悪役令嬢に成り代わったのに、すでに詰みってどういうことですか!?

ぽんぽこ狸

文字の大きさ
172 / 305

誤解です……! 6

しおりを挟む




 それから、彼は慣れた手つきで私の髪に触れる。たまに首元に冷たい指がかするのが擽ったくて思わず少し笑った。しばらくどちらとも話をしなかったので沈黙の時間があったが、サディアスがポツリといった。

「…………年頃の妹が説教の最中に泣いて逃げるんだ」
「……うん?……うん」
「君も泣いて逃げれば、良いなと少し思ってたんだが、そうもいかないな」

 今日はよく人に髪を触られる日だなと思いつつ、どんな話だと思う。よく分からなかったのでそのまま口に出す。

「どういう意味?」
「さあな、君ならどうする?」
「えぇ……」

 私には兄弟もいたが、みんなそれぞれ歳も近く、説教をする側に回ったことが無い。強いて言うなら甥っ子だ、駄目だよと窘めることがあっても、叱るのは、いくら親戚と言ってもやったことが無い。

 サディアスから見た妹と言うのは多分、兄弟としてより、家長としてサディアスが説教をしている感覚に近いのだろう。だから、そもそも私にはその状況が分からないのだが……。

 できるだけ思い浮かべて答えを返す。
 
「怒っている事、事実を伝えるよ。それでわかるまで待ってるかな。自分に正当性がある事なら、いつかわかってくれるでしょ」
「…………そうか。俺ならその場で捕まえて、君のそういうところが駄目だと言ってしまうな」
「……か、可哀想じゃない?」
「いいや、誰かが言ってやらなければ、妹が……それ以外の家族でも、駄目なことが理解できるまで悠長に生きているか分からないだろ」

 世界観が違いすぎて、なんだかなと思う。
 そんなに危険な事をしていて怒ったのなら、危険が無いように逃がさないということも大事かと思う。所詮私の考えはのうのうと生きてきた平和な人種のものだ、サディアスの考えを根本から理解はできないだろう。

 ……でも、きっと、家族関係はおかしな関係じゃないのだろうな。ちゃんと愛情のある家族だろう。

 その妹ちゃんの髪を結ってくれるようなお兄ちゃんなら、そんな風に怒られても関係は破綻しなさそうだ。

 サディアスの手つきは慣れていて、すぐに「できたぞ」とぽんと肩を叩かれる。

 触ってみるとゆるっとした三つ編みになっていて、後ろから肩を通して前に持ってくると、紫のリボンは先っぽでヒラヒラ揺れていた。

 ……三つ編みか、私と妹を間違えていないだろうか。……まぁいいけど。

 立ち上がって、私は改めて彼の隣に腰を下ろした。同じ目線になると、やっぱりサディアスは酷い隈で、それから顔色だって悪い。
 
 ……やっぱり、疲れてるね。イライラしているなとは思っていたけれど、想像以上かも知れない。なんだか要らぬ誤解を生んでしまったような気もするが待っていて良かった。

「……改めて、おかえりサディアス。待ってたよ」
「よく言う、君はララと睦み合っていただけだろ」
 
 まだ根に持っているらしい。でももう怒っているような様子はなかった。

「違うよ。サディアスを待ってた、なんならヴィンスに聞いてみてよ」
「……」
「サディアスなら、必須の授業の前に無理してでも帰ってくるかなって思ったから……それに、色々あったんでしょ、少しは私も事情を把握してきたつもりだよ」
「そうか……ただ君はまだまだ思慮が足りないな。しかし、事情を説明する必要はあるな、始業式は終わってるだろうが、校舎に向かうか」

 立ち上がって行こうとする彼の手を掴む。
 そうじゃない。色々知っていて話をしなければならないのだとしても私の一番の優先事項は、サディアスがきちんと休息をとる事だ。

 ……無理はしないで欲しい。どんなに急いでいたとしても、それは身を削る理由にはならない。きちんと休んでいなければ、ちゃんとした判断なんて出来ないのだ。

「クレア?……どうしかしたか、髪型が気に入らないのか?」

 ……やっぱり私を妹と間違えてない?

 少し呆れたような気持ちになりつつ、彼の手を両手で包むように握って、魔力を込める。

「…………何してる」
「んー……私式セラピー」
「学校、君だって行きたいだろ?君だけ寮に残ってて寂しく無かったのか?」

 片手でポンポンと隣りを叩いて、サディアスを見つめると、彼はグッと眉間の皺を濃くして、隣りに腰掛けた。

「私のことはいいから……最近は発作的なの大丈夫?」
「……」
「答えなくないならそれでもいいけど、今日ぐらいは私、サディアスは休息が必要だと思うよ」
「……君はこんな風に、ララも誑しだんだろ」
「そうそう、傷心につけいったらころりだったよ」

 冗談のつもりで言って、冷たい彼の手を温める。せっかくなら、サディアスのアロマキャンドルを持ってくれば良かった。彼とあとローレンスの分は、ラベンダーの香りにしてある。休息をとる時にはもってこいの代物だ。

「…………酷い人だな、君は」
「初めて言われたよ。優しさのつもりなんだけど」
「だからこそ、タチが悪いな」
「そういうもの?」
「そういうものだ」

 サディアスの頭を撫でる。
 少しカサつき気味の彼の髪を見てそうだと思う。
 
「ねぇ、サディアス、髪を触ってもいい?」
「?…………好きにしてくれ」

 日常的な不眠のせいか、既にぼんやりして来ている彼の背後に回る。胸元まである髪を一纏めにしている髪紐を解いて、私は、何となくポケットにしまっていた、櫛を取り出す。

「三つ編みにはしないでくれ。跡がつく」
「しないしない、ちょっとケアするだけ」

 優しく梳いて、撫で付ける。そうすると段々と、いつものつんつんとした髪に戻っていくのが面白い。何も言わずに、ただただ、ぼんやりと私の行動を受け入れるサディアスに、なんとも言えない庇護欲のようなものが掻き立てられて、めちゃくちゃに抱きしめてやりたいと思うがそうも言ってられない。

 さすがにそんな事をしては、チェルシーにブチギレられて、めためたにされてしまうだろう。

 ……我慢我慢。

「……妹達が……髪を梳いてくれっていう……理由が少しわかるな」

 眠たそうな声が聞こえて、それからカクっと首が落ちる。私はそれからしばらく、眠っている彼を眺めた。ついでに、部屋からアロマキャンドルを持ってきて“プレゼント”と紙を添えておいた。

 彼が目覚めて、私のところに来たのは次の日の朝の事だった。
 



しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

転生しましたが悪役令嬢な気がするんですけど⁉︎

水月華
恋愛
ヘンリエッタ・スタンホープは8歳の時に前世の記憶を思い出す。最初は混乱したが、じきに貴族生活に順応し始める。・・・が、ある時気づく。 もしかして‘’私‘’って悪役令嬢ポジションでは?整った容姿。申し分ない身分。・・・だけなら疑わなかったが、ある時ふと言われたのである。「昔のヘンリエッタは我儘だったのにこんなに立派になって」と。 振り返れば記憶が戻る前は嫌いな食べ物が出ると癇癪を起こし、着たいドレスがないと癇癪を起こし…。私めっちゃ性格悪かった!! え?記憶戻らなかったらそのままだった=悪役令嬢!?いやいや確かに前世では転生して悪役令嬢とか流行ってたけどまさか自分が!? でもヘンリエッタ・スタンホープなんて知らないし、私どうすればいいのー!? と、とにかく攻略対象者候補たちには必要以上に近づかない様にしよう! 前世の記憶のせいで恋愛なんて面倒くさいし、政略結婚じゃないなら出来れば避けたい! だからこっちに熱い眼差しを送らないで! 答えられないんです! これは悪役令嬢(?)の侯爵令嬢があるかもしれない破滅フラグを手探りで回避しようとするお話。 または前世の記憶から臆病になっている彼女が再び大切な人を見つけるお話。 小説家になろうでも投稿してます。 こちらは全話投稿してますので、先を読みたいと思ってくださればそちらからもよろしくお願いします。

転生したら悪役令嬢になりかけてました!〜まだ5歳だからやり直せる!〜

具なっしー
恋愛
5歳のベアトリーチェは、苦いピーマンを食べて気絶した拍子に、 前世の記憶を取り戻す。 前世は日本の女子学生。 家でも学校でも「空気を読む」ことばかりで、誰にも本音を言えず、 息苦しい毎日を過ごしていた。 ただ、本を読んでいるときだけは心が自由になれた――。 転生したこの世界は、女性が希少で、男性しか魔法を使えない世界。 女性は「守られるだけの存在」とされ、社会の中で特別に甘やかされている。 だがそのせいで、女性たちはみな我儘で傲慢になり、 横暴さを誇るのが「普通」だった。 けれどベアトリーチェは違う。 前世で身につけた「空気を読む力」と、 本を愛する静かな心を持っていた。 そんな彼女には二人の婚約者がいる。 ――父違いの、血を分けた兄たち。 彼らは溺愛どころではなく、 「彼女のためなら国を滅ぼしても構わない」とまで思っている危険な兄たちだった。 ベアトリーチェは戸惑いながらも、 この異世界で「ただ愛されるだけの人生」を歩んでいくことになる。 ※表紙はAI画像です

我儘令嬢なんて無理だったので小心者令嬢になったらみんなに甘やかされました。

たぬきち25番
恋愛
「ここはどこですか?私はだれですか?」目を覚ましたら全く知らない場所にいました。 しかも以前の私は、かなり我儘令嬢だったそうです。 そんなマイナスからのスタートですが、文句はいえません。 ずっと冷たかった周りの目が、なんだか最近優しい気がします。 というか、甘やかされてません? これって、どういうことでしょう? ※後日談は激甘です。  激甘が苦手な方は後日談以外をお楽しみ下さい。 ※小説家になろう様にも公開させて頂いております。  ただあちらは、マルチエンディングではございませんので、その関係でこちらとは、内容が大幅に異なります。ご了承下さい。  タイトルも違います。タイトル:異世界、訳アリ令嬢の恋の行方は?!~あの時、もしあなたを選ばなければ~

悪役令嬢に転生したので地味令嬢に変装したら、婚約者が離れてくれないのですが。

槙村まき
恋愛
 スマホ向け乙女ゲーム『時戻りの少女~ささやかな日々をあなたと共に~』の悪役令嬢、リシェリア・オゼリエに転生した主人公は、処刑される未来を変えるために地味に地味で地味な令嬢に変装して生きていくことを決意した。  それなのに学園に入学しても婚約者である王太子ルーカスは付きまとってくるし、ゲームのヒロインからはなぜか「私の代わりにヒロインになって!」とお願いされるし……。  挙句の果てには、ある日隠れていた図書室で、ルーカスに唇を奪われてしまう。  そんな感じで悪役令嬢がヤンデレ気味な王子から逃げようとしながらも、ヒロインと共に攻略対象者たちを助ける? 話になるはず……! 第二章以降は、11時と23時に更新予定です。 他サイトにも掲載しています。 よろしくお願いします。 25.4.25 HOTランキング(女性向け)四位、ありがとうございます!

悪役令嬢になったようなので、婚約者の為に身を引きます!!!

夕香里
恋愛
王子に婚約破棄され牢屋行き。 挙句の果てには獄中死になることを思い出した悪役令嬢のアタナシアは、家族と王子のために自分の心に蓋をして身を引くことにした。 だが、アタナシアに甦った記憶と少しずつ違う部分が出始めて……? 酷い結末を迎えるくらいなら自分から身を引こうと決めたアタナシアと王子の話。 ※小説家になろうでも投稿しています

悪役令嬢に転生しましたが、全部諦めて弟を愛でることにしました

下菊みこと
恋愛
悪役令嬢に転生したものの、知識チートとかないし回避方法も思いつかないため全部諦めて弟を愛でることにしたら…何故か教養を身につけてしまったお話。 なお理由は悪役令嬢の「脳」と「身体」のスペックが前世と違いめちゃくちゃ高いため。 超ご都合主義のハッピーエンド。 誰も不幸にならない大団円です。 少しでも楽しんでいただければ幸いです。 小説家になろう様でも投稿しています。

幽霊じゃありません!足だってありますから‼

かな
恋愛
私はトバルズ国の公爵令嬢アーリス・イソラ。8歳の時に木の根に引っかかって頭をぶつけたことにより、前世に流行った乙女ゲームの悪役令嬢に転生してしまったことに気づいた。だが、婚約破棄しても国外追放か修道院行きという緩い断罪だった為、自立する為のスキルを学びつつ、国外追放後のスローライフを夢見ていた。 断罪イベントを終えた数日後、目覚めたら幽霊と騒がれてしまい困惑することに…。えっ?私、生きてますけど ※ご都合主義はご愛嬌ということで見逃してください(*・ω・)*_ _)ペコリ ※遅筆なので、ゆっくり更新になるかもしれません。

溺愛最強 ~気づいたらゲームの世界に生息していましたが、悪役令嬢でもなければ断罪もされないので、とにかく楽しむことにしました~

夏笆(なつは)
恋愛
「おねえしゃま。こえ、すっごくおいしいでし!」  弟のその言葉は、晴天の霹靂。  アギルレ公爵家の長女であるレオカディアは、その瞬間、今自分が生きる世界が前世で楽しんだゲーム「エトワールの称号」であることを知った。  しかし、自分は王子エルミニオの婚約者ではあるものの、このゲームには悪役令嬢という役柄は存在せず、断罪も無いので、攻略対象とはなるべく接触せず、穏便に生きて行けば大丈夫と、生きることを楽しむことに決める。  醤油が欲しい、うにが食べたい。  レオカディアが何か「おねだり」するたびに、アギルレ領は、周りの領をも巻き込んで豊かになっていく。  既にゲームとは違う展開になっている人間関係、その学院で、ゲームのヒロインは前世の記憶通りに攻略を開始するのだが・・・・・? 小説家になろうにも掲載しています。

処理中です...