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3.秋
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しおりを挟む「ハグって言っても、俺と宇佐美くんがするようなやつじゃないよ?」
「じゃあ、どんなの……?」
「こんにちは~、ありがと~! くらい!」
そう言いながら先輩が試しに見せてくれたのは、ほんの0,1秒くらいのハグ。本当に本番もこの速さでハグするならいいのだが、先輩にハグできる選ばれた人間ならばそのチャンスを存分に生かしてくるだろう。
「………こんな風にされたらどうするんですか?」
「わっ、うさみく……!」
0,1秒のハグをして離れようとする先輩の細い腰をぐっと引き寄せる。
女の子なら『もう二度と離さない!』というようにぎゅっとくっつくだろうし、男なら今の僕のように無理やり引き寄せることもできるだろう。
先輩は今は僕が相手だから抵抗しないだけだろうけれど、これが泣いている女の子だったら、先輩よりも力がある男にされたら――そう思うと、やはり不安はぬぐえないのである。
「こんなことするの、宇佐美くんだけだよ?」
「絶対違う……僕以外にもしたい人はいっぱいいるだろうし、実際にされたらどうするんですか?」
「んっと、えーっと」
「き、キスとかされそうになったらどうするんですか!」
「されないよ、大丈夫だって」
「何で大丈夫って言えるんですか?」
「俺は断ったんだけど、志鶴がね、剥がし役?が必要じゃないかって」
「剥がし役?」
「もうハグ終わりですー、はい次の人ー! ってしてくれる人」
「……本当にいるんですか? ちゃんとその係、決まってます?」
「うん。クラスの中でも大柄の元ラグビー部にお願いした」
「ラグビー部の人なら、まぁ……」
アイドルのイベントなどでもいるような剥がし役という係があるなら、まだ許せるかもしれない。
それに、僕がどれだけ文句を言ったり泣いたりしても既に決まってしまったことだし、今更中止できないのも分かっている。進学クラスで準備の時間がないのも理解できるので、ここはちゃんと受け入れないと子供っぽい恋人だと愛想を尽かされてしまうかもしれないから、ぐっと堪えた。
「でも僕はいっぱいハグしても、いいんですか……?」
「二人きりの時はいいよ」
「と、当日は……? 僕も0,1秒だけ?」
「可愛いお願いだけど、当日は特別扱いできないかも」
「そうですよね……」
「でもその代わり、文化祭が終わったら二人きりで屋上で打ち上げしない? その時にいっぱいハグしたなぁ、俺。ダメ?」
先輩からの優しい提案に僕は食い気味で頷いた。
文化祭のあとは大体教室で打ち上げをするのが普通らしいが、それを抜け出して先輩と二人で打ち上げができるなんて想像しただけでも幸せだ。
しかも、その時にたくさんハグをしてもいいという許可まで出た。それならば、0,1秒のハグだけでも我慢できるかもしれない。
「絶対絶対約束ですよ? 文化祭が終わったら屋上で打ち上げですからね?」
「うん、約束ね」
「あと、絶対、本当に必要以上に触られちゃダメですよ?」
「え?」
「先輩からもあんまり強くぎゅってしたらダメですからね? すぐ離れて下さいね?」
「あはっ、ふふ、分かった。心配性だなぁ、宇佐美くんは。俺の信用がないだけかな?」
先輩は笑いながら僕の鼻先を指でつついて、最後にぎゅっと抱きしめてくれた。それは0,1秒で離れるようなおざなりなものではなく、ちゃんと『恋人同士』のようなもので。僕も抱きしめ返すと先輩が肩口に顔を埋め、僕の首は彼の柔らかい髪の毛にくすぐられた。
「………俺のこと、すき? 宇佐美くん」
「えっ?」
聞き返そうとしたら、予鈴が鳴り響いた。
志鶴から『さすがにこれ以上授業はサボるな』と釘を刺されているので、最近は昼休みからそのまま5限目の授業をサボることなく出席しているのだ。
先輩は特に3年生なので、今は大事な時期になる。だから名残惜しいけれど、最近は素直に解散することにしていた。
「なーんちゃって。……もう行かなくちゃね。文化祭、当日はお昼に来て。また連絡するね」
先輩にくしゃりと頭を撫でられた僕は、高校生になって初めての文化祭を不安と楽しみが織り交ざった気持ちを抱えたまま、当日を迎えた。
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