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29 反論せずにはいられなかった 穂高side
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僕の主張を論破すると言って、萩原先輩が口火を切った。
「自分が当選したら、それは会長のせいだって穂高くんは言ったみたいね? 確かに、会長が穂高くんを重用していることは全校生徒が知っている。だから生徒は会長の意向をくんで穂高くんに票を入れるはず。それが穂高くんは嫌ってこと?」
「そのとおりです」
時間が割かれることも嫌だが、まぁ、おおむね萩原先輩の言ったことに間違いはなかった。
「じゃあ、会長が推薦しなかったら良い? 会長の意向をくむ生徒がまだいるかもしれないけれど、いつも会長のそばにいる穂高くんを妬んで、票を入れない生徒も出てくるはず。五分五分でしょ? 他の立候補者と立場は同じになるわ。受かるか、受からないか、よ」
自信満々、胸を張って萩原先輩は言った。
確かに、五分五分ならフェアだ。
でも藤代の思惑を通さずに選挙が行えるとは思えない。いや、できる?
僕は考え込んでしまった。
「穂高くんは、見ず知らずの人に票を入れるとき、なにが基準になる?」
萩原先輩に聞かれ、僕はしばし考えたあと、口を開いた。
「なにをしたいかという主張と、なにをしてきたかという実績、だと思います」
「実績については、穂高くんは申し分ないわ。会長が呼び出しまくるせいで、穂高千雪本人を知らない生徒も、穂高千雪が会長の手助けをしているって知っている」
「問題児だって思われているんじゃないですか? また生徒会に呼び出されて、穂高ってやつはいったいなにをしているんだろうなって噂されているかも…」
「そこはリサーチ済み。穂高くんを見知っている人は、そういう印象を持たない。その見た目だもの、首元までボタンを留めて、真面目さがにじみ出ている穂高くんに問題児要素はないわ。問題起こして生徒会に呼ばれているなんて、みんな思っていないわよ」
それはそうかもしれない。見た目、勉強しかしていないような丸メガネだからね。まぁ、メガネだからってみんなが勉強できるわけじゃないけど。一応、僕はA組だからな。
それに、下僕と呼ばれているくらいだ。問題の方ではなく、藤代にこき使われているってみんな知っているか。
「立候補者の中から消去法で選択する者もいるわ。なんの働きも見られずに、ただ会長のそばにいたいという思いが透けて見える人のことは、生徒は選ばないわね。単純にムカつくでしょ?」
つい自分の視点で考えがちで。
対立候補が選択から外され、最後まで残る者が勝つという構図を思い浮かべたことがなかった。
思わず感心して、萩原先輩を尊敬の眼差しで見た。
「あと、選挙で重要なことは、彼はあなたの役に立ってくれますと保証する、有力な第三者の推薦よ。穂高くんは現役副会長の私と修ちゃんが推薦します。フェアな選挙で、必ず穂高くんを副会長にしてみせるわぁぁ」
両手に拳を握り、燃える意気込みで萩原先輩は断言する。
でも僕は、反論せずにはいられなかった。
「それはダメです。先輩方は無意識に藤代の願いを叶えようとしています。だから、結局先輩方が僕を推薦しようとする気持ちも…藤代の影響ですから」
言うと、今まで黙ってい見ていた深見先輩が、ほがらかな口調で言った。
「すごーい、穂高くん、頭良いねぇ。あくまで、みんな王様にやられちゃってるってとこを押し通すつもりなんだな? でも、ダメだよ。俺は穂高くんに、この王様の首根っこ掴んでコントロールしてもらいたいって思っているんだから。俺が王様にやられちゃっていたら、こんな考えは出てこない。そう思わないか、穂高くん?」
笑顔ながら辛辣な、深見先輩の言葉が衝撃的で、僕は戸惑った。
「え、でも…藤代をコントロールなんて」
「できるだろ? 王様は君のいいなりだ」
その言葉を聞いた刹那、僕は弾かれたように椅子から立ち上がった。
驚愕と怒りで、唇が震える。
「藤代が僕を従わせているんだっ、僕が藤代を操っているんじゃない。そんな…そんなこと、ないっ」
声を荒げるほどに、なんだか無性に腹が立った。
普段自分が思っていることと、まったく逆のことを言われた。
僕は、藤代に従っているんだ。意に添わないことを、雑用を、なにもかも。
ちょっと、生徒会だけは回避したかっただけだ。
なのに、そんなこと。
藤代に操られているつもりで、僕が藤代を操っているなんて。
そんなわけない、そんなわけない、そんなわけないって、心が叫んでいた。
僕は、藤代の被害者なんだから。
被害者…本当に、僕は被害者なのか?
「自分が当選したら、それは会長のせいだって穂高くんは言ったみたいね? 確かに、会長が穂高くんを重用していることは全校生徒が知っている。だから生徒は会長の意向をくんで穂高くんに票を入れるはず。それが穂高くんは嫌ってこと?」
「そのとおりです」
時間が割かれることも嫌だが、まぁ、おおむね萩原先輩の言ったことに間違いはなかった。
「じゃあ、会長が推薦しなかったら良い? 会長の意向をくむ生徒がまだいるかもしれないけれど、いつも会長のそばにいる穂高くんを妬んで、票を入れない生徒も出てくるはず。五分五分でしょ? 他の立候補者と立場は同じになるわ。受かるか、受からないか、よ」
自信満々、胸を張って萩原先輩は言った。
確かに、五分五分ならフェアだ。
でも藤代の思惑を通さずに選挙が行えるとは思えない。いや、できる?
僕は考え込んでしまった。
「穂高くんは、見ず知らずの人に票を入れるとき、なにが基準になる?」
萩原先輩に聞かれ、僕はしばし考えたあと、口を開いた。
「なにをしたいかという主張と、なにをしてきたかという実績、だと思います」
「実績については、穂高くんは申し分ないわ。会長が呼び出しまくるせいで、穂高千雪本人を知らない生徒も、穂高千雪が会長の手助けをしているって知っている」
「問題児だって思われているんじゃないですか? また生徒会に呼び出されて、穂高ってやつはいったいなにをしているんだろうなって噂されているかも…」
「そこはリサーチ済み。穂高くんを見知っている人は、そういう印象を持たない。その見た目だもの、首元までボタンを留めて、真面目さがにじみ出ている穂高くんに問題児要素はないわ。問題起こして生徒会に呼ばれているなんて、みんな思っていないわよ」
それはそうかもしれない。見た目、勉強しかしていないような丸メガネだからね。まぁ、メガネだからってみんなが勉強できるわけじゃないけど。一応、僕はA組だからな。
それに、下僕と呼ばれているくらいだ。問題の方ではなく、藤代にこき使われているってみんな知っているか。
「立候補者の中から消去法で選択する者もいるわ。なんの働きも見られずに、ただ会長のそばにいたいという思いが透けて見える人のことは、生徒は選ばないわね。単純にムカつくでしょ?」
つい自分の視点で考えがちで。
対立候補が選択から外され、最後まで残る者が勝つという構図を思い浮かべたことがなかった。
思わず感心して、萩原先輩を尊敬の眼差しで見た。
「あと、選挙で重要なことは、彼はあなたの役に立ってくれますと保証する、有力な第三者の推薦よ。穂高くんは現役副会長の私と修ちゃんが推薦します。フェアな選挙で、必ず穂高くんを副会長にしてみせるわぁぁ」
両手に拳を握り、燃える意気込みで萩原先輩は断言する。
でも僕は、反論せずにはいられなかった。
「それはダメです。先輩方は無意識に藤代の願いを叶えようとしています。だから、結局先輩方が僕を推薦しようとする気持ちも…藤代の影響ですから」
言うと、今まで黙ってい見ていた深見先輩が、ほがらかな口調で言った。
「すごーい、穂高くん、頭良いねぇ。あくまで、みんな王様にやられちゃってるってとこを押し通すつもりなんだな? でも、ダメだよ。俺は穂高くんに、この王様の首根っこ掴んでコントロールしてもらいたいって思っているんだから。俺が王様にやられちゃっていたら、こんな考えは出てこない。そう思わないか、穂高くん?」
笑顔ながら辛辣な、深見先輩の言葉が衝撃的で、僕は戸惑った。
「え、でも…藤代をコントロールなんて」
「できるだろ? 王様は君のいいなりだ」
その言葉を聞いた刹那、僕は弾かれたように椅子から立ち上がった。
驚愕と怒りで、唇が震える。
「藤代が僕を従わせているんだっ、僕が藤代を操っているんじゃない。そんな…そんなこと、ないっ」
声を荒げるほどに、なんだか無性に腹が立った。
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僕は、藤代に従っているんだ。意に添わないことを、雑用を、なにもかも。
ちょっと、生徒会だけは回避したかっただけだ。
なのに、そんなこと。
藤代に操られているつもりで、僕が藤代を操っているなんて。
そんなわけない、そんなわけない、そんなわけないって、心が叫んでいた。
僕は、藤代の被害者なんだから。
被害者…本当に、僕は被害者なのか?
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