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9 おまえなんか嫌いだ 穂高side
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藤代がキスしてきて、僕はギョッとして身を引いた。
でも藤代の唇はずっと唇についたままで、ドサリと体が後ろに倒れて、僕は結局円卓の上に寝る形になってしまった。藤代は僕に覆いかぶさってキスしてる。
なんなん??
はじめてのチュウを、恋人でも友達でもない男に奪われて…泣きそうだよ。
どんだけ僕に不幸を呼び込む気だ、この男はッ。藤代ーーっ、あり得ねぇぇぇっ!
僕はいつの間にか握られていた両手を振り払い、藤代の肩を押して突き放した。
ようやく唇が離れたよ。ほっ。いや、つか…。
「な、なにすんだ、おまえっ」
まだ、円卓の上に寝て、その上に藤代が覆いかぶさっている状態だ。だから、涙目で叫んでもまったく迫力は出ないけど、出来る限りの怒りを言葉で表したよ。
でも目の前の藤代はきょとんな顔なのだ。
はぁ?! 怒ってんの、わっかんないのっ??
「なにって…俺たち、付き合っちゃえばいいんじゃねって思って。俺は穂高が手に入るなら、肩書は友達でも恋人でもなんでもいいんだ。穂高は俺のことが好きなんだろ? だから目をそらしたり気のないふりをするんだろ? だったら恋人でいいじゃん。穂高は照れ屋だから、恋人でも人前では目を合わせられないかもしれないね。だけど恋人になったら。ふたりきりのときは俺をみつめてくれるだろ?」
なんて身勝手で、藤代に好都合な妄想なのだろう。
僕は本気で呆れてしまった。そんなこと、マジでそんなふうに思っているのか?
なにをどうしたら、そのような思考になるのだ?
まったく、宇宙人は意味不明すぎる。
「恋人? 冗談じゃない。僕はおまえなんか嫌いだ」
あ、つい、本音が漏れちゃった。
あぁあ、当たり障りのないように、藤代が嫌いなことは言わないでおこうと思ったのに。
クラスで孤立を深めたくないからな。処世術でさ。
でも、あまりにも藤代の勘違いがはなはだしいから、本音が口からこぼれちゃったんだよね。
ま、いつまでも勘違いしていたら藤代のためにもならない。真実は早めに暴露したほうが良いかもしれないな。
僕はそう思って、藤代を見やった。
だが目の前の藤代は、予期していなかった言葉だったようで、瞳を揺らしている。
とても動揺しているみたいだ。
顔つきは口の笑みの形のまま凍りついていた。
「どうして、嫌い? なんで嫌い? 意味がわからない」
「そういうところだよ。みんなが君を好きだと思っている、傲慢で、自意識過剰なところ、好きじゃない。こんなこと…言わすな。藤代を傷つけたくなかったから、だから君から離れていたのに」
藤代が僕になにかをしたわけではない。
ただ、自分が持っていないもの…格好良いルックスだったり、簡単に学年一位を取ってしまう頭脳だったり、女子はおろか男子にまでも人気がある人望だったり、そういうものを手にしている藤代を、妬んでいるのだ。
ないものねだりで、攻撃されたわけでもない人物を嫌いになる、そんな自分が、僕は一番嫌い。
藤代に近づけば、自分の醜い部分が暴き出される。
それが嫌なのだ。
なのに、藤代は無邪気に近寄ってきて、バカみたいな勘違いで僕の心をえぐる。
無神経な彼が、やはり嫌いだった。
「そんな、今更そうじゃないなんて…」
己の暗い感情をみつめていた僕は、藤代の変化に気づくのが遅れてしまった。
気の抜けたような声でつぶやいた藤代は、乱暴に僕の肩を掴む。
大きな手で、力強く握られて、僕は痛みに顔をしかめた。
「穂高が俺を嫌いだなんて、嘘だ。認めない」
叫んで、藤代はまたキスしてきた。今度は、噛みつくような乱暴なくちづけ。歯が唇に当たって、痛かった。
どんなものでも、同性とのキスは嫌だと思って、肩をゆすってもがいてみる。
すると藤代は、掴んでいた僕の肩を持ち上げて、ガンと机に叩きつけた。
痛ってぇぇ。あたま、うった。
ちょっとクラッとして、僕は力を失い、机の上でぐったりした。
でも、これだけは、言う。
「君が、嫌いだ」
「言うなっ」
激高した藤代は、強い力で僕の肩を握りこんだままで、僕にくちづける。
「嘘だ、穂高、嘘だと言え」
キスの合間にそう言われるけど。
口をふさがれて、嘘だと言えるか…と胸の内でツッコむ。
それにしても、なんて、痛い、苦しい、最悪なキスなのだろう。
ここは慌てるべき場面だと思うが、なんだかすっごく冷静に分析している自分が怖い。
口をふさがれて息ができない。
肩を掴んでいた藤代の手がいつの間にか首元に移動していて、絞められているかのように息苦しい。
ヤバイ、ここで死んじゃうのかな?
学校で死ぬなんて、考えもしなかった。学校は安全なところだって、思っていたけど。よく考えれば、見知らぬ者も多いし、子供だからってみんな善人で安全とは限らないね。
しかし、僕はまだ十五年しか生きていないよ。
あぁ、最後に目に映る人物が、嫌いな人物で殺人鬼の藤代だなんて、最悪だ。
そんな、取り留めのないことを考えていて。
やはり僕はパニクっているのだなと感じた。
「千雪…千雪?」
名前を呼ばれて、目を開ける。
つか、下の名前で呼ぶんじゃねぇ。
「良かった、目を覚ました。大丈夫? どこも痛くない?」
藤代がそばで、僕の顔をのぞきこんでいた。
どうやら、少し気を失っていたらしい。自分は円卓の上でまだ横になっていた。
でも藤代の唇はずっと唇についたままで、ドサリと体が後ろに倒れて、僕は結局円卓の上に寝る形になってしまった。藤代は僕に覆いかぶさってキスしてる。
なんなん??
はじめてのチュウを、恋人でも友達でもない男に奪われて…泣きそうだよ。
どんだけ僕に不幸を呼び込む気だ、この男はッ。藤代ーーっ、あり得ねぇぇぇっ!
僕はいつの間にか握られていた両手を振り払い、藤代の肩を押して突き放した。
ようやく唇が離れたよ。ほっ。いや、つか…。
「な、なにすんだ、おまえっ」
まだ、円卓の上に寝て、その上に藤代が覆いかぶさっている状態だ。だから、涙目で叫んでもまったく迫力は出ないけど、出来る限りの怒りを言葉で表したよ。
でも目の前の藤代はきょとんな顔なのだ。
はぁ?! 怒ってんの、わっかんないのっ??
「なにって…俺たち、付き合っちゃえばいいんじゃねって思って。俺は穂高が手に入るなら、肩書は友達でも恋人でもなんでもいいんだ。穂高は俺のことが好きなんだろ? だから目をそらしたり気のないふりをするんだろ? だったら恋人でいいじゃん。穂高は照れ屋だから、恋人でも人前では目を合わせられないかもしれないね。だけど恋人になったら。ふたりきりのときは俺をみつめてくれるだろ?」
なんて身勝手で、藤代に好都合な妄想なのだろう。
僕は本気で呆れてしまった。そんなこと、マジでそんなふうに思っているのか?
なにをどうしたら、そのような思考になるのだ?
まったく、宇宙人は意味不明すぎる。
「恋人? 冗談じゃない。僕はおまえなんか嫌いだ」
あ、つい、本音が漏れちゃった。
あぁあ、当たり障りのないように、藤代が嫌いなことは言わないでおこうと思ったのに。
クラスで孤立を深めたくないからな。処世術でさ。
でも、あまりにも藤代の勘違いがはなはだしいから、本音が口からこぼれちゃったんだよね。
ま、いつまでも勘違いしていたら藤代のためにもならない。真実は早めに暴露したほうが良いかもしれないな。
僕はそう思って、藤代を見やった。
だが目の前の藤代は、予期していなかった言葉だったようで、瞳を揺らしている。
とても動揺しているみたいだ。
顔つきは口の笑みの形のまま凍りついていた。
「どうして、嫌い? なんで嫌い? 意味がわからない」
「そういうところだよ。みんなが君を好きだと思っている、傲慢で、自意識過剰なところ、好きじゃない。こんなこと…言わすな。藤代を傷つけたくなかったから、だから君から離れていたのに」
藤代が僕になにかをしたわけではない。
ただ、自分が持っていないもの…格好良いルックスだったり、簡単に学年一位を取ってしまう頭脳だったり、女子はおろか男子にまでも人気がある人望だったり、そういうものを手にしている藤代を、妬んでいるのだ。
ないものねだりで、攻撃されたわけでもない人物を嫌いになる、そんな自分が、僕は一番嫌い。
藤代に近づけば、自分の醜い部分が暴き出される。
それが嫌なのだ。
なのに、藤代は無邪気に近寄ってきて、バカみたいな勘違いで僕の心をえぐる。
無神経な彼が、やはり嫌いだった。
「そんな、今更そうじゃないなんて…」
己の暗い感情をみつめていた僕は、藤代の変化に気づくのが遅れてしまった。
気の抜けたような声でつぶやいた藤代は、乱暴に僕の肩を掴む。
大きな手で、力強く握られて、僕は痛みに顔をしかめた。
「穂高が俺を嫌いだなんて、嘘だ。認めない」
叫んで、藤代はまたキスしてきた。今度は、噛みつくような乱暴なくちづけ。歯が唇に当たって、痛かった。
どんなものでも、同性とのキスは嫌だと思って、肩をゆすってもがいてみる。
すると藤代は、掴んでいた僕の肩を持ち上げて、ガンと机に叩きつけた。
痛ってぇぇ。あたま、うった。
ちょっとクラッとして、僕は力を失い、机の上でぐったりした。
でも、これだけは、言う。
「君が、嫌いだ」
「言うなっ」
激高した藤代は、強い力で僕の肩を握りこんだままで、僕にくちづける。
「嘘だ、穂高、嘘だと言え」
キスの合間にそう言われるけど。
口をふさがれて、嘘だと言えるか…と胸の内でツッコむ。
それにしても、なんて、痛い、苦しい、最悪なキスなのだろう。
ここは慌てるべき場面だと思うが、なんだかすっごく冷静に分析している自分が怖い。
口をふさがれて息ができない。
肩を掴んでいた藤代の手がいつの間にか首元に移動していて、絞められているかのように息苦しい。
ヤバイ、ここで死んじゃうのかな?
学校で死ぬなんて、考えもしなかった。学校は安全なところだって、思っていたけど。よく考えれば、見知らぬ者も多いし、子供だからってみんな善人で安全とは限らないね。
しかし、僕はまだ十五年しか生きていないよ。
あぁ、最後に目に映る人物が、嫌いな人物で殺人鬼の藤代だなんて、最悪だ。
そんな、取り留めのないことを考えていて。
やはり僕はパニクっているのだなと感じた。
「千雪…千雪?」
名前を呼ばれて、目を開ける。
つか、下の名前で呼ぶんじゃねぇ。
「良かった、目を覚ました。大丈夫? どこも痛くない?」
藤代がそばで、僕の顔をのぞきこんでいた。
どうやら、少し気を失っていたらしい。自分は円卓の上でまだ横になっていた。
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