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人を襲う計画……。6
しおりを挟む生涯面倒を見る気が無いのなら、触っちゃ駄目なのよ。それに、他の誰かが、自活できるように放っておいているのかもしれないし、巣から落ちた雛鳥のような子に触れてはダメ!
それは人も動物も一緒だわ!
そう思うのに体は動いて部屋の灯りをつける。
ソファの上でブランケットにくるまって団子のようになっている彼は、眩しさからか顔をしかめる。
「灯り付けないでよ」
「なんでっ?!」
「……なんでって」
「理由を言ってみなさいよ!! まさかそうしてウジウジ泣く為に消してるなんて情けないこと言わないわよね?!」
「……なんだよ……偉そうに。出てって欲しいんだけど、ボク機嫌が悪いって言ってるだろ!!」
私の簡単な挑発に乗って、コーディは、すぐに烈火の如く怒り、マグカップを床に叩きつけて、魔法を使う。
……だから何だって言うのよ。私には関係ないわ!
そんな事はどうでも良く、暖炉に近づいて薪をいくつか放り込む。それから背後から斬りかかってきたコーディにメイスを出して投げて、ついでに、何本も出して先端の尖った部分で、彼の野暮ったい部屋着を壁に縫い付けるように、投擲していく。
ガスンッ、ガッ、ガッ、ガッ!
と鈍い音で彼は壁に縫い付けられて、きょとんとした顔をした。
「静かにしてなさいよ!!まったく!」
「な、何だよ!! ボクの部屋だよ……そもそも勝手に来ておいて」
「はいはい。そうね」
返事をしつつ、くべた薪に魔法で火をつける。思い切り火力を出して、更に薪をくべると暖かい空気が広がっていく。
魔力を注いで炎を大きくして部屋を暖める。それから、コーディの元へと向かって、メイスを消してあげると、彼は見世物小屋のナイフ投げみたいにされていた拘束が取れて、そのまま壁を背にしてズルズルと座り込んだ。
「コーディ、貴方ね。子供みたいに、心底悲しいんですって自分に暗示をかけない事よ!」
「……貴方には分からないから、そんな事が言えるんだ。ボクがどんな気持ちか」
「分からないわよ! でもね、酷く辛くて悲しいんでしょ、だったらそういう時こそ、きちんとしてなきゃダメよ!」
「……どうして?」
「ちゃんとしていないと、どうしようも無くなっちゃうわ」
手を差し伸べる。その手をコーディは取ることなく、立ち上がって、私をじっと見た。柔らかい銀髪は乱れていて、彼の可愛らしい三つ編みも解けてしまいそうだ。やつれているという言葉がピッタリのように思う。
……確かに私には分からなくて、いつまでも涙が溢れてしまうような心情を私には理解できない。けれど、それほど辛いのならば尚更だ。
「どうしようもないことに抗わなきゃダメよ。そうして、真っ暗な中、寒い中、ひとりで泣いていても、寂しいのが深くなるだけだわ」
「…………だって……暗くて、寒いんだ。カティが居ないともうずっと。だから、そうしていてもいいじゃないか」
だから、灯りも消して、寒い部屋で過ごしていたと言いたいんだろうか。
確かに心情にはピッタリだったのかもしれない。けれどそれでは、救われないんだと、私から見ても分かる。
そうだとしても、と彼を説得しようとして、また涙をぽたぽたと零していることに気がつく。女の子じゃないのだから、そんなに泣かないで欲しい。私は誰であっても慰めるのが苦手だ。
……だって、泣いている子に怒ると私が悪者になっちゃうんだもの。
「……、……な」
……泣かないでよ、と言うと、更に泣く子もいるのよね。
…………。ああ、やっぱり放置しておけばよかった。
「それでも、部屋は暖かくしておくべきだわ。それに灯りもつけておいて」
「なんで貴方にそんな、っ、事、ボクが言われなきゃならないの」
「……いいから! 明日またくるから!」
それだけ言って、踵を返す。泣くのなら暖かい部屋、明るい場所で泣くべきよ。そしたら、きっと泣き終わる時が来るもの。
真っ暗で寒い中泣いていたら、いつまでたっても泣き止まなくて凍傷で死んじゃうわ。
「貴方なんて、ホットミルクでも飲んでればいいのよ!! またね!!」
「…………」
窓を開けて外に飛び出す。
あんまりにもコーディが心配になってきて、寮の中から、コーディの部屋へとミルクを持って行こうかと考えたが、そんな考えを払うように頭を振る。
……まだよ、今じゃないわ。私は、私の今やる事をやらないと!
そうして、バルコニーを飛び移って、コーディの部屋からほど近い、ローレンスの部屋の角のパーティが出来そうな大きなバルコニーへと移動した。
……ローレンスの部屋は分かりやすくていいわね!
柵に降りたって腰を下ろす。ローレンスは察しがいいので、魔力を込めて強く魔法を使う。そうすると、割とすぐに窓辺へと来てカーテンを空け、無作法にバルコニーに急にやって来た私に、仕方なさそうに微笑む。
それから少し待っていれば、窓が開けられて彼はひとりで出てくる。
私は、誰かと話をしている時に、その会話を聞かれるのが嫌いだ。ローレンスから呼び出されたのだとして、彼がいくら身分の高い人なのだと言っても、護衛に丸聞こえの会話などしたくない。
そういう面を理解している彼は、バルコニーへはひとりで出てきてくれる。それに私が窓から来る時は、他人がいたら嫌だと言う意思表示だと言うことも、言葉にはしていないが何となく察してくれていると思う。
「……久しぶりね、ローレンス」
「そうだね。愛おしい君の声を随分久々に聞いた気がするよ」
ローレンスは私の側へと来て、私が腰掛けている柵へと手を付き、体を寄りかからせた。暫くぶりに見るローレンスは相変わらず、美しくて、この耳触りのいい柔らかい声を私も久々に聞いたと思う。
吐く吐息は私と同じく白く染まる、冷たい夜風が吹いていて彼のゴールドの髪をさらう。部屋からの明かりを反射してキラキラと輝いて見えるその髪は夜闇との対比でよく映えていた。
けれど、よく表情を表すローレンスの翡翠の瞳は、今は、闇を見つめているからか、暗く陰っていて、私は一瞬、彼が何か思い詰めているかのように思ったけれど、それがこの夜のせいなのかはたまた、彼自身の心の問題なのかは分からない。
「耳が赤いね。……この学園はアウガスと違って冬が厳しい。毎年ブロンズバッチのアウガス出身者は、体調を崩すものが多いそうだよ」
「そうね。だって嫌になっちゃうくらい寒いもの。メルキシスタ出身の子たちが元気そうなのが本当に理解できないわ」
「確かに、私も生まれによってこれ程違うのかと、驚く気持ちもあるよ。ただ、私が心配なのは、自身の体調よりも君の事だ。……暖炉の火を絶やさないようにね、ララ」
「ご心配どうもありがとう、そんなにヤワじゃないけれど」
「そうか、すぎた心配だったね」
ローレンスは、柔らかく微笑んで、素直にありがとうと言わない私を咎めることも無い。そのことに少しの安堵と安心を感じつつ、どうして自分はいつもこうなのだろうと思ってしまう。
……心配、してくれるのね。ローレンスは。
その事実が心を焦がすほど嬉しくて、思わずローレンスから目を背けた。
ローレンスはいつも、言って欲しい事を言ってくれる。私の心の隙間が何処にあるのか彼には見えるのだと思う。きっと王族特有の翡翠の瞳が特別なんだわ。
だから、自分よりずっと強い相手に、心配する言葉なんて出てくるのよ。他の人達が普通だわ。チームメイトや家族たちが普通のはずだ。
……私は強くなったのだもの、誰からも心配されないなんて名誉な事だわ。でも、ほんの時々思うのよ、寂しい気持ちが顔を出すのよ。
「いいえ、私だって風邪を引くかもしれないし、過ぎた心配なんかじゃないわ」
「……そうだね。君が風邪を引いたら、コンラットが五月蝿そうだが看病ぐらいはしに行くよ」
「あら、貴方が直接動くだなんて、それこそ周りがうるさいでしょう?」
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「……貴方ってたまに、びっくりするぐらい性格が良いわよね」
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だから、きっと看病をするということだって本音なのだろう、こちらとしては良い心がけだと思うし、素敵な人だと思う。
「……性格がいいかどうかは分からないけれど、当たり前だと思うことを言っているだけだよ」
「そう……」
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