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しおりを挟む「私にはその覚悟がある。今は多くの人を救うためにもより確実で、より安全な道を……たとえ、自らの身を削るような思いであってもそれを選択するべきだよ」
「……」
「私だって苦しい、でも私がそうなることだっていとわない。君がそう思わないのであれば、君は王族という地位を甘く見ている」
「……っ、そんなことは……」
「見苦しいところを見せてすまないね、ウィルトン伯爵、だが、それが私たちのやるべきことだ。わかってくれるよね?」
「……そうかもしれません」
問いかけを否定することは、きっと意味がないと考えて、曖昧に返す。
すると彼はその答えを同意と受け取ったのか、笑みを深めて続けて言った。
「より迅速に確実に、私たちは精霊との再契約を目指さなければならない、その都合上、一番の適任者にその契約者という責務を負って欲しいと願う」
「……」
「もちろん私もその一人に立候補したいという思いはあるが、こうしてその仕事の大切さを身をもって理解し支える強固なる後ろ盾が、その役目には必要になってくる」
彼は拳を握って苦しげな表情をして、シェリルを見つめる。
「だからこそ私はこの次期国王という立場を離れることはできないが、今まで以上の褒賞とサポートをすることは確約することができるよ。とても苦しい仕事になるし、また体に負担をかけることは大変なことだろう」
一人で頷いて納得しつつ彼は言う。
「しかしそれをより多くの人に周知させるし、今回のことがあった以上は契約者に対して多くの人が敬意を示すようになるはずだよ。私もその誉れ高い仕事をうらやましくすら思うのだから」
「そう、ですか」
「ああ、だから、ウィルトン伯爵。……いや、元ウォルフォード伯爵。どうかこの国を救うために、またあの屋敷に戻り精霊様に尽くして欲しいと思う」
「なるほど、そういうお話でしたか」
「そうなんだ。こちらの都合を押し付けた願いであることはわかっているよ。しかし、君は弟に取られるまでの間、とても真摯にその役目に向き合って、まっとうしてくれていたね」
ルーファスの言葉にシェリルは「ええ」と答える。
「だからこそ君に頼みたいと思っているんだよ。元ウォルフォード伯爵、そうすることで多くの人が救われ、ハリエットの考える負担を軽減する案も時間をかけて検討することができるんだ」
「そうですね」
「具体的にはより高い爵位を君に与え、予算を増やし、騎士も増員しよう。それになにより、そうして今まで通りに収まれば、癇癪を起して罪を犯してしまった彼も救うことができるんだよ?」
彼はとても優しげな表情になってシェリルに示すように言う。
「君は彼に対してとても心を寄せていたそうだし、一時の感情であんなことをして、今回の件が長引いて罰を受けることになるだなんて、あまりに不憫だよ。弟は少し享楽好きな、愛おしいやつなんだよ。それは君もわかっていると思う」
「……」
「君も我々の身内も同然の血筋を持った女性だ、わかってくれるよね。だからこそここは、我々でいち早く処置をしてできる限りの最小の被害で抑えるのが一番いいことなんだ」
彼の言葉にハリエットは、もはやなにも言わなかった。
けれどもその瞳はシェリルの方を向いていて、必死になにかを訴えている。
その意味はシェリルも理解しているつもりだ。
「そうですね。……王族としては、自分たちの身を削ることになっても今回のことを素早く収束させて、より強固にこれからは国を守る地盤を固めていきたいのですね」
「ああ。よくわかってくれたね。私は嬉しいよ。実は私自身も魔法具に幼いころ誤って手を乗せてしまって魔力を酷く吸い取られた経験がある。君のつらさは誰よりわかっているつもりだ」
「それは痛ましいことですね」
「ありがとう。だからこそ心苦しい。でも、私がきちんと貴族たちに説明をしてこれからの手厚いサポートは次期国王の私が責任をもってやらせてもらう」
胸を張って、任せていいとばかりに自分の胸に手を置いて彼はハンサムな笑みを浮かべた。
彼自身もできることなら自分がやりたいと望んでいて、そして身を削ってでも人を助けたいと思っている、その主張は、たしかに間違っていないだろう。
そして、今まで長年そうしていた経験があって加護を持っているシェリルがその位置につくのだって一番順当なことであり、一番不都合がないだろうと考えられる。
ルーファスは間違っていない。
「だからどうか、この件、元ウォルフォード伯爵として受け入れてはくれないだろうか」
最終的な確認として彼は、シェリルに問いかけた。
その言葉に、シェリルは少し考えた。それから小さく笑みを浮かべて返した。
「ええ、わかりました。引き受けようと思います。いち早くこの国を元に戻すことが最優先ですもの」
「! ありがとう、他でもない君に頼んで私は正解だったよ」
「ただし、一つ注意点を」
「……どんなことかな?」
「確かに引き受けましたもの、精霊の守護像に刻まれていた魔法のことやそのほかたくさんのことで協力をしてその方向で動きますわ。そしてそれはルーファス王子殿下の勧めがあってこそ」
彼が重要視しているだろう部分を丁寧に言うと、彼は深く頷く。
「ただ、今まで通りとは違う些細な変化も出てくるでしょう。けれど王族は、身を削っても自分たちの身内の失態を補ってより民の負担を減らすために全力を尽くす。そのルーファス王子殿下の思いだけは変えないように配慮して、内容を作成します」
「ああ、すべて同じでなくても構わない。ただ民を救うことができるのならそれでいいんだよ。私は」
「ええ、素晴らしい心意気ですね」
「では、元ウォルフォード伯爵、よろしく頼んだよ」
そうしてシェリルはルーファスと固い握手を交わして、話し合いは一つの結論を生んで終わることになった。
ルーファスは早く屋敷に戻って、仕事に取りかかるように言うが、ハリエットはどう見ても納得していなかった。
しかし見送ると言われてしまえば、この後に二人で話をすることは難しい。また後日話す時間を設けることもできないことではないが、それをしてもきっと意味はない。
そう判断して、王城のエントランスへと向かったのだった。
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