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30 さらに上に立っている 穂高side
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藤代が僕のいいなりだと深見先輩に言われ、僕はひどく動揺した。
でも。息を大きく吸い込んで、冷静さを取り戻す。
「藤代は、誰かのいいなりになるような男じゃない。みんなを従わせ、みんなの上に立つ。それが当たり前の男でしょ?」
「だからぁ、穂高くんはみんなの上に立つ会長の、さらに上に立っている男だって俺は言っているんだよ」
深見先輩の指摘は、容易にうなずけなかった。
でも、自分にだけ激しい感情を向け、甘えても来る藤代を、庇護する気持ちが僕の中にあった。
情緒不安定な彼を守ってやる、という思いは優越的だと言えなくもないかもしれない。
みんなを従わせられる藤代を、守ってやるだなんて。傲慢かもな。
無意識に、僕は彼の優位に立っていたのだろうか?
そして、すでに外からもそう見えているのかも。王様を従わせる下僕? 事実じゃないのに、そう思われていたらショックだ。
「王様に惑わされないのが穂高くんだけなら、王様をうまくコントロールする義務が穂高くんにはある。だから、四の五の言わずに副会長の椅子に座れっつぅの」
「ちょっと、深見先輩…」
深見先輩に凄まれている僕をかばってくれているのか、藤代が口を挟んだ。
「王様はぁ、黙っていてください。今、良いところなんだ。なぁ、穂高くん?」
ツンツンと髪を立てているふざけた髪型ながら、深見先輩は厳しい視線を僕に向ける。
笑顔だけど、目が笑っていないし。その迫力には、僕のみならず藤代も気圧されていた。
「…反論、できません」
僕は、立候補しない理由をいろいろ考えた。でも萩原先輩と深見先輩を納得させられるような理由が思いつかなかった。
いや、よくよく考えれば、言い逃れる策はあったと思う。ぶっちゃけ、生徒会に時間取られたくないからやりたくないんですって言ってしまっても良かったんだけど。
そうしなかったのは、僕も藤代の特異性に思うところがあるからなのだ。
野放しにできないというか、助言する者がそばにいた方が良いとも思うし。
なにより、特殊な藤代を、自分たちが引退したあと支えてほしいと願う彼らに、共感したからだ。
「コントロール、とかじゃないですけど。僕が………藤代を補佐します」
本当は、すごーく面倒くさくて。すごーく自分じゃない者にやって欲しいことだったのだけど。
彼らにはっきり承諾した。
不安定な藤代は、僕がそばにいれば少しはマシだろう。
梓浜学園の生徒会長に藤代が君臨し続けるのなら、指一本分くらい、僕が彼を支えてもいい。
嫌いだと、彼から遠ざかることばかり考えていたけど。僕の中にそんな気持ちが芽生えていたみたいだ。
「じゃあ、今書いてくれる?」
おずおずと、萩原先輩が立候補受付の用紙を差し出してきた。
僕は、必要事項を記入する。
藤代…執務机の前で、目をキラキラさせるのはやめてくれ。
「はい、受理しましたぁぁ」
明るい笑顔で、萩原先輩と深見先輩がハイタッチして。そこに藤代も笑顔で加わるが。
ハイタッチしたあとに、先輩方は藤代に言い渡した。
「では、会長。穂高くんへの接近禁止を命じます」
「はぁぁ?」
僕は、藤代が絶対に嫌がるだろうことを萩原先輩が言ったことに驚いた。
藤代は、そんなことできないとばかりに眉尻を下げる。
「無理無理、俺と千雪は教室の席が前後しているんだよ? それに恋人だし、友達だしぃぃ」
「席が前後していても、話しかけちゃダメ。校内で、会長はなるべく穂高くんに近づかないで。あと、話さない、触らない、呼び出さない。友達との会話の中に、穂高くんの話題をブッこむのも禁止。万が一、穂高くんに票を入れろと口にしたら、その時点で彼の生徒会入りはなくなりますからね」
きっぱりと萩原先輩が藤代に言う。
「嘘だろ? なんだよそれぇ。千雪としゃべれないなんて、俺に死ねって言ってんのか?」
「穂高くんが無理を承知してくれたんだから、会長も少し死ぬくらいは我慢してください。穂高くんが副会長になるまでの辛抱です。あ、圧力かけないでよぉ、私は、会長のゴリ押しは弱いんだからね。穂高くんが生徒会に入れなくてもいいの!?」
萩原先輩は藤代の視線の圧から逃れるように、円卓の周りを逃げ始めた。
それはともかく。
ここで一番重要なのは、今回の選挙が公正に行われたと僕が認めなければならないということ。まぁそれを、藤代も理解しているのだろう。逃げる萩原先輩を追いかけることはなかった。
それでも、僕は少し申し訳なく思う。
だって、これは無駄骨になりそうなことだから。
「萩原先輩、深見先輩、ごめんなさい。藤代を補佐するなんて大きなことを言ってしまいましたが。藤代の熱狂的なファンには、僕は疎まれているので受からないと思いますよ。さっきは五分五分だなんて言っていましたが、藤代が口を出さないのなら、僕の支持者はたぶんゼロです」
「なんか、可愛い生き物、来ましたけどぉぉ??」
申し訳なさそうに言ったら、萩原先輩がきゃぁと高い声を出した。
意味不明で首を傾げる僕に、深見先輩が言うのだ。
「ふふ、君を当選させるのが俺らの最期の仕事さ。大丈夫、君を論破したこの頭脳をフル活用して、穂高くんを必ず副会長にしてみせるよっ。あぁ、腕が鳴るなぁ。選挙活動は俺らが主導してやるんで、穂高くんはそれに従ってくれたらいいから。では、追って沙汰を出す」
僕は深見先輩に肩を押され、生徒会室から出されてしまった。
竜巻に巻き込まれ、グルグル回されたあと空間にポイっと投げ捨てられた、そんな感覚がした。
え? もういいの? 帰り、ますけどぉぉ??
でも。息を大きく吸い込んで、冷静さを取り戻す。
「藤代は、誰かのいいなりになるような男じゃない。みんなを従わせ、みんなの上に立つ。それが当たり前の男でしょ?」
「だからぁ、穂高くんはみんなの上に立つ会長の、さらに上に立っている男だって俺は言っているんだよ」
深見先輩の指摘は、容易にうなずけなかった。
でも、自分にだけ激しい感情を向け、甘えても来る藤代を、庇護する気持ちが僕の中にあった。
情緒不安定な彼を守ってやる、という思いは優越的だと言えなくもないかもしれない。
みんなを従わせられる藤代を、守ってやるだなんて。傲慢かもな。
無意識に、僕は彼の優位に立っていたのだろうか?
そして、すでに外からもそう見えているのかも。王様を従わせる下僕? 事実じゃないのに、そう思われていたらショックだ。
「王様に惑わされないのが穂高くんだけなら、王様をうまくコントロールする義務が穂高くんにはある。だから、四の五の言わずに副会長の椅子に座れっつぅの」
「ちょっと、深見先輩…」
深見先輩に凄まれている僕をかばってくれているのか、藤代が口を挟んだ。
「王様はぁ、黙っていてください。今、良いところなんだ。なぁ、穂高くん?」
ツンツンと髪を立てているふざけた髪型ながら、深見先輩は厳しい視線を僕に向ける。
笑顔だけど、目が笑っていないし。その迫力には、僕のみならず藤代も気圧されていた。
「…反論、できません」
僕は、立候補しない理由をいろいろ考えた。でも萩原先輩と深見先輩を納得させられるような理由が思いつかなかった。
いや、よくよく考えれば、言い逃れる策はあったと思う。ぶっちゃけ、生徒会に時間取られたくないからやりたくないんですって言ってしまっても良かったんだけど。
そうしなかったのは、僕も藤代の特異性に思うところがあるからなのだ。
野放しにできないというか、助言する者がそばにいた方が良いとも思うし。
なにより、特殊な藤代を、自分たちが引退したあと支えてほしいと願う彼らに、共感したからだ。
「コントロール、とかじゃないですけど。僕が………藤代を補佐します」
本当は、すごーく面倒くさくて。すごーく自分じゃない者にやって欲しいことだったのだけど。
彼らにはっきり承諾した。
不安定な藤代は、僕がそばにいれば少しはマシだろう。
梓浜学園の生徒会長に藤代が君臨し続けるのなら、指一本分くらい、僕が彼を支えてもいい。
嫌いだと、彼から遠ざかることばかり考えていたけど。僕の中にそんな気持ちが芽生えていたみたいだ。
「じゃあ、今書いてくれる?」
おずおずと、萩原先輩が立候補受付の用紙を差し出してきた。
僕は、必要事項を記入する。
藤代…執務机の前で、目をキラキラさせるのはやめてくれ。
「はい、受理しましたぁぁ」
明るい笑顔で、萩原先輩と深見先輩がハイタッチして。そこに藤代も笑顔で加わるが。
ハイタッチしたあとに、先輩方は藤代に言い渡した。
「では、会長。穂高くんへの接近禁止を命じます」
「はぁぁ?」
僕は、藤代が絶対に嫌がるだろうことを萩原先輩が言ったことに驚いた。
藤代は、そんなことできないとばかりに眉尻を下げる。
「無理無理、俺と千雪は教室の席が前後しているんだよ? それに恋人だし、友達だしぃぃ」
「席が前後していても、話しかけちゃダメ。校内で、会長はなるべく穂高くんに近づかないで。あと、話さない、触らない、呼び出さない。友達との会話の中に、穂高くんの話題をブッこむのも禁止。万が一、穂高くんに票を入れろと口にしたら、その時点で彼の生徒会入りはなくなりますからね」
きっぱりと萩原先輩が藤代に言う。
「嘘だろ? なんだよそれぇ。千雪としゃべれないなんて、俺に死ねって言ってんのか?」
「穂高くんが無理を承知してくれたんだから、会長も少し死ぬくらいは我慢してください。穂高くんが副会長になるまでの辛抱です。あ、圧力かけないでよぉ、私は、会長のゴリ押しは弱いんだからね。穂高くんが生徒会に入れなくてもいいの!?」
萩原先輩は藤代の視線の圧から逃れるように、円卓の周りを逃げ始めた。
それはともかく。
ここで一番重要なのは、今回の選挙が公正に行われたと僕が認めなければならないということ。まぁそれを、藤代も理解しているのだろう。逃げる萩原先輩を追いかけることはなかった。
それでも、僕は少し申し訳なく思う。
だって、これは無駄骨になりそうなことだから。
「萩原先輩、深見先輩、ごめんなさい。藤代を補佐するなんて大きなことを言ってしまいましたが。藤代の熱狂的なファンには、僕は疎まれているので受からないと思いますよ。さっきは五分五分だなんて言っていましたが、藤代が口を出さないのなら、僕の支持者はたぶんゼロです」
「なんか、可愛い生き物、来ましたけどぉぉ??」
申し訳なさそうに言ったら、萩原先輩がきゃぁと高い声を出した。
意味不明で首を傾げる僕に、深見先輩が言うのだ。
「ふふ、君を当選させるのが俺らの最期の仕事さ。大丈夫、君を論破したこの頭脳をフル活用して、穂高くんを必ず副会長にしてみせるよっ。あぁ、腕が鳴るなぁ。選挙活動は俺らが主導してやるんで、穂高くんはそれに従ってくれたらいいから。では、追って沙汰を出す」
僕は深見先輩に肩を押され、生徒会室から出されてしまった。
竜巻に巻き込まれ、グルグル回されたあと空間にポイっと投げ捨てられた、そんな感覚がした。
え? もういいの? 帰り、ますけどぉぉ??
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