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人それぞれの企みと行動……。4
しおりを挟む本当にどうでもいいのだけれど、ディックとオスカーはどうしてこれ程一緒にいるのだろうか。
しばらく眺めていてそんな疑問が浮かんだ。ディックは一人でいる時、だいたいフラフラしていて俯いて目元を隠し、如何にもおかしな研究者らしい様相なのに、オスカーといる時だけは、小さな子供みたいに素直なのだ。
オスカーはオスカーで、誰に対しても同じ態度でせっしているのだけれど、ディックに対して浮浪者だとか、宿無しだとか、そういうことを言う人に対しての容赦は一切無い。
彼は、貴族に対して歯がゆい思いをしている事は多いと思うのだけれど、その分、平民としてオスカーはフットワークが軽い。実力もあるし、メルキシスタの出身だったはずだ。
家業は武器商人で、なおかつ新商品である高性能な銃の開発に携わっている兄弟が何人もいて、彼はその中でも末っ子だ。
そんな彼が魔法使いになって何をするのかは目に見える。けれど、学園はそれを拒まないし、拒むどころか、学園の中枢人物のディックが彼とただならぬ関係になることを許容している。
武器だけでなく、戦地に赴くものへの、携帯食糧や酒、煙草にまで彼の実家のは手を出しているらしいし、そんな一般の平民の中でも危険人物で、戦い慣れしている彼は、ディックに護衛のようにピッタリと張り付いていた。
彼らは楽しげにペンダントを交換してみたり、広場のダンスに加わって、それから、今日も記念祭に来ていたクレアと話をしていた。
私はなんのお店だか知らないが、とにかく何かのお店の屋根の上から、彼女達の会話に聞き耳を立てようとする。
けれど、静かな場所ならまだしも、この場所は騒がしすぎて、耳が痛くなる。
「っ…………無理ね、まぁ、いいわよ別に」
慌ててクレア達が走って学園に戻っていくのを見て、何かあったのかと少し心配になるが、彼女の問題は、彼女とその周辺が解決すればいいのだ。私には、別にやるべきと決めたことがある。
風が吹いて、羽織っていた外套をはためかせる。今の季節でも、屋根の上はさすがに冷える、さっさと、してしまおうと、私はまた露店を回り始めたディックとオスカーに目を向ける。
オスカーは割と害意に聡いほうだ。だから、一瞬で。
タイミングを見る。ディックが露店で、飲み物を買いにオスカーから少し離れた時を見計らって、魔力を強める。助走も取らずに屋根の上から飛び降りて、すかさずメイスを取り出し、オスカーに向かって投擲する。
そのメイスが弾かれた事を感じつつ、未だに魔法の起動もできていないディックの腹に突っ込むようにして彼を担ぎ上げて、オスカーが追って来られないように魔力を全力で込めて、街の外れの方へと風をきって駆け抜ける。
「っ……」
街の中を滅茶苦茶に曲がりながら走り、私は彼を適当な治安の悪そうな路地裏へと下ろした。
ディックは子猫のように震えていて、いつもはあまり見ることが出来ないグレイの瞳を大きく見開き尻もちをついたまま、私のことを見あげていた。
威嚇の意味も込めてメイスを出して振り上げる。それから、思い切りディックのそばへと叩きつけた。
ゴウンッッ!!と鈍い音がして、地面のタイルがえぐり取られる。
おっかなびっくりして彼は、自分の頭を守るようにして亀のように小さくなり、悲鳴をあげる事すらない。
……この子も、今では学園で頑張って戦っているけれど、普通に箱入りお坊ちゃまなのよね。というかディックは、箱入りは箱入りでも、それはもう大切にされている子だ。
貴族はそれなりに、人攫いだとか派閥争い?というものがあるので、警戒を怠らなかったり、咄嗟に助けを呼ぶための行動ができるのだけれど、この子にはそれもないのよ。
このユグドラシル魔法学園で、ディックの事をどうこうしようという人間はまずいない。何せ家族も親戚もすべて捨てて、学園にいる教員陣の唯一の庇護対象だからだ。
「私ね、貴方に聞きたいことがあるのよ、ああ、その前に初めましてね、ディック。まだ初対面の挨拶をしていなかったわ」
表面上だけの笑顔を浮かべて私は彼に近づき、反撃される可能性を考慮していつでも動けるように気を配りつつ距離を縮める。
「顔を上げてくれない?……話をしたいのよ」
私に言われて、彼はやっと少し顔をあげる。それからぎゅっと目を瞑って魔法を使う。
……バカね、貴方は私に敵わないわよ。
やりすぎないようにと注意しながら、武器も何も持っていないディックに私はメイスを振りぬき、彼は背後にあった建物まで弧を描いて飛んでいき、その建物に背中を打ち付けた。
「ッ、ぐっ……っ、ぅ」
俯いて泣き始めてしまった彼の顎をメイスの切っ先で押し上げてこちらを向かせる。
じっとこちらを見あげて、瞳からは大粒の涙が零れる。
……あんまり泣かれると、なんだか可哀想になるのよね。それにこの子、クレアと仲もいいし。なんとも恵まれている状況にいるディックに少し苛立つ気持ちもあるけれど、嫌いでは無いのよ。
「話をしてくれるかしら。そうすれば酷いことはしないわよ」
「っ、ぐっ、ぅ、……っ、おすかー」
いい歳した男の子の癖に情けない。少しは自分が戦って見ようとは思わないのかしら?
はぁとため息をついて、今度は少し痛い目に合わせるしかないか、と考えつつ、メイスを振り上げると、背後から感じる殺気に振り返りざまメイスでガードをする。
「!」
「…………」
……こんなに早いとは思わなかったわ!
素早く剣を打ち込むオスカーに、私は手早く対処しつつ、前に戦った時よりも格段に手数が多い事に気がつく。
だからといって、一撃が軽くなっているという事もない、それなりの重さだ。
「ふ、ふふっ!いいわね!」
「っ……」
こちらからも、ギアを上げて、勢いをつけ、彼の猛攻が緩んだタイミングで、メイスを打ち込む。彼の使っている大剣で、一つの武器は対処出来たとしても、私の固有魔法は、武器創造だ。
二つ目のメイスをもう片方の手にだし、彼のめがけて叩きつける。
「っ……」
「悪くないわね」
腹に当てられるとまずいと言う事は理解できたらしく、大剣を片手で持って、盾の魔法をつかい私のメイスを防御する。
ギリギリのところで防御魔法の展開が間に合ったらしく、彼の体に触れないまま、私の武器は二つとも、とめられてしまう。
けれどまったく問題は無い。むしろ好都合。ここまで強くなっているのなら正式に決闘を申し込んだ方が楽しめた……ううん、それじゃダメだったわね。
「貴方って本当に、この子が好きなのね!」
「っ、だから何だ!」
だからなんだって?だから、こんなに貴方、頑張っているんでしょう?!
意図せずに勝手に頬が緩む。一度メイスを消してそれからまた、新しく作り出し、遠心力を合わせて、オスカーに打ち込んでいく。今度はこちらが攻める番だ。
彼はそんな私に引くでもなく、同じスピードでついてこようとする。一旦距離を置くような戦法も取らずに、出来る限りディックに近づいて守りたいのか、一歩も引かない。
それに、彼は、防戦一方であったとしても、怒気や殺気がビシビシと伝わってきて、本物の戦闘のピリピリする緊張感が堪らない。
……オスカーは、怒りが強さに変わるタイプね!
きっとその怒りのおかげで、これ程までに渡り合えている。それからクレアの固有魔法もきっと彼の強さに貢献していると思う。
何故かって、それはあの子の魔法は、今使っていなくても、効果があるのよ。
魔法の概要を聞いて、実際使っている子達を見ていてそう思ったわ。私は彼女にそれを使って貰った事はないけれど、その価値はわかる。
人はそれぞれ、向いている物も努力の方向性も違うのよそして向かう先も自分で探すしかない。だから、クレアの魔法を使って、自らが望む形を自分の体を使って体感できたのなら、あとはそれに向かうだけ。
何をどうしたら、強くなれるのか、それが理解出来るようになるのも、彼女の強化の魔法の素晴らしいところだ。
きっとオスカーは、それに気がついて、クレアとよく魔法を使っていたよね。だからこれほど強くなれる。
「クレアは気がついているのかしらね、まぁ、わざわざ言うまでも無いわよね」
「ッ、なんの、話を!」
「うふふ、いいえ、オスカーにはあまり関係が無かったわね、じゃあそろそろ」
撃ち合いは一辺倒になって、段々と退屈になってくる。仕方がないので、ディックに話を聞くという元々の目的へと戻ろうと思う。
「終わりにするわねっ!」
留守になっている足元に、メイスを打ち付けてよろけた所で、思い切り振りかぶって瞬発的に魔法を強くして、オスカーを吹っ飛ばす。
ディックと反対側に飛ばしてしまっては可哀想だと思い、半周ほど、切っ先にオスカーの服を引っ掛けてぐるっと回しそれからディックと同じように、壁に背を打ち付けて、崩れ落ちる。
「っ、あ、おすかー、っ、」
「…………チッ……ディック大丈夫だ、な?」
軽く飛ばしただけなので、オスカーはふらつきながらも立ち上がって私を睨む。
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