172 / 201
第3章 帝都の客人
第122.7話 ヴィルヘルミナの独白 その拾弐【後編】
しおりを挟む
「シンクローが傷心ですってぇ?」
疑わしそうな口調のクリス。
頭から信用していないようだ。
ヘスラッハ卿も続く。
「サイトー様を慰めるって……。あの人ってそんな玉ですか? そりゃカロリーネさんから恨まれるかもしれないですけど、慰めないといけないほど傷心だなんて、全然想像が出来ませんよ?」
クリスが「そうだそうだ」と何度も頷く。
私も同感だ。
ヤチヨ殿はシンクローへの好意が高じた余り、少々――いや、かなり評価がおかしいのではないだろうか?
だが、私達の反応を見たヤチヨ殿は気分を害した様子もなく、「くすくす」と笑った。
「ああ、これは申し訳ござりませぬ。若は他人から恨まれた程度で気落ちなさる御方ではございませぬよ? 恨まれようとも、すべてお引き受けなさるおつもりで、マルバッハ男爵父子を刑にかけたのですから」
「えぇ? それじゃあ、何に傷心するって言うのぉ?」
「カロリーネ様の境遇に、でござります」
「カロリーネさんですか? でも……」
「そうそう! 処刑したのってぇ、シンクローじゃない!」
「法度破りを許す訳には参りませぬ。カロリーネ様が不憫だからと甘い顔をすることは出来ませぬ」
「それはそうかもしれなけどぉ……」
「カロリーネさんの境遇に心を痛めてるんですよね? じゃあ、何が不憫だって思っているんですか?」
「父君と兄君が、カロリーナ様の真心を踏みにじったことに、でござります」
私は「ハッ」とした。
マルバッハ男爵父子の磔にばかり心が奪われてしまっていたが、よく考えてみれば、カロリーネは二人を説得しているはずなのだ。
身代金を支払えば捕虜の身から解放されると……。
親子揃って一からやり直すことも提案したに違いない。
彼女の様子からして、真剣で真摯な説得だったはずだ。
マルバッハ男爵父子の逃亡は、二人の命を救おうとするカロリーネの真心を踏みにじる行為に他ならない。
男爵らからしてみれば、カロリーネの行為こそ裏切りと映ったのかもしれない。
だが、彼らは負けたのだ。
完膚なきまでに負けて、捕虜になったのだ。
どんな扱われ方をしても文句を言える権利はない。
戦の直後に釜茹でにされたブルームハルト子爵やモーザー、そしてミドリ殿やカサンドラとの戦いを強要された者達の末路を思えば、命を救われる分だけはるかにマシ。
莫大な身代金の代償に領地を失うだろうが、命があれば男爵家を立て直せる可能性も皆無ではない。
事実、カロリーネはサイトー家に仕官した。
男爵本人はともかくとして、嫡男たるカロリーネの兄が何処かに仕官できる可能性もあっただろう。
しかし、帝国有数の大貴族たるレムスタール公爵家の血筋が、他家へ仕官することを不名誉とみなしたのかもしれない。
自分の命を救おうと奔走した娘への答えは、処刑の約束された無謀な逃亡劇だった。
「カロリーネ様は二重に苦しんでおられます。一つは父君と兄君の命をお救い出来なかったこと。もう一つは、父君と兄君にご自身の真心を蔑ろになされてしまったことにござります」
「シンクローに恨みを向ければ、一つ目の苦しみには遣り場もあるかもしれないな。でも、二つ目の苦しみには……」
「遣り場がござりません。苦しみの遣り場がなければ、それがまた新たな苦しみを生みましょう。カロリーネ様の身の上に、心を痛めぬ訳には参りませぬ」
「それで慰める……か……」
「分かっていただけましたか?」
「シンクローってぇ、結構繊細なのねぇ……」
「豪傑って感じの人じゃありませんけど、それでも細かいことに悩むなんて無縁の人かと思っていましたよ」
「若はあまり表に出されませんので……」
「何に心を痛めてるかってのは分かりましたけど、でもそれってヤチヨさんがしないといけないことなんですか? ヤチヨさんはサイトー家の侍女、なんですよね?」
「ちっちっち! 甘いわよぉ? ドロテアちゃん?」
「えっ!? な、何ですか!?」
「辺境伯家に関係する人なら知る人ぞ知るお話なんだけどぉ……、ヤチヨちゃんとシンクローがそれなりに良い仲なのは公然の事実だったりするのよぉ?」
「はっ!? そ、そうなんですか!? で、でもっ! サイトー様は領地があるんですよね!? 帝国なら爵位持ちの貴族ですよ!? 貴族の跡継ぎと侍女って……!」
「侍女って言ってもヤチヨちゃんはモチヅキ様の妹だしねぇ」
「それでもですよ! 身分違いの恋には違いないし……! あの人どれだけ私達を驚かせるんですか!? 早速姫様達に報告を――――!」
「お待ちくださいませ」
「止めても無駄ですよ! こんな面白案件、報告しなかったら私が姫様に捻り殺されます!」
「いえ、報告なさるのは結構なのですが、若とわたくしは恋仲ではありませんよ?」
「はい!?」
「御本妻がお迎えになられた後、頃合を見てお迎えいただくとお約束下さっただけなのです」
「第二夫人じゃないですか!」
「ちょっとヤチヨちゃん! 何が『恋仲ではありません』よぉ! 膝枕で耳掻きなんて懇ろな真似をしてたんでしょ!? ねぇ!? ヴィルヘルミナ!?」
「へっ!?」
「前に見たんでしょ!?」
「あ? ああ……。たしかに膝枕で耳掻きしていたな……」
「すっごく懇ろな雰囲気だったんでしょ!?」
「懇ろではない……とは言えない雰囲気だった気がする……」
「ほらぁ!」
「懇ろな雰囲気で膝枕耳掻き!? それって恋人同士のやることですよ! そうじゃなきゃ甘ったるい新婚夫婦です!」
大騒ぎのクリスとヘスラッハ卿。
ヤチヨ殿は不思議そうに「取り立てて申すお話ではありませんよ?」と首を傾げるが、「じゃあ何が特別だって言うんだ」と言い返される。
「これはぁ、どうやって『慰める』のかぁ、俄然気になるわねぇ?」
「ですね! さあ、教えて下さい、ヤチヨさん! どうやって慰めるつもりだったんです?」
と、話すまで逃がさないと言わんばなりの勢いだ。
私は「二人とも、あまり立ち入ったことを尋ねては……」と止めに入ろうとしたが、途中で言葉を呑み込んだ。
品がないことだと分かってはいるが、私もヤチヨ殿が何をするつもりだったか、気になって仕方がなかったのだ。
と、その時、ヤチヨ殿と目が合った。
スッと目を細めるヤチヨ殿。
口の端がわずかに上がる。
まるで「うふふふ……。獲物が見つかりました……」と言われているようでならない。
「止め――――」
「――――そうですね。話してもようございましょう」
私が止めに入る前に、ヤチヨ殿は口を開いてしまう。
とっさに「もうこれ以上は――――」と言いかけるが、クリスとヘスラッハ卿にあっさり口を塞がれてしまった。
二人の目が「黙って聞きなさい!」と強く訴える。
「――――大したことはござりません。若のお側に控え、一言申しあげるのでござります。『八千代はここにおります』と……」
「そ、それでぇ?」
「その後はどうなるんですか!?」
勢い込む二人に、ヤチヨ殿は「落ち着け」と言いたげに首を振った。
「何も致しません。そのまま二人で、ただ静かに時を過ごすのです。そっと手を握って下さることもござりますけれど……。何も贅沢は申しません。時が経つのを忘れ、二人で心穏やかに過ごすことが、八千代にはこの上なき幸せにござります」
「うへぇ……。聞いた? 聞きましたか? ドロテアちゃん!」
「聞きましたよ! 何年連れ添った熟年夫婦ですか!? この人達十代でしょう!? 本当に十代なんですか!?」
「よねぇ!? 十代ならもっと他に色々と……あるでしょお!?」
「他に? そうでございますね……。抱き寄せて下さることもござりますよ?」
「「おおっ!」」
「若はわたくしを膝の上に座らせ、肩を抱き、手を引き寄せ、指を絡ませ、髪に顔を埋めて仰るのです。『其方の香りは心が安らぐ』と……」
「「それからっ!?」」
「……そこまで、でござりますね」
「ええええええっ!? そんな寸止めみたいな終わり方ありぃ!?」
「こ、この人達……熟年夫婦すぎでしょう? 心が通じて満たされればそれで良いってことなんですか?」
「口吸い致してみようかとしたこともあるのですが――」
「クチスイ?」
「それってまさか――」
「異界の言葉で『きす』でしたか?」
クリスとヘスラッハ卿がハイタッチした。
とても嬉しいらしい。
「でも、そこから先は本当に何もござりませんよ?」
「こ、ここまで来ておきながらぁ!?」
「どうしてなんですっ!?」
「若が仰るのです。『この先は歯止めがきかぬ』と……」
「「…………」」
「わたくしは生娘でござりますと、クリス様には申し上げたことがあったかと思いますが?」
ガックリするクリスとヘスラッハ卿に微笑しつつ言うヤチヨ殿。
そう言われてみれば、そんな話を聞かされたような気がする……。
「そうだったけぇ……? はあ……。良かったねぇ、ヴィルヘルミナ……」
「どうして私が出てくる!」
「シンクローはまだ童貞だってぇ」
「だからどうして私に言うんだ!?」
「えっ!? ヴィ、ヴィルヘルミナ様もサイトー様のこと……!」
「そうそう。だってぇ、辺境伯様がシンクローと約束したんだよぉ? ヴィルヘルミナと結婚させるってぇ」
「そうなんですか!?」
「あ、あれは違う! あれはゲルトとカスパルを欺くための策の一つで――――」
「若は童貞ではありませぬよ?」
「「「――――はい?」」」
唐突に、その場の何もかもを破壊する特大の爆発物がヤチヨ殿によって投げ入れられた。
私は口がパクパク動くのみで、声を一切発することが出来なくなった。
たっぷりと長い沈黙を挟み、クリスがようやく声を出した。
「……………………あ、あのぉ、それって……本当?」
「真にござります」
「で、でもぉ……ヤチヨちゃんじゃない……んだよねぇ?」
「違いまする。指南役がお相手を務めたのでござります」
「『シナンヤク』?」
「若は御本妻をお迎えしておりませぬが、縁組の話がなかった訳ではござりませぬ。故に、いつその時が来ても差し障りのなきように、家中から口固く信の置ける者を選び出し、若に手ほどき致したのでござります。文字通り、手取り足取り……」
「「「…………」」」
「本当はわたくしがお相手致したかったのでござりますが、何分経験のない生娘ではお役に立てませぬ。泣く泣く諦めたのです」
「……その話を知っているってことはぁ、相手が誰だったかもぉ……知ってるのぉ?」
「わたくしも存じている方にござります」
「も、もしかして、アタシ達……も?」
「どうでしょう? 何処かですれ違っているやも知れませぬね?」
「「「…………」」」
「指南を務めた者から聞かされた話にござりますが、若はとてもお上手だったそうですよ?」
「「「…………は?」」」
「とても初めて致したお方とは思えなんだそうにござります。心地良さのあまり、気を失いそうになったとか。手ほどきするつもりが、手ほどきされてしまったと、赤面しておられました」
ヤチヨ殿は心の底から楽しそうな表情を浮かべ「クスクス」と笑った。
疑わしそうな口調のクリス。
頭から信用していないようだ。
ヘスラッハ卿も続く。
「サイトー様を慰めるって……。あの人ってそんな玉ですか? そりゃカロリーネさんから恨まれるかもしれないですけど、慰めないといけないほど傷心だなんて、全然想像が出来ませんよ?」
クリスが「そうだそうだ」と何度も頷く。
私も同感だ。
ヤチヨ殿はシンクローへの好意が高じた余り、少々――いや、かなり評価がおかしいのではないだろうか?
だが、私達の反応を見たヤチヨ殿は気分を害した様子もなく、「くすくす」と笑った。
「ああ、これは申し訳ござりませぬ。若は他人から恨まれた程度で気落ちなさる御方ではございませぬよ? 恨まれようとも、すべてお引き受けなさるおつもりで、マルバッハ男爵父子を刑にかけたのですから」
「えぇ? それじゃあ、何に傷心するって言うのぉ?」
「カロリーネ様の境遇に、でござります」
「カロリーネさんですか? でも……」
「そうそう! 処刑したのってぇ、シンクローじゃない!」
「法度破りを許す訳には参りませぬ。カロリーネ様が不憫だからと甘い顔をすることは出来ませぬ」
「それはそうかもしれなけどぉ……」
「カロリーネさんの境遇に心を痛めてるんですよね? じゃあ、何が不憫だって思っているんですか?」
「父君と兄君が、カロリーナ様の真心を踏みにじったことに、でござります」
私は「ハッ」とした。
マルバッハ男爵父子の磔にばかり心が奪われてしまっていたが、よく考えてみれば、カロリーネは二人を説得しているはずなのだ。
身代金を支払えば捕虜の身から解放されると……。
親子揃って一からやり直すことも提案したに違いない。
彼女の様子からして、真剣で真摯な説得だったはずだ。
マルバッハ男爵父子の逃亡は、二人の命を救おうとするカロリーネの真心を踏みにじる行為に他ならない。
男爵らからしてみれば、カロリーネの行為こそ裏切りと映ったのかもしれない。
だが、彼らは負けたのだ。
完膚なきまでに負けて、捕虜になったのだ。
どんな扱われ方をしても文句を言える権利はない。
戦の直後に釜茹でにされたブルームハルト子爵やモーザー、そしてミドリ殿やカサンドラとの戦いを強要された者達の末路を思えば、命を救われる分だけはるかにマシ。
莫大な身代金の代償に領地を失うだろうが、命があれば男爵家を立て直せる可能性も皆無ではない。
事実、カロリーネはサイトー家に仕官した。
男爵本人はともかくとして、嫡男たるカロリーネの兄が何処かに仕官できる可能性もあっただろう。
しかし、帝国有数の大貴族たるレムスタール公爵家の血筋が、他家へ仕官することを不名誉とみなしたのかもしれない。
自分の命を救おうと奔走した娘への答えは、処刑の約束された無謀な逃亡劇だった。
「カロリーネ様は二重に苦しんでおられます。一つは父君と兄君の命をお救い出来なかったこと。もう一つは、父君と兄君にご自身の真心を蔑ろになされてしまったことにござります」
「シンクローに恨みを向ければ、一つ目の苦しみには遣り場もあるかもしれないな。でも、二つ目の苦しみには……」
「遣り場がござりません。苦しみの遣り場がなければ、それがまた新たな苦しみを生みましょう。カロリーネ様の身の上に、心を痛めぬ訳には参りませぬ」
「それで慰める……か……」
「分かっていただけましたか?」
「シンクローってぇ、結構繊細なのねぇ……」
「豪傑って感じの人じゃありませんけど、それでも細かいことに悩むなんて無縁の人かと思っていましたよ」
「若はあまり表に出されませんので……」
「何に心を痛めてるかってのは分かりましたけど、でもそれってヤチヨさんがしないといけないことなんですか? ヤチヨさんはサイトー家の侍女、なんですよね?」
「ちっちっち! 甘いわよぉ? ドロテアちゃん?」
「えっ!? な、何ですか!?」
「辺境伯家に関係する人なら知る人ぞ知るお話なんだけどぉ……、ヤチヨちゃんとシンクローがそれなりに良い仲なのは公然の事実だったりするのよぉ?」
「はっ!? そ、そうなんですか!? で、でもっ! サイトー様は領地があるんですよね!? 帝国なら爵位持ちの貴族ですよ!? 貴族の跡継ぎと侍女って……!」
「侍女って言ってもヤチヨちゃんはモチヅキ様の妹だしねぇ」
「それでもですよ! 身分違いの恋には違いないし……! あの人どれだけ私達を驚かせるんですか!? 早速姫様達に報告を――――!」
「お待ちくださいませ」
「止めても無駄ですよ! こんな面白案件、報告しなかったら私が姫様に捻り殺されます!」
「いえ、報告なさるのは結構なのですが、若とわたくしは恋仲ではありませんよ?」
「はい!?」
「御本妻がお迎えになられた後、頃合を見てお迎えいただくとお約束下さっただけなのです」
「第二夫人じゃないですか!」
「ちょっとヤチヨちゃん! 何が『恋仲ではありません』よぉ! 膝枕で耳掻きなんて懇ろな真似をしてたんでしょ!? ねぇ!? ヴィルヘルミナ!?」
「へっ!?」
「前に見たんでしょ!?」
「あ? ああ……。たしかに膝枕で耳掻きしていたな……」
「すっごく懇ろな雰囲気だったんでしょ!?」
「懇ろではない……とは言えない雰囲気だった気がする……」
「ほらぁ!」
「懇ろな雰囲気で膝枕耳掻き!? それって恋人同士のやることですよ! そうじゃなきゃ甘ったるい新婚夫婦です!」
大騒ぎのクリスとヘスラッハ卿。
ヤチヨ殿は不思議そうに「取り立てて申すお話ではありませんよ?」と首を傾げるが、「じゃあ何が特別だって言うんだ」と言い返される。
「これはぁ、どうやって『慰める』のかぁ、俄然気になるわねぇ?」
「ですね! さあ、教えて下さい、ヤチヨさん! どうやって慰めるつもりだったんです?」
と、話すまで逃がさないと言わんばなりの勢いだ。
私は「二人とも、あまり立ち入ったことを尋ねては……」と止めに入ろうとしたが、途中で言葉を呑み込んだ。
品がないことだと分かってはいるが、私もヤチヨ殿が何をするつもりだったか、気になって仕方がなかったのだ。
と、その時、ヤチヨ殿と目が合った。
スッと目を細めるヤチヨ殿。
口の端がわずかに上がる。
まるで「うふふふ……。獲物が見つかりました……」と言われているようでならない。
「止め――――」
「――――そうですね。話してもようございましょう」
私が止めに入る前に、ヤチヨ殿は口を開いてしまう。
とっさに「もうこれ以上は――――」と言いかけるが、クリスとヘスラッハ卿にあっさり口を塞がれてしまった。
二人の目が「黙って聞きなさい!」と強く訴える。
「――――大したことはござりません。若のお側に控え、一言申しあげるのでござります。『八千代はここにおります』と……」
「そ、それでぇ?」
「その後はどうなるんですか!?」
勢い込む二人に、ヤチヨ殿は「落ち着け」と言いたげに首を振った。
「何も致しません。そのまま二人で、ただ静かに時を過ごすのです。そっと手を握って下さることもござりますけれど……。何も贅沢は申しません。時が経つのを忘れ、二人で心穏やかに過ごすことが、八千代にはこの上なき幸せにござります」
「うへぇ……。聞いた? 聞きましたか? ドロテアちゃん!」
「聞きましたよ! 何年連れ添った熟年夫婦ですか!? この人達十代でしょう!? 本当に十代なんですか!?」
「よねぇ!? 十代ならもっと他に色々と……あるでしょお!?」
「他に? そうでございますね……。抱き寄せて下さることもござりますよ?」
「「おおっ!」」
「若はわたくしを膝の上に座らせ、肩を抱き、手を引き寄せ、指を絡ませ、髪に顔を埋めて仰るのです。『其方の香りは心が安らぐ』と……」
「「それからっ!?」」
「……そこまで、でござりますね」
「ええええええっ!? そんな寸止めみたいな終わり方ありぃ!?」
「こ、この人達……熟年夫婦すぎでしょう? 心が通じて満たされればそれで良いってことなんですか?」
「口吸い致してみようかとしたこともあるのですが――」
「クチスイ?」
「それってまさか――」
「異界の言葉で『きす』でしたか?」
クリスとヘスラッハ卿がハイタッチした。
とても嬉しいらしい。
「でも、そこから先は本当に何もござりませんよ?」
「こ、ここまで来ておきながらぁ!?」
「どうしてなんですっ!?」
「若が仰るのです。『この先は歯止めがきかぬ』と……」
「「…………」」
「わたくしは生娘でござりますと、クリス様には申し上げたことがあったかと思いますが?」
ガックリするクリスとヘスラッハ卿に微笑しつつ言うヤチヨ殿。
そう言われてみれば、そんな話を聞かされたような気がする……。
「そうだったけぇ……? はあ……。良かったねぇ、ヴィルヘルミナ……」
「どうして私が出てくる!」
「シンクローはまだ童貞だってぇ」
「だからどうして私に言うんだ!?」
「えっ!? ヴィ、ヴィルヘルミナ様もサイトー様のこと……!」
「そうそう。だってぇ、辺境伯様がシンクローと約束したんだよぉ? ヴィルヘルミナと結婚させるってぇ」
「そうなんですか!?」
「あ、あれは違う! あれはゲルトとカスパルを欺くための策の一つで――――」
「若は童貞ではありませぬよ?」
「「「――――はい?」」」
唐突に、その場の何もかもを破壊する特大の爆発物がヤチヨ殿によって投げ入れられた。
私は口がパクパク動くのみで、声を一切発することが出来なくなった。
たっぷりと長い沈黙を挟み、クリスがようやく声を出した。
「……………………あ、あのぉ、それって……本当?」
「真にござります」
「で、でもぉ……ヤチヨちゃんじゃない……んだよねぇ?」
「違いまする。指南役がお相手を務めたのでござります」
「『シナンヤク』?」
「若は御本妻をお迎えしておりませぬが、縁組の話がなかった訳ではござりませぬ。故に、いつその時が来ても差し障りのなきように、家中から口固く信の置ける者を選び出し、若に手ほどき致したのでござります。文字通り、手取り足取り……」
「「「…………」」」
「本当はわたくしがお相手致したかったのでござりますが、何分経験のない生娘ではお役に立てませぬ。泣く泣く諦めたのです」
「……その話を知っているってことはぁ、相手が誰だったかもぉ……知ってるのぉ?」
「わたくしも存じている方にござります」
「も、もしかして、アタシ達……も?」
「どうでしょう? 何処かですれ違っているやも知れませぬね?」
「「「…………」」」
「指南を務めた者から聞かされた話にござりますが、若はとてもお上手だったそうですよ?」
「「「…………は?」」」
「とても初めて致したお方とは思えなんだそうにござります。心地良さのあまり、気を失いそうになったとか。手ほどきするつもりが、手ほどきされてしまったと、赤面しておられました」
ヤチヨ殿は心の底から楽しそうな表情を浮かべ「クスクス」と笑った。
0
あなたにおすすめの小説
大和型戦艦、異世界に転移する。
焼飯学生
ファンタジー
第二次世界大戦が起きなかった世界。大日本帝国は仮想敵国を定め、軍事力を中心に強化を行っていた。ある日、大日本帝国海軍は、大和型戦艦四隻による大規模な演習と言う名目で、太平洋沖合にて、演習を行うことに決定。大和、武蔵、信濃、紀伊の四隻は、横須賀海軍基地で補給したのち出港。しかし、移動の途中で濃霧が発生し、レーダーやソナーが使えなくなり、更に信濃と紀伊とは通信が途絶してしまう。孤立した大和と武蔵は濃霧を突き進み、太平洋にはないはずの、未知の島に辿り着いた。
※ この作品は私が書きたいと思い、書き進めている作品です。文章がおかしかったり、不明瞭な点、あるいは不快な思いをさせてしまう可能性がございます。できる限りそのような事態が起こらないよう気をつけていますが、何卒ご了承賜りますよう、お願い申し上げます。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
異世界帰りの勇者、今度は現代世界でスキル、魔法を使って、無双するスローライフを送ります!?〜ついでに世界も救います!?〜
沢田美
ファンタジー
かつて“異世界”で魔王を討伐し、八年にわたる冒険を終えた青年・ユキヒロ。
数々の死線を乗り越え、勇者として讃えられた彼が帰ってきたのは、元の日本――高校卒業すらしていない、現実世界だった。
英雄召喚〜帝国貴族の異世界統一戦記〜
駄作ハル
ファンタジー
異世界の大貴族レオ=ウィルフリードとして転生した平凡サラリーマン。
しかし、待っていたのは平和な日常などではなかった。急速な領土拡大を目論む帝国の貴族としての日々は、戦いの連続であった───
そんなレオに与えられたスキル『英雄召喚』。それは現世で英雄と呼ばれる人々を呼び出す能力。『鬼の副長』土方歳三、『臥龍』所轄孔明、『空の魔王』ハンス=ウルリッヒ・ルーデル、『革命の申し子』ナポレオン・ボナパルト、『万能人』レオナルド・ダ・ヴィンチ。
前世からの知識と英雄たちの逸話にまつわる能力を使い、大切な人を守るべく争いにまみれた異世界に平和をもたらす為の戦いが幕を開ける!
完結まで毎日投稿!
最弱弓術士、全距離支配で最強へ
Y.
ファンタジー
「弓術士? ああ、あの器用貧乏な最弱職のことか」
剣と魔法が全てを決める世界において、弓は「射程は魔法に及ばず、威力は剣に劣る」不遇の武器と蔑まれていた。
若き冒険者リアンは、亡き叔父から譲り受けた一振りの弓「ストーム・ウィスパー」を手に、冒険者の門を叩く。周囲の嘲笑を余所に、彼が秘めていたのは、世界をナノ単位で解析する「化け物じみた集中力」だった。
リアンの放つ一矢は、もはや単なる遠距離攻撃ではない。
風を読み、空間を計算し、敵の急所をミリ単位で射抜く精密射撃。
弓本体に仕込まれたブレードを操り、剣士を圧倒する近接弓術。
そして、魔力の波長を読み取り、呪文そのものを撃ち落とす対魔法技術。
「近距離、中距離、遠距離……俺の射程に逃げ場はない」
孤独な修行の末に辿り着いた「全距離対応型弓術」は、次第に王道パーティやエリート冒険者たちの常識を塗り替えていく。
しかし、その弓には叔父が命を懸けて守り抜いた**「世界の理(ことわり)」を揺るがす秘密**が隠されていた――。
最弱と笑われた少年が、一張の弓で最強へと駆け上がる、至高の異世界アクションファンタジー、開幕!
勇者パーティのサポートをする代わりに姉の様なアラサーの粗雑な女闘士を貰いました。
石のやっさん
ファンタジー
年上の女性が好きな俺には勇者パーティの中に好みのタイプの女性は居ません
俺の名前はリヒト、ジムナ村に生まれ、15歳になった時にスキルを貰う儀式で上級剣士のジョブを貰った。
本来なら素晴らしいジョブなのだが、今年はジョブが豊作だったらしく、幼馴染はもっと凄いジョブばかりだった。
幼馴染のカイトは勇者、マリアは聖女、リタは剣聖、そしてリアは賢者だった。
そんな訳で充分に上位職の上級剣士だが、四職が出た事で影が薄れた。
彼等は色々と問題があるので、俺にサポーターとしてついて行って欲しいと頼まれたのだが…ハーレムパーティに俺は要らないし面倒くさいから断ったのだが…しつこく頼むので、条件を飲んでくれればと条件をつけた。
それは『27歳の女闘志レイラを借金の権利ごと無償で貰う事』
今度もまた年上ヒロインです。
セルフレイティングは、話しの中でそう言った描写を書いたら追加します。
カクヨムにも投稿中です
ダンジョン美食倶楽部
双葉 鳴
ファンタジー
長年レストランの下働きとして働いてきた本宝治洋一(30)は突如として現れた新オーナーの物言いにより、職を失った。
身寄りのない洋一は、飲み仲間の藤本要から「一緒にダンチューバーとして組まないか?」と誘われ、配信チャンネル【ダンジョン美食倶楽部】の料理担当兼荷物持ちを任される。
配信で明るみになる、洋一の隠された技能。
素材こそ低級モンスター、調味料も安物なのにその卓越した技術は見る者を虜にし、出来上がった料理はなんとも空腹感を促した。偶然居合わせた探索者に振る舞ったりしていくうちに【ダンジョン美食倶楽部】の名前は徐々に売れていく。
一方で洋一を追放したレストランは、SSSSランク探索者の轟美玲から「味が落ちた」と一蹴され、徐々に落ちぶれていった。
※カクヨム様で先行公開中!
※2024年3月21で第一部完!
勇者の隣に住んでいただけの村人の話。
カモミール
ファンタジー
とある村に住んでいた英雄にあこがれて勇者を目指すレオという少年がいた。
だが、勇者に選ばれたのはレオの幼馴染である少女ソフィだった。
その事実にレオは打ちのめされ、自堕落な生活を送ることになる。
だがそんなある日、勇者となったソフィが死んだという知らせが届き…?
才能のない村びとである少年が、幼馴染で、好きな人でもあった勇者の少女を救うために勇気を出す物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる