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第七章
「恐怖」
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緒方と離れ、洋介のあとを追った良は、突然立ち止まる洋介の姿に車椅子を停めた。
「……橋田、やっぱり戻ろう? 」
ここまで着いてきて今更と思うが、やはり勝手に行動してはいけない。
洋介を見上げた良の表情が強ばった。洋介は良をまるで虫けらのような目で見下ろしていたのだ。決して同じ人間に向ける視線ではなかった。
「小野寺……お前さっきどうして車椅子なんだって俺が聞いたとき、言ったよな。体に問題はねぇって」
洋介はなにが言いたいのだろう。
教室でにらんでいたときも、夕食を作っていたときに投げつけた言葉も……。良には何一つとして理解出来なかった。
「え、と……橋田はなにが言いたいんだ? 俺、なにかしたか? 」
ここで冷静さに欠けた対応をすれば相手を刺激することになる。
良は人付き合いが苦手だからこそ観察するタイプだった。
友達同士の喧嘩などはいつも些細なことから始まる。お互いがお互いの存在に慣れてしまって相手への気遣いや配慮がなくなってしまうのだ。
「橋田はどうして俺や柊真にそんなに突っかかる? 」
良の問いに、洋介は気に障ったのか声を荒らげる。
「うるせぇ! てめぇら障害者はいるだけで邪魔なんだよ! あいつだって……! 」
洋介の言葉に良は首を傾げる。
"あいつ"とは……?
しかし、そんなことを考えていると、良の体は突然重力を失ったように後ろへ傾く。
落ちる――。
漠然とそんなことを思いながら洋介が視界に入る。彼はまるで予想外だと言わんばかりに怯えた表情をしていた。
全ての流れがゆっくりになる。映画のワンシーンのようにスローモーションに見える。
水面に背中が打ち付けられ、大きな水音が聞こえた。
「着替え終わった人から中に戻ってー」
担任の浅間の指示に従い、着替え終わった柊真は施設に戻ろうとした。しかし、施設に入るも良の姿が見えず、辺りを見回す。
カヌーに行けないクラスメイトは良を含め三人いたはずだ。しかしどこを見ても友達の姿は見えなかった。養護教諭の緒方の姿も見えない。全員で外にでも出たのだろうか。
「先生! 」
突然響いた声に驚いて振り向く。
一人の男子生徒が汗だくで走ってきたのだ。
「小野寺の車椅子が川のそばに……でも、小野寺がどこにもいなくてっ……」
「っ……!? 」
柊真の心臓がドクン……と大きく脈打つ。その場にいた全員の表情が緊張に固まる。
「それはどこですか? 」
浅間が眉をひそめて問うと、生徒は「こっちです」と言って走って
行く。浅間はこちらに向き直ると、冷静に指示を出す。
「みんなは各自部屋に戻ること。施設からは決して出ないでください」
浅間も走って出ていってしまうと、それまで静かだった施設内が少し騒がしくなる。
「なにがあったの? 」
「小野寺君て、歩けないんでしょ? 」
あちこちで話し始めるクラスメイト達の言葉は柊真を混乱させた。
腹の底でぐるぐるとなにかが渦巻く。
不安が柊真の中で大きくなっていく。友達の身に一体なにがあったのか。考えても答えが出るはずはなかった。
柊真は結局、浅間の指示通りに部屋に戻るしかなかった。
第七章 終
「……橋田、やっぱり戻ろう? 」
ここまで着いてきて今更と思うが、やはり勝手に行動してはいけない。
洋介を見上げた良の表情が強ばった。洋介は良をまるで虫けらのような目で見下ろしていたのだ。決して同じ人間に向ける視線ではなかった。
「小野寺……お前さっきどうして車椅子なんだって俺が聞いたとき、言ったよな。体に問題はねぇって」
洋介はなにが言いたいのだろう。
教室でにらんでいたときも、夕食を作っていたときに投げつけた言葉も……。良には何一つとして理解出来なかった。
「え、と……橋田はなにが言いたいんだ? 俺、なにかしたか? 」
ここで冷静さに欠けた対応をすれば相手を刺激することになる。
良は人付き合いが苦手だからこそ観察するタイプだった。
友達同士の喧嘩などはいつも些細なことから始まる。お互いがお互いの存在に慣れてしまって相手への気遣いや配慮がなくなってしまうのだ。
「橋田はどうして俺や柊真にそんなに突っかかる? 」
良の問いに、洋介は気に障ったのか声を荒らげる。
「うるせぇ! てめぇら障害者はいるだけで邪魔なんだよ! あいつだって……! 」
洋介の言葉に良は首を傾げる。
"あいつ"とは……?
しかし、そんなことを考えていると、良の体は突然重力を失ったように後ろへ傾く。
落ちる――。
漠然とそんなことを思いながら洋介が視界に入る。彼はまるで予想外だと言わんばかりに怯えた表情をしていた。
全ての流れがゆっくりになる。映画のワンシーンのようにスローモーションに見える。
水面に背中が打ち付けられ、大きな水音が聞こえた。
「着替え終わった人から中に戻ってー」
担任の浅間の指示に従い、着替え終わった柊真は施設に戻ろうとした。しかし、施設に入るも良の姿が見えず、辺りを見回す。
カヌーに行けないクラスメイトは良を含め三人いたはずだ。しかしどこを見ても友達の姿は見えなかった。養護教諭の緒方の姿も見えない。全員で外にでも出たのだろうか。
「先生! 」
突然響いた声に驚いて振り向く。
一人の男子生徒が汗だくで走ってきたのだ。
「小野寺の車椅子が川のそばに……でも、小野寺がどこにもいなくてっ……」
「っ……!? 」
柊真の心臓がドクン……と大きく脈打つ。その場にいた全員の表情が緊張に固まる。
「それはどこですか? 」
浅間が眉をひそめて問うと、生徒は「こっちです」と言って走って
行く。浅間はこちらに向き直ると、冷静に指示を出す。
「みんなは各自部屋に戻ること。施設からは決して出ないでください」
浅間も走って出ていってしまうと、それまで静かだった施設内が少し騒がしくなる。
「なにがあったの? 」
「小野寺君て、歩けないんでしょ? 」
あちこちで話し始めるクラスメイト達の言葉は柊真を混乱させた。
腹の底でぐるぐるとなにかが渦巻く。
不安が柊真の中で大きくなっていく。友達の身に一体なにがあったのか。考えても答えが出るはずはなかった。
柊真は結局、浅間の指示通りに部屋に戻るしかなかった。
第七章 終
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