年に一度の旦那様

五十嵐

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4 思い出せない妻の顔

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ノアが邸に到着すると四人の使用人が出迎えた。
一人はノアの元従者であるこの小さな邸の執事、一人は庭師兼護衛、二人は年嵩な調理人兼メイド。この邸にはあとはレイチェルがいるだけ。生き物と範囲を広げれば、それに三匹の大型犬と三頭の馬がいる。

場所もつまらなければ、住んでる人間もいる動物もつまらない、それがこの邸へ対するノアの認識だった。

「お待ちしておりました」
「ああ、レイチェルは?」
「奥様は体調を崩しております。今シーズンの冬は雪が少なくとも寒い日が続きましたので」
「そうか。後で顔でも見てやるか」
「それが…、薬師からは出来る限り隔離するよう言われております」

ノアは溜息を大きく吐くと『無駄足になったのか』とボヤいた。二年続けて顔を合わせなかったのは、二回とも体調不良によるものだ。これではノアに必要なたった一人すら産めないのではないかと不安になる。

しかし侯爵からの言い付けは絶対。結局、回復したらレイチェルを本邸に連れてくるようにロイに命じ今年のノアの三泊四日の滞在は終了した。帰り道でノアはそう言えばレイチェルがどんな顔をしていたのかぼんやりとしか思い出せない自分に思わず笑った。これならば、全く知らない女をレイチェルだと連れてこられても気付かないかもしれないと馬車の中で独りごちた。



「物語のようで素敵だったのに。年に一度しかお会いできない旦那様なんて。それが何日も顔を合わせなくてはいけないのは辛いわね。どうしましょう、ロイ」
困っているという割には楽しそうに話しているレイチェルに、ロイは質問した。

「年に一度しか会わなかったのはレイチェル様が十九歳の時だけですよ。その後二度、ノア様にお会いしましたでしょうか?今回も会うつもりなど無かった癖に」
「ふふ、ごめんなさい、間違えたわ。年に一度遠くから覗き見る旦那様ね。そう、見るだけならば素敵な旦那様。でも、ロイ、今回はその後何度も顔を合わせなくてはならなくなりそうよ、このままでは」
「そろそろ時を進めますか?」
「そうね」

まさか病に臥せっているはずのレイチェルが、ノアが回復後本邸へ連れてくるようにロイに命じた日の夜にそんな会話をしていたとは露知らず。
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