大人になったオフェーリア。

ぽんぽこ狸

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9 しびれを切らして

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 別の日のこと、いよいよオフェーリアはしびれを切らして、ヴァレントが仕事を終えてくるりと椅子を回転させたときに、そばによってその腿に手を置いて彼が立ち上がらないように制した。

「……オフェーリア?」
 
 疑問を持って名前を呼ぶ彼に向かって、そのままキスをしてしまおうと、顔を近づける。

「っ」

 しかし、とっさの判断でヴァレントはオフェーリアの口元をふさぐように手のひらを当ててその行動を止める。

「…………なにするんですの」
「君こそ、何してる」

 口に手を当てられていて少し声がこもっている。

「口づけですわ。構わないでしょう、仕事も終えた様子ですし」
「そういう問題じゃない」
「じゃあなんの問題があるって言うんですの、いいではありませんかそのぐらい」
「……はぁ、何故君がそのぐらいなんて言うんだ」
「だってそのぐらいなんですもの」

 それ以上のことをヴァレントとはするつもりでここにいる。

 こうして何度も何度も、アプローチをかけて、煽って、愛嬌を振りまいて、望んでいると示して、こんなにもそばにいる。

 それに彼に抱かれたという事実をもってして、本当の意味での関係を結べたと言えるだろう。

 そして情報を話してもらったらオフェーリアはもっとうまくやる。彼に損は一つだってない。

「キスぐらいなんですの。結婚をしていない姫が見事に解任するようなことがあるぐらいですもの、わたくしたちの関係はそれに比べたらよっぽど健全ですわ」
「それと比べるな。それに、たしかに両親が公認しているとはいえ、君は……」
「なんですのはっきりしませんわね」

 たしかに彼からすればこんなにオフェーリアが積極的な意味が分からないかもしれない。

 しかしオフェーリアの頭の中ではすでに完璧な計画が出来上がっていてなんの綻びも見当たらない。誰も損をしない、するといえばベアトリーチェぐらいだろう。

 それを彼もわかっているはずだ、害する気などないのだ。
 
 だって、愛しているという言葉に偽りもないし、そういうことをしたいという気持ちにも嘘偽りがない。そのぐらいはわかるだろう。
 
 ならば性行為をしたのち、どんなことを目的にしていようとも関係のないことだ。

 彼にとって利がある、オフェーリアにも利がある。それだけだ。
 
 ……それなのにヴァレントと来たら、いつもいつも、いつもっ。

 オフェーリアはここまで、煽っているというのに何もしてこない彼にいい加減腹が立って、少し頬を膨らませて、口元を覆っている手をどける。

「何がいけないんですの、こんなにもあなたを愛して共にいたいと望んでいる人間がいるのに、どうして拒絶するんですの」
「拒絶しているわけじゃない」
「ならもっと積極的になればいいんですの? これ以上? もっと扇情的に? みだらな言葉を口にして?」

 困り果てたように言う彼に、オフェーリアは苛立った気持ちをそのままに、彼の体に上半身を預けるように倒れこんだ。

 彼の腿の上に乗り上げて逞しい胸板に頬を預ける。

「ああ、こんなに愛しているというのに、いけずですわ。わたくしは魅力的ではありませんの? こんなに猫のように甘えたのなんてあなたが初めてですのに」
「……」
「もどかしいですわ、いくら一緒に居ても、心は繋がっていない。そんな気がしますの。寂しい、満たしてくださいませんの?」

 小説で読んだ言葉をそのままオフェーリアは言った。その言葉に若干の気持ちがこもっていたことは内緒だけれど、それよりも彼の膝の上は思ったよりも心地が良い。

 体が大きいからだろうかすっぽり覆い隠されてしまうようで、本当に子猫になったような気分だ。

「それとも、ああ……もしかしてあなたは意気地なしなのかしら、ヴァレント。純真な女に手を出す度胸のない優柔不断な人なの?」

 練習していた言葉を惰性で続けて言った。

 すると彼は、椅子の肘掛けに置いた手をぐっと握って、それにオフェーリアは一瞬言い過ぎたかと考える。

 しかし、すぐにふっと力が抜かれて彼は、困り果てたような声で「もう、何とでも言ってくれ」とがっくりとして言ったのだった。

 それにどこまで行っても優しい人だなと思いながら、オフェーリアは子猫のように甘えながら、煽ったり誘ったりして、時間を無為に過ごしたのだった。


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