異世界国盗り物語 ~戦国日本のサムライ達が剣と魔法の世界で無双する~

和田真尚

文字の大きさ
58 / 201
第2章 辺境伯領平定戦

第51話 殖産興業

しおりを挟む
「シンクロー? どうかしたのか?」

 大坂屋敷から三野城へ帰る途上のこと。

 すぐ横で馬を進めるミナが、不思議そうに尋ねた。

 黒金くろがねがミナに賛同するように「ブフフッ!」と鼻を鳴らし、すぐそばを徒歩かちで進んでいた八千代も、チラリと視線を向けて来た。

「すまんすまん。大事無いぞ」

 黒金の首筋を撫でてやりながら答えた。

 だが、ミナは納得しない。

「嘘を言うな。ボンヤリとあらぬ方向を見つめていたクセに」

「……少し考え事をしていてな」

「金貨の事……か?」

「なんだ。バレてしまったか」

 昨日、辺境伯から申し出のあった褒美の件は丁重にお断り申しあげた。

 ゲルトの悪政と戦で迷惑を被った民百姓のため、徳政を行うことも進言し申し上げた。

 盟約と陣代の件、辺境伯領のまつりごとについても談合だんごうし、これにて話は終わり――と思っていたが、そうはならなかった。

 辺境伯は改めて褒美の件を口にされたのだ。

「謀反人に等しきゲルトとカスパルを討ち取った者に何らの褒美も与えなかったとあっては辺境伯家の恥。是が非でももらっていただきます」

れど――」

「サイトー殿が弱くなられては困るのです」

「は?」

「こちらの貨幣を必要としておられるのでは?」

「……隠し立ては出来ませぬか」

「サイトー殿には精強なままでいていただかなくては困ります。これまで日和見を決め込んで来た寄騎貴族や家臣達がどう動くかまだ分からないのです。彼らを抑え込む為には、精強なサイトー家の存在が不可欠。民への『トクセー』と同じく、辺境伯家にとって必要なことなのです」

 この後、互いに意見を譲らず堂々巡りの繰り返し。

 最後には、父上と辺境伯の診察に訪れた曲直瀬まなせ先生が、

「新九郎殿! 病み上がりを相手にいつまでも強情を張るものではありませぬ! 辺境伯もご自身のご体調をお考え下され!」

と一喝し、半ば強引に仲裁案を示した。

 曰く、辺境伯は金貨一千枚を、利子なし、返済期限なしで俺に貸し付けると言うもの。

 借銭しゃくせんならば「褒美はいらん」と申す俺の顔が立つ。

 利子も返済期限もないならば、貸し付けではなく与えたに等しく、褒美を与えると申される辺境伯の顔が立つ。

 有無を言わせぬ医者の言葉に、俺も辺境伯も自説を取り下げ、金貨一千枚の借銭に同意したのであった――――。

「――――これで一息はつける。だがな……」

「一時しのぎに過ぎないか?」

「その通りだ。俺達自身が異界のぜにを稼ぐ手立てを見付けなければ、根本の解決にはならぬ」

「ミノは産物が豊富じゃないか。焼物や紙はきっと売れる。カタナは珍品や名品の扱いで高く取引されるかもしれない。それにタタミも……」

 うっとりした表情で『畳も……』と口にするミナ。

「お主らの喜び様を見れば売れはするだろう……と思う」

「難しいのか?」

「三野の産物は異界の品――要は、こちらで取引されたことのない品だ。たとえ良き品だったとしても、出自の分からぬ新顔に等しき品が、容易に売り捌けるかな?」

「あっ!」

「行商程度の小さな商いならば、すぐにも出来るであろう。だが、領内を隅々まで潤すほどの商いとなれば……」

「簡単ではないな……」

「であろう? それにだ、日ノ本へ帰る手掛かりもない以上、こちらに根を下ろす事を覚悟せねばならん。れば、領内のぜにを異界の銭へと、そっくり入れ替える事も考えておかねば」

 そう申すと、ミナは腕を組んで「うむむ……」と唸った。

「この地の商人達に渡りも付けねばならんが、商いは信用なくば成り立たん。余所者の俺達がどこまでやれるか――――」

「商人か……。それなら何とかなるかもしれない」

「何?」

「クリスに相談してはどうだ?」

 当のクリスの姿はここにはない。

 今頃はネッカーの町で、山県、ベンノ殿、ハンナ達と共に、町の衆の帰還を差配している。

「クリスは魔道具師であろう? 魔道具は商っておろうが……」

「クリス本人じゃない。クリスの両親だ。領内の港町で商家を営んでいるんだ」

「何? 両親は存命であったのか?」

「あまり話題に出そうとしないからな。クリスが冒険者をやる事が不満なんだそうだ。元々は師匠――クリスの祖母とも折り合いが悪かったらしい。だが、クリスは祖母の後を追った。それも許せないのかもしれないな」

「それで話が出来るのか?」

「あれは愛情の裏返しと思うんだ。なんなら私から――――」

 ダァ――――――――――――ンッ!

 ダァ――――――――――――ンッ!

 ダダァ――――――――――――ンッ!

 ミナの言葉を遮り、銃声が荒れ野に響き渡る。

「くっ……。この轟音は何度聞いても聞き慣れないな……」

「若っ!」

 先触れとして先行していた左馬助が、馬を走らせ俺の元へ来た。

「おう。戻ったか。この銃声は魔物を狩っておるのか?」

「左様にござります。この先の岩陰で『すらいむ』が群集しておりましたようで」

「数は?」

「凡そ五十程度とのこと」

「そうか。少し多いな」

 三野から大坂屋敷へ向かう道筋では、家臣達が特に力を入れて魔物を狩った。

 そのせいで、数が多いはずの『ごぶりん』、『こぼると』、『おうく』の姿まで見えなくなってしまった。

 もちろん『すらいむ』も大量に狩った。

 だが、あ奴らは倒木や岩の下のように、陽の光が当たらず、目の届きにくい場所に隠れ棲んでいる。

 その上ほとんど動かず、音も立てないゆえ、どうしても見落としが出てしまうのだ。

 此度のように、魔物を狩りつくしたはずの場所からも出てくることが多い。

 『すらいむ』が見つかる度に、家臣達は鉄砲を抱え、東へ西へと奔走している。

 他の魔物に比べてぜにになる故、是非とも狩っておきたいという事情もあるしな。

「どれ。少しねぎらうとしよう」

 銃声が響く中、馬を進める。

 黒金も左馬助の馬も銃声には慣れたもの。

 だが、ミナの馬は落ち着きを失って暴れてしまう。

 ミナは仕方なく馬を下り、俺の家臣に馬を預け、徒歩で俺達に着いて来た。

「皆の者、大儀であるな」

「若っ!」

「若がお成りじゃ!」

 十五人ばかりが俺の周りに集まる。

「毎度のことながら苦労を掛けるな」

「何の! 銭が転がっているかと思えば気力も湧きまする!」

 一人が言い放った軽口に全員が大笑いした。

と、その時――――、

「――――きゃあ!」

 ミナの悲鳴が響く。

 ミナの足元から丸々と太った野ネズミが駆け出したのだ。

 八千代が「まあ、可愛らしい事」とクスクス笑った。

 野ネズミそのまま家臣達の列へと駆け込み、素早い動きで足元をすり抜け――――。

 ボチャ!

 自ら勝手に『すらいむ』の群れへと突っ込んでしまった。
 
 野ネズミは『すらいむ』の中でジタバタと暴れていたが、やがて動かなくなる。

 そして――――、

「おお……。野ネズミが溶けていくぞ。ミナ、これは?」

「スライムの『捕食』だと思う。私も初めて見た……」

 『すらいむ』が獲物を溶かしていく光景を、全員でしげしげと見つめる。

 気味は悪いが、恐いもの見たさなのか誰も目を離そうとしない。

 幾何いくばくもせぬ内に、野ネズミの姿は完全に溶けてなくなった。

 誰もが「ほう……」とか「はあ……」とか溜息を付く。

 だが、本番はこれからだった。

 野ネズミを味わう間、全く動きを見せなかった『すらいむ』が、小刻みに震え出したのだ。

 ミナの顔を見るが、首を横に振る。

 見聞きした事のない光景らしい。

「皆の者! 離れよ!」

 全員が大きく距離を取った直後――――。

 ――――ボルン。

 鈍い音と共に、それは起こった。

「『すらいむ』が二つに……別れた?」

「まさかスライムの『分裂』……なのか?」

 ミナ曰く、『すらいむ』は分裂とやらで増えるらしい。

 獣や鳥、他の魔物とは仔の成し方が違うのだと言う。

 ただし、分裂の瞬間を目にした者は少なく、自身も経験がないため確信が持てぬと言う。

 よく分からんが、同じことをすれば、同じように分かれるのだろうか? 

 物は試しと、家臣達に野ネズミや小鳥を捕まえさせ、あるいは草花を刈って『すらいむ』へ放り込んでみると…………物の見事に分裂した。

「……左馬助」

「……はっ」

 思わず顔を見合わせる。

 どうも、同じことを考えているらしい。

「決めたぞ。『すらいむ』を……養殖する!」

 俺の言葉に、ミナは正気を疑うように表情を歪めた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

大和型戦艦、異世界に転移する。

焼飯学生
ファンタジー
第二次世界大戦が起きなかった世界。大日本帝国は仮想敵国を定め、軍事力を中心に強化を行っていた。ある日、大日本帝国海軍は、大和型戦艦四隻による大規模な演習と言う名目で、太平洋沖合にて、演習を行うことに決定。大和、武蔵、信濃、紀伊の四隻は、横須賀海軍基地で補給したのち出港。しかし、移動の途中で濃霧が発生し、レーダーやソナーが使えなくなり、更に信濃と紀伊とは通信が途絶してしまう。孤立した大和と武蔵は濃霧を突き進み、太平洋にはないはずの、未知の島に辿り着いた。 ※ この作品は私が書きたいと思い、書き進めている作品です。文章がおかしかったり、不明瞭な点、あるいは不快な思いをさせてしまう可能性がございます。できる限りそのような事態が起こらないよう気をつけていますが、何卒ご了承賜りますよう、お願い申し上げます。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

異世界帰りの勇者、今度は現代世界でスキル、魔法を使って、無双するスローライフを送ります!?〜ついでに世界も救います!?〜

沢田美
ファンタジー
かつて“異世界”で魔王を討伐し、八年にわたる冒険を終えた青年・ユキヒロ。 数々の死線を乗り越え、勇者として讃えられた彼が帰ってきたのは、元の日本――高校卒業すらしていない、現実世界だった。

英雄召喚〜帝国貴族の異世界統一戦記〜

駄作ハル
ファンタジー
異世界の大貴族レオ=ウィルフリードとして転生した平凡サラリーマン。 しかし、待っていたのは平和な日常などではなかった。急速な領土拡大を目論む帝国の貴族としての日々は、戦いの連続であった─── そんなレオに与えられたスキル『英雄召喚』。それは現世で英雄と呼ばれる人々を呼び出す能力。『鬼の副長』土方歳三、『臥龍』所轄孔明、『空の魔王』ハンス=ウルリッヒ・ルーデル、『革命の申し子』ナポレオン・ボナパルト、『万能人』レオナルド・ダ・ヴィンチ。 前世からの知識と英雄たちの逸話にまつわる能力を使い、大切な人を守るべく争いにまみれた異世界に平和をもたらす為の戦いが幕を開ける! 完結まで毎日投稿!

最弱弓術士、全距離支配で最強へ

Y.
ファンタジー
「弓術士? ああ、あの器用貧乏な最弱職のことか」 剣と魔法が全てを決める世界において、弓は「射程は魔法に及ばず、威力は剣に劣る」不遇の武器と蔑まれていた。 若き冒険者リアンは、亡き叔父から譲り受けた一振りの弓「ストーム・ウィスパー」を手に、冒険者の門を叩く。周囲の嘲笑を余所に、彼が秘めていたのは、世界をナノ単位で解析する「化け物じみた集中力」だった。 リアンの放つ一矢は、もはや単なる遠距離攻撃ではない。 風を読み、空間を計算し、敵の急所をミリ単位で射抜く精密射撃。 弓本体に仕込まれたブレードを操り、剣士を圧倒する近接弓術。 そして、魔力の波長を読み取り、呪文そのものを撃ち落とす対魔法技術。 「近距離、中距離、遠距離……俺の射程に逃げ場はない」 孤独な修行の末に辿り着いた「全距離対応型弓術」は、次第に王道パーティやエリート冒険者たちの常識を塗り替えていく。 しかし、その弓には叔父が命を懸けて守り抜いた**「世界の理(ことわり)」を揺るがす秘密**が隠されていた――。 最弱と笑われた少年が、一張の弓で最強へと駆け上がる、至高の異世界アクションファンタジー、開幕!

勇者パーティのサポートをする代わりに姉の様なアラサーの粗雑な女闘士を貰いました。

石のやっさん
ファンタジー
年上の女性が好きな俺には勇者パーティの中に好みのタイプの女性は居ません 俺の名前はリヒト、ジムナ村に生まれ、15歳になった時にスキルを貰う儀式で上級剣士のジョブを貰った。 本来なら素晴らしいジョブなのだが、今年はジョブが豊作だったらしく、幼馴染はもっと凄いジョブばかりだった。 幼馴染のカイトは勇者、マリアは聖女、リタは剣聖、そしてリアは賢者だった。 そんな訳で充分に上位職の上級剣士だが、四職が出た事で影が薄れた。 彼等は色々と問題があるので、俺にサポーターとしてついて行って欲しいと頼まれたのだが…ハーレムパーティに俺は要らないし面倒くさいから断ったのだが…しつこく頼むので、条件を飲んでくれればと条件をつけた。 それは『27歳の女闘志レイラを借金の権利ごと無償で貰う事』 今度もまた年上ヒロインです。 セルフレイティングは、話しの中でそう言った描写を書いたら追加します。 カクヨムにも投稿中です

ダンジョン美食倶楽部

双葉 鳴
ファンタジー
長年レストランの下働きとして働いてきた本宝治洋一(30)は突如として現れた新オーナーの物言いにより、職を失った。 身寄りのない洋一は、飲み仲間の藤本要から「一緒にダンチューバーとして組まないか?」と誘われ、配信チャンネル【ダンジョン美食倶楽部】の料理担当兼荷物持ちを任される。 配信で明るみになる、洋一の隠された技能。 素材こそ低級モンスター、調味料も安物なのにその卓越した技術は見る者を虜にし、出来上がった料理はなんとも空腹感を促した。偶然居合わせた探索者に振る舞ったりしていくうちに【ダンジョン美食倶楽部】の名前は徐々に売れていく。 一方で洋一を追放したレストランは、SSSSランク探索者の轟美玲から「味が落ちた」と一蹴され、徐々に落ちぶれていった。 ※カクヨム様で先行公開中! ※2024年3月21で第一部完!

勇者の隣に住んでいただけの村人の話。

カモミール
ファンタジー
とある村に住んでいた英雄にあこがれて勇者を目指すレオという少年がいた。 だが、勇者に選ばれたのはレオの幼馴染である少女ソフィだった。 その事実にレオは打ちのめされ、自堕落な生活を送ることになる。 だがそんなある日、勇者となったソフィが死んだという知らせが届き…? 才能のない村びとである少年が、幼馴染で、好きな人でもあった勇者の少女を救うために勇気を出す物語。

処理中です...