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もっと早くこうして欲しかったんだけど……。1

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 サディアスを無事に寝かしつけた翌日の朝、彼はやっぱりサンドイッチを持って、ついでに夏休みのお土産も持って私の部屋へとやってきた。顔色はバッチリ、ついでに私のオイル櫛のおかげか毛艶もいい。

 私達は久しぶりに三人で朝ごはんを囲んだ。ヴィンスの淹れてくれる紅茶が最近は毎日いろいろな味がしてとても楽しい。

 そんな私とは裏腹にサディアスはばつが悪そうな顔だ。

 ヴィンスは相変わらずニコニコしていて、あまり空気を読まずに、発言する。

「クレア、昨日は危険はありませんでしたか?」

 その言葉に、サディアスはヴィンスをすこし睨みつけて、意を介さずヴィンスは私を見る。

「全然、ただちょっとお説教されただけ。ね、サディアス」

 出来るだけ自然に彼に話題を振り「ああ」とサディアスは肯定した。それから、私達の方を見て彼は言う。

「……昨日は申し訳なかった。俺は余計な事まで君に言っただろう。正直、記憶が曖昧な部分すらある」
「そうなの?……すごく怒ってたから少し怖かったけど、乱暴はされなかったよ」
「……そういう問題じゃないと思うが、君がそう言ってくれるのなら、もうこの話はやめよう。それより、少し君に話をしておかなければならない事がある」

 紅茶を少し飲んで、彼を見る。何やら真剣な表情で、わざわざチェルシーとシンシアがいない場所で話すのだから、私の抱えている方の面倒事の話かもしれない。
 
「王都の襲撃事件の事については、チームメイトに聞かれても問題が無いのでここで詳しくは話さないが、それに伴って、貴族派つまり、ローレンス殿下の派閥では無い貴族たちの動きが気になる」
「……気になるって……どういう事?」
「端的に言えば、君を手に入れたいという事だな。今までは俺が君について、少しは便宜を測っていたが、俺の信用など地に落ちた。いつ、誰がどのように君を狙うか分からない」
「……私を手に入れてどうするっていうの?意味なんかないでしょ?ローレンスじゃあるまいし」

 言っていてはっと、気がつく。私を引き合いに出して、ローレンスが呪いの力を手に入れられるという事は、別に、私さえ手に入れればローレンスでなくとも、コーディと面識があれば可能だ。

 そして、ローレンスがコーディと信頼関係を築こうとしているのを見ていれば私自身に呪いの力がないという事は、その他大勢が気がついてもおかしくは無い。

「……その貴族派の人も……呪いの力が欲しいの?」
「そうらしいな。それに誰かさんが、ララと親しくしている姿を晒しているのも、なんなら引き金になっているだろうな」
「え」
「考えてみろ、ララが君の事を離すまいとしたら?それをローレンス殿下がララに示唆したら?君を狙える機会は少ないだろう。近日中に、君は狙われる」

 ……そ、そんな。本当に面倒な事になった。確かに、そう考える人の気持ちだって分かるが、そもそもだ、私の敵さんは今の所ローレンスのつもりでいたのだが、急に貴族派という謎の組織が登場である。

 一応、何となく存在感は感じていた。特にリーダークラスの時、だいたいディックといる事が多いので、なんとも無かったのだが、視線や嫌な感情があることは理解していた。

 ……というか。

「ひとつ聞いてもいい?」
「なんだ」
「オスカー達に言われて、私も色々動いて見たし、今、知っている事も多くて、多分、その貴族派の話以外とだいたいの自分の状況の把握が出来たんだけどさ…………サディアスは何処まで知ってた?」

 別に何故助言をしてくれなかったのかと責めているのでは無い。単純に疑問だったのだ。ヴィンスは自分の考えがあって、動いたり動かなかったりするのは知っているし個人の自由だと思う。

 ……でも……サディアスについては上手く納得がいっていない。今まで、貴族派に便宜を測ってくれていたとしても、待つばかりでは、私は死に直面するのだと彼は知っていたはずだ。

 それを彼は言わなかった。あのサディアスが、だ。

 ……だって変だろう。あんなに、傷つくな、心配だ、死ぬという事すら言うな、という彼が沈黙していたなんて。

「……」

 サディアスは、少し黙る。それから、少し困ったように、言う。

「すまない……君と過ごして行くうちに……このままの日々が続くような気がしていてな。あまり不安にさせるような事を言いたくなかったんだ」
「……そ、そっか。気遣ってくれてたんだね。私こそごめん」
「いや、謝らないでくれ」

 咄嗟に、私は動揺を悟られないように、大人らしい笑顔を浮かべた。心臓がけたたましく音を立てる。

 どういうつもりだろうと、頭がぐるぐると回転した。ティーカップを持ち上げる手に少し力が入ってしまって、喉が渇いてすべて紅茶を飲み干した。

 どう思う?という意味で、とりあえずヴィンスを見ると彼はパッと気がついたような表情をする。

「おかわりをお持ちしますね」
「……ありがと」

 ……違う、そうじゃない。

 ……だって……だって今、サディアスは、嘘をついた。
 どう考えたって、あまりにもらしくない。平和な日々が続く?不安にさせたくない?そんな事、サディアスが一番言わない言葉だろう。

 彼が私より早く沢山の事を知っていて、そして何もしない理由、でも私の傷つく事や、心配事があると、ストレスですぐにおかしくなる彼がそうする理由がまったく分からない。

 先程のサディアスの話よりもよっぽど、寒気がして嫌な予感がする。私にはまだわからない彼の底知れない部分がある気がして、ぽっかり空いた深淵が見えるようで怖い。

 ……確か、クラリスがサディアスと交流があったって言っていたよね?そうだ、この間はクラリスに聞いていない。何か、彼のこの立ち回りについて、情報が得られるかもしれない。

 私はそんな作戦を頭でねりつつ食事を終えて、三人で校舎の方へと向かった。私達の夏休み明けの初日は、まだまだ始まったばかりである。






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