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しおりを挟む「随分と立派な屋敷を建ててもらったんですね」
「そうでしょう? 建ててから時間が経ってしまったけれど、貴方に見せるのを楽しみにしていましたのよ」
「そうだったんですか。……ごめんなさい、頻繁に来られなくて」
エイミーは美しい赤毛をさらりと耳にかけて申し訳なさそうに紅茶を飲んだ。
せっかく良い天気だったので、別館の方の庭園を使ってリディアとエイミーはお茶会を開いていた。
随分、会っていなかった友人に、リディアの為にあつらえられた屋敷を見せるという目的もあったが、なにより日差しが心地よく、さわやかな風が吹いている。
こんな日に来訪があったのだから、お庭でお茶を飲むのに限るだろう。
いつもの通りにロイがそばにいて紅茶を淹れてくれて、マグワートクッキーをサクサクと食べた。
「いいんですのよ、エイミー。なにもわたくし、貴方に日々の仕事を放り出して飛び出してこいとは言ってませんの。正式にどこかに移動するとなると面倒なこともあるでしょうし」
「うんうん」
「厄介な状況にあるのですから、手紙のやり取りをできるだけで十分ですわ。……でも、たまに周りにあまり迷惑を掛けないはんちゅうでお出かけしたくなったら、いつでも来てほしいと思っていますわ。だから今日会えたのもうれしく思っていますの」
リディアは自分の思いを丁寧に説明した。
彼女に見せたいとおもっている物や、会ってやりたいと思っていることは沢山あるが、聖女というのは面倒な役職で、生まれた時から逃れられない大役を背負わされている。
彼女は聖女の中でも稀少度が高く、国中で一番重要視されている特殊な状況下に置かれている人間だ。
だからこそ、正式に会いに来るのもリディアが会いに行くのも難しい、しかし、そんな生活では息が詰まる。そう言って彼女はよく小さな頃にリディアのところに遊びに来ていた。
そしてそんな大役を背負った友人を、手紙のやり取りを通して常にリディアは応援しているのだった。
しかしここ最近は手紙の返信もなく、成人したばかりで忙しくしているのだろうと思っていたが、まさかこうして直接この屋敷にやってくるとは思わなかった。
きっと歳を重ねて大人になってもたまに息抜きをしないとやっていられないのだろう。
「そう言ってくれるのはリディアだけです。……わかってはいますけど、私が自由にすると困る人がいっぱいいますから……できるだけ何も望まないようにはしてるんです!」
「……そうね。貴方大変な立場だものね」
「うん。……でも、今回ばっかりは、嫌だったんですもん」
「あら、何かあったの?」
頬を膨らませて怒ったような顔をするエイミーにリディアは問いかけた。しかし彼女は「それはぁ、そのぉ」と曖昧な返事をするだけで具体的なことは言いづらい様子だった。
……何か込み入った事情があるのかしら?
それならば無理に聞くつもりはないし、久しぶりに会った友人だからこそ、言いづらいのかも知れない。
どうせ数日間は帰らないのだと思うし、大騒ぎになって捜索隊が編成されるまでの間に王都の教会へと戻ればいいのだ。
ここまで来ることになった理由を話すよりも先に、もっと友人らしい会話をして楽しんだらいい。
「話しづらいなら後ででいいですわ。それより、随分返信が無かったけれど、わたくしの手紙は読んでいたかしら?」
話を切り替えて、リディアは彼女を見据えた。すると、その話ならいくらでもできるとばかりにエイミーはぱっと表情を明るくして、ぶんぶんと首を横に振った。
「儀式が忙しくて何にも読めていないんです! 窮屈で参っちゃいます!」
「そうだったのね。じゃあどこまでわたくしの事情を知っているかしら」
「えっと、子爵令息のオーウェンと結婚間近ってところでしたよ」
聞いてみると随分と前の事で彼女のリディアに対する情報は止まっているらしい。それほど前から忙しく手紙を読めない状況というのは、忙しすぎではないだろうか。
そこまで彼女が忙しいということは公にされていない事実があって、そのために彼女が必要だという事だし、それはきっととても価値のある情報だろうと考える。
しかしリディアはエイミーと損得で付き合っているわけではない。
この子と話をするこの時間の為に付き合いを続けているだけなのだ。だからこそ無理に情報を求めるつもりはなかった。
「嫌なところで情報がとまってますわね。ああでも、結婚はしましたわ」
「そうなんです? でも嫌な奴だって言っていたではないですか」
「ええ、オーウェン以外と結婚しましたわ」
「それまた急ですね。どんな人ですか?」
手紙を読んでいないといった彼女は、本当にリディアの結婚相手を知らない様子で、それを面白がってリディアはロイにちらりと視線を送りながらも「可愛い人ですわ」と優しく言った。
それに流石にロイも反応して、一歩進み出て、かがんで二人に視線を合わせた。
「ど、どういう意味ですか」
「そのままの意味ですの。ロイは可愛いでしょう?」
「え、ええ?! まさか二人が結婚したんですか? ええー……意外です」
ロイが反応したことによって、エイミーはすぐに察した様子でリディアとロイを交互に見て口元に手を当てた。
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