【完結】君を上手に振る方法

社菘

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3.秋

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 先月、先輩とそんな約束をしたかと思っていたのに、月日が流れるのは早いもので。

 読書の秋、運動の秋、食欲の秋など色々言われているけれど、その中でも芸術の秋という言葉が一番有名かもしれない。

 芸術になんて全く興味がない僕でさえ知っているのだから、そりゃあ学校もこの時期に文化祭なんてものをするはずだ。まあ、文化祭が芸術と関連しているのかどうかは分からないけれど。

「宇佐美くんのクラスは何するの?」
「うちは無難にお化け屋敷ですね」
「へー! イケメンなお化けが出てくるんだ」
「いや……僕は客寄せうさぎだって」
「あ~、イケメンうさぎにまんまと騙されて、怖いところに連れていかれちゃうってわけか」
「その言い方、悪意ありません……?」
「別に? 俺も連れていかれたい」

 そう言って顎をくすぐられ、ドキッとしてしまった。僕になら怖いところに連れていかれてもいい、なんて言う春陽先輩は本気なのか冗談なのか分からなくて、変にドキドキしてしまうのだ。

 そんな僕の気持ちを知ってか知らずか、先輩はいたずらっ子のように笑いながら顎をくすぐってくるので、いじわるな人だなとムッと唇を尖らせた。

「そういう春陽先輩のクラスは何をするんですか?」
「うちはー……ハグブース」
「……はい? はぐぶーす?」
「うーん、フリーハグって言ったほうが分かりやすい?」
「…はぁっ!? ふりーはぐ!?」
「うん。うちのクラスは進学組が多いから大変な準備とかはできなくてさ。簡単に……身一つでできるものじゃん?」

 高校の文化祭の出し物と言えば、それこそお化け屋敷や簡易的なカフェなどが人気だろう。だからこそ僕たちのクラスもお化け屋敷になったのだが、先輩のクラスは『ハグブース』なるものをするのだと言う。フリーハグということは、誰でもかれでも先輩に抱き着ける、ということだろうか?

「だ、誰でも先輩に抱き着けるってこと、ですか……?」
「えーっと、うん。そういうこと」
「え、いや、それは……どうなんでしょうか」
「そう言われてもなぁ」
「か、考えてもみてくださいよ! 知らない人がたくさん先輩にぎゅってするんですよね!? そ、そんなのセクハラ! ダメですよ、そんな……絶対反対!」
「落ち着いて、宇佐美くん」

 フリーハグなんて許せない、と思わず声を荒げてしまった僕を嗜めるように先輩が頬を撫でてくれる。

 でも、それでもこの焦りは止まらない。先輩がいまだ毎日のように告白されているのでさえ嫌なのに、『春陽先輩がもう最終学年だから』という理由できっと何十、何百という人がハグしにくるだろう。それはきっと女性だけではなく男性も。

 文化祭という特別な雰囲気も相まって、ハグだけではなく先輩の体を触られるようなことがあったらと思うと、心配すぎて死んでしまうかもしれない。

「先輩にハグしたい人の気持ちも分かりますけどっ! でもそれは、それはちょっと……!」

 何様のつもりだ、と言われるのは分かっている。

 先輩の名ばかりの『恋人』が物申すなんておかしなことである。ただ半年以上恋人のフリをしているだけの僕が嫌がったり声を荒げるのは、ただ春陽先輩を困らせるだけだ。

 でも先輩に恋をする一人の男として、好きな人が色んな人に抱きつかれている姿を想像すると、血でも吐きそうなほど胸がモヤモヤしてしまった。

「あのね……フリーハグって言っても、俺には人数制限があるんだよ」
「人数制限?」
「そう。何十人ってはできないでしょ? 志鶴から、俺には人が殺到するだろうから制限しないとって言われて」
「さすが志鶴先輩……!」
「だから、俺がハグできるのは10人」
「じゅ、10人でも多いな……」
「あはっ、これでも随分少なくなったんだよ? クラスの女子、すごかったんだから。説得するのに苦労したよ」
「ぼ、僕が10回ハグしに来たらダメなんですか?」
「ふふ、宇佐美くん……可愛いね。そんなにイヤ?」
「い、イヤです……」

 人数制限があることにはホッとしたが、それでもやっぱり複雑なのに変わりはない。確かに親しい友達や家族にハグをすることはあるけれど、まったくの赤の他人にすることは滅多にないだろう。

 だからこそ、先輩は男性だとしても彼の体を触られたり、変なことをされるのではないかと勝手に不安に思うのだ。


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