルチエンディングではございませんので、その関係でこちらとは、内容が大幅に異なります。ご了承下さい。  タイトルも違います。タイトル:異世界、訳アリ令嬢の恋の行方は?!~あの時、もしあなたを選ばなければ~

悪役令嬢に転生したので地味令嬢に変装したら、婚約者が離れてくれないのですが。

槙村まき
恋愛
 スマホ向け乙女ゲーム『時戻りの少女~ささやかな日々をあなたと共に~』の悪役令嬢、リシェリア・オゼリエに転生した主人公は、処刑される未来を変えるために地味に地味で地味な令嬢に変装して生きていくことを決意した。  それなのに学園に入学しても婚約者である王太子ルーカスは付きまとってくるし、ゲームのヒロインからはなぜか「私の代わりにヒロインになって!」とお願いされるし……。  挙句の果てには、ある日隠れていた図書室で、ルーカスに唇を奪われてしまう。  そんな感じで悪役令嬢がヤンデレ気味な王子から逃げようとしながらも、ヒロインと共に攻略対象者たちを助ける? 話になるはず……! 第二章以降は、11時と23時に更新予定です。 他サイトにも掲載しています。 よろしくお願いします。 25.4.25 HOTランキング(女性向け)四位、ありがとうございます!

悪役令嬢に転生しましたが、全部諦めて弟を愛でることにしました

下菊みこと
恋愛
悪役令嬢に転生したものの、知識チートとかないし回避方法も思いつかないため全部諦めて弟を愛でることにしたら…何故か教養を身につけてしまったお話。 なお理由は悪役令嬢の「脳」と「身体」のスペックが前世と違いめちゃくちゃ高いため。 超ご都合主義のハッピーエンド。 誰も不幸にならない大団円です。 少しでも楽しんでいただければ幸いです。 小説家になろう様でも投稿しています。

ワンチャンあるかな、って転生先で推しにアタックしてるのがこちらの令嬢です

山口三
恋愛
恋愛ゲームの世界に転生した主人公。中世異世界のアカデミーを中心に繰り広げられるゲームだが、大好きな推しを目の前にして、ついつい欲が出てしまう。「私が転生したキャラは主人公じゃなくて、たたのモブ悪役。どうせ攻略対象の相手にはフラれて婚約破棄されるんだから・・・」 ひょんな事からクラスメイトのアロイスと協力して、主人公は推し様と、アロイスはゲームの主人公である聖女様との相思相愛を目指すが・・・。

悪役令嬢になったようなので、婚約者の為に身を引きます!!!

夕香里
恋愛
王子に婚約破棄され牢屋行き。 挙句の果てには獄中死になることを思い出した悪役令嬢のアタナシアは、家族と王子のために自分の心に蓋をして身を引くことにした。 だが、アタナシアに甦った記憶と少しずつ違う部分が出始めて……? 酷い結末を迎えるくらいなら自分から身を引こうと決めたアタナシアと王子の話。 ※小説家になろうでも投稿しています

幽霊じゃありません!足だってありますから‼

かな
恋愛
私はトバルズ国の公爵令嬢アーリス・イソラ。8歳の時に木の根に引っかかって頭をぶつけたことにより、前世に流行った乙女ゲームの悪役令嬢に転生してしまったことに気づいた。だが、婚約破棄しても国外追放か修道院行きという緩い断罪だった為、自立する為のスキルを学びつつ、国外追放後のスローライフを夢見ていた。 断罪イベントを終えた数日後、目覚めたら幽霊と騒がれてしまい困惑することに…。えっ?私、生きてますけど ※ご都合主義はご愛嬌ということで見逃してください(*・ω・)*_ _)ペコリ ※遅筆なので、ゆっくり更新になるかもしれません。

処理中です...