24 / 41
3.秋
3
しおりを挟む先月、先輩とそんな約束をしたかと思っていたのに、月日が流れるのは早いもので。
読書の秋、運動の秋、食欲の秋など色々言われているけれど、その中でも芸術の秋という言葉が一番有名かもしれない。
芸術になんて全く興味がない僕でさえ知っているのだから、そりゃあ学校もこの時期に文化祭なんてものをするはずだ。まあ、文化祭が芸術と関連しているのかどうかは分からないけれど。
「宇佐美くんのクラスは何するの?」
「うちは無難にお化け屋敷ですね」
「へー! イケメンなお化けが出てくるんだ」
「いや……僕は客寄せうさぎだって」
「あ~、イケメンうさぎにまんまと騙されて、怖いところに連れていかれちゃうってわけか」
「その言い方、悪意ありません……?」
「別に? 俺も連れていかれたい」
そう言って顎をくすぐられ、ドキッとしてしまった。僕になら怖いところに連れていかれてもいい、なんて言う春陽先輩は本気なのか冗談なのか分からなくて、変にドキドキしてしまうのだ。
そんな僕の気持ちを知ってか知らずか、先輩はいたずらっ子のように笑いながら顎をくすぐってくるので、いじわるな人だなとムッと唇を尖らせた。
「そういう春陽先輩のクラスは何をするんですか?」
「うちはー……ハグブース」
「……はい? はぐぶーす?」
「うーん、フリーハグって言ったほうが分かりやすい?」
「…はぁっ!? ふりーはぐ!?」
「うん。うちのクラスは進学組が多いから大変な準備とかはできなくてさ。簡単に……身一つでできるものじゃん?」
高校の文化祭の出し物と言えば、それこそお化け屋敷や簡易的なカフェなどが人気だろう。だからこそ僕たちのクラスもお化け屋敷になったのだが、先輩のクラスは『ハグブース』なるものをするのだと言う。フリーハグということは、誰でもかれでも先輩に抱き着ける、ということだろうか?
「だ、誰でも先輩に抱き着けるってこと、ですか……?」
「えーっと、うん。そういうこと」
「え、いや、それは……どうなんでしょうか」
「そう言われてもなぁ」
「か、考えてもみてくださいよ! 知らない人がたくさん先輩にぎゅってするんですよね!? そ、そんなのセクハラ! ダメですよ、そんな……絶対反対!」
「落ち着いて、宇佐美くん」
フリーハグなんて許せない、と思わず声を荒げてしまった僕を嗜めるように先輩が頬を撫でてくれる。
でも、それでもこの焦りは止まらない。先輩がいまだ毎日のように告白されているのでさえ嫌なのに、『春陽先輩がもう最終学年だから』という理由できっと何十、何百という人がハグしにくるだろう。それはきっと女性だけではなく男性も。
文化祭という特別な雰囲気も相まって、ハグだけではなく先輩の体を触られるようなことがあったらと思うと、心配すぎて死んでしまうかもしれない。
「先輩にハグしたい人の気持ちも分かりますけどっ! でもそれは、それはちょっと……!」
何様のつもりだ、と言われるのは分かっている。
先輩の名ばかりの『恋人』が物申すなんておかしなことである。ただ半年以上恋人のフリをしているだけの僕が嫌がったり声を荒げるのは、ただ春陽先輩を困らせるだけだ。
でも先輩に恋をする一人の男として、好きな人が色んな人に抱きつかれている姿を想像すると、血でも吐きそうなほど胸がモヤモヤしてしまった。
「あのね……フリーハグって言っても、俺には人数制限があるんだよ」
「人数制限?」
「そう。何十人ってはできないでしょ? 志鶴から、俺には人が殺到するだろうから制限しないとって言われて」
「さすが志鶴先輩……!」
「だから、俺がハグできるのは10人」
「じゅ、10人でも多いな……」
「あはっ、これでも随分少なくなったんだよ? クラスの女子、すごかったんだから。説得するのに苦労したよ」
「ぼ、僕が10回ハグしに来たらダメなんですか?」
「ふふ、宇佐美くん……可愛いね。そんなにイヤ?」
「い、イヤです……」
人数制限があることにはホッとしたが、それでもやっぱり複雑なのに変わりはない。確かに親しい友達や家族にハグをすることはあるけれど、まったくの赤の他人にすることは滅多にないだろう。
だからこそ、先輩は男性だとしても彼の体を触られたり、変なことをされるのではないかと勝手に不安に思うのだ。
81
あなたにおすすめの小説
平凡な男子高校生が、素敵な、ある意味必然的な運命をつかむお話。
しゅ
BL
平凡な男子高校生が、非凡な男子高校生にベタベタで甘々に可愛がられて、ただただ幸せになる話です。
基本主人公目線で進行しますが、1部友人達の目線になることがあります。
一部ファンタジー。基本ありきたりな話です。
それでも宜しければどうぞ。
本気になった幼なじみがメロすぎます!
文月あお
BL
同じマンションに住む年下の幼なじみ・玲央は、イケメンで、生意気だけど根はいいやつだし、とてもモテる。
俺は失恋するたびに「玲央みたいな男に生まれたかったなぁ」なんて思う。
いいなぁ玲央は。きっと俺より経験豊富なんだろうな――と、つい出来心で聞いてしまったんだ。
「やっぱ唇ってさ、やわらけーの?」
その軽率な質問が、俺と玲央の幼なじみライフを、まるっと変えてしまった。
「忘れないでよ、今日のこと」
「唯くんは俺の隣しかだめだから」
「なんで邪魔してたか、わかんねーの?」
俺と玲央は幼なじみで。男同士で。生まれたときからずっと一緒で。
俺の恋の相手は女の子のはずだし、玲央の恋の相手は、もっと素敵な人であるはずなのに。
「素数でも数えてなきゃ、俺はふつーにこうなんだよ、唯くんといたら」
そんな必死な顔で迫ってくんなよ……メロすぎんだろーが……!
【攻め】倉田玲央(高一)×【受け】五十嵐唯(高三)
あなたのいちばんすきなひと
名衛 澄
BL
亜食有誠(あじきゆうせい)は幼なじみの与木実晴(よぎみはる)に好意を寄せている。
ある日、有誠が冗談のつもりで実晴に付き合おうかと提案したところ、まさかのOKをもらってしまった。
有誠が混乱している間にお付き合いが始まってしまうが、実晴の態度はいつもと変わらない。
俺のことを好きでもないくせに、なぜ付き合う気になったんだ。
実晴の考えていることがわからず、不安に苛まれる有誠。
そんなとき、実晴の元カノから実晴との復縁に協力してほしいと相談を受ける。
また友人に、幼なじみに戻ったとしても、実晴のとなりにいたい。
自分の気持ちを隠して実晴との"恋人ごっこ"の関係を続ける有誠は――
隠れ執着攻め×不器用一生懸命受けの、学園青春ストーリー。
完結|好きから一番遠いはずだった
七角@書籍化進行中!
BL
大学生の石田陽は、石ころみたいな自分に自信がない。酒の力を借りて恋愛のきっかけをつかもうと意気込む。
しかしサークル歴代最高イケメン・星川叶斗が邪魔してくる。恋愛なんて簡単そうなこの後輩、ずるいし、好きじゃない。
なのにあれこれ世話を焼かれる。いや利用されてるだけだ。恋愛相手として最も遠い後輩に、勘違いしない。
…はずだった。
三ヶ月だけの恋人
perari
BL
仁野(にの)は人違いで殴ってしまった。
殴った相手は――学年の先輩で、学内で知らぬ者はいない医学部の天才。
しかも、ずっと密かに想いを寄せていた松田(まつだ)先輩だった。
罪悪感にかられた仁野は、謝罪の気持ちとして松田の提案を受け入れた。
それは「三ヶ月だけ恋人として付き合う」という、まさかの提案だった――。
悪役令息に転生したのに、ヒーローもヒロインも不在で、拾って育てた執事が最強なんだが……なんで?!
はぴねこ
BL
前世の弟が好きだったゲームの世界に、悪役令息として転生してしまった俺。
本来なら、ヒロインをいじめ、ヒーローが活躍するための踏み台になる……
そんな役割のはずなのに、ヒーローともヒロインとも出会えない。
いじめる対象すら見つけられない新米悪役令息とか、ポンコツすぎないだろうか?
そんな俺に反して、子供の頃に拾って育てた執事は超優秀で、なぜか「悪役執事スキル」を着実に磨いている。
……いや、違う!
そうじゃない!!
悪役にならなきゃいけないのは俺なんだってば!!!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる