酒の席での戯言ですのよ。

ぽんぽこ狸

文字の大きさ
27 / 67

27

しおりを挟む




「随分と立派な屋敷を建ててもらったんですね」
「そうでしょう? 建ててから時間が経ってしまったけれど、貴方に見せるのを楽しみにしていましたのよ」
「そうだったんですか。……ごめんなさい、頻繁に来られなくて」

 エイミーは美しい赤毛をさらりと耳にかけて申し訳なさそうに紅茶を飲んだ。

 せっかく良い天気だったので、別館の方の庭園を使ってリディアとエイミーはお茶会を開いていた。

 随分、会っていなかった友人に、リディアの為にあつらえられた屋敷を見せるという目的もあったが、なにより日差しが心地よく、さわやかな風が吹いている。

 こんな日に来訪があったのだから、お庭でお茶を飲むのに限るだろう。
 
 いつもの通りにロイがそばにいて紅茶を淹れてくれて、マグワートクッキーをサクサクと食べた。

「いいんですのよ、エイミー。なにもわたくし、貴方に日々の仕事を放り出して飛び出してこいとは言ってませんの。正式にどこかに移動するとなると面倒なこともあるでしょうし」
「うんうん」
「厄介な状況にあるのですから、手紙のやり取りをできるだけで十分ですわ。……でも、たまに周りにあまり迷惑を掛けないはんちゅうでお出かけしたくなったら、いつでも来てほしいと思っていますわ。だから今日会えたのもうれしく思っていますの」

 リディアは自分の思いを丁寧に説明した。

 彼女に見せたいとおもっている物や、会ってやりたいと思っていることは沢山あるが、聖女というのは面倒な役職で、生まれた時から逃れられない大役を背負わされている。

 彼女は聖女の中でも稀少度が高く、国中で一番重要視されている特殊な状況下に置かれている人間だ。

 だからこそ、正式に会いに来るのもリディアが会いに行くのも難しい、しかし、そんな生活では息が詰まる。そう言って彼女はよく小さな頃にリディアのところに遊びに来ていた。

 そしてそんな大役を背負った友人を、手紙のやり取りを通して常にリディアは応援しているのだった。

 しかしここ最近は手紙の返信もなく、成人したばかりで忙しくしているのだろうと思っていたが、まさかこうして直接この屋敷にやってくるとは思わなかった。

 きっと歳を重ねて大人になってもたまに息抜きをしないとやっていられないのだろう。

「そう言ってくれるのはリディアだけです。……わかってはいますけど、私が自由にすると困る人がいっぱいいますから……できるだけ何も望まないようにはしてるんです!」
「……そうね。貴方大変な立場だものね」
「うん。……でも、今回ばっかりは、嫌だったんですもん」
「あら、何かあったの?」

 頬を膨らませて怒ったような顔をするエイミーにリディアは問いかけた。しかし彼女は「それはぁ、そのぉ」と曖昧な返事をするだけで具体的なことは言いづらい様子だった。

 ……何か込み入った事情があるのかしら?

 それならば無理に聞くつもりはないし、久しぶりに会った友人だからこそ、言いづらいのかも知れない。

 どうせ数日間は帰らないのだと思うし、大騒ぎになって捜索隊が編成されるまでの間に王都の教会へと戻ればいいのだ。

 ここまで来ることになった理由を話すよりも先に、もっと友人らしい会話をして楽しんだらいい。

「話しづらいなら後ででいいですわ。それより、随分返信が無かったけれど、わたくしの手紙は読んでいたかしら?」

 話を切り替えて、リディアは彼女を見据えた。すると、その話ならいくらでもできるとばかりにエイミーはぱっと表情を明るくして、ぶんぶんと首を横に振った。

「儀式が忙しくて何にも読めていないんです! 窮屈で参っちゃいます!」
「そうだったのね。じゃあどこまでわたくしの事情を知っているかしら」
「えっと、子爵令息のオーウェンと結婚間近ってところでしたよ」

 聞いてみると随分と前の事で彼女のリディアに対する情報は止まっているらしい。それほど前から忙しく手紙を読めない状況というのは、忙しすぎではないだろうか。

 そこまで彼女が忙しいということは公にされていない事実があって、そのために彼女が必要だという事だし、それはきっととても価値のある情報だろうと考える。

 しかしリディアはエイミーと損得で付き合っているわけではない。

 この子と話をするこの時間の為に付き合いを続けているだけなのだ。だからこそ無理に情報を求めるつもりはなかった。

「嫌なところで情報がとまってますわね。ああでも、結婚はしましたわ」
「そうなんです? でも嫌な奴だって言っていたではないですか」
「ええ、オーウェン以外と結婚しましたわ」
「それまた急ですね。どんな人ですか?」

 手紙を読んでいないといった彼女は、本当にリディアの結婚相手を知らない様子で、それを面白がってリディアはロイにちらりと視線を送りながらも「可愛い人ですわ」と優しく言った。

 それに流石にロイも反応して、一歩進み出て、かがんで二人に視線を合わせた。

「ど、どういう意味ですか」
「そのままの意味ですの。ロイは可愛いでしょう?」
「え、ええ?! まさか二人が結婚したんですか? ええー……意外です」

 ロイが反応したことによって、エイミーはすぐに察した様子でリディアとロイを交互に見て口元に手を当てた。



しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

忘れられた幼な妻は泣くことを止めました

帆々
恋愛
アリスは十五歳。王国で高家と呼ばれるう高貴な家の姫だった。しかし、家は貧しく日々の暮らしにも困窮していた。 そんな時、アリスの父に非常に有利な融資をする人物が現れた。その代理人のフーは巧みに父を騙して、莫大な借金を負わせてしまう。 もちろん返済する目処もない。 「アリス姫と我が主人との婚姻で借財を帳消しにしましょう」 フーの言葉に父は頷いた。アリスもそれを責められなかった。家を守るのは父の責務だと信じたから。 嫁いだドリトルン家は悪徳金貸しとして有名で、アリスは邸の厳しいルールに従うことになる。フーは彼女を監視し自由を許さない。そんな中、夫の愛人が邸に迎え入れることを知る。彼女は庭の隅の離れ住まいを強いられているのに。アリスは嘆き悲しむが、フーに強く諌められてうなだれて受け入れた。 「ご実家への援助はご心配なく。ここでの悪くないお暮らしも保証しましょう」 そういう経緯を仲良しのはとこに打ち明けた。晩餐に招かれ、久しぶりに心の落ち着く時間を過ごした。その席にははとこ夫妻の友人のロエルもいて、彼女に彼の掘った珍しい鉱石を見せてくれた。しかし迎えに現れたフーが、和やかな夜をぶち壊してしまう。彼女を庇うはとこを咎め、フーの無礼を責めたロエルにまで痛烈な侮蔑を吐き捨てた。 厳しい婚家のルールに縛られ、アリスは外出もままならない。 それから五年の月日が流れ、ひょんなことからロエルに再会することになった。金髪の端正な紳士の彼は、彼女に問いかけた。 「お幸せですか?」 アリスはそれに答えられずにそのまま別れた。しかし、その言葉が彼の優しかった印象と共に尾を引いて、彼女の中に残っていく_______。 世間知らずの高貴な姫とやや強引な公爵家の子息のじれじれなラブストーリーです。 古風な恋愛物語をお好きな方にお読みいただけますと幸いです。 ハッピーエンドを心がけております。読後感のいい物語を努めます。 ※小説家になろう様にも投稿させていただいております。

悪役令嬢になるのも面倒なので、冒険にでかけます

綾月百花   
ファンタジー
リリーには幼い頃に決められた王子の婚約者がいたが、その婚約者の誕生日パーティーで婚約者はミーネと入場し挨拶して歩きファーストダンスまで踊る始末。国王と王妃に謝られ、贈り物も準備されていると宥められるが、その贈り物のドレスまでミーネが着ていた。リリーは怒ってワインボトルを持ち、美しいドレスをワイン色に染め上げるが、ミーネもリリーのドレスの裾を踏みつけ、ワインボトルからボトボトと頭から濡らされた。相手は子爵令嬢、リリーは伯爵令嬢、位の違いに国王も黙ってはいられない。婚約者はそれでも、リリーの肩を持たず、リリーは国王に婚約破棄をして欲しいと直訴する。それ受け入れられ、リリーは清々した。婚約破棄が完全に決まった後、リリーは深夜に家を飛び出し笛を吹く。会いたかったビエントに会えた。過ごすうちもっと好きになる。必死で練習した飛行魔法とささやかな攻撃魔法を身につけ、リリーは今度は自分からビエントに会いに行こうと家出をして旅を始めた。旅の途中の魔物の森で魔物に襲われ、リリーは自分の未熟さに気付き、国営の騎士団に入り、魔物狩りを始めた。最終目的はダンジョンの攻略。悪役令嬢と魔物退治、ダンジョン攻略等を混ぜてみました。メインはリリーが王妃になるまでのシンデレラストーリーです。

王命により、婚約破棄されました。

緋田鞠
恋愛
魔王誕生に対抗するため、異界から聖女が召喚された。アストリッドは結婚を翌月に控えていたが、婚約者のオリヴェルが、聖女の指名により独身男性のみが所属する魔王討伐隊の一員に選ばれてしまった。その結果、王命によって二人の婚約が破棄される。運命として受け入れ、世界の安寧を祈るため、修道院に身を寄せて二年。久しぶりに再会したオリヴェルは、以前と変わらず、アストリッドに微笑みかけた。「私は、長年の約束を違えるつもりはないよ」。

私が、良いと言ってくれるので結婚します

あべ鈴峰
恋愛
幼馴染のクリスと比較されて悲しい思いをしていたロアンヌだったが、突然現れたレグール様のプロポーズに 初対面なのに結婚を決意する。 しかし、その事を良く思わないクリスが・・。

【完結】家族にサヨナラ。皆様ゴキゲンヨウ。

くま
恋愛
「すまない、アデライトを愛してしまった」 「ソフィア、私の事許してくれるわよね?」 いきなり婚約破棄をする婚約者と、それが当たり前だと言い張る姉。そしてその事を家族は姉達を責めない。 「病弱なアデライトに譲ってあげなさい」と…… 私は昔から家族からは二番目扱いをされていた。いや、二番目どころでもなかった。私だって、兄や姉、妹達のように愛されたかった……だけど、いつも優先されるのは他のキョウダイばかり……我慢ばかりの毎日。 「マカロン家の長男であり次期当主のジェイコブをきちんと、敬い立てなさい」 「はい、お父様、お母様」 「長女のアデライトは体が弱いのですよ。ソフィア、貴女がきちんと長女の代わりに動くのですよ」 「……はい」 「妹のアメリーはまだ幼い。お前は我慢しなさい。下の子を面倒見るのは当然なのだから」 「はい、わかりました」 パーティー、私の誕生日、どれも私だけのなんてなかった。親はいつも私以外のキョウダイばかり、 兄も姉や妹ばかり構ってばかり。姉は病弱だからと言い私に八つ当たりするばかり。妹は我儘放題。 誰も私の言葉を聞いてくれない。 誰も私を見てくれない。 そして婚約者だったオスカー様もその一人だ。病弱な姉を守ってあげたいと婚約破棄してすぐに姉と婚約をした。家族は姉を祝福していた。私に一言も…慰めもせず。 ある日、熱にうなされ誰もお見舞いにきてくれなかった時、前世を思い出す。前世の私は家族と仲良くもしており、色々と明るい性格の持ち主さん。 「……なんか、馬鹿みたいだわ!」 もう、我慢もやめよう!家族の前で良い子になるのはもうやめる! ふるゆわ設定です。 ※家族という呪縛から解き放たれ自分自身を見つめ、好きな事を見つけだすソフィアを応援して下さい! ※ざまあ話とか読むのは好きだけど書くとなると難しいので…読者様が望むような結末に納得いかないかもしれません。🙇‍♀️でも頑張るます。それでもよければ、どうぞ! 追加文 番外編も現在進行中です。こちらはまた別な主人公です。

我が家の乗っ取りを企む婚約者とその幼馴染みに鉄槌を下します!

真理亜
恋愛
とある侯爵家で催された夜会、伯爵令嬢である私ことアンリエットは、婚約者である侯爵令息のギルバートと逸れてしまい、彼の姿を探して庭園の方に足を運んでいた。 そこで目撃してしまったのだ。 婚約者が幼馴染みの男爵令嬢キャロラインと愛し合っている場面を。しかもギルバートは私の家の乗っ取りを企んでいるらしい。 よろしい! おバカな二人に鉄槌を下しましょう!  長くなって来たので長編に変更しました。

【完結】お父様。私、悪役令嬢なんですって。何ですかそれって。

紅月
恋愛
小説家になろうで書いていたものを加筆、訂正したリメイク版です。 「何故、私の娘が処刑されなければならないんだ」 最愛の娘が冤罪で処刑された。 時を巻き戻し、復讐を誓う家族。 娘は前と違う人生を歩み、家族は元凶へ復讐の手を伸ばすが、巻き戻す前と違う展開のため様々な事が見えてきた。

《完結》愛する人と結婚するだけが愛じゃない

ぜらちん黒糖
恋愛
オリビアはジェームズとこのまま結婚するだろうと思っていた。 ある日、可愛がっていた後輩のマリアから「先輩と別れて下さい」とオリビアは言われた。 ジェームズに確かめようと部屋に行くと、そこにはジェームズとマリアがベッドで抱き合っていた。 ショックのあまり部屋を飛び出したオリビアだったが、気がつくと走る馬車の前を歩いていた。

処理中です...