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人を襲う計画……。5
しおりを挟む上から数を数えて、それから横からも数える。
……たしか、あそこだったわね。
もう一度指さし数えて、一つの部屋を特定してから、寮の屋根から目的の部屋のバルコニーへと飛び降りる。貴族側の部屋だし、本人も身分が高いので、平民側のクレアの部屋より、バルコニーも広々としている。
まだ夕飯時だと言うのに、その部屋は明かりが灯っておらず部屋の中は真っ暗だった。カーテンは空いているので、隣の部屋から漏れた光と月明かりだけが窓辺を照らしている。
……コーディ、居ないのかしら? 確か謹慎中で部屋から出られないはずよね?
そう思い、窓をコンコンと軽くノックしてみる。居ないなんて事は無いはずなので、早めに眠っているのかもしれない。
そうだったのなら通常は、ちゃんと寮内の廊下を通って出入口の扉のベルを鳴らして侍女に言伝を頼むなりするべきなのだが、何せ、平民側の緩い空気感とは違い、貴族側の寮内は誰かとすれ違っただけで噂を立てられたりして厄介だ。だから、あちら側からは入りたくない。
……それにしても外は冷えるわね。…………寝てるなら、一か八か、この窓壊して中に入ってしまおうかしら。
せっかく会いに来たと言うのに、このまま帰るのは嫌だった。ただでさえ、コーディの為にもカティの為にもせかせか動いて、こうして寒い中で彼女を説得しに言ってきた後だと言うのに、暖かい部屋でコーディがぐっすり眠っていたから会えなかったとなれば、少しばかり腹が立つ。
理不尽なのはわかっているが、それだけ森まで行くのは寒かったのだ。
……相変わらず、カティは一切出てこないし。
……何か、説得の方法を間違えているのかしら?……そもそも、ディックは、カティが望んで行方不明になっていると言っていた。
確かに、呪いの力を持つ彼女は、クラリスの代わりに嫁に行くことは出来ない。それは分かる。けれど、だからといって、自分の大事な人を置いて外界から遮断されて引きこもるというのはどう考えても無責任だ。
……それ以上の私には分からない事情があるって言うの?
でも、会ってあげればいいじゃない。カティだって、コーディと協力して例えば彼の従者の振りなんかして、立場も何もかも捨てて、そばにいてあげればいいのよ。
……そうだわ。それも出来ないって言うのなら説明して欲しいわ。そうしたら、方法を変えて、望みを叶える方法を探せばいいのよ。
それなのにカティったら。無視、無視、無視!ずっと無視!そんなに私が信用ならないの?
先程も、色々な事を彼女に話し、沢山語りかけたのに、答えを返して貰えなかったことへの鬱憤が溜まって、イライラしながら、窓をじっと見つめる。
そうすると部屋の奥で何やら発光していてすぐに魔法玉の光だとわかった。
コーディは起きていたのだろう。そして窓から来た不審者に対抗しようと、魔法を使っているに違いない。
私自身も魔法を強めて、部屋の中にいるはずのコーディを見つめる。すると、黒い人影となってこちらに近づいてきて、その輪郭がわかる頃には、彼もこちらが誰かを認識したようで、窓越しに、瞳を瞬かせた。
もう一度ノックをする。そうすると彼は素直に窓を開けて、不機嫌なのを隠すつもりもなく、それから不振そうに首を傾げた。
「…………ララ。貴方、常識というものがないの?」
「あいにく、私は下賎な平民の出なのよ、そんなもの持ち合わせていないわ」
「……そう、ボクの姉さんと同じだ」
「クラリスの事?」
そう聞けばコーディはあっさりとコクンと頷く、姉だと言うくせに、食事の場で堂々と剣を向けたのは、どういう気持ちなんだろうか。
「食堂で刺したんですってね。どういうつもり? ローレンスの話に乗るの?」
「それを聞きに来たの? 最近殿下が急かして来ないと思ったら今度は貴方か」
「違うわよ。逆だわ、私はクレアを殺さないで欲しいもの」
「は?…………意味が分からない。あれほど恨みあっていたくせに」
それは、クレアがクラリスじゃないからと言いかけて、慌てて口を閉じる。確か、これは言ってはいけないのだった。
この事をコーディに伝えると、クラリスが怒るのだとクレアは言っていた気がする。
「……気が変わったのよ」
「じゃあ、貴方はボクになんの用? 雑談なら誰ともしたくない、帰ってよ」
「……」
少し苛立ったような態度に、考える。別に彼に話を出来ることは無い。それができるのは、クレアが成功した時だけだ。
カティの事だって話をしてあげられない。
……何を話したらいいのかしら?
一応、カティの説得がまだかかりそうだったので、クレアを刺して謹慎を食らったという彼の様子も見ておこうと思い立って、ここまで来ただけなのだが、考えつつ、コーディの方へと視線を戻した。
するとコーディは、自分で自分を抱くように腕を回していてその手が小刻みに震えている。
「……寒いの?」
「え?」
「震えてるわよ……というか貴方部屋の中にいて薄着だものね、窓を開けていたら冷えるわ」
「…………貴方がいるから開けてるんだけど」
「中へ入っていいのなら入るわよ」
「……構わないけど」
「わかった、お邪魔するわね」
私自身も寒かったので、中へ入れてもらえて良かったのだが、部屋のなかだというのに暖かくない。
コーディはきっちりと窓を絞めて、こちらへと振り返るが、彼はどこかぼんやりしていて、震えているのに寒そうな素振りは見せない。
「暖炉つけていないの? え? 寒くない? 寒いでしょ?」
この時期にそんなことをするなんてどうかしている、いくら寒いのが大好きなメルキシスタの人間だとしても、暖炉ぐらいはつけなければ、凍えてしまうだろう。
私の言葉をコーディはまるで気にしていないように、部屋の奥の方へと戻っていく、それから入口付近に置かれているソファへと座った。
「寒いよ」
「そうよね?! なぁにこれ! なんでこんな修行みたいなことしてるのよ! 貴方侍女は?! 貴族でしょう?!」
「……静かにしてよ。前から思ってたけどうるさい人だ」
私の言葉をやっかむようにソファに置いてあったブランケットに身を包み、足を引き寄せて座り、コーディは湯気も立ってない、さして暖かくなさそうなコーヒーを飲む。
「侍女は居ないよ。ボクが殺したから、騎士も部屋へは近寄らないし」
「…………」
「何をしに来たか知らないけど、早く帰って、最近ずっとイライラしてるんだ」
それだけ言って、コーディは黙る。冷めたコーディをチミチミ飲んで、何もせずに空を見つめる。
それから唐突に、ぽたぽた涙を落とす。クレアと同じサファイアの瞳は涙にやわやわと歪んで、鼻をすする音がする。
…………帰ろうかしら。…………ダメよ、ララ。帰った方がいいわ。絶対そうだわ。
彼の一連の行動に、まさかここまでだとは思っていなかった自分を後悔した。けれど良く考えれば、わかったはずだ、自分の家の矜持も、何もなしにカティがいなくなって癇癪を起こすような子なのだ。
いくら貴族は大人っぽくて打算的な子が多いと言っても、個人差があって当然。
……昔からアウガス学校時代から知っているから、普通の子だと勘違いしていたけれど、その時にはカティがちゃんと隣にいたものね。
思わず頭を抱えてため息をついた。どうして男の子というのは極端なのだろう。面倒ったら無い。
もう子供って歳じゃないのよ私達。……カティも大概だけれど、これじゃあ。
「貴方だって大概よ!! コーディ!! もう!!」
経験上というか、こういう時には、私のような他人が手を貸しては良くない。だって、それは野良猫に餌をあげるのと同じなのよ。
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