婚約者の王子様に愛人がいるらしいが、ペットを探すのに忙しいので放っておいてくれ。

フジミサヤ

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第三章

18 彼が学園で再会した人1

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「いいか、ノア。お前、同室の奴に絶対構うなよ。自分が出来ることを当たり前に他人も出来ると思うな。悪気はなくてもお前の言動はキツすぎるから、相手が追い込まれてストレスで自滅する未来が見える」


 月日は流れ、ノアは魔術師養成に特化した国立アストレア学園高等部への入学が決まった。既に中等部から通っており内部進学のため新鮮味はないが、校舎も変わるし高等部からは全寮制で新しい環境になる。

 準備で忙しくしていたところに現れたヴェイルから、謎の忠告を受けた。学園の寄宿舎は原則として二人部屋で、ノアのルームメイトは外部からの編入生らしい。推薦枠での入学と聞いているから、かなり優秀な奴なのだろう。


「心配しなくとも普通の態度で接する」
「お前にとっては普通でも、他人からしたら辛辣すぎるんだよ。そのままの態度だと、高等部でもまた友だちができないぞ。一緒について行ってやりたいところだが、流石にバレるしな……」

「おい、ちょっと待て。ヴェイル、お前一緒に来ないつもりか?ペット禁止なんていう校則は無かったはずだが?」

 魔導具に魔力を注いでいたノアが作業を中断して問い詰めると、ヴェイルは尻尾を垂らしたままシラけた顔をする。ノアが当たり前のように自分を学園に連れて行くつもりだったことの方が驚きだ。

「いや、学園の寄宿舎は二人部屋だろ?ルームメイトいるだろ?迷惑だろ」
「駄目だ。お前がいないと俺が困る。召喚術の解析も完成してやっと本格的に動き出せるのに……。とりあえず個室にしてもらうよう直談判してくる。無理なら同室の奴を追い出して───」
「落ち着けよ。ノア」

 予想以上に取り乱しているノアに対して、ヴェイルは呆れ顔で見る。そんなに自分に依存して大丈夫だろうか。心配でしかないが、この様子だと無理やり引き剥がしても、泣かれるか拗ねられるか怒鳴られるかどれかになりそうだ。ある意味可愛くて面白いのだけど。

「お前が呼んだらちゃんと来てやるから。今までだって四六時中ベッタリだった訳じゃないし、耐えられるだろ」
「無理だ。夜はお前がいないと眠れない。モフモフがないと死ぬ」
「……」

 毎日ノアの気が済むまで触らせて、一緒のベッドで眠ったり、遊んでやったりして過ごしていた影響が出てしまっていた。ノアの独占欲が強すぎるのは以前から知っていたが、ここまで執着されるとは思わなかった。過保護にし過ぎて育て方を誤ったかもしれない。これは良くない。
 ヴェイルは反省した。





 どういう卑怯な手を使ったのか謎だが、数日後に通知された寄宿舎の部屋割で、何故かノアは一人部屋を割り当てられることとなった。

「俺の安眠の為に当然の措置だ」

 ヴェイルに説明を求められた際に、ノアはフンと鼻を鳴らして豪語した。開き直ったらしい。
 こうしてヴェイルはノアの安眠枕として、こっそりノアに同行する羽目になったのだった。

 

***

 そんな状況で迎えたアストレア学園高等部の入学式。首席合格のノアは、入学式において新入生代表挨拶を任された。

「───私たち新入生一同は、ここで学びを得ることが出来る喜びを強く感じています。この学園の一員として恥じぬ行動を取りながら切磋琢磨し日々精進する覚悟があります。本日は誠にありがとうございます」

 緊張した素ぶりもなく背筋を伸ばして淀みなく話す様子は、凛としていて隙がない。ノアは美しく整った容姿を最大限活かし、堂々と振る舞っていた。
 数日前、一人では眠れないなどと言って大騒ぎをしていた自分勝手なワガママ少年と同じ人物だとは到底思えない。

 途中、在校生からの祝辞が当初の予定から変更になり、生徒会副会長エリオット・ゲルトナーによる代理挨拶になった。何かトラブルがあったのか、司会進行役の教師が慌てている様子が窺える。周囲も少し混乱していたようだが、式典は滞りなく終了した。ノアは特に気に留めなかった。

 代理挨拶になったということは、ノアの計画が順調に進んでいるということだ。後でヴェイルに結果報告を促す必要がある。


  
 当初、入学式で挨拶する予定だった在校生の名前は、サミュエル・ユーリアス・ルシフェン・ウォルフォード。
 国立アストレア学園高等部3年生に在籍する現生徒会長であると同時に、ルシフェン王国王位継承者第二位の王子殿下だ。



 


 この日、アストレア学園入学式の式典の最中、学園に魔物の襲撃があり、第二王子サミュエルが襲われた。


 
***

「ノア・オルコット君。少し時間を貰えるかい?」
「はい。私ですか?」

 入学式後の初日のホームルームが終わった後、担任の教諭から声を掛けられた。

「実は入学式の最中少しトラブルがあって、魔法省から捜査官が派遣されてきている。君に話を聞かせてほしいそうだ」

 前半は理解できるが、後半が理解できない。何故ノアが事情聴取を受ける羽目になっているのか。全く分からなかったが、何故かイヤな予感がした。
 しかし生真面目優等生のノアは拒否することもできず、言われるがまま教師に案内された応接室に入った。途端に後悔した。


 

「やあ、来てくれてありがとう。ノア」

 そこには魔法省の捜査官だけでなく、金髪碧眼の『第二王子殿下』が待ち構えていたのである。ソファにゆったりと腰掛けていた彼は、眩いばかりの美貌を持つ青年へと成長していた。ノアの姿を見ると、嬉しそうに笑みを浮かべて立ち上がり、こちらへ優雅に歩み寄る。背は高く引き締まった体躯をしており、纏う雰囲気も洗練されていて魅力的だ。
 非の打ちどころのない、理想的な男性像と言えるだろう。まったく。 
 

 随分化けたな。

 
 ノアは他人事みたいに思った。今の彼の立ち居振る舞いは、立派な王侯貴族そのものだ。サミュエルとそれ程面識がない人物なら、簡単に騙されていたことだろう。
  
 ノアはそんな心の内を隠し、表向きは神妙な表情を保ったまま頭を下げている。ノアが彼の正体に気が付いてしまったことを、彼自身に悟らせる訳にはいかない。

「殿下。入学式に参加されていませんでしたが、お加減は如何でしたか」
「体調は全く問題ないよ。今日はちょっとトラブルに巻き込まれてしまっただけなんだ」

 爽やかな笑みを浮かべながら嘯く彼の演技力に感心していると、横から魔法省の捜査官が口を挟んだ。

「その件で君に話を聞きたい。入学式の最中に、こちらのサミュエル殿下を、君が呼び出したというのは本当か?」
「申し訳ございません。全く身に覚えがありませんが」

 ノアは表情を変えずに質問をしてきた捜査官へ視線を向ける。アデリナ・ミュラーと名乗った女性捜査官とノアはその時はじめて面識を得た。アデリナは魔法省の制服をきっちり着こなしている美女であるが、鋭い視線が近寄りがたい雰囲気を醸し出している。
 
 着席を促され、彼女と正面から向き合う形でソファに座ると、何故かサミュエルはノアの隣に座ってきた。彼は機嫌良さそうにノアにニコニコと笑いかけながら、ノアに一通の手紙を差し出した。


「私が呼び出されたのは、この手紙だよ。公爵家の正式な印章付きだ。入学式の開始時刻に、単身で、誰にも知らせず来るよう指定されていた。君のサインもある。罠の可能性も考えたけど、内容が内容だったから、万が一本当だったら君を放っておく訳にもいかないと思ってね」
「……中を拝見してもよろしいでしょうか?」

 許可を求めて彼から渡された手紙の中身を確認した瞬間、ノアは無表情の裏側で盛大な舌打ちをしたくなった。

「……これは」
「見ての通り、熱烈な恋文だよ。来てくれないと命を絶つとまで書かれていたから急いだんだけど、君は居なくて、指定された場所には罠が仕掛けられていた。ノアが知らないなら、これは一体誰が書いたんだろうね?」

 涼やかな声色で白々しく宣う彼は、楽しげに微笑んでいる。何処まで気が付いているのか判断が出来ない。

 手紙には、ノアの筆跡でサミュエル宛に情熱的な愛の告白と共に、脅迫めいた内容が記されていた。ノアはこんな書き方をしたことは一度もない。こんなものは完全なる偽造品である。ただし公爵家の正式な印章は本物らしく装われていた。

「誰が書いたか心当たりはあるか?」
「申し訳ありませんが……全く心当たりがありません。ただ、私が書いたものではありません」

 アデリナの問いかけにノアは困惑した表情を作りながらしれっと答えたが、内心はらわたが煮え繰り返る寸前であった。
 口では嘯いたが、ノアはこの手紙を準備した犯人に心当たりがあった。奴はノアに『第二王子』を確実に呼び出せると宣ってきたので、そのまま任せていた。そのため、ノアは呼び出す方法に関与していない。具体的な内容を聞き出していなかったことを深く後悔した。

「君が入学式に出席していたのは、こちらも把握している。サミュエル殿下が事件に巻き込まれていたとき、君は壇上で新入生代表の挨拶をしていた。誰かが君の名を騙って殿下を呼び出したと考えるのが妥当だろう。何か思い出したら教えて欲しい」

 アデリナは淡々とした口調で告げる。要は任意での情報提供を求めているということだろう。ノアはそれを素直に承諾した。とりあえず、ノアのアリバイは証明された形となる。最悪の事態は避けられた。
 

 それにしても、本人はノアの命令に従い、『第二王子』を呼び出しただけのつもりかもしれないが、ノアに恥をかかせ、なおかつ疑いがかかる方法を選びやがったのだ。間違いなく後でお仕置きが必要である。
 

(あの野郎……!)
 

 間違いない。このフザケた恋文を準備した犯人は、ノアのペットである。 

 
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