車椅子の僕、失声症の君

未来 馨

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第六章

「嫌悪」

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 宿泊研修、三日目の朝。
 良は早くに目が覚めてしまい、モバイルバッテリーに繋いでいたスマートフォンで時間を確認する。
「……五時」
 さすがに早すぎる。起床時間は六時半だ。まだ一時間半もある。
「……」
 良は、迷った末に小説執筆用のアプリケーションを開いた。
 目が覚めてしまったのだから仕方がない。この静かな時間をぼーっと過ごすなど勿体ないだろう。
 良は続きの展開を考えていた小説を開き、執筆を始めた。

「朝食終了後……あ、カヌーか……まぁた参加できないやつ……」
 一階の食堂での朝食時間。少し早めに食べ終えた良は一日のスケジュールを見て愕然とした。
 良は施設内で留守番ということになっている。
「……ハァア~……」
 良の盛大なため息に柊真が心配そうな表情で見てきたため、良は苦笑いで言った。
「あぁ、なんでもない……」
 本当なら行きたい。カヌーは大して興味がないが、せっかく宿泊研修に来たのだから、その土地の自然に触れてみたいと思った。さらに言えば、良は昨日も見学だったのだ。やはり、車椅子だと出来ることも限られてくる。それは重々承知していたが、やはりそのときになってみると辛い。

「良君、ずっと車椅子に座ったままで辛くないかい?」
 施設のロビーで待っていた良は、緒方に問われて頷いた。
「はい。ずっと座ってるのには慣れてますし」
 言いながら、ちらりと横を見る。
 良とは少し離れたところのソファに、なぜか白いマスクで口を覆った洋介がいるのだ。その向かい側のソファにも、同じくマスクをした女子生徒が座っている。確か同じクラスの女子だ。
 突然、洋介が立ち上がってこちらへ近づいてくる。
 片手をズボンのポケットに突っ込み、目の前までやってくると良を見下ろし、立ち止まる。
 少しの間、良を睨んでいたかと思うと、緒方に声をかける。
「緒方先生、暇なので外に出てはいけませんか?」
 緒方は洋介の問いに笑って頷いた。
「うん、いいよ。その代わり、先生も 同伴するかな。三森さんも来ないかい?」
 "みもり"と呼ばれた女子生徒は、少し悩んだように首を傾げるが、やがて頷いて立ち上がった。
「お前も行くだろ?小野寺」
 不意に問われ、良は驚きつつも誘ってくれたことが嬉しく、睨まれていたと感じたのは気のせいだったのだと頷いた。

 施設の外に出て、綺麗に舗装されたスロープの坂を下って湖のすぐ側までくると、一層涼しく感じられた。今日の気温は二十四度。そろそろ夏が来るなと感じながら、涼しい風にゆっくりと深呼吸をする。
「……小野寺は、どうして車椅子なんだ?」
 突然洋介が問う。良は言葉を選びながら、自分でもよくわからない足のことを説明した。
「え……と……どうしてかな……中学のときに事故に遭って……体は問題ないって言われたんだけど……どうしても歩けなくて……」
 良の説明に、洋介の表情が強ばったような気がした。
「三森さんっ!」
 しかし、そのことに驚いていた良は、緒方の叫び声にも似た声に驚く。 
 振り向けば、三森が倒れていた。緒方が声をかけ続ける中、通りがかった人達が心配して駆け寄ってきた。
「おい」
 そんな中、洋介が小声で自分に着いてくるように言う。
 良は勝手に離れていいものか迷ったが、自分がここにいてもなにか出来るとも思えず、着いていってしまった。

第六章 終
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