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5 十九歳初冬 ー嵐の夜ー
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「でも、ロイ、あなたは本当にいいの?」
「もう準備は整っています、だから問題ありません」
「そう」
「レイチェル様こそ大丈夫ですか。ことを起こせば後戻りは出来なくなりますよ。と言っても既に一つは仕掛けましたが」
「ふふ、旦那様はどうでもいいわ。ここで年に一度見る為だけの方だもの。わたしにはここにあるもの、こと以外は不要だわ。だから大丈夫」
ノアが去った日、レイチェルとノアはその短い会話で今後を決めたのだった。
レイチェルは不要と言ったが、ロイは分かっている。不要ではなく、何も持っていないのだと。服など必要最低限のものもレイチェルにとってはあるだけなのだ。それは実家のコリンス伯爵邸で所有物を次々と取り上げられる内にレイチェルが身に付けた悲しい心掛けに他ならない。
レイチェルの既に亡くなった母は元々は他国の侯爵家の生まれだった。それが血筋を重んじるマクレナン侯爵にとって非常に魅力的だったことの一つだ。しかも血筋を辿ると他国の王家の血まで入っている。
実母亡き後レイチェルは、伯爵家へやって来た継母とその子供達から嫌がらせを受けながら育ってきた。それは六年にも及ぶ長さ。しかしその環境下レイチェルは、成人したら伯爵家を出るつもりで耐えながら己を磨いてきたのだった。
こんな北の外れに住むことくらいどうってことはない。事実、狭く暗い暖炉もない伯爵家の自室の方が冬はよっぽど寒かったし、何人もいる使用人から無視され続けるよりもたった四人の使用人と話すこの小さな邸の方が楽しかった。
庭師兼護衛のリンデルからは剣術や乗馬を習い、時には毒草や薬草の知識を得ることも出来た。四十後半となった二人のメイドも掃除の手際良いやり方や簡単にできる料理を教えてくれる。
何より彼らと共にとる食事は、家族という関係を実母亡き後断たれたレイチェルにはとても大切なものだった。
そしてもっと大切なことを教えてくれる存在がロイだ。
レイチェルが十九歳の初冬、物寂しい北の外れに大きな嵐がやって来た。万が一に備え、レイチェルの部屋窓にロイが目張りをし終わった時に凄まじい雷鳴が響いた。
風が建物を叩きつける音とあまりにも大きな雷鳴に思わずレイチェルはロイに抱きつき『行かないで』と口にしてしまったのだ。所有を恐れるレイチェルが発した言葉にロイは驚いた。そしてそれからは、レイチェルは小さな子供が兄に甘えるかのようにロイと共寝をしている。他の三人の使用人も知ることだが、誰も何も言わない。甘えることを覚え始めたレイチェルの表情がそれまでよりも遥かに良いものになった事実を三人は選んだのだった。
良いことと悪いこと、選択肢がこの二つならば選ぶ方は決まっている。
「もう準備は整っています、だから問題ありません」
「そう」
「レイチェル様こそ大丈夫ですか。ことを起こせば後戻りは出来なくなりますよ。と言っても既に一つは仕掛けましたが」
「ふふ、旦那様はどうでもいいわ。ここで年に一度見る為だけの方だもの。わたしにはここにあるもの、こと以外は不要だわ。だから大丈夫」
ノアが去った日、レイチェルとノアはその短い会話で今後を決めたのだった。
レイチェルは不要と言ったが、ロイは分かっている。不要ではなく、何も持っていないのだと。服など必要最低限のものもレイチェルにとってはあるだけなのだ。それは実家のコリンス伯爵邸で所有物を次々と取り上げられる内にレイチェルが身に付けた悲しい心掛けに他ならない。
レイチェルの既に亡くなった母は元々は他国の侯爵家の生まれだった。それが血筋を重んじるマクレナン侯爵にとって非常に魅力的だったことの一つだ。しかも血筋を辿ると他国の王家の血まで入っている。
実母亡き後レイチェルは、伯爵家へやって来た継母とその子供達から嫌がらせを受けながら育ってきた。それは六年にも及ぶ長さ。しかしその環境下レイチェルは、成人したら伯爵家を出るつもりで耐えながら己を磨いてきたのだった。
こんな北の外れに住むことくらいどうってことはない。事実、狭く暗い暖炉もない伯爵家の自室の方が冬はよっぽど寒かったし、何人もいる使用人から無視され続けるよりもたった四人の使用人と話すこの小さな邸の方が楽しかった。
庭師兼護衛のリンデルからは剣術や乗馬を習い、時には毒草や薬草の知識を得ることも出来た。四十後半となった二人のメイドも掃除の手際良いやり方や簡単にできる料理を教えてくれる。
何より彼らと共にとる食事は、家族という関係を実母亡き後断たれたレイチェルにはとても大切なものだった。
そしてもっと大切なことを教えてくれる存在がロイだ。
レイチェルが十九歳の初冬、物寂しい北の外れに大きな嵐がやって来た。万が一に備え、レイチェルの部屋窓にロイが目張りをし終わった時に凄まじい雷鳴が響いた。
風が建物を叩きつける音とあまりにも大きな雷鳴に思わずレイチェルはロイに抱きつき『行かないで』と口にしてしまったのだ。所有を恐れるレイチェルが発した言葉にロイは驚いた。そしてそれからは、レイチェルは小さな子供が兄に甘えるかのようにロイと共寝をしている。他の三人の使用人も知ることだが、誰も何も言わない。甘えることを覚え始めたレイチェルの表情がそれまでよりも遥かに良いものになった事実を三人は選んだのだった。
良いことと悪いこと、選択肢がこの二つならば選ぶ方は決まっている。
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