1 / 44
プロローグ
しおりを挟む
梓浜学園高等部一年の、僕、穂高千雪は、教室のすみにある己の席で、ひとり弁当に箸をつけていた。
昼食を食べながら、教室の中、楽しそうに話をする同級生たちを見やる。
トレンチコート風の大きな襟に、丈が長めのジャケットと、ワイシャツとズボンはすべて黒で統一されている。そこに銀のネクタイを合わせる、学園の個性的な制服を着こなす彼らは、どこか大人びていてファッショナブルだ。
でも僕には、この制服は似合わない。
制服の色目はシックだけど、デザインが奇抜だから、平凡顔の僕が着ると薄い印象になっちゃう。
身長が一六四センチと若干低めな上に、制服は少し大きめだから、子供っぽく見える。うぅ、母がいずれ大きくなると期待してくれたわけだから、ジャストサイズじゃないことを怒ることはできない。
短めにカットした髪型にも、丸いフレームの眼鏡にも、合わないなぁ。
だが、持って生まれた自分の地味さを改善できるわけもなく、ただ華のある同級生たちを羨望の眼差しでみつめるしかない。
僕は、生徒の中にひっそり埋没している、ちょっとイケていない男子高校生。
だけど、校内放送が流れると、たちまちクラスメイトの視線を集める存在になってしまうのだ。
「一のA、穂高千雪。至急生徒会室まで」
昼休みの食事どきに、全校生徒に知らしめるような無愛想な呼び出しがかかり。クラスメイトは俺に目を向けながらひそひそ話をする。
その居心地悪さから逃げるように、僕は席を立った。
廊下を出ると、女子生徒たちも僕を冷たい視線で見やる。
女子の制服は、上は男子生徒と同じデザインだが、スカートは緑系のチェック柄で、ネクタイが赤いリボンに変わる。男子はシックで、女子は明るい印象の制服なのだけど。可愛い制服を着こなす彼女たちは、僕とすれ違いざま『下僕だ』と毒舌を奮った。
その心無い言葉に、僕は瞳を揺らすが。
うつむいたら負けだと思って、背筋をまっすぐに伸ばしたまま生徒会室へと向かうのだった。
「遅い」
生徒会室の扉を開けた途端に怒られる。まぁ、いつものことだ。
校内放送で僕を呼び出したのは、生徒会長の藤代永輝。
アーモンド形の目元、小顔で輪郭はシャープ。十人中十人が美しいと称する容貌に、怒りの色がにじんでいる。
怒りたいのはこっちなんですけどぉ。
一八七センチの長身、均整の取れた体躯には、制服の黒シャツ銀ネクタイのシックな取り合わせがあつらえたかのように良く似合う。
薄茶の髪は長すぎず短すぎず、さらりと揺れた。
麗しい容姿のみならず、成績優秀、スポーツ万能、性格も明るく非の打ち所がない。大多数の人間が、藤代にひと目で魅了されるのだ。
「なんでずっと黙っているんだ? 穂高」
耳に穏やかに響く低い声で、彼は僕に言う。
なにもかもが及第点の男が、声もイケボとか、どんだけ差をつければ気が済むのだろう、神様め。
つか、僕は最短ルートで生徒会室までやってきたんだが? 遅いとか言うな。
しかし言い訳をすれば藤代は絶対に機嫌を損ねるから、黙っていただけだ。
「…同クラなのだから、わざわざ放送をかけて呼び出さないでくれ。で、用件はなんだ?」
眼鏡のつるを中指で押し上げ、素っ気ない声でたずねる。
藤代の、長いまつ毛、濃すぎない二重、流線を描く眉、その完璧な黄金比が不快にゆがんだ。
「午後の会議で使うプリントだ。セットにして、クリップでとめてくれ」
用件のみ伝える藤代に、僕はため息を飲みこんで、無言で椅子に座る。そして目の前に積まれたプリント、三つの山の上から、一枚ずつ取ってクリップでとめていった。単純作業だな。
生徒会室には、生徒会長が座る大きな執務机と、部屋の中央に円卓が置いてある。円卓は生徒会役員が座り、そこで仕事やら話し合いやらするみたい。
よくは知らないよ、僕は生徒会役員じゃないからね。
この雑用も、本来なら生徒会役員がするものだと思うけど。
なんでか、生徒会役員でもない僕がそれをやる羽目になっている。
なんでかって…まぁ、理由はわかっているけど。
藤代はなにかと僕を呼び出し、用事を押しつける。いつも放送をかけて呼び出すから、僕は影ながら『生徒会長の下僕』と言われているんだ。
そのことを、藤代は知っているのかな?
はぁ、なんでこんなことになってしまったのか。
僕は、すべての始まりである、藤代がこの学園に編入してきた日のことを思い返した。
昼食を食べながら、教室の中、楽しそうに話をする同級生たちを見やる。
トレンチコート風の大きな襟に、丈が長めのジャケットと、ワイシャツとズボンはすべて黒で統一されている。そこに銀のネクタイを合わせる、学園の個性的な制服を着こなす彼らは、どこか大人びていてファッショナブルだ。
でも僕には、この制服は似合わない。
制服の色目はシックだけど、デザインが奇抜だから、平凡顔の僕が着ると薄い印象になっちゃう。
身長が一六四センチと若干低めな上に、制服は少し大きめだから、子供っぽく見える。うぅ、母がいずれ大きくなると期待してくれたわけだから、ジャストサイズじゃないことを怒ることはできない。
短めにカットした髪型にも、丸いフレームの眼鏡にも、合わないなぁ。
だが、持って生まれた自分の地味さを改善できるわけもなく、ただ華のある同級生たちを羨望の眼差しでみつめるしかない。
僕は、生徒の中にひっそり埋没している、ちょっとイケていない男子高校生。
だけど、校内放送が流れると、たちまちクラスメイトの視線を集める存在になってしまうのだ。
「一のA、穂高千雪。至急生徒会室まで」
昼休みの食事どきに、全校生徒に知らしめるような無愛想な呼び出しがかかり。クラスメイトは俺に目を向けながらひそひそ話をする。
その居心地悪さから逃げるように、僕は席を立った。
廊下を出ると、女子生徒たちも僕を冷たい視線で見やる。
女子の制服は、上は男子生徒と同じデザインだが、スカートは緑系のチェック柄で、ネクタイが赤いリボンに変わる。男子はシックで、女子は明るい印象の制服なのだけど。可愛い制服を着こなす彼女たちは、僕とすれ違いざま『下僕だ』と毒舌を奮った。
その心無い言葉に、僕は瞳を揺らすが。
うつむいたら負けだと思って、背筋をまっすぐに伸ばしたまま生徒会室へと向かうのだった。
「遅い」
生徒会室の扉を開けた途端に怒られる。まぁ、いつものことだ。
校内放送で僕を呼び出したのは、生徒会長の藤代永輝。
アーモンド形の目元、小顔で輪郭はシャープ。十人中十人が美しいと称する容貌に、怒りの色がにじんでいる。
怒りたいのはこっちなんですけどぉ。
一八七センチの長身、均整の取れた体躯には、制服の黒シャツ銀ネクタイのシックな取り合わせがあつらえたかのように良く似合う。
薄茶の髪は長すぎず短すぎず、さらりと揺れた。
麗しい容姿のみならず、成績優秀、スポーツ万能、性格も明るく非の打ち所がない。大多数の人間が、藤代にひと目で魅了されるのだ。
「なんでずっと黙っているんだ? 穂高」
耳に穏やかに響く低い声で、彼は僕に言う。
なにもかもが及第点の男が、声もイケボとか、どんだけ差をつければ気が済むのだろう、神様め。
つか、僕は最短ルートで生徒会室までやってきたんだが? 遅いとか言うな。
しかし言い訳をすれば藤代は絶対に機嫌を損ねるから、黙っていただけだ。
「…同クラなのだから、わざわざ放送をかけて呼び出さないでくれ。で、用件はなんだ?」
眼鏡のつるを中指で押し上げ、素っ気ない声でたずねる。
藤代の、長いまつ毛、濃すぎない二重、流線を描く眉、その完璧な黄金比が不快にゆがんだ。
「午後の会議で使うプリントだ。セットにして、クリップでとめてくれ」
用件のみ伝える藤代に、僕はため息を飲みこんで、無言で椅子に座る。そして目の前に積まれたプリント、三つの山の上から、一枚ずつ取ってクリップでとめていった。単純作業だな。
生徒会室には、生徒会長が座る大きな執務机と、部屋の中央に円卓が置いてある。円卓は生徒会役員が座り、そこで仕事やら話し合いやらするみたい。
よくは知らないよ、僕は生徒会役員じゃないからね。
この雑用も、本来なら生徒会役員がするものだと思うけど。
なんでか、生徒会役員でもない僕がそれをやる羽目になっている。
なんでかって…まぁ、理由はわかっているけど。
藤代はなにかと僕を呼び出し、用事を押しつける。いつも放送をかけて呼び出すから、僕は影ながら『生徒会長の下僕』と言われているんだ。
そのことを、藤代は知っているのかな?
はぁ、なんでこんなことになってしまったのか。
僕は、すべての始まりである、藤代がこの学園に編入してきた日のことを思い返した。
230
あなたにおすすめの小説
【完結】恋した君は別の誰かが好きだから
花村 ネズリ
BL
本編は完結しました。後日、おまけ&アフターストーリー随筆予定。
青春BLカップ31位。
BETありがとうございました。
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
俺が好きになった人は、別の誰かが好きだからーー。
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
二つの視点から見た、片思い恋愛模様。
じれきゅん
ギャップ攻め
六日の菖蒲
あこ
BL
突然一方的に別れを告げられた紫はその後、理由を目の当たりにする。
落ち込んで行く紫を見ていた萌葱は、図らずも自分と向き合う事になった。
▷ 王道?全寮制学園ものっぽい学園が舞台です。
▷ 同室の紫と萌葱を中心にその脇でアンチ王道な展開ですが、アンチの影は薄め(のはず)
▷ 身代わりにされてた受けが幸せになるまで、が目標。
▷ 見た目不良な萌葱は不良ではありません。見た目だけ。そして世話焼き(紫限定)です。
▷ 紫はのほほん健気な普通顔です。でも雰囲気補正でちょっと可愛く見えます。
▷ 章や作品タイトルの頭に『★』があるものは、個人サイトでリクエストしていただいたものです。こちらではいただいたリクエスト内容やお礼などの後書きを省略させていただいています。
【完結】言えない言葉
未希かずは(Miki)
BL
双子の弟・水瀬碧依は、明るい兄・翼と比べられ、自信がない引っ込み思案な大学生。
同じゼミの気さくで眩しい如月大和に密かに恋するが、話しかける勇気はない。
ある日、碧依は兄になりすまし、本屋のバイトで大和に近づく大胆な計画を立てる。
兄の笑顔で大和と心を通わせる碧依だが、嘘の自分に葛藤し……。
すれ違いを経て本当の想いを伝える、切なく甘い青春BLストーリー。
第1回青春BLカップ参加作品です。
1章 「出会い」が長くなってしまったので、前後編に分けました。
2章、3章も長くなってしまって、分けました。碧依の恋心を丁寧に書き直しました。(2025/9/2 18:40)
笑って下さい、シンデレラ
椿
BL
付き合った人と決まって12日で別れるという噂がある高嶺の花系ツンデレ攻め×昔から攻めの事が大好きでやっと付き合えたものの、それ故に空回って攻めの地雷を踏みぬきまくり結果的にクズな行動をする受け。
面倒くさい攻めと面倒くさい受けが噛み合わずに面倒くさいことになってる話。
ツンデレは振り回されるべき。
十二年付き合った彼氏を人気清純派アイドルに盗られて絶望してたら、幼馴染のポンコツ御曹司に溺愛されたので、奴らを見返してやりたいと思います
塔原 槇
BL
会社員、兎山俊太郎(とやま しゅんたろう)はある日、「やっぱり女の子が好きだわ」と言われ別れを切り出される。彼氏の売れないバンドマン、熊井雄介(くまい ゆうすけ)は人気上昇中の清純派アイドル、桃澤久留美(ももざわ くるみ)と付き合うのだと言う。ショックの中で俊太郎が出社すると、幼馴染の有栖川麗音(ありすがわ れおん)が中途採用で入社してきて……?
目線の先には。僕の好きな人は誰を見ている?
綾波絢斗
BL
東雲桜花大学附属第一高等学園の三年生の高瀬陸(たかせりく)と一ノ瀬湊(いちのせみなと)は幼稚舎の頃からの幼馴染。
湊は陸にひそかに想いを寄せているけれど、陸はいつも違う人を見ている。
そして、陸は相手が自分に好意を寄せると途端に興味を失う。
その性格を知っている僕は自分の想いを秘めたまま陸の傍にいようとするが、陸が恋している姿を見ていることに耐えられなく陸から離れる決意をした。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる