悪役令嬢に成り代わったのに、すでに詰みってどういうことですか!?

ぽんぽこ狸

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サディアスの出した答え……。5

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 涙を流しているせいか正常な呼吸ができない。

「クリス、君も協力してくれてもいいんだぞ。もう片足、それから腕の健、眼球二つ。そうしたら、クレアを別の場所に移すんだ」
「………、…………君、何を言っている、意味がわからない」
「あぁ、そうだったな。この子、これほらクレア」

 二の腕を掴まれて、されるがままにサディアスに抱き寄せられる。クリスティアンとぱちっと目が合った。私は今酷い顔をしているだろうと思う。
  
「この子、クラリス様じゃないんだ。な、そうだよな」

 頬にかかった髪をのけられて、問いかけられる。

 今更、クリスティアンにそんな事を言って、なんの意味があるのか分からなかったが、答えられる余裕はない。足がじんじん痛んで、耐えられない。ぽたぽた涙が出てきて、否定はしないからさっさと話を進めて欲しいと思う。

「だからな、さっさと解放してやらないとな」
「…………」

 呆気に取られたようにクリスティアンは固まって、サディアスは私を引き倒す。大きく呼吸をすることしかできなくなっている私に、サディアスは微笑みかける。

「ごめんな、クレア。ただな、君が悪いんだぞ、言うことも聞けないトラブルは起こす、オマケにあの女を選んだ君が悪い。……もう片方の足もダメにしとこうな」
「っ、っい、嫌だぁっ、やだぁ、っ、い、いたいっ」

 どうしてそうなるのかまったく分からなくて、足に近づく、ナイフの切っ先を眼球が飛び出そうなほど目を見開いて必死に見つめて、サディアスの服を必死で握る。

「まま、まって!、いやぁぁ!!」

 つぷっと、痛みが走って、必死にサディアスの胸板を殴ってそれから足をばたつかせる。涙を撒き散らして、泣き喚いた。

「はぁ……俺だってな、やりたくてやってるんじゃないんだぞ、なあ、わかるか?」
「ッ、はっ、はぁっ、」

 首元を抑えるように顎を固定されて、サディアスは私の瞳を覗き込む。その瞳は、普通に喋っているのに、猟奇的に輝いていて、ちょっと常人のそれではない。

「でもな、もう諦めたんだ。……前に俺は聞いたよな。痛い目を見ても失敗をやめないやつを、止める方法」
「っ、……っ、はぁっ、っ」
「君は言ったな、諦めるって」

 サディアスはナイフを置いて、傷口に指をはわせる。ビリビリとした鮮明な痛みは新鮮で体がガクガクと震える。

「だから、諦めた。すまないな、こんな目に合わせて」

 普通に話しているみたいなのに普通じゃない、彼の深紅の瞳は、真っ赤でまるで血の色みたいだった。

 でも、結局、だから、私が気に入らないから私が余計な事ばかりするから、だからこうするって事なんだろうか、どういう事なんだろうか。

 思考が焼ききれて、再度、ナイフを無傷の足の方に差し向けられ、しくしく泣く。痛い、とにかく痛いんだ。逃げとけば良かった。結局、心の表面では、贖罪だなんだと言っていたが実際の痛みの前ではそんなものはまるで意味が無い。

「クレア……ほら、怖いなら、こうしててやるからな」

 上半身をぎゅっと抱き締められて、彼は何故か私の耳にちゅっとキスをした。吐息がすぐそばで聞こえる。サディアスはどう考えても正常じゃない。

 そんな事が頭に浮かんだ瞬間、ぐぐっ、とえげつないグロテスクな異物感がして、奥歯を噛み締めて、彼を搔き抱いた。

 思考がバチバチいって、緩く後頭部を撫でられて頭がおかしくなる。

 確か、しょっちゅう色んな人が言っていたような気がする。サディアスは警戒した方がいいとか、面倒くさいとか厄介だとか。

「かはっ、だっ、つ~、ゔぅ゛~!!」

 ……どう考えてもおかしい、何かがおかしい。結局サディアスは私が嫌いじゃないんだろうか。何がしたい? どうなってる、足、動かない。

「いい子だな、ははっ、すごい血、掃除が大変そうだ」

 ぐちゅんなんて音がして、ナイフが引き抜かれる。頭が痺れて、足には痛い以外の感覚がない。私の真下はカーペットを浸すくらい真っ赤に染まっていて、もうよく分からなくて、サディアスの胸板に頭を擦り付けた。

「うん、そうだな。諦めて抵抗しないでくれ。多分何もそのうち感じなくなるから、大丈夫だ」

 背を撫でられる。

 多分、なにかイカレている。これは、多分おかしなことになっている。私は勘違いをしていた。それは皆の言っているサディアスに対する警告を気にしていなかったという私の不注意もあって……。

 腕を取られる。手首をサディアスはスリスリと撫でた。それからつっとナイフで軽く皮一枚私の事を切る。

 だから、あぁ、そうだ。

 ……サディアスは私の事嫌いじゃない。なんかこう、私の一般常識的な恨みだとか、好きだとか嫌いだとかそう言うの以前の問題なのかもしれない。

「待て……なぁ、サディアス待ってくれよ」

 やっとというか、何故かクリスティアンは、サディアスの手を掴む。

「それだと話が通らないよねぇ、おかしいよ、クラリスじゃないとして、君はなんで、じゃあ、その子にクレアにそんな事をしているのかな」

 今になって、やっと私が、クラリスじゃないと信じる気になったらしい。それを受け入れて、クリスティアンはサディアスに問いただす。サディアスは少し考えて、それから言う。

「……クリス。だからだ、クラリス様じゃない、クレアだから、俺は………………クレアに死んで欲しくないんだ」
「どういう、意味なのかなぁ」
「……わかるだろ」
 
 サディアスは、私の両脇に手を入れて少し持ち上げ、それから、自らを背もたれにして寄りかからせて、クリスティアンに見えるようにし、背後から私を抱きしめる。

「クレアは、死が決められた運命の中にある。でもなそれは、変えられないんだ、この世界はままならないとクラリス様も言っていただろう?」
「……っ」
「だから、仕方が無いからな。殺される前に、クレアがどう思っていようと、逃がそうと思って」

 足の踏ん張りが効かなくて、座っていられない私をサディアスは腹に手を回してズルっと持ち上げる。

「クラリス様がしがらみから逃げられたようにな。でも、この子はほら言うことを聞かないだろう?だから、クラリス様と違って、すべてが片付くまで、瓶に入ってて貰うつもりだ」

 サディアスはことんと、私とクリスティアンの間に、瓶を置いた。その中には、チェーンと着いていない、魔法玉がひとつ入っている。

 …………。

 クリスティアンは、グッと眉間に皺を寄せて、額を抑えた。

 彼はどうやらサディアスのその思惑を知らなかったらしい。クラリスの言った言葉によってサディアスが歪んでいるということはわかっても、こんな事になるとは想像もしていなかった。そんな顔だった。

 血の気が引いてきて私は頭が回らず、とにかく、サディアスは私を瓶詰めにするつもりなのだなという事だけが理解ができる。

「クレア、ほら。魔法を使ってくれ、そのままでは出血で死ぬからな」

 彼は、いいながら目の前で私の魔法玉と自分の魔法玉をカチッと合わせる。私は脱水状態の時に、目の前に水を置かれたような気持ちになって、サディアスの魔力を奪う。込み上げてくるような異物感よりも、久しぶりの彼の魔力の魔法に、サディアスの心に、歓喜するほど嬉しくて、冷たくなっていた心が、熱いぐらいにポカポカする。

「っは、っつ、さでぃ、あ、す」

 名前を呼べば、答えるように、頭を緩く撫でられて、先程切られた手首に、サディアスは再度ナイフを当てる。呼吸が引きつって、無限に涙が出てくる。

「……サディアス、それにしてもなぁ、なんでそんな切ったり刺したりする必要があるのかな」
「ああ、クレアを逃がせば、またこの体に、別の何かが宿るだろう。その者が、今度こそ思い通りに、この騒動を収めるために死んでくれるようにな、ちょっとした細工だ」
「……そんな事のためだけに、今、彼女はこんな目にあっていると?」
「ああ、そうだが?……あとは両腕と視界だな。魔法もあるから、死にはしないだろう」

 ナイフが食い込む、ぶちぶちというような音がして、体が悲鳴をあげる。

 魔力をつぎ込んで、傷を塞ぐようにイメージするが、痛みが酷くて、頭が重たい。

 ……でも、そっか。これは、私が嫌いだからやられているわけではないらしい。言ってしまえばサディアスなりの愛みたいなものだ。





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