29 / 44
28 次期副会長に推薦したい 穂高side
しおりを挟む
放課後の生徒会室。僕は扉の前に立ち、重いため息をつく。
今回は、いつものように藤代に用を言いつけられてきたわけではない。副会長の萩原先輩から呼び出されたのだ。
でも時期も時期だけに、生徒会勧誘の件だと察してはいた。
藤代には、来期の生徒会入りをきっぱり断っている。
彼が権勢を奮っている間は、選挙は完全に出来レース。藤代が望む者、欲する者に、生徒たちは票を入れる、そういう流れになっているのだ。
アンフェアなものに関わりたくない。自分で言うのもなんだがその点、僕は潔癖なのだ。
しかし、藤代にならきっぱりとノーを突きつけられるが、藤代に魅了されている生徒会役員に断りを入れるのは骨が折れそう。めんどくさっ。
とはいえ、先輩の呼び出しを無視することもできなくて。僕はノックして扉を開けた。
「千雪? なにか俺に用か?」
室内にある執務机の前に座る藤代が、とびっきりの笑顔で僕を迎えた。まぶしい。
呼ばなければ寄りつかない生徒会室に僕が思いがけず現れたものだから、喜びの明度が普段の倍、きらびやかだ。キラキラで陰キャが滅されるから、少しその気持ちを隠してほしい。
「いや、今日は萩原先輩に呼ばれたんだ」
手を彼に向けて制し、ついでに手をかざして彼のキラキラも防ぐ。
というか、自分の部下の動向を把握していないわけないだろう、と思っていたのだが。
自分への用事でないと藤代が拗ねる様子を見ると、僕がなぜ呼び出されたのか藤代も知らないのかな?
「そうなの。よく来てくれたわね、穂高くん。折り入って話があるのよぉ、まぁまぁ、座って。修ちゃん、お茶」
短髪でボーイッシュな萩原先輩に、円卓の椅子をすすめられ、僕は藤代の対面に当たる席に腰かけた。
隣に萩原先輩が座り、その横に深見先輩が立つ。
緊張感漂う室内を、深見先輩がいれてくれた紅茶の湯気がなごやかにする。
そして萩原先輩が口火を切った。
「単刀直入に言うわね、私と修ちゃんは穂高くんを次期副会長に推薦したいと思っています」
それを聞き、僕はギョンとした怒りの目を藤代に向ける。
自分でどうにもできないからって、僕らの話に他人を巻き込むなよ。って眼差しだ。
藤代はワタワタと、手を横に振る。今更誤魔化すな。
しかし藤代のその様子を見たからか、萩原先輩がフォローしてきた。
「あぁ、会長は穂高くんに断られたって言っていたわよ。今日ここに穂高くんを呼んだのは私の独断だから、会長は知らないことなの」
「理由あってのことです。すみません」
素っ気なく、僕は断って頭を下げる。
藤代が誰を頼ろうが、誰も頼っていなくても、僕の答えは決まっている。
「その理由がぁ、納得できないのよね」
ちょっとため息をついて、萩原先輩が紅茶を一口飲んだ。
生徒会役員は藤代の能力に惑わされている。萩原先輩も、藤代の望みを叶えようとして必死なのだろうと思った。
「私と修ちゃんは、会長の能力について大体のことを聞いているわ。だから、唯々諾々と会長に従う役員だと思わないで、話を聞いてほしいの」
その話は初耳だ。自分以外に藤代の能力を知る人がいるなんて。
藤代に目を向けると、彼は本当だとうなずいて見せた。
「千雪みたいに気づかれたわけじゃないんだ。生徒会を適正に運営するのに必要だと思って、自分から話した」
目の力をゆるめ、僕は納得してうなずく。
藤代はそういう、生真面目な気質も持ち合わせている。
人を従わせられる能力を持ちながら、それに溺れず、真っ当に生きようとする姿勢は、藤代の善良な部分だと思っている。
たとえば、藤代はその気になったらハーレムを作ることだってできる。
学園全体を牛耳って、好き勝手に振舞うこともできる。
教師からテスト用紙を提供させることができるなら、勉強をしなくても医大に合格できるだろう。
でも、彼はそれをしない。
僕にはなにかしら雑用をさせたがるけど、他人に無茶な仕事を押しつけることはないし。
自由に采配してもいいのに、生徒会の運営をまともに執行しようとしている。
医者も、なりたくなかったら違うことをしたって親は反対しないと思うけど、室町時代から続く医者の系譜を存続しようとして、自ら勉強をしている。
そういう面については…僕は彼に好感を持っていた。
好感、というか…まぁ、普通にすごいと思うよね。えらいよ、えらい。
逆に、そんな面がなかったら…超軽蔑して、反発しまくったかもしれないけどな。
「会長の能力は特殊よ。だから会長をよく知る者に、彼を補佐して欲しいと思っているの。それは会長のためでもあるけれど、学園のためでもある。なので、その実現に向け、私は穂高くんの主張を論破します」
萩原先輩が宣言し、僕は驚いて背筋を伸ばした。
いったい、なにがはじまるんだ?
今回は、いつものように藤代に用を言いつけられてきたわけではない。副会長の萩原先輩から呼び出されたのだ。
でも時期も時期だけに、生徒会勧誘の件だと察してはいた。
藤代には、来期の生徒会入りをきっぱり断っている。
彼が権勢を奮っている間は、選挙は完全に出来レース。藤代が望む者、欲する者に、生徒たちは票を入れる、そういう流れになっているのだ。
アンフェアなものに関わりたくない。自分で言うのもなんだがその点、僕は潔癖なのだ。
しかし、藤代にならきっぱりとノーを突きつけられるが、藤代に魅了されている生徒会役員に断りを入れるのは骨が折れそう。めんどくさっ。
とはいえ、先輩の呼び出しを無視することもできなくて。僕はノックして扉を開けた。
「千雪? なにか俺に用か?」
室内にある執務机の前に座る藤代が、とびっきりの笑顔で僕を迎えた。まぶしい。
呼ばなければ寄りつかない生徒会室に僕が思いがけず現れたものだから、喜びの明度が普段の倍、きらびやかだ。キラキラで陰キャが滅されるから、少しその気持ちを隠してほしい。
「いや、今日は萩原先輩に呼ばれたんだ」
手を彼に向けて制し、ついでに手をかざして彼のキラキラも防ぐ。
というか、自分の部下の動向を把握していないわけないだろう、と思っていたのだが。
自分への用事でないと藤代が拗ねる様子を見ると、僕がなぜ呼び出されたのか藤代も知らないのかな?
「そうなの。よく来てくれたわね、穂高くん。折り入って話があるのよぉ、まぁまぁ、座って。修ちゃん、お茶」
短髪でボーイッシュな萩原先輩に、円卓の椅子をすすめられ、僕は藤代の対面に当たる席に腰かけた。
隣に萩原先輩が座り、その横に深見先輩が立つ。
緊張感漂う室内を、深見先輩がいれてくれた紅茶の湯気がなごやかにする。
そして萩原先輩が口火を切った。
「単刀直入に言うわね、私と修ちゃんは穂高くんを次期副会長に推薦したいと思っています」
それを聞き、僕はギョンとした怒りの目を藤代に向ける。
自分でどうにもできないからって、僕らの話に他人を巻き込むなよ。って眼差しだ。
藤代はワタワタと、手を横に振る。今更誤魔化すな。
しかし藤代のその様子を見たからか、萩原先輩がフォローしてきた。
「あぁ、会長は穂高くんに断られたって言っていたわよ。今日ここに穂高くんを呼んだのは私の独断だから、会長は知らないことなの」
「理由あってのことです。すみません」
素っ気なく、僕は断って頭を下げる。
藤代が誰を頼ろうが、誰も頼っていなくても、僕の答えは決まっている。
「その理由がぁ、納得できないのよね」
ちょっとため息をついて、萩原先輩が紅茶を一口飲んだ。
生徒会役員は藤代の能力に惑わされている。萩原先輩も、藤代の望みを叶えようとして必死なのだろうと思った。
「私と修ちゃんは、会長の能力について大体のことを聞いているわ。だから、唯々諾々と会長に従う役員だと思わないで、話を聞いてほしいの」
その話は初耳だ。自分以外に藤代の能力を知る人がいるなんて。
藤代に目を向けると、彼は本当だとうなずいて見せた。
「千雪みたいに気づかれたわけじゃないんだ。生徒会を適正に運営するのに必要だと思って、自分から話した」
目の力をゆるめ、僕は納得してうなずく。
藤代はそういう、生真面目な気質も持ち合わせている。
人を従わせられる能力を持ちながら、それに溺れず、真っ当に生きようとする姿勢は、藤代の善良な部分だと思っている。
たとえば、藤代はその気になったらハーレムを作ることだってできる。
学園全体を牛耳って、好き勝手に振舞うこともできる。
教師からテスト用紙を提供させることができるなら、勉強をしなくても医大に合格できるだろう。
でも、彼はそれをしない。
僕にはなにかしら雑用をさせたがるけど、他人に無茶な仕事を押しつけることはないし。
自由に采配してもいいのに、生徒会の運営をまともに執行しようとしている。
医者も、なりたくなかったら違うことをしたって親は反対しないと思うけど、室町時代から続く医者の系譜を存続しようとして、自ら勉強をしている。
そういう面については…僕は彼に好感を持っていた。
好感、というか…まぁ、普通にすごいと思うよね。えらいよ、えらい。
逆に、そんな面がなかったら…超軽蔑して、反発しまくったかもしれないけどな。
「会長の能力は特殊よ。だから会長をよく知る者に、彼を補佐して欲しいと思っているの。それは会長のためでもあるけれど、学園のためでもある。なので、その実現に向け、私は穂高くんの主張を論破します」
萩原先輩が宣言し、僕は驚いて背筋を伸ばした。
いったい、なにがはじまるんだ?
111
あなたにおすすめの小説
【完結】言えない言葉
未希かずは(Miki)
BL
双子の弟・水瀬碧依は、明るい兄・翼と比べられ、自信がない引っ込み思案な大学生。
同じゼミの気さくで眩しい如月大和に密かに恋するが、話しかける勇気はない。
ある日、碧依は兄になりすまし、本屋のバイトで大和に近づく大胆な計画を立てる。
兄の笑顔で大和と心を通わせる碧依だが、嘘の自分に葛藤し……。
すれ違いを経て本当の想いを伝える、切なく甘い青春BLストーリー。
第1回青春BLカップ参加作品です。
1章 「出会い」が長くなってしまったので、前後編に分けました。
2章、3章も長くなってしまって、分けました。碧依の恋心を丁寧に書き直しました。(2025/9/2 18:40)
【完結】恋した君は別の誰かが好きだから
花村 ネズリ
BL
本編は完結しました。後日、おまけ&アフターストーリー随筆予定。
青春BLカップ31位。
BETありがとうございました。
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
俺が好きになった人は、別の誰かが好きだからーー。
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
二つの視点から見た、片思い恋愛模様。
じれきゅん
ギャップ攻め
両片思いの幼馴染
kouta
BL
密かに恋をしていた幼馴染から自分が嫌われていることを知って距離を取ろうとする受けと受けの突然の変化に気づいて苛々が止まらない攻めの両片思いから始まる物語。
くっついた後も色々とすれ違いながら最終的にはいつもイチャイチャしています。
めちゃくちゃハッピーエンドです。
完結|好きから一番遠いはずだった
七角@書籍化進行中!
BL
大学生の石田陽は、石ころみたいな自分に自信がない。酒の力を借りて恋愛のきっかけをつかもうと意気込む。
しかしサークル歴代最高イケメン・星川叶斗が邪魔してくる。恋愛なんて簡単そうなこの後輩、ずるいし、好きじゃない。
なのにあれこれ世話を焼かれる。いや利用されてるだけだ。恋愛相手として最も遠い後輩に、勘違いしない。
…はずだった。
先輩のことが好きなのに、
未希かずは(Miki)
BL
生徒会長・鷹取要(たかとりかなめ)に憧れる上川陽汰(かみかわはるた)。密かに募る想いが通じて無事、恋人に。二人だけの秘密の恋は甘くて幸せ。だけど、少しずつ要との距離が開いていく。
何で? 先輩は僕のこと嫌いになったの?
切なさと純粋さが交錯する、青春の恋物語。
《美形✕平凡》のすれ違いの恋になります。
要(高3)生徒会長。スパダリだけど……。
陽汰(高2)書記。泣き虫だけど一生懸命。
夏目秋良(高2)副会長。陽汰の幼馴染。
5/30日に少しだけ順番を変えたりしました。内容は変わっていませんが、読み途中の方にはご迷惑をおかけしました。
その告白は勘違いです
雨宮里玖
BL
高校三年生の七沢は成績が悪く卒業の危機に直面している。そのため、成績トップの有馬に勉強を教えてもらおうと試みる。
友人の助けで有馬とふたりきりで話す機会を得たのはいいが、勉強を教えてもらうために有馬に話しかけたのに、なぜか有馬のことが好きだから近づいてきたように有馬に勘違いされてしまう。
最初、冷たかったはずの有馬は、ふたりで過ごすうちに態度が変わっていく。
そして、七沢に
「俺も、お前のこと好きになったかもしれない」
と、とんでもないことを言い出して——。
勘違いから始まる、じれきゅん青春BLラブストーリー!
七沢莉紬(17)
受け。
明るく元気、馴れ馴れしいタイプ。いろいろとふざけがち。成績が悪く卒業が危ぶまれている。
有馬真(17)
攻め。
優等生、学級委員長。クールで落ち着いている。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる