【完結】いいなりなのはキスのせい

北川晶

文字の大きさ
32 / 44

31 僕は、間違っていた  穂高side

しおりを挟む
 もう用済みだ、とばかりに生徒会室を追い出された僕。もう帰っていいのかな? と思っていると、扉が開いて藤代が部屋から出てきた。
「待って、千雪」
 慌てた様子で、藤代は廊下で僕の腕を掴む。
「大丈夫か? どうしても気が進まないようなら、受付用紙を取り返してやるぞ」
 心配そうに僕をみつめる藤代。だけど…。
「君が僕を生徒会に入れたかったくせに、撤回してもいいのか?」
「いや…だけど…千雪が嫌々なのも嫌かなって。もちろん、千雪と生徒会がやれたら最高だけど、でも…」
 珍しくうだうだ言う藤代が、僕はなんだか憎めなくて。
 そして、ちょっと愉快な気分になって、笑った。
「はは、まさか僕も、言いくるめられるとは思っていなかった。君の能力がある限り、誰も僕の主張を崩せないと思っていたんだ。誰がなにを言おうと、藤代の望みを叶えたいだけでしょって言い張るつもりだった。でもまさか、藤代の能力を知る人物がいて、彼らは自我を保っていられるとはね」
「自我。あぁ、なるほどな。俺の力は、他者の自我を弱めて従わせているということ?」
「推測だけど。己の意思に反することでも藤代の意に従ってしまうというのは、そういうことなんじゃないかな?」
 僕も藤代も、推測を出すそばから納得してうなずいている。
 まぁ、憶測だから、本当のところはわからないけど。
 藤代がどこまでの他者を操れるのか、その精度は? など、わからないことの方が多い。

「先輩方は、もちろん藤代の意向もあっただろうが、彼らの意思で僕を生徒会に入れたいと思っていた。そして僕の説得に成功した。それは萩原先輩と深見先輩の頭の回転の速さと優れたコンビネーションの成果だと思う。先輩方のような有能な人と知り合う機会があるのなら、生徒会入りも悪くないと思ったよ」
 僕が、先輩方を褒めると、藤代はあからさまに、口をへの字にし。そしてそれがニュッと突き出てくる。
 色艶の良い唇をとがらせても、色っぽいだけで、迫力が皆無だぞ。
 そんな藤代に、僕はたずねた。

「君は、僕のいいなりなのか?」
「そんなの、決まっているじゃないか」

 今まで知らなかったのか? というように目をみはり、驚愕の顔つきで見てくるけど。
 いや、そんなの知らないし、決まってもいない。
 だって、僕が藤代になんでも従ってきたんだから。

「千雪が望むなら、ウサ耳つけて踊ってもいい。テスト問題を盗みに行ってもいい」
「そんなこと望まない。不正で一位を取ったって、むなしいだけだ。ここまでしなければ僕は一位を取れないのかって、逆に自信喪失だよ」
「千雪はいつか一位を取れるよ。ウサ耳は?」
「学年一位のおまえに言われたくない。つか、ウサ耳も望まないが」
 冷静にツッコむ。
 でも、藤代が真剣な面持ちを崩さないから、僕は話の続きを黙って聞いた。

「千雪が望むならなんでもする。でも、別れろと言われたら、うなずけない。そこまでいいなりにはなれないよ。けれどそれって、恋人としての普通の感覚だろ?」
「あぁ、普通だ」
 恋人と別れたくないという思いは、ごく当たり前のこと。藤代の歴代彼女は、その思いを捻じ曲げられ、承諾してきたのだ。彼女たちは己の主張を藤代に告げる機会を奪われて、可哀想だけど。
 それが普通のことなのだと、今まで知らなかった藤代も、そういう環境を与えられなかったわけだから可哀想なのかもしれない。
 藤代は、修羅場のひとつやふたつは経験しておくべきだよ。

「普通って、なんか良いな。千雪となら、俺は普通の恋人同士になれる。千雪の前でだけ、俺は普通でいられるんだ」
 ほのぼのとした笑みを浮かべ、藤代は嬉しげに己の気持ちを伝えた。

 このとき。僕の胸に熱いものが込み上げてきた。

 何ヶ月もの間、僕は藤代に、好きだの愛しているだの言われ続けてきたが。本気にしていなかったのだ。
 今まで簡単に獲得できたものが、手にすることができずにムキになっている。
 特別なものだと思いこむことで生まれる執着。
 そんなふうに、彼の気持ちをとらえていたのだ。

 でも今、はじめて彼の好きという気持ちが僕の胸に刺さった。

「僕は、間違っていた」
 思わず、つぶやく。

 そのとき生徒会室の扉がガンガン鳴った。萩原先輩が扉を少し開けてジト目でこちらを見ている。
「会長、接近禁止」
 藤代は、なにか問いたげな目を僕に向けるが。
 待て。僕もまだ、自分の考えや気持ちの整理ができていない。

「選挙が終わったら、話をしよう」
 言って、僕は藤代に背を向けた。

 ひとりで教室に戻り、ひとりで帰り支度をして帰路につく、久々のひとりだけの下校だ。
 その帰り道で、僕は先ほどのつぶやきの言葉を改めて考えてみる。
 僕は唐突に、自分の行いが間違いであったことに気づいたのだ。
 ずっと、藤代に魅了され、いいなりになっている男を演じてきた。特別ではない、普通の男だと。
 でも。藤代の元カノに比べたら、僕はあきらかにいいなりではなかった。普通ではない男だった。
 彼に魅了されるのは、彼にとって普通のこと。
 そして彼に魅了されない男は、普通ではない男だということだ。
 その上で、藤代は『普通の恋人』を求めていた。
 この場合の普通の恋人は、能力に惑わされていない、一般的な恋人同士の有様だ。

 つまり。僕が彼に接していた状態は、彼が欲してやまない、普通の恋人の態だった。

 彼が一番求めていたものを、知らず提供していたってこと。それじゃあ、藤代が僕に飽きることなんかないよ。
 僕は、藤代が僕に飽きて離れていく場面を長い間夢に見ていた。
 彼が乱暴に豹変して、意識を失って、死ぬかと思って、おびえて、僕の意に添わないキスをして僕を無理やり従わせようとした。
 あの日のことが忘れられない。
 今でも彼が嫌いだ。

 でも。自分だけに甘えてすがる彼を、愛おしいと思う気持ちも、心の中に確かに存在していて。
 その気持ちも、本当なのだ。

 僕が間違えたとつぶやいたのは、自分の、この複雑な感情と向き合わなかったこと。
 そして、この件について藤代となにも話さなかった、半年も彼と向き合わなかった。
 それを、間違いだと思ったのだ。

 僕は藤代のこと、好きなのか、嫌いなのか。わからない。

 なのに。
 夕暮れの帰り道、いざひとりで立ち尽くすと。
 道に映る、なにも寄り添わない自分の影が寂しいと感じる。
 藤代のいない隣が、ちょっと寒かった。

しおりを挟む
感想 13

あなたにおすすめの小説

金の野獣と薔薇の番

むー
BL
結季には記憶と共に失った大切な約束があった。 ❇︎❇︎❇︎❇︎❇︎ 止むを得ない事情で全寮制の学園の高等部に編入した結季。 彼は事故により7歳より以前の記憶がない。 高校進学時の検査でオメガ因子が見つかるまでベータとして養父母に育てられた。 オメガと判明したがフェロモンが出ることも発情期が来ることはなかった。 ある日、編入先の学園で金髪金眼の皇貴と出逢う。 彼の纒う薔薇の香りに発情し、結季の中のオメガが開花する。 その薔薇の香りのフェロモンを纏う皇貴は、全ての性を魅了し学園の頂点に立つアルファだ。 来るもの拒まずで性に奔放だが、番は持つつもりはないと公言していた。 皇貴との出会いが、少しずつ結季のオメガとしての運命が動き出す……? 4/20 本編開始。 『至高のオメガとガラスの靴』と同じ世界の話です。 (『至高の〜』完結から4ヶ月後の設定です。) ※シリーズものになっていますが、どの物語から読んでも大丈夫です。 【至高のオメガとガラスの靴】  ↓ 【金の野獣と薔薇の番】←今ココ  ↓ 【魔法使いと眠れるオメガ】

【完結】大学で再会した幼馴染(初恋相手)に恋人のふりをしてほしいと頼まれた件について

kouta
BL
大学で再会した幼馴染から『ストーカーに悩まされている。半年間だけ恋人のふりをしてほしい』と頼まれた夏樹。『焼き肉奢ってくれるなら』と承諾したものの次第に意識してしまうようになって…… ※ムーンライトノベルズでも投稿しています

【完結】薄幸文官志望は嘘をつく

七咲陸
BL
サシャ=ジルヴァールは伯爵家の長男として産まれるが、紫の瞳のせいで両親に疎まれ、弟からも蔑まれる日々を送っていた。 忌々しい紫眼と言う両親に幼い頃からサシャに魔道具の眼鏡を強要する。認識阻害がかかったメガネをかけている間は、サシャの顔や瞳、髪色までまるで別人だった。 学園に入学しても、サシャはあらぬ噂をされてどこにも居場所がない毎日。そんな中でもサシャのことを好きだと言ってくれたクラークと言う茶色の瞳を持つ騎士学生に惹かれ、お付き合いをする事に。 しかし、クラークにキスをせがまれ恥ずかしくて逃げ出したサシャは、アーヴィン=イブリックという翠眼を持つ騎士学生にぶつかってしまい、メガネが外れてしまったーーー… 認識阻害魔道具メガネのせいで2人の騎士の間で別人を演じることになった文官学生の恋の話。 全17話 2/28 番外編を更新しました

【本編完結】才色兼備の幼馴染♂に振り回されるくらいなら、いっそ赤い糸で縛って欲しい。

ホマレ
BL
才色兼備で『氷の王子』と呼ばれる幼なじみ、藍と俺は気づけばいつも一緒にいた。 その関係が当たり前すぎて、壊れるなんて思ってなかった——藍が「彼女作ってもいい?」なんて言い出すまでは。 胸の奥がざわつき、藍が他の誰かに取られる想像だけで苦しくなる。 それでも「友達」のままでいられるならと思っていたのに、藍の言葉に行動に振り回されていく。 運命の赤い糸が見えていれば、この関係を紐解けるのに。

【完結】もしかして俺の人生って詰んでるかもしれない

バナナ男さん
BL
唯一の仇名が《根暗の根本君》である地味男である<根本 源(ねもと げん)>には、まるで王子様の様なキラキラ幼馴染<空野 翔(そらの かける)>がいる。 ある日、そんな幼馴染と仲良くなりたいカースト上位女子に呼び出され、金魚のフンと言われてしまい、改めて自分の立ち位置というモノを冷静に考えたが……あれ?なんか俺達っておかしくない?? イケメンヤンデレ男子✕地味な平凡男子のちょっとした日常の一コマ話です。

この噛み痕は、無効。

ことわ子
BL
執着強めのαで高校一年生の茜トキ×αアレルギーのβで高校三年生の品野千秋 α、β、Ωの三つの性が存在する現代で、品野千秋(しなのちあき)は一番人口が多いとされる平凡なβで、これまた平凡な高校三年生として暮らしていた。 いや、正しくは"平凡に暮らしたい"高校生として、自らを『αアレルギー』と自称するほど日々αを憎みながら生活していた。 千秋がαアレルギーになったのは幼少期のトラウマが原因だった。その時から千秋はαに対し強い拒否反応を示すようになり、わざわざαのいない高校へ進学するなど、徹底してαを避け続けた。 そんなある日、千秋は体育の授業中に熱中症で倒れてしまう。保健室で目を覚ますと、そこには親友の向田翔(むこうだかける)ともう一人、初めて見る下級生の男がいた。 その男と、トラウマの原因となった人物の顔が重なり千秋は混乱するが、男は千秋の混乱をよそに急に距離を詰めてくる。 「やっと見つけた」 男は誰もが見惚れる顔でそう言った。

【完結済】俺のモノだと言わない彼氏

竹柏凪紗
BL
「俺と付き合ってみねぇ?…まぁ、俺、彼氏いるけど」彼女に罵倒されフラれるのを寮部屋が隣のイケメン&遊び人・水島大和に目撃されてしまう。それだけでもショックなのに壁ドン状態で付き合ってみないかと迫られてしまった東山和馬。「ははは。いいねぇ。お前と付き合ったら、教室中の女子に刺されそう」と軽く受け流した。…つもりだったのに、翌日からグイグイと迫られるうえ束縛まではじまってしまい──?! ■青春BLに限定した「第1回青春×BL小説カップ」最終21位まで残ることができ感謝しかありません。応援してくださった皆様、本当にありがとうございました。

【完結】俺はずっと、おまえのお嫁さんになりたかったんだ。

ペガサスサクラ
BL
※あらすじ、後半の内容にやや二章のネタバレを含みます。 幼なじみの悠也に、恋心を抱くことに罪悪感を持ち続ける楓。 逃げるように東京の大学に行き、田舎故郷に二度と帰るつもりもなかったが、大学三年の夏休みに母親からの電話をきっかけに帰省することになる。 見慣れた駅のホームには、悠也が待っていた。あの頃と変わらない無邪気な笑顔のままー。 何年もずっと連絡をとらずにいた自分を笑って許す悠也に、楓は戸惑いながらも、そばにいたい、という気持ちを抑えられず一緒に過ごすようになる。もう少し今だけ、この夏が終わったら今度こそ悠也のもとを去るのだと言い聞かせながら。 しかしある夜、悠也が、「ずっと親友だ」と自分に無邪気に伝えてくることに耐えきれなくなった楓は…。 お互いを大切に思いながらも、「すき」の色が違うこととうまく向き合えない、不器用な少年二人の物語。 主人公楓目線の、片思いBL。 プラトニックラブ。 いいね、感想大変励みになっています!読んでくださって本当にありがとうございます。 2024.11.27 無事本編完結しました。感謝。 最終章投稿後、第四章 3.5話を追記しています。 (この回は箸休めのようなものなので、読まなくても次の章に差し支えはないです。) 番外編は、2人の高校時代のお話。

処理中です...