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閑話 姉について、父と息子の会話
しおりを挟む掲示板では延々と言い争いが続いている。
暫く様子を見ていたが勝手な言い分に腹が立って書き込もうとすると、父さんに腕を掴まれ止められた。
「なんで止めるの父さん!姉さんがバカにされてるんだよ!」
「何書き込んでも工作員が煽って酷くなるだけだからムダだ」
「えっ」
「お前もまだまだだな」
ふっと優しい顔して微笑んでる父さんだが、工作員て何それ!?
「なっ、何言ってるの父さん!流石にそんな……陰謀論者??」
「ハハハ!父さんがアメリカの元スパイだから言ってるんだよ!」
「ええ!?」
確かに僕の遺伝子状の父親のジャックは金髪碧目の純粋なアメリカ人だ。
日本の米軍基地に勤めてるとき母さんに会って恋して結婚したって聞いてるけど、それがスパイ??
「どこの国も女性が少なくて困ってるんだししょうがないだろ?国家規模の問題なんだぜ。
アメリカだけじゃない世界中、日本だって例外なくスパイ活動してるからな。俺だけ悪者にすんなよ」
「そん… え、とっ、父さんは、今もアメリカの?」
混乱しながら必死で言葉を紡ぐ。
スパイとかそんなの考えたこともない。姉の悪口を書き込む工作?それになんの意味があるの??
纏まらない思考の中、父さんは今もスパイなのか気になって聞いて、すぐにしまったと思い青褪めた。
だってここで肯定されてしまったら僕はスパイの子供になる。
つまり、日本の敵。
そんなことになったら姉と結婚するなんて不可能になる。
内心焦っていたが、しかし父さんの言葉は否定だった。
「まさか!国の為なんて言っても結局みんな自分の妻が欲しいだけだ!
俺だって菖蒲と出逢って好きになったから即国裏切って日本についたし。
男なんてそんなもんだ」
肩を竦め軽く言ってるが内容は全然笑えないぞ!
この父は結構こういう所がある。
笑い事じゃないことを笑いながら言ったり、普通の話しみたいにとんでもないこと言ったり!
現に今もそう!
国を裏切るなんて許されない行為だろ!母さんや僕達に危険が及ぶって考えないのか!?
「んな睨むなって!別に裏切ったからって刺客差し向けられたり家族に危険が及ぶようなことはないから。
嫁さんが欲しい男が裏切るなんてよくあることだから国だってそれ込みでやらせてるし心配ない。
裏切ったって言っても国を替えただけで協力はしてるからな。元々日米は同盟国だしそんな酷いことにはならね~よ。
それより問題はメイだ」
本当に家族に危険はないんだろうな? なんでもないことみたいに父さんは言っているが怪しいもんだ。
裏切ったけど協力はしてるってどういうことだよ?よく分かんないな。
しかし、片眉を上げて軽快に喋っていたのに、急に真面目な顔をして姉のことを言い出した。
つまり本当に大事な話しはこれからってことだ。
「女性ってのは甘やかされて育つ。
それは貴重な女の子だからって親がアホみたいに可愛がるのもあるけど、変な輩に狙われないようにあえてそう育てるってのもあんだよ。
前のメイがそうだっただろ?」
……確かに、今までの姉は我儘であまり近付きたくなかった。
しかし、ああなるようにわざと育てたなんて言われても疑いの目で父さんを見てしまう。
どう見ても甘やかしてるだけだった。自分達のしてることの言い訳に言ってるようにしか見えない。
だって記憶を失った今の姉は可愛くて好きにならずにはいられない。そんな女性で……
そんなことを考えてると父さんが言う。
「今のメイは驚くほど良い子だ。よく笑うし汚い言葉は使わないし我儘なんて言わない。お礼も言ってくれるし送り迎えもしてくれる。
俺だって菖蒲がいなきゃ惚れてたと思う。実の父親がこれだぜ?
世の男はどう思う?」
えげつない話しをしてきたな父さん。実の父親でもなんて恐ろしい話し聞きたくなかった。
今の姉ちゃんは顔は変わってないはずなのにいつも微笑んでいて不機嫌な顔なんか全然しなくて僕達のことを心配してくれて優しくて可愛くて可愛くてしょうがない。
そんな女性が他にいないのも分かってる。
だからもしそんな女性に出逢った男がどうなるか。そんなの絶対……
「惚れちゃうだろ」
「そうだ。独身男だけじゃない。妻子がいる男も惚れる。だってそんな女他にいないから。
で、そんな女性がVTuberなんて誰でも会いに行ける場所に現れたんだぞ?
出かけるときは「行ってらっしゃい気を付けてね!」帰ってくれば「お帰りなさい」なんて嬉しそうに言ってくれる。
実際メイは配信でもよく言ってるもんな。あの動画見たときの俺の気持ち分かるか?ゾッとしたぞ。
言われた男はまるで妻ができたみたいだなんて錯覚できるだろ?ヤバい男はもう自分の嫁認定してるだろうな。
もう海外にも知られちまって外人ファンが湧いてるし、頑張って日本語覚えなくても自国の言葉で書き込めば自分の為だけに自国の言葉で返してくれる。
わざわざ言葉を覚えてまで感謝してくれるんだぜ?そんな女惚れない方が無理だろ」
父さんの言葉に愕然とした。その通りだ。
俺だって姉の送り迎えに夫婦みたいだななんて思ってるのに、他の男がそう思わないわけがない!
自分のものにする為に、いやもう自分のものだと思い込んでいる変態男が量産されてるかもしれないのだ。
いや、かもじゃなく絶対量産されてる!!
真っ青な顔をした俺に父さんの小さな呟きが聞こえた。
「本人が分かってないのが質悪いんだよな~。危険なのは理解してるし怖がってもいるがことの大きさを理解できてないんだよな。
説教中も怖いって青褪めてるけど、でもそこまでは~……って思ってるのも伝わってくるからな。
だからこんなに説教が長引いてるわけだし」
溜息混じりのその言葉に姉の様子を思い出す。
今までにない父さん達からの説教に涙目になる姉は可愛くてすぐにでも助けてあげたくなる様子だったが、それをした久信、蓮は一緒に説教されている。
だから僕はグッと我慢してこうしているわけだが、確かに姉は現実が分かっていなさそうだった。
最初のうちは「そんなこと」「流石にそこまでは」なんて口答えをよくしてたし。
自分が狙われてることが分かった今はそんなこと言わないけど、世界中から狙われてるってことは、今でも理解してなさそうだ。
「……困ったね」
「ああ。わざと危険な目に遭わせて警戒させるのも手だが、そこに付け込まれて攫われたら笑えないしな」
父さんの過激な発言に頬が引きつる。
わざと危険な目になんて絶対反対だ!そんなことして姉が攫われたら僕は……
そっと父さんの手に頭を撫でられる。
「バカ。しないからなそんなこと」
「っ、当たり前だよ!そんな危険なことしたら絶対許さないからね!」
「しないしない」
からかうように笑いながら頭を撫でてくる父さんに、悔しいけどホッと肩の力が抜ける。
……でもなぁ。この父、何かやらかしそうで不安なんだよな。
先程までの不安な気持ちより幾分か落ち着いて、僕は胡乱な目で父さんを見た。
「あいつどれだけ自分が好かれてるか自覚が足りないんだよな~。ちっと過激なことも必要かもな~」なんて全然安心できない言葉を呟いている。
僕が姉を守らないと!
僕は心に誓った。
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