車椅子の僕、失声症の君

未来 馨

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第五章

「宿泊研修 二日目」

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「そっちボール行ったぞー! 」
「カバー! カバー!! 」
 声援や怒声にも似た声と、ボールを打つ音が響く体育館で、良は車椅子の肘掛に頬杖を付いて男女混合のバレーボールの試合を見ていた。
 宿泊研修にて生徒達の親睦を深めんと企てた教員達が心底恨めしい。
「一体誰が決めたんだか……」
 ため息混じりに一人呟く。
 なぜ親睦を深めるスポーツ=バレーボールなのか。
 今日は酷く退屈な日になりそうな予感だった。車椅子では到底スポーツなどできるはずはない。
 とは言え、良は車椅子になる前から運動が得意ではなかったため、良いのやら悪いのやら……。
 友達である柊真は周りの動きについて行こうと必死に宙に舞うボールを目で追う。
「今日はつまらないね、良君」
 態度から伝わってしまったのか、養護教諭の緒方が苦笑いで歩いてくる。
「足とか……やっぱりんだりするのかい?」
 緒方に問われ、良は頷いて説明した。
「はい。普段は脱力感だけなんですけど、冬とか寒い季節は特に……薬が手放せなくて……」
 良は、いつも車椅子の背もたれについているポケットに色々な物を入れている。
 例えば、シャープペン、消しゴム、ボールペンが数本入った筆入れやノート、薬、絆創膏と消毒液、ガーゼなど、なにかあっても対応できるようにと自分で判断して入れている。それらを一つの巾着に入れて背もたれのポケットに仕舞っているのだ。
 ピーッ! と試合修了の合図であるホイッスルが鳴り、クラスメイト達がそれぞれ部屋へ戻っていく。
「おつかれ」
 自分の元へ駆けてきた柊真に労いの言葉をかければ、柊真は嬉しそうに笑った。
 大して動けていた訳ではなかったが、それなりに疲れたのか柊真は少し息切れを起こしていた。
「大丈夫か?部屋戻って水飲んだほうがいいよ」
 柊真はその言葉に嬉しそうに笑って頷いた。

 夕食は施設の人達が作ってくれた料理だった。
 ご飯に焼き鮭に味噌汁に漬物。
 和食の定番達が黒いお盆に載っている。
 隣では柊真が子供のように目を輝かせていた。
「……柊真は和食派なの?」
 良が問うと、柊真はメモ帳に書いて見せる。
 "どっちでもいいけど、しいて言うなら和食かな"
 柊真の言葉に良は首を傾げる。
 それを"和食派"と言うのではないだろうか……。
 ちなみに、良は完全なる和食派だ。ご飯は噛めば噛むほど甘くなるし、鮭とも味噌汁とも相性抜群だと思う。味噌汁は体も温まるし、心の緊張が解ける。おにぎりや漬物も幼い頃からしょっちゅう食卓に並んでいた。もしかしたら、普段から和食ばかり食べているからだろうか。
 考えたが答えは出ず、良は手を合わせて「いただきます」と言った。

第五章 終
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