聖女の私と婚約破棄? 天罰ってご存じですか?

ぽんぽこ狸

文字の大きさ
1 / 15

1

しおりを挟む



 王宮の敷地内に存在するとある離宮、その離宮の天井はドーム状になっておりガラス張りだった。

 外に出られない王太子の婚約者である聖女の為に作られたその離宮は大きさこそなかったが、幸運の女神の聖女ルーシャが一人で住んでいるだけなのでさして問題はない。

 婚約者である王太子が会いに来るのは月に一度初めの日だけ、その日には一番日の光が入る大きな応接室を使って、使用人と協力して彼をめいっぱいもてなす二人にとって大切な時間だ。

 しかし、今日ばかりは違っていた。

 恋人同士の蜜月な時間になるはずだったのに、異物が入り込んでいる。そしてそれを王太子クリフもさも当たり前の事のように受け入れていた。

「呆けた様子で聞いてらっしゃるの? 聖女ルーシャ」
「…はい、聞いてます」
「では続けさせてもらうけれど、貴方は他の女神の聖女たちとは違って聖女の能力はあまり具体的ではないですわ」

 淡々とルーシャにそう告げる女は、先ほどアンジェリカだとクリフから紹介を受けた。

 公爵家の出らしく、彼女はとても高価なドレスを身にまとって指の半分以上に宝石のついた指輪をしている。

 先ほどの異物とは彼女の事だ。

 ルーシャはそもそも女性に久しぶりに会った。自分の母親にだって十年以上会っていないのに、彼女は何のつもりでルーシャに会いに来たのだろう。

 首をかしげて考える。

 クリフを見て、それからその後ろにいるクリフの護衛騎士のユリシーズを見た。彼はいつもより体調が悪そうな顔をしていた。

「幸運の聖女の寵愛を受けている者が幸運になるなんていいますけど、あたくしは、そんなのおかしいと思いますの」
「……どうしてですか」
「だって、たまたま幸運をはじめから持っている人のそばにいた可能性の方がずっと高いではないの」
「……」
「幸運な人間は確かに存在すると思いますわ。クリフ殿下のような……ね?」
「ああ、そうだな」

 二人は、隣に座って、何やら親しげに視線を交わして笑みを浮かべる。

 それにしても引っかかる言い方だ、その言い方ではまるで……。

「でも、他人に幸運をもたらすなんて、そもそも現実的に考えてありえないでしょう? 」

 鼻で笑うように彼女は口にする。ルーシャの事を心底馬鹿にしている様子だった。

「ずっと離れて暮らしていて、月に一回しか会わないなんてもうほぼ他人なのに、そんな人間を愛して幸運を与えているなんて、そんな話あるわけないのよ」
「あるわけないと、どうして断言できるのですか?」
「あたくしがずっとそばで見てきたからよ、クリフ殿下のこと。貴方と違って社交界に出て、彼に寄り添って色々な相談も乗ったりして」
「……」
「そうして寄り添って初めて愛って生まれるものでしょう? そして分かったの、クリフ殿下はご自身の力で幸せを勝ち取ってる」

 確信しているのだと熱を入れてアンジェリカは続けた。ルーシャはそれになんだか言い表しようのない感情がこみあげて来る。

「あたくしはクリフ殿下の事を本当に愛しているの、貴方と違って真の愛で彼を包んであげられる。それなのに貴方はどう? こうしてクリフ殿下をだまして愛のない結婚にこぎつけようとしているわ!」
「……だます?」
「そうよ、だってあなたの愛情は嘘だもの、そうでしょうクリフ殿下」

 アンジェリカは隣にいたクリフの手を取って彼に視線を向けた。

 それにまるで勇気をもらったみたいな顔をして、それから恐れている悪役に立ち向かうみたいな顔をして、クリフはルーシャに視線を向けた。

「……私は、ずっと……君の力など感じたことは無かった。女神の加護があると言われ続けて、私はずっと騙されていたんだ」

 真剣な言葉だった。ルーシャの胸にぐさりと刺さって、ハッと息を吐く。

「私は生まれた時から自分の力だけでここまで歩いてきた。もう……嘘をつくのはやめてくれ、私は私の望む相手の真実の愛を手に入れたい!」
「……」
「婚約破棄させてほしい、ルーシャ」
「もうすでにサイラス国王陛下には打診済みですわ。後は貴方が、嘘を認めてうんと頷くだけでいいのですよ」

 驚きすぎて言葉を発せないルーシャに、アンジェリカがそう付け足してしたり顔でそういうのだった。

 なんと言ったらいいのか、正直なところ分からなかった。

 愛が本物だとか嘘だとかルーシャにはよくわからない。

 騙さないでほしいだなんていわれてもルーシャだって自分の力を実感したことはほとんどない。

 確信もない中で、幸運の女神の聖痕があるという理由だけで、幼少期から勝手にな婚約を結ばれて、すべての加護を彼に向けるようにと家族との交流の一切を絶たれ、この鳥かごのような離宮に閉じ込められたのだから当たり前だろう。

 ……何言っているんでしょうこの馬鹿な人たち。

 私は嘘なんかついていない、つく暇もなかった。むしろ、聖女なんかじゃないと嘘をついてよかったのなら、もっと早くやっていました。

「驚くのも無理はない、君は私とアンジェリカの関係も知らずに、ただこの離宮で優雅に過ごしていただけなのだから」
「そうですわ。怠惰に過ごせる貴方がうらやましいぐらいですの。でもこうして怠け者はいつかそのつけが回ってくるのですわよ」

 好きでここにいるみたいな言い方をされて、あまり怒りっぽい方ではないルーシャも目の前がぐらぐらして体が熱くなるぐらいの激情が体を支配した。

 ……今はガラスの天井も扉もすべて鉄格子も鍵もついていないからそんな風に言えるんでしょうか。昔は牢獄顔負けだったんですから。

 だから、ルーシャが聖女を騙って離宮で怠惰に過ごしているなんて言う発想が出てくるんだ。

 たしかにルーシャは仕事もしていないし、社交界にも出られない。

 しかしそれは、出来る限りクリフ以外に会わないように国王がやっていることだ。

 勉強をしようと思っても、教師をつけてもらえないし、ここにいる使用人は手紙でしかやり取りできない。

 誰の顔も見たことは無いし、クリフと護衛騎士のユリシーズ以外と言葉を交わしたことがない。

 それがどんな苦痛か知らないだろう。聖女では無かったら今目の前にいるアンジェリカのように当たり前に愛を語って自由に生きられた。ルーシャだってそうなりたかった。

「そう落ち込まなくていい、君の今後の生活は教会が保証してくれる」
「貴族としては生きられないけれど、教会は聖女を大切にしてくれますわ。……まぁ、本当に聖女ならですけどね」

 ……ああ、そうでした。貴族としても立場を失うんですね。

 平民から聖女が生まれた場合には、聖女として優遇されてとても生活水準が向上する。しかし貴族に聖女が生まれた場合は、貴族としての立場に聖女の称号だけが与えられる形になる。

 しかし、ルーシャはこの離宮に閉じ込められていて貴族としての役割も仕事もこなせない。だから貴族の子供として登録がない。

 彼から婚約を破棄された時点で文字通りすべてを失うことになる。

 ……悔しくて悲しいはずなのに……それよりも、ずっと。

 その先を考えてしまうと、今まで必死に維持してきたクリフへの愛情が消えてしまうような気がした。




しおりを挟む
感想 14

あなたにおすすめの小説

転生令嬢だと打ち明けたら、婚約破棄されました。なので復讐しようと思います。

柚木ゆず
恋愛
 前世の記憶と膨大な魔力を持つサーシャ・ミラノは、ある日婚約者である王太子ハルク・ニースに、全てを打ち明ける。  だが――。サーシャを待っていたのは、婚約破棄を始めとした手酷い裏切り。サーシャが持つ力を恐れたハルクは、サーシャから全てを奪って投獄してしまう。  信用していたのに……。  酷い……。  許せない……!。  サーシャの復讐が、今幕を開ける――。

婚約破棄ですって? 1回くらい復讐してもいいですよね?

tartan321
恋愛
王子様はいつでも自由奔放。 婚約も、そして、婚約破棄も。 1回くらい復讐したって、罰は当たりませんよね? その後は、別の世界の住人に愛されて??

断罪するのは天才悪女である私です〜継母に全てを奪われたので、二度目の人生は悪逆令嬢として自由に生きます

紅城えりす☆VTuber
恋愛
*完結済み、ハッピーエンド 「今まで役に立ってくれてありがとう。もう貴方は要らないわ」  人生をかけて尽くしてきた優しい継母。  彼女の正体は『邪魔者は全て排除。常に自分が一番好かれていないと気が済まない』帝国史上、最も邪悪な女であった。  継母によって『魔女』に仕立てあげられ、処刑台へ連れて行かれることになったメアリー。  メアリーが居なくなれば、帝国の行く末はどうなってしまうのか……誰も知らずに。  牢の中で処刑の日を待つ彼女の前に、怪しげな男が現れる。 「俺が力を貸してやろうか?」  男は魔法を使って時間を巻き戻した。 「もう誰にも屈しないわ。私は悪逆令嬢になって、失った幸せを取り戻すの!」  家族を洗脳して手駒にする貴族。  罪なき人々を殺める魔道士。  そして、私を散々利用した挙句捨てたお義母様。  人々を苦しめる悪党は全て、どんな手を使ってでも悪逆令嬢である私が、断罪、断罪、断罪、断罪、断罪するのよ!  って、あれ?  友人からは頼りにされるし、お兄様は急に過保護。公爵様からも求婚されて……。  悪女ムーブしているのに、どうして回帰前より皆様に好かれているのかしら??? ┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈ 〇約十一万文字になる予定です。 もし「続きが読みたい!」「スカッとした」「面白い!」と思って頂けたエピソードがありましたら、♥コメントで反応していただけると嬉しいです。 読者様から頂いた反応は、今後の執筆活動にて参考にさせていただきます。

お飾りの側妃となりまして

秋津冴
恋愛
 舞台は帝国と公国、王国が三竦みをしている西の大陸のど真ん中。  歴史はあるが軍事力がないアート王国。  軍事力はあるが、歴史がない新興のフィラー帝国。  歴史も軍事力も国力もあり、大陸制覇を目論むボッソ公国。  そんな情勢もあって、帝国と王国は手を組むことにした。  テレンスは帝国の第二皇女。  アート王ヴィルスの第二王妃となるために輿入れしてきたものの、互いに愛を感じ始めた矢先。  王は病で死んでしまう。  新しく王弟が新国王となるが、テレンスは家臣に下賜されてしまう。  その相手は、元夫の義理の息子。  現王太子ラベルだった。  しかし、ラベルには心に思う相手がいて‥‥‥。  他の投稿サイトにも、掲載しております。

嫌われ者の王弟殿下には、私がお似合いなのでしょう? 彼が王になったからといって今更離婚しろなんて言わないでください。

木山楽斗
恋愛
冷遇されていたフェルリナは、妹の策略によって嫌われ者の王弟殿下ロナードと結婚することになった。 色々と問題があると噂だったロナードとの婚約に不安を感じていたフェルリナだったが、彼は多少面倒臭がり屋ではあったが、悪い人ではなかっため、なんとか事なきを得た。 それから穏やかな生活を送っていた二人だったが、ある時ロナードの兄である国王が死去したという事実を知らされる。 王位を継承できるのは、ロナードだけであったため、彼はほぼなし崩し的に国王となり、フェルリナはその妻となることになったのだ。 しかし、フェルリナの妹はそれを快く思わなかった。 ロナードと婚約破棄しろ。そう主張する妹を、フェルリナはロナードの助けも借りつつ切り捨てるのだった。

婚約破棄された公爵令嬢は真の聖女でした ~偽りの妹を追放し、冷徹騎士団長に永遠を誓う~

鷹 綾
恋愛
公爵令嬢アプリリア・フォン・ロズウェルは、王太子ルキノ・エドワードとの幸せな婚約生活を夢見ていた。 しかし、王宮のパーティーで突然、ルキノから公衆の面前で婚約破棄を宣告される。 理由は「性格が悪い」「王妃にふさわしくない」という、にわかには信じがたいもの。 さらに、新しい婚約者候補として名指しされたのは、アプリリアの異母妹エテルナだった。 絶望の淵に突き落とされたアプリリア。 破棄の儀式の最中、突如として前世の記憶が蘇り、 彼女の中に眠っていた「真の聖女の力」――強力な治癒魔法と予知能力が覚醒する。 王宮を追われ、辺境の荒れた領地へ左遷されたアプリリアは、 そこで自立を誓い、聖女の力で領民を癒し、土地を豊かにしていく。 そんな彼女の前に現れたのは、王国最強の冷徹騎士団長ガイア・ヴァルハルト。 魔物の脅威から領地を守る彼との出会いが、アプリリアの運命を大きく変えていく。 一方、王宮ではエテルナの「偽りの聖女の力」が露呈し始め、 ルキノの無能さが明るみに出る。 エテルナの陰謀――偽手紙、刺客、魔物の誘導――が次々と暴かれ、 王国は混乱の渦に巻き込まれる。 アプリリアはガイアの愛を得て、強くなっていく。 やがて王宮に招かれた彼女は、聖女の力で王国を救い、 エテルナを永久追放、ルキノを王位剥奪へと導く。 偽りの妹は孤独な追放生活へ、 元婚約者は権力を失い後悔の日々へ、 取り巻きの貴族令嬢は家を没落させ貧困に陥る。 そしてアプリリアは、愛するガイアと結婚。 辺境の領地は王国一の繁栄地となり、 二人は子に恵まれ、永遠の幸せを手にしていく――。

婚約者を取り替えて欲しいと妹に言われました

月(ユエ)/久瀬まりか
恋愛
ポーレット伯爵家の一人娘レティシア。レティシアの母が亡くなってすぐに父は後妻と娘ヘザーを屋敷に迎え入れた。 将来伯爵家を継ぐことになっているレティシアに、縁談が持ち上がる。相手は伯爵家の次男ジョナス。美しい青年ジョナスは顔合わせの日にヘザーを見て顔を赤くする。 レティシアとジョナスの縁談は一旦まとまったが、男爵との縁談を嫌がったヘザーのため義母が婚約者の交換を提案する……。

旦那様の不手際は、私が頭を下げていたから許していただけていたことをご存知なかったのですか?

木山楽斗
恋愛
英雄の血を引くリメリアは、若くして家を継いだ伯爵の元に嫁いだ。 若さもあってか血気盛んな伯爵は、失言や失敗も多かったが、それでもリメリアは彼を支えるために働きかけていた。 英雄の血を引く彼女の存在には、単なる伯爵夫人以上の力があり、リメリアからの謝罪によって、ことが解決することが多かったのだ。 しかし伯爵は、ある日リメリアに離婚を言い渡した。 彼にとって、自分以上に評価されているリメリアは邪魔者だったのだ。 だが、リメリアという強力な存在を失った伯爵は、落ちぶれていくことになった。彼女の影響力を、彼はまったく理解していなかったのだ。

処理中です...