278 / 305
人を襲う計画……。4
しおりを挟む正直、コーディの事で時間は無い。むしろコーディを差し向けられるタイミングだとかそういう時に、彼が私の前に出てこないかなんて考えてもいるのだが、どれも不確定な要素ばかりだ。
「オスカーも、無理やりにでも二人になれば勝ちだから襲うのは正解だって言っていた」
「え。襲っちゃうの?」
「そうだけど? 君たちもそのつもりだったんだろ」
「……まぁ、うん」
「問題はいつ、どこでだ」
急に具体性のぐっと増した話をされて、私は脳みそがついていかない。そんなにフランクに襲うことを決定していいものだろうか。
でも、確かにそれ以外無いと、チームでも話していたし、私だって何度も作戦を考えてみたが、それらは全部ローレンスの情に訴えかけられるだけで、確実性なんてものは無い。
……それじゃダメなんだよね。私は、死ねない。
……やりたい事もあって、これから先、置いていけない人もいる。だから、やれることならやるしかない。
「君は気軽に接しているから、あまり気にしていないんだと思うけど、ローレンス殿下は、ごちゃついているからあまり呼ばれないだけで、王太子殿下だからね。アウガスの国王の次に、ガードが鉄壁だよ」
「……それは、うん、割と最近気づいた」
「だと思ったよ。まぁ、だからローレンス殿下に接触するために強襲するのは難易度が高い」
だいたい常に、護衛がいるし瞬時にかたをつけないと、助けを呼ばれると私たちでは、勝ち目がなくなってしまう。だから襲うのなら確実に援軍を呼ばれないようにやらなければならない。
「日常を過ごしている分には、絶対に隙が無いように緻密にローレンス殿下は守りを固められている。だから狙う側が考えるのはだいたい、イレギュラーが起こるイベントの時……だよね」
「あ、そうだね。確かに」
そういえば私を守ってくれるヴィンスも、同じようにイレギュラーをできるだけ減らそうとしていた。こちらは狙う側なのだから、そういう思考をしなければならないのかと納得する。
「もうすぐある大きなイベントと言えば、わかるでしょ」
「……もしかして団体戦の事? でもあれは、確か色々対策を取られてたよね?」
そもそも個人戦と違ってトーナメント形式ではなく、教師陣が決めた、チーム対チームの戦闘での評価によってバッチが与えられるかどうかが決められる方式だったはずだ。
それにチーム全員が戦いによって魔法を失ってしまえば、様々なリスクを負うことになる。
だから試合後はすぐに寮に戻ってしまえば、同学年以外の危険は排除できるが同学年の者への対策としては、その日に試合では無い子達は、校舎の方に待機というルールがあり、魔力の回復に務められるようになっている。
これは、模擬戦でもそうで、スケジュール上一日一クラスしか、模擬戦をする事が出来ない。そうすると他の二クラスのもの達が魔力を使い切っているクラスの生徒と何か問題を起こさないとも限らないのだ。
だから、模擬戦は午前中に急いで行われて、午後いっぱいは、別のクラスの生徒のいない寮で過ごす。
「そうだよ。だって試合が終わったチームを試合がなかったチームの子が殺害する話はよくあったから、学園側も随分慎重になってるんだ」
「そ、そうなんだ。物騒だね……まぁ、それだとわざわざその日を狙う意味ってなんなの? やっぱり護衛の子達が魔力が少ないから、ローレンスのチームと同じ日に試合じゃなければ私たちは襲いやすいってこと?」
「違うよ。それだと、他の試合がないチームの子にも、教師からも睨まれるから都合が悪い。それに、ローレンス殿下には特権があるから、君と試合の日が違う事がわかったら寮内に護衛を増やすと思うよ」
それでは更に襲いづらくなっているような気がする。ローレンスの事だ、システムにあぐらをかいたりせずに、増やせる護衛は増やすだろう。
納得して、じゃあ結局どうするんだ? と首を傾げると、ディックは、真剣に私を見つめていう。
「だから、逆に、君たちのチームはローレンス殿下と同じ日の試合日……いや、ローレンス殿下のチームの対戦相手に選ばれれば、殿下は、魔力のある君のチームから狙われる心配は無くなる」
「それは、そうだね」
「そして寮に共に戻っていても、問題無いでしょ?」
「……それも確かに……」
「寮には、魔法玉を登録している人しか入れないから、君のチームに戦闘能力さえ無ければ、ローレンス殿下は警戒をする必要が無い」
それもそうなのだが、そうなると私はどうやって、ローレンスたちが魔力を回復するまでに、ローレンスを襲うのかという疑問が残る。
「そしたら、君は、さすがに魔力が、試合直後で少なくなってる人には勝てるでしょ……」
「え? 私!?」
「当たり前だろ。そもそも君の戦いなんだし!……何より、君には君だけの魔法があるだろ。僕が手を貸す。僕のチームはその日に試合が無いようにするから、あとは君次第だと思うよ」
私だけの……魔法。か、なるほど、私の魔法は他人の足りない所を強化する側面がある。言葉の通りに受け取ればそのままなのだが、それは相手だけではなく、私にも言える事だ。
つまり試合が終わったら、ディックと魔法を使って、彼の魔力を使って、ローレンスの魔力が少ない護衛たちを倒せばいいと言うことか。
作戦の概要は納得ができたが、それらにはいくつか運要素があるように思う。
「私次第の前に、団体戦の対戦カードは、そんなに上手くいくかな? まだ発表されてないけど、ローレンスと当たらない可能性もあるし……」
「そんな可能性はない。……君はさ、僕がどうしてこの話を渋ったのかいまだにわかってないだろ」
「う、うん」
ディックの呆れたような言葉に、私は何か聞き逃してしまっただろうかと心配になって、彼を見る。ディックは、はぁとため息をついて、仏頂面で言う。
「僕、学園長の息子だから、対戦相手ぐらい自由にできるんだよ……ていうかよく今まで気が付かなかったよね、似てるだろ? 髪とか目とか」
言われて、彼の目も髪も見てみるが、そもそも私は学園長にあった事がなかったというか、見たことも無い。
大きな式典に参加できない病にかかっているせいだと思うが、今までまったく学園長の顔を見たことがなかった。
「……」
「なんか言えよ!」
「……いや、確かに、たまにどの目線なんだろうってこと言ってるとは思ってたよ?」
「偉そうだって言いたいんだろ!! でも、本当に偉いんだぞ!! 僕! 跡継ぎだし!」
「偉そうっていうか…………経営者目線? ぽい発言があったというか……」
ただ思い返してみても相変わらずのそのダボっとした制服に、野暮ったいクルクルの髪、学園長の息子だと言われても実感がわかなかった。
ただ、それなら試合相手を変えるくらいなら何とか出来そうだ。普通はやっちゃいけないとかそういうことは気にせず、ディックがやってくれるというのなら、出来る範囲内だと考えた方がいいだろう。
「ディックは、学園側から見ていつも考えたんだね」
「そんなの当たり前だろ! だって僕ここ以外知らないし」
「……確かにそうだよね。ていうかディックがあとを継ぐんだ。将来は学園長ってこと?」
「……そうだよ、ただ学園長って言っても、まとめ役ってだけで、この場所には色んな考えの人が集まるから、ただ純粋にここで育った僕は、公平であるべきだっていつも言われてた」
「……公平ね」
「そう。でも、僕は僕の決意で、君に協力するって決めたんだ、今更、ごめんなんて言うなよ! それで結局、僕の案をやるの?やらないの?」
私が彼の矜恃を曲げる決断をさせてしまった事に、罪悪感がある事をディックは察しているが、彼には一回の謝罪で十分だったらしい。
せっかく提案してくれた具体的な方法を蹴る理由なんかない。それに、襲うということは私の中で、どうあってもやってはいけないという気持ちは抜けなかった。
だから、時間が無いとわかっていつつも、作戦はまったく立てることが出来ずに進まなかったのだ。
「やるよ。……その作戦ができるならそれが一番勝率が高そう。……ていうかね。多分それ以外無いと思う。人を襲う計画って立てるの難しくてね。割と苦戦してたんだ」
「……僕も……僕もそうだし。それでいいだろ。オスカーはパズルみたいなものって言ってたけど、そう簡単に割り切れるような君だったら、怖いし! 気持ち悪い!」
そういうディックは当たり前のことのように言い切って、口角をきゅっと上げてにっこりと笑った。彼の茶色の髪がふわっと揺れて、やっぱり少し犬っぽいなと思う。
「だからさ、いいんだよ考えられなくても別に。こんな嫌なことを考えるのはこれで終わるよ。学生なら本分に戻らないとダメだ」
ディックはガタンと席を立って言う。
「勉強して、戦って、遊んでさ。僕、これでも学生になるのに憧れてたんだ。まだまだ君とも遊び足りないし、終わらせてきてよ。クレア」
「…………そうだね」
確かに私たちの本分は学生で、本当だったら、死ぬだとか殺されるだとか襲うだとかそういうのとは無縁の生活を送っているのが正しいはずだ。
「作戦、チームで共有してからまた内容を詰めて教えてね、ここからはオスカーの方が得意分野だから部屋に来てくれればいいし」
「うん、そうさせてもらう」
「……じゃあね。クレア」
「うん、またね。今日はありがとう」
そう言って呆気なくディックは去っていく。
きっとこういう学園生活だって間違ってなんか居ない。こんなに殺伐としていようとも、思い出は沢山できた。
それでもやっぱり、誰も、不安にならない、怖い目に合わない生活がいい。まずは生きることを勝ち取らなければいけない私がそれを望むなんて、随分と欲張りすぎるけれど、望むだけなら自由なはずだ。
少し目を瞑って、先程の切り傷を抑える。今は治って跡形もないのに、痛みは鮮明に思い出す事が出来る。
……いつか、前世での青春みたいな日々になるように、今を頑張るしかないね。
決意をして私も立ち上がり、廊下の掃除に向かったヴィンスのために、部屋を出た。
0
あなたにおすすめの小説
転生しましたが悪役令嬢な気がするんですけど⁉︎
水月華
恋愛
ヘンリエッタ・スタンホープは8歳の時に前世の記憶を思い出す。最初は混乱したが、じきに貴族生活に順応し始める。・・・が、ある時気づく。
もしかして‘’私‘’って悪役令嬢ポジションでは?整った容姿。申し分ない身分。・・・だけなら疑わなかったが、ある時ふと言われたのである。「昔のヘンリエッタは我儘だったのにこんなに立派になって」と。
振り返れば記憶が戻る前は嫌いな食べ物が出ると癇癪を起こし、着たいドレスがないと癇癪を起こし…。私めっちゃ性格悪かった!!
え?記憶戻らなかったらそのままだった=悪役令嬢!?いやいや確かに前世では転生して悪役令嬢とか流行ってたけどまさか自分が!?
でもヘンリエッタ・スタンホープなんて知らないし、私どうすればいいのー!?
と、とにかく攻略対象者候補たちには必要以上に近づかない様にしよう!
前世の記憶のせいで恋愛なんて面倒くさいし、政略結婚じゃないなら出来れば避けたい!
だからこっちに熱い眼差しを送らないで!
答えられないんです!
これは悪役令嬢(?)の侯爵令嬢があるかもしれない破滅フラグを手探りで回避しようとするお話。
または前世の記憶から臆病になっている彼女が再び大切な人を見つけるお話。
小説家になろうでも投稿してます。
こちらは全話投稿してますので、先を読みたいと思ってくださればそちらからもよろしくお願いします。
転生したら悪役令嬢になりかけてました!〜まだ5歳だからやり直せる!〜
具なっしー
恋愛
5歳のベアトリーチェは、苦いピーマンを食べて気絶した拍子に、
前世の記憶を取り戻す。
前世は日本の女子学生。
家でも学校でも「空気を読む」ことばかりで、誰にも本音を言えず、
息苦しい毎日を過ごしていた。
ただ、本を読んでいるときだけは心が自由になれた――。
転生したこの世界は、女性が希少で、男性しか魔法を使えない世界。
女性は「守られるだけの存在」とされ、社会の中で特別に甘やかされている。
だがそのせいで、女性たちはみな我儘で傲慢になり、
横暴さを誇るのが「普通」だった。
けれどベアトリーチェは違う。
前世で身につけた「空気を読む力」と、
本を愛する静かな心を持っていた。
そんな彼女には二人の婚約者がいる。
――父違いの、血を分けた兄たち。
彼らは溺愛どころではなく、
「彼女のためなら国を滅ぼしても構わない」とまで思っている危険な兄たちだった。
ベアトリーチェは戸惑いながらも、
この異世界で「ただ愛されるだけの人生」を歩んでいくことになる。
※表紙はAI画像です
我儘令嬢なんて無理だったので小心者令嬢になったらみんなに甘やかされました。
たぬきち25番
恋愛
「ここはどこですか?私はだれですか?」目を覚ましたら全く知らない場所にいました。
しかも以前の私は、かなり我儘令嬢だったそうです。
そんなマイナスからのスタートですが、文句はいえません。
ずっと冷たかった周りの目が、なんだか最近優しい気がします。
というか、甘やかされてません?
これって、どういうことでしょう?
※後日談は激甘です。
激甘が苦手な方は後日談以外をお楽しみ下さい。
※小説家になろう様にも公開させて頂いております。
ただあちらは、マルチエンディングではございませんので、その関係でこちらとは、内容が大幅に異なります。ご了承下さい。
タイトルも違います。タイトル:異世界、訳アリ令嬢の恋の行方は?!~あの時、もしあなたを選ばなければ~
悪役令嬢に転生したので地味令嬢に変装したら、婚約者が離れてくれないのですが。
槙村まき
恋愛
スマホ向け乙女ゲーム『時戻りの少女~ささやかな日々をあなたと共に~』の悪役令嬢、リシェリア・オゼリエに転生した主人公は、処刑される未来を変えるために地味に地味で地味な令嬢に変装して生きていくことを決意した。
それなのに学園に入学しても婚約者である王太子ルーカスは付きまとってくるし、ゲームのヒロインからはなぜか「私の代わりにヒロインになって!」とお願いされるし……。
挙句の果てには、ある日隠れていた図書室で、ルーカスに唇を奪われてしまう。
そんな感じで悪役令嬢がヤンデレ気味な王子から逃げようとしながらも、ヒロインと共に攻略対象者たちを助ける? 話になるはず……!
第二章以降は、11時と23時に更新予定です。
他サイトにも掲載しています。
よろしくお願いします。
25.4.25 HOTランキング(女性向け)四位、ありがとうございます!
悪役令嬢に転生しましたが、全部諦めて弟を愛でることにしました
下菊みこと
恋愛
悪役令嬢に転生したものの、知識チートとかないし回避方法も思いつかないため全部諦めて弟を愛でることにしたら…何故か教養を身につけてしまったお話。
なお理由は悪役令嬢の「脳」と「身体」のスペックが前世と違いめちゃくちゃ高いため。
超ご都合主義のハッピーエンド。
誰も不幸にならない大団円です。
少しでも楽しんでいただければ幸いです。
小説家になろう様でも投稿しています。
ワンチャンあるかな、って転生先で推しにアタックしてるのがこちらの令嬢です
山口三
恋愛
恋愛ゲームの世界に転生した主人公。中世異世界のアカデミーを中心に繰り広げられるゲームだが、大好きな推しを目の前にして、ついつい欲が出てしまう。「私が転生したキャラは主人公じゃなくて、たたのモブ悪役。どうせ攻略対象の相手にはフラれて婚約破棄されるんだから・・・」
ひょんな事からクラスメイトのアロイスと協力して、主人公は推し様と、アロイスはゲームの主人公である聖女様との相思相愛を目指すが・・・。
悪役令嬢になったようなので、婚約者の為に身を引きます!!!
夕香里
恋愛
王子に婚約破棄され牢屋行き。
挙句の果てには獄中死になることを思い出した悪役令嬢のアタナシアは、家族と王子のために自分の心に蓋をして身を引くことにした。
だが、アタナシアに甦った記憶と少しずつ違う部分が出始めて……?
酷い結末を迎えるくらいなら自分から身を引こうと決めたアタナシアと王子の話。
※小説家になろうでも投稿しています
幽霊じゃありません!足だってありますから‼
かな
恋愛
私はトバルズ国の公爵令嬢アーリス・イソラ。8歳の時に木の根に引っかかって頭をぶつけたことにより、前世に流行った乙女ゲームの悪役令嬢に転生してしまったことに気づいた。だが、婚約破棄しても国外追放か修道院行きという緩い断罪だった為、自立する為のスキルを学びつつ、国外追放後のスローライフを夢見ていた。
断罪イベントを終えた数日後、目覚めたら幽霊と騒がれてしまい困惑することに…。えっ?私、生きてますけど
※ご都合主義はご愛嬌ということで見逃してください(*・ω・)*_ _)ペコリ
※遅筆なので、ゆっくり更新になるかもしれません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる