悪役令嬢に成り代わったのに、すでに詰みってどういうことですか!?

ぽんぽこ狸

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やっとの思いで個人戦……。7

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 今日勝てるかどうかで、バッチが取得できるかどうかが決まるクリスティアンは昨日とは違い、酷く緊張しているようだった。

 昼頃から、テーブル席の方をウロウロし始めて、女の子達を片っ端から、抱きしめてはキスをしてみたり、頭を撫でてみたり撫でられてみたりを繰り返して、出番が来た彼は、名残惜しそうに女の子たちというかチームメイトと別れを告げて私の方へと来た。

 彼は今の時点で少し気後れしているというか、確か対戦相手も、ゴリゴリのアタッカークラスなのだ。

 顔は青ざめているし、いつも通りの気品はあるが、どうにも覇気というものが足りない。

「……大丈夫?その……あんまり、調子が良さそうには見えないんだけど」

 お昼ご飯を食べて、午前と同じように観覧席に座っていた私はそういい、そばにいたチームメイト達もきっと同じ事を思っていたと思う。

「気にしないで欲しいなぁ、これでも、彼女たちに情けない姿は見せられないんだ……昨日もしっかりと休息を取っている安心して欲しい」
「珍しいな、クリスがそこまで参ってるのも」

 やはり、衝撃的な事件があったせいで少し心と体のバランスが崩れてしまっているように思う……けれど、サディアス!貴方が言えたことじゃないよ!

 元はと言えばサディアスが私をスプラッタにしたのが原因でクリスティアンはこんなに思い悩んでいるのだと思うし、私に罪悪感もあるのだ。

「君には言われたくないなぁ……はぁ、まぁ、いい、今日が終わればきちんと話をしてもらうからなぁ、サディアス」
「話をする事なんかないさ。あの日に言ったことが全てだからな」
「いいや、君は少し反省した方がいい」

 クリスティアンは私が思っているのと同じようなことを言ってサディアスの意に介さない態度にため息を漏らす。

 少し気落ちしているような彼の態度に、私は目の前にいる彼の手を取った。

「クリスティアン、少し外に出ない?時間はまだ大丈夫だったよね」
「……あ、ああ、そうだけれど」

 彼は私の誘いに、ちらっと、後ろに座っているヴィンスとサディアスのことを見る。二人きりの方がいいと思うので、つかさず付け加える。

「クリスティアンが連れて行って、チェルシー、シンシアちょっと行ってくるね。……ヴィンスとサディアスも試合を見ててね」

 二人きりで行ってくるという意思表示をして、ギコギコ車椅子を漕いで、クリスティアンに押し手が持ちやすいようにした。 

「お願い」
「…………わかったよ、君の言う通りにしよう」

 クリスティアンは少し逡巡してそれから、私の車椅子を押す。シンシアとチェルシーは手を振って「待ってますね」と言ってくれたが、ヴィンスは「はい」と言っただけでサディアスは返事もしない。

 観覧席を出ると二階の外廊下に出る。
 廊下の柵からは、広場で自主練をしている先輩たちの姿が下に見えて、クリスティアンがカラカラと押してくれるのを少し楽しみつつ、進む。

 一階に続く階段のある場所付近へとついて、クリスティアンは止まった。私は外を眺めつつ、魔法玉を出す。

「……今日さえ勝てれば、クリスティアンはバッチを取れるって言ってたけれど、基本は三回戦突破でバッチなんでしょう?」
「基本はね。ただ、例外もあるということだよ……大きな声では言えないけれどね」

 背後から声がして、もしかして賄賂でも渡すのかなと考えるが、大方そんなところだろう。

 一回戦も勝ってない人間が賄賂だけでバッチを貰えるというのなら、それは良くないと思うが、二回戦を突破しているというのなら誰からも文句は出ないだろう。

 確かエリアルも私にバッチのことを引き合いに出してきていた時があったしね。

「そう……今日はクリスティアンが注いでいいよ」

 私が背後に外した魔法玉を差し出せば、彼は私の手から取って、ゆっくりと魔法を使う。

 何度もこうして魔力を注がれているからか、彼についてはあまり異物感や嫌悪感を感じずらい。私を嫌っていた時が酷すぎたのかもしれないが、私の中では一番、楽な相手だ。

 でも多分、主張があまりないとかそういう事では無いのだと思う。

 彼は魔力が少なく、そして、きっととても気弱になって自信というかそういうものを失っているからだと思う。

「じゃあ今日が山場だね」
「……そうだ。皆それを知っているから、とても応援してくれている、私もそれに答えなければ」

 ゆるゆると魔力が溜まっていって魔法が発動する。彼は私に魔法玉を背後からかけてくれて、ペンダントのチェーンから髪を引き出してくれる。

 ……そう言いつつも、強い感情は感じ無いな。

 闘争心のような熱い感情よりも、何かネガティブな感情の方が大きいような気がして、冷えるような彼の魔法の使い心地は相変わらずだった。

「…………クリスティアン」

 振り返らずに肩越しに彼に手を伸ばす。すると、緩く握られる。その手は小刻みに震えていて、大きなしっかりとした男性の手なのに、随分と弱々しく思えた。

「怖いの?」
「…………あまりそうして、誰彼構わずに、人の本心を言い当てるものでは無いよクレア、私はずっと言っているだろう?君は愛らしく、とても価値がある、君からそうして踏み込まれると、勘違いする輩が出てきてしまうからねぇ」

 褒め言葉だろうか。ありがたく受け取っておこうと思う。それと彼なりの警告だろう。でも結局私は決めている。

 死ぬ時に私が消える時に虚しく悔しく悲しい、虚無の中で後悔しない為にも、私はこうして生きていたい。

 それに誰彼構わないなんてことはないのだ、少なからず好意があるから踏み込むのだ。

「クリスティアンは勘違いしないでしょ、だから、大丈夫」

 彼はそういう感じがする。やっぱり、サディアスやヴィンスとは違って線引きをしてるとおもう。

「……しないけれどねぇ……君のそういうところが、サディアスやヴィンスのような、少々倫理観に欠ける人間を引き寄せているのではないのかなぁ」
「!……うん、うふふっ、そうかもね」

 何となく前世のメンヘラ製造機と言われていたような人種と似たような人種のように言われて面白く思う。

 ……確かに、そんな感じだ!

「……私は何か面白いことを言ったかな」
「いいえ、別に!…………ねえ、クリスティアン、何が怖いの?」
「…………」

 私が聞くと彼は無言になる。しばらくの沈黙の後に、彼は私と繋いでいる手を離して、それから私の目の前に来た。少し屈んで私の腿に手を置く。じんわりと痛みのような違和感のような感触がして、彼の肩から藍色の柔らかな髪が滑り落ちる。

「私にも分からないねぇ。……ただ、この手は震える、緊張など幼い頃から押し殺せるように教育されているというのに、戦闘というのはその努力を消し去ってしまうほどに恐ろしい」
「……」

 表情を変えているわけではないのに、彼が弱っている事は分かってしまって、その瞳は不安に揺れている子供のように思えた。それに何故だか、どきっとする。

 一見何も変わっていない、自分にしか分からないのでは無いかと思うその変容っぷりに、納得する。

 彼は天性の魔性だ。こんな瞳でこんな事を見せられて、気持ちに気がついてしまえば、女が落ちるのには十分すぎる。

「君たちの持つ強い闘争心というものが私に向けられるのは、本当はいてもたってもいられないほど、恐ろしい事なんだ。それに今回は、決して逃げることの許されない試合だ」

 言っている事はきっとアナと同じ。私とも同じ、個人によって差がある感性の問題だろう。

「怖い……と、考えるのは間違っているかなぁ」

 間違ってなんかいない。この学園の生徒は基本的に、バチバチの闘争心を持って入学当初それ以前から戦い続けている生徒たちだ。

 私だっていまだに怖い時があるしね。

 でも、それを慰めて安心させるために抱きしめて、愛を語るのは私の役目じゃない、彼には彼を支えるのに十分すぎるほど、人がいる。

「……クリスティアン、怖くなくなりたい?」

 私は彼の疑問に答えずに、問いかけた。彼は少し面食らってそれから、少し怪訝そうにしながら、こくんと頷く。




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