216 / 305
やっとの思いで個人戦……。8
しおりを挟む私は自分の魔法玉に触れる。
確かに、怖い事は悪いことじゃない。それを乗り越えて戦わなければいけない事だってあるだろう。けれど、それはとても時間がかかる。少し荒療治になってしまうが仕方ないだろう。
私の固有魔法は、少なからず、人の思っていることが伝わったり、引きずられたりする。彼が私に負の感情を抱いている時には、私はそれに酷く引きずられた。
でも今は違う、主導権は私にあって、彼も少しは私に心を許しているし、私だって、彼を受け入れている。
そのうえで、私はオスカーなんかと魔法を使う時に伝わってくる感情、仲間を侮辱された時の感情、自分を奮い立たせる、必ず相手を倒すのだと、負けないのだという、強い闘争心を呼び覚ます。
息を細く吐いて目を瞑る。
怒り狂うのとは違う。冷静に、ただただ私は相手を負かすということができる。それを疑わずに、心の中で剣を握る。強く握って、その剣に魔力を込めていく、私の魔力は熱だ、熱く燃える、炎の魔法だ。
「……はっ」
クリスティアンの息遣いが聞こえて、私なりの協力が身を結んだのだと思う。これが唯一私に出来ることだ。
それに、皆。この学園の皆は、その闘争心を楽しんでいる。戦うという高揚する行為を、相手と本気でぶつかり合うという事を。
……だから、クリスティアン、貴方も今だけはそう思える人になるんだ。
目を開いて見れば彼とバッチリ視線があった、少し苦しそうというか、それだけでは無い本能的な瞳に、そうそうこれこれと思う。
皆強い人は、こういう目をしている。
野生の動物のような、飢えた瞳。これが本当のその人自身の強さを引き出した目だと私は思う。
眉間に皺を寄せつつ、私を見る彼に、私は強く彼の両肩に手を乗せた。
「さあ!行ってらっしゃい!きっと貴方なら負けませんわっ!」
強気に笑う、すると彼は「……っ」と言いたいことを何か色々飲み込むような顔をして、スっと立ち上がる。
それから、一歩私と距離を置いた。
深く震える呼吸を繰り返して、それから言う。
「行ってくるよ……」
驚いたことに彼は、私の熱い闘争心を、自分にちょうどいいように調整したらしく、少し私の興奮するような気持ちも覚めた。
フラフラとした足取りで、階段を降りていく彼を見送りつつ、私は車椅子をギコギコ漕いで、二階観覧席の方へと戻る。
……器用なことするんだねぇ。
少し覚めた闘争心で心臓をドキドキさせながらそう思った。
私が戻る時、扉は自然と開いた。というか、私が来たことを察知したらしい、ヴィンスが開けてくれた。サディアスもそばにいて、それから押して貰って元の席に戻る。
「ありがとう」
「はい、クレア」
「…………君は、クリスに何かしたのか?」
サディアスは隣に腰掛けつつ、コートに入るクリスティアンを見て言った。
あの場所にいたということは、魔法でも使って盗み聞きしていたのだろう。けれど、先程やった事は私達魔法を使っている間ではわかっても、他人からはまったく分からないだろう。
「何も、ただ魔法を使っただけ」
私は嘘は言わずに、けれど本当の事も言わなかった「そうか」といったサディアスは納得していないようだったが、それでもいい。どうしても聞きたいと言われたら教えてあげるし。
クリスティアンが剣を構える、私は、メラメラと燃える感情と彼の力になるようにと魔力を込める。
強く……絶対に勝てるように。
魔法玉を握って彼を睨みつけるようにして、強い視線を送った。彼はまた私に主導権を握られて送られてくる魔力に、少し眉間の皺を含めつつ、対戦相手のアタッカーの生徒と向き合った。
息を飲んで見守る私達とは裏腹にバイロン先生は、あっさりと開始の号令を告げる。
途端に、同じ熱量で斬りかかりぶつかり合う二人に、やっとしっくり来てうんうんと納得する。
私は、クリスティアンの戦い方に納得していなかったのだということに今、気がついた。リーダークラスでローレンスと戦っていた時、彼の浮かべた仕方がないという笑顔に違和感があったのを思い出す。
主張して、負けるとわかっていても足掻いて、無いとわかっていても勝ちを望む私自身と、彼はとても対照的で、ずっとしっくり来ていなかったのだ。
もっともっと火力を上げて、勝ち取っていいんだ。
魔法玉に力を込める。負ける事などあってはならない。何があっても剣を離すな。
撃ち合いのさなか、苦しそうに相手の攻撃を受け止める彼の表情にはもう諦めは無い。これだけせめて来ているのだ、持ちこたえれば、勝てる。
諦めてしまうことなんて無い!
私の思考と重なるように、クリスティアンは少し緩んだ攻撃の合間を見過ごさなかった。目ざとく相手に一撃を入れて、形勢を逆転している。
テーブル席の方から、黄色い悲鳴が聞こえてくる。応援の声だけは、彼が一番大きいと思う。
「クリスー!!!」
ミア達が声を揃えて言う。彼が私の魔法とは関係なく、強く相手を倒そうと意識をしたことが分かって、相変わらずだな、と思う。
彼はそのままギリギリというところで辛勝を収めた。一試合目よりも遥かにボロボロで、強い人の勝ち方ではないが、ある種これも、強い人ということだ、肉体的な意味では無いと言うだけで。
クリスティアンは女の子達に囲まれながら、席に戻ってから魔力切れで昏倒し、ついでに、私も彼に魔力を注ぎすぎて同じく車椅子の上で昏倒した。
10
あなたにおすすめの小説
転生しましたが悪役令嬢な気がするんですけど⁉︎
水月華
恋愛
ヘンリエッタ・スタンホープは8歳の時に前世の記憶を思い出す。最初は混乱したが、じきに貴族生活に順応し始める。・・・が、ある時気づく。
もしかして‘’私‘’って悪役令嬢ポジションでは?整った容姿。申し分ない身分。・・・だけなら疑わなかったが、ある時ふと言われたのである。「昔のヘンリエッタは我儘だったのにこんなに立派になって」と。
振り返れば記憶が戻る前は嫌いな食べ物が出ると癇癪を起こし、着たいドレスがないと癇癪を起こし…。私めっちゃ性格悪かった!!
え?記憶戻らなかったらそのままだった=悪役令嬢!?いやいや確かに前世では転生して悪役令嬢とか流行ってたけどまさか自分が!?
でもヘンリエッタ・スタンホープなんて知らないし、私どうすればいいのー!?
と、とにかく攻略対象者候補たちには必要以上に近づかない様にしよう!
前世の記憶のせいで恋愛なんて面倒くさいし、政略結婚じゃないなら出来れば避けたい!
だからこっちに熱い眼差しを送らないで!
答えられないんです!
これは悪役令嬢(?)の侯爵令嬢があるかもしれない破滅フラグを手探りで回避しようとするお話。
または前世の記憶から臆病になっている彼女が再び大切な人を見つけるお話。
小説家になろうでも投稿してます。
こちらは全話投稿してますので、先を読みたいと思ってくださればそちらからもよろしくお願いします。
転生したら悪役令嬢になりかけてました!〜まだ5歳だからやり直せる!〜
具なっしー
恋愛
5歳のベアトリーチェは、苦いピーマンを食べて気絶した拍子に、
前世の記憶を取り戻す。
前世は日本の女子学生。
家でも学校でも「空気を読む」ことばかりで、誰にも本音を言えず、
息苦しい毎日を過ごしていた。
ただ、本を読んでいるときだけは心が自由になれた――。
転生したこの世界は、女性が希少で、男性しか魔法を使えない世界。
女性は「守られるだけの存在」とされ、社会の中で特別に甘やかされている。
だがそのせいで、女性たちはみな我儘で傲慢になり、
横暴さを誇るのが「普通」だった。
けれどベアトリーチェは違う。
前世で身につけた「空気を読む力」と、
本を愛する静かな心を持っていた。
そんな彼女には二人の婚約者がいる。
――父違いの、血を分けた兄たち。
彼らは溺愛どころではなく、
「彼女のためなら国を滅ぼしても構わない」とまで思っている危険な兄たちだった。
ベアトリーチェは戸惑いながらも、
この異世界で「ただ愛されるだけの人生」を歩んでいくことになる。
※表紙はAI画像です
我儘令嬢なんて無理だったので小心者令嬢になったらみんなに甘やかされました。
たぬきち25番
恋愛
「ここはどこですか?私はだれですか?」目を覚ましたら全く知らない場所にいました。
しかも以前の私は、かなり我儘令嬢だったそうです。
そんなマイナスからのスタートですが、文句はいえません。
ずっと冷たかった周りの目が、なんだか最近優しい気がします。
というか、甘やかされてません?
これって、どういうことでしょう?
※後日談は激甘です。
激甘が苦手な方は後日談以外をお楽しみ下さい。
※小説家になろう様にも公開させて頂いております。
ただあちらは、マルチエンディングではございませんので、その関係でこちらとは、内容が大幅に異なります。ご了承下さい。
タイトルも違います。タイトル:異世界、訳アリ令嬢の恋の行方は?!~あの時、もしあなたを選ばなければ~
悪役令嬢に転生したので地味令嬢に変装したら、婚約者が離れてくれないのですが。
槙村まき
恋愛
スマホ向け乙女ゲーム『時戻りの少女~ささやかな日々をあなたと共に~』の悪役令嬢、リシェリア・オゼリエに転生した主人公は、処刑される未来を変えるために地味に地味で地味な令嬢に変装して生きていくことを決意した。
それなのに学園に入学しても婚約者である王太子ルーカスは付きまとってくるし、ゲームのヒロインからはなぜか「私の代わりにヒロインになって!」とお願いされるし……。
挙句の果てには、ある日隠れていた図書室で、ルーカスに唇を奪われてしまう。
そんな感じで悪役令嬢がヤンデレ気味な王子から逃げようとしながらも、ヒロインと共に攻略対象者たちを助ける? 話になるはず……!
第二章以降は、11時と23時に更新予定です。
他サイトにも掲載しています。
よろしくお願いします。
25.4.25 HOTランキング(女性向け)四位、ありがとうございます!
悪役令嬢になったようなので、婚約者の為に身を引きます!!!
夕香里
恋愛
王子に婚約破棄され牢屋行き。
挙句の果てには獄中死になることを思い出した悪役令嬢のアタナシアは、家族と王子のために自分の心に蓋をして身を引くことにした。
だが、アタナシアに甦った記憶と少しずつ違う部分が出始めて……?
酷い結末を迎えるくらいなら自分から身を引こうと決めたアタナシアと王子の話。
※小説家になろうでも投稿しています
悪役令嬢に転生しましたが、全部諦めて弟を愛でることにしました
下菊みこと
恋愛
悪役令嬢に転生したものの、知識チートとかないし回避方法も思いつかないため全部諦めて弟を愛でることにしたら…何故か教養を身につけてしまったお話。
なお理由は悪役令嬢の「脳」と「身体」のスペックが前世と違いめちゃくちゃ高いため。
超ご都合主義のハッピーエンド。
誰も不幸にならない大団円です。
少しでも楽しんでいただければ幸いです。
小説家になろう様でも投稿しています。
幽霊じゃありません!足だってありますから‼
かな
恋愛
私はトバルズ国の公爵令嬢アーリス・イソラ。8歳の時に木の根に引っかかって頭をぶつけたことにより、前世に流行った乙女ゲームの悪役令嬢に転生してしまったことに気づいた。だが、婚約破棄しても国外追放か修道院行きという緩い断罪だった為、自立する為のスキルを学びつつ、国外追放後のスローライフを夢見ていた。
断罪イベントを終えた数日後、目覚めたら幽霊と騒がれてしまい困惑することに…。えっ?私、生きてますけど
※ご都合主義はご愛嬌ということで見逃してください(*・ω・)*_ _)ペコリ
※遅筆なので、ゆっくり更新になるかもしれません。
溺愛最強 ~気づいたらゲームの世界に生息していましたが、悪役令嬢でもなければ断罪もされないので、とにかく楽しむことにしました~
夏笆(なつは)
恋愛
「おねえしゃま。こえ、すっごくおいしいでし!」
弟のその言葉は、晴天の霹靂。
アギルレ公爵家の長女であるレオカディアは、その瞬間、今自分が生きる世界が前世で楽しんだゲーム「エトワールの称号」であることを知った。
しかし、自分は王子エルミニオの婚約者ではあるものの、このゲームには悪役令嬢という役柄は存在せず、断罪も無いので、攻略対象とはなるべく接触せず、穏便に生きて行けば大丈夫と、生きることを楽しむことに決める。
醤油が欲しい、うにが食べたい。
レオカディアが何か「おねだり」するたびに、アギルレ領は、周りの領をも巻き込んで豊かになっていく。
既にゲームとは違う展開になっている人間関係、その学院で、ゲームのヒロインは前世の記憶通りに攻略を開始するのだが・・・・・?
小説家になろうにも掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる