【完結】幽閉の王を救えっ、でも周りにモブの仕立て屋しかいないんですけどぉ?

北川晶

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番外 モブのライバル? シヴァーディ・キャンベルの記憶 ②

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 バミネの動向に気をつけてはいたが。普段の業務も手を抜けない。
 王都周辺に強盗団が現れ、セドリックはその検挙に、部下とともに出ていった。

 しかし、帰って来ない。強盗団に身柄を拘束されてしまったのだ。

 騎士団本部には、副団長の私とバミネがいて。
 そこに、ナイジェルが、強盗団からの脅迫状を持ってきた。

 ナイジェルは、平民ながら剣の腕を見込まれてセントカミュ学園に入学を許されたという、優秀な人物で。私の同級生だ。
 もちろん、剣術に秀でていて、人柄もよく。私はナイジェルをとても頼りにしていた。

 親友、だったのだ。

 騎士団の門に、貼り付けてあったという、その脅迫状は。
『本日の二十四時に、セドリックを処刑する』というもので。
 私は、怒りと心配と混乱で、頭が真っ白になった。
 いや、真っ赤かもしれない。
 すぐにセドリックを助けに行きたい、という激情に駆られた。

 そこをナイジェルに、落ち着けとなだめられ。私たちは騎士団を再編成して、強盗団を一網打尽にする計画を練ったのだった。

 結果的に、強盗団などいなかったのだ。
 全部、バミネの策略だったから。

 再編成された騎士団は、ほとんどの者が、バミネに加担していた。
 もちろん、ナイジェルも。

「すまない、シヴァーディ。バミネ様の紹介で、俺の妹が、貴族に嫁げることになったんだ。こんなチャンスは二度とないんだ。許してくれ」
 彼がそう言ったのは、私を後ろ手に縛っている最中だった。

 ナイジェルはよく、明るく、器量よしの、町で一番美人だという妹の自慢話をしていた。その妹に、いい縁談を持っていける。それが兄として、最高の喜びだったのかもしれない。

 王族の血筋であるという、バミネには。貴族の人脈がある。
 ナイジェルは妹のために、騎士の誇りをバミネに売ったのだ。

 許せないが。妹を愛する気持ちからのことだから。
 奥歯を噛んで、苦い想いをのみ込むしかない。
「シヴァーディ…なぜ、おまえまで…」
 廃工場の中に。ナイジェルたちによって、連れ込まれた私は。
 そこで、鎖に縛られたセドリックと相対した。

 セドリックは、上半身をむち打たれ、ひどい有様であったのに。私を気遣う言葉を口にする。
 究極に強くて、とことん優しい男だ。
 そんな彼が、なぜバミネたちに捕まってしまったのか。ナイジェルに裏切られた私には察しがつく。
 セドリックも、きっと子飼いの部下に裏切られてしまったのだろう。
 そうでもなければ。何十人の敵と相対しても、屈することのない強靭な男が、簡単に捕縛されるわけがない。

「邪魔だからだ、貴様も、シヴァーディも」
 多くの者を従えて、バミネが現れた。
 ナイジェルに後ろ手に縛られたときに、バミネの策略だとわかっていたが。バミネはどうして、こんな暴挙を引き起こしたのだ?
 動機はわからない。

「騎士団長、セドリックと。副団長、シヴァーディは。強盗団検挙の折、敵方に捕まって、作戦遂行に支障をきたした。その責任を取って、今から孤島勤務を言い渡す」
「ずいぶんと冤罪を塗りつけてくれるな、バミネ。わかった。騎士団長の地位を明け渡し、島に渡る。だが、シヴァーディは関係ないだろう? 本土で騎士としての任務を果たさせてやれ」

「セドリック…」
 私をかばおうとするセドリックに、声をかけようとしたが。
 彼は首を横に振って拒んだ。
「よし、セドリック。願いを叶えてやろう。シヴァーディが、貴様を殺したら。シヴァーディは、俺に忠誠を誓ったとみなして、今までどおり、騎士職につけてやる」

 私とセドリックは、息をのんだ。
 そんなこと、できるわけがないっ。

「セドリックもシヴァーディも、剣闘士大会で名をあげた、英雄だ。国民は、英雄が無様に死ぬのを許さない。他の騎士も、おまえらを崇拝する者が多い。厄介なことにな。今の状態で、俺が騎士団長になったとしても、納得しない騎士どもが数多くいるのが、忌まわしいことだ。しかし、おまえらが不祥事を起こして、島へ行けば。俺が騎士団を牛耳れるってわけだ。シヴァーディがセドリックを殺しても。ここにいるのは俺の部下だから、不都合はもみ消してやる。乱心した騎士団長を止めた、勇敢な副団長として、称えてやろう。どうする? シヴァーディ」

 後ろ手の縄を外され、剣を持たされる。
 私は、セドリックの方を向いた。
 今生の別れになるかもしれない。そういう気持ちがあって、情けない顔をしていたかもしれない。

 セドリックが、安心するようにと、笑顔を見せる。
 痛々しい傷が、無数にあるというのに。

 あの、太陽のような、まぶしい笑顔で。

「いいんだ、シヴァーディ。大丈夫だから」
 なにが、大丈夫というんだ?
 私が、セドリックを手にかけるとでも?

「動くなっ」
 私が叫べば、言葉の通りに、体が痺れる。そういう闇魔法を放って。
 私は振り返りざま、バミネに剣を下ろした。

 しかし、闇魔法は効かず。

 バミネを守護する騎士たちに、私の剣は跳ね除けられてしまった。
「おまえの魔法を、考慮していないとでも思ったか? この廃工場の四隅に、闇魔法を中和する、聖魔法が施された宝石が置かれてあるのだ。国宝だが。もう、俺の手にできぬものなどないのでな?」
 バミネは高笑いし、騎士たちによって押さえつけられた私に、近寄ってきた。

「シヴァーディ。おまえがセドリックを殺せないことなど、最初からわかっていた。おまえは学園時代から、騎士道というものは、騎士の魂はって、うるさかったからな」
 私の顎を持ったバミネに、セドリックが叫ぶ。
 セドリックを拘束している鎖が、ジャラリと音を軋ませた。

「シヴァーディに触るなっ。シヴァーディは関係ないだろうがっ」
「関係は、あるんだよ。学生時代から、俺はこの男が憎らしかった。こいつだけは、金もコネも女も、通用しない、堅物で、制御できぬ、目の上のたん瘤。存在するだけで、邪魔くさいやつだったのだからなっ」
 そう言って、短剣で、私の顔を横に引き裂いた。

「シヴァっっ!」
 断末魔のごとき叫びをあげたのは、顔を切られた私ではなく、猛獣のように怒り狂ったセドリックだった。
 だが、鎖を引き千切る勢いで暴れるセドリックに構うことなく。バミネは、私に向かって言い放つ。

「みんな、この顔に騙される。少し美しいからといって、誰も彼も、こいつを好きになる。俺以上に…王族である俺よりも、目立ちやがってっ」


「その後。しばらく、立ち上がれないほどの傷を負わされた私たちは。ともにこの島に捨てられ。今に至るというわけだ。私たちがこの島に来たのは、七年前。そのときの傷だから。今はもう痛くはないのだ」
 バミネがどうして私に傷をつけたのか、それにまつわる、この島に来た経緯などを、クロウにざっくり説明すると。
 なんでか、クロウは泣きながら。叫んだ。
「一丁前に、美形をねたむんじゃねぇ、ぽっちゃり悪役令息のくせにぃっ」

 クロウは。瞳孔が開いた、ちょっと狂気な顔で。涙をぼとぼと落としながら尚もつぶやく。
「シヴァーディ様がいなくても、バミネがモテるわけがねぇだろ。最初からイケメン設定じゃないんだから、わきまえろやボケェ。そんなことで、公式かみが造りたもうた、ご尊顔に傷をつけるなど。なんという暴挙。なんという罪悪。これはゲーム進行を妨げる、究極の蛮行、愚行でありますぞ。公式よ、悪に裁きの鉄槌をっ」

 ところどころ、わからぬ言葉が混じっているが。まるでなにかの呪文のように、クロウがよどみなく、バミネを呪う言葉を吐いていても。
 本当に、呪いが完成する魔力が出ているわけではない。

 というか、この様子は少し引く。

「ところで、シヴァーディ様。怒ると傷が赤く浮き上がる体質だと、言っていましたが。僕に、なにかお怒りでしたか? 陛下に魔法を、とか。成敗…とか?」
 クロウは、コロリといつもの様子に戻って。恐る恐る私に聞いてくる。

 そうだ、ここへ来たのは。クロウが陛下に、魅了の魔法を使ったのではないかと疑ったからだった。
 けれど、クロウに魔力がないのは、もうわかった。

 魔力がないのに成敗したら、冤罪えんざいではないか。
 いくら、クロウが目ざわりであろうとも。冤罪をかけられて、バミネにおとしいれられた私が、彼にそんなことができるわけもない。

「すまない。勘違いだったようだ。おまえには、魔力がない」
 そう言うと、クロウは喜ぶ…ことはなく。
 眉尻を下げた、情けない顔つきになった。

「えぇ? 魔力、ないですか? 少しは…あるでしょう?」
「は? 今、おまえは暗殺者ではないかと疑われているのだ。魔力がない方が、余計な腹を探られず、良いのだぞ?」
 素直に、疑いが晴れて良かったと喜べばよいものを。
 クロウはまだ、口の中でごにょごにょ言う。
「でもぉ。魔法を使うのって、どんな感じか、興味があるじゃないですかぁ? 少しでも魔力があったら、使えるかな? って」
 こういうふうに、魔法に憧れを持つのは。生まれながらに魔力のない者の典型だ。

 魔法は。魔力がある者にとっては、扱いが難しい、とても厄介なもので。万能でもないし。決して楽しいばかりの物ではない。

 闇魔法を持つ私に、心を操られたくない者は。自然、私を敬遠する。
 子供のときからのことなので、ひとりは慣れているし。
 私の闇属性を意に介さない、セドリックやナイジェルがそばにいたから、究極の孤独ではなかったが。学園で私は、一般生徒に遠巻きにされ、ほぼひとりで行動せざるを得なかった。

 陛下も。大きな力を持つゆえに、今はそれを封じられて、苦しんでいる。

「魔力を持つということは、良いことばかりではない」
 言うと、クロウはきょとんとした顔をする。
 それで、良いのだ。魔力のない者は、それに惑わされることなく、平穏に生きてゆけばいい。

 私は『騒がせてすまない』と口にして、サロンを出た。
 廊下には、陛下と。陛下を守護するセドリックがいる。

 陛下は、私の肩をポンと叩く。
「わかっていた、おまえが無害の者を斬るわけはないと。シヴァーディは、我が知る中で、一番騎士らしい騎士だからな?」
「陛下、俺が一番ではないのですか? 元は騎士団長ですよ?」
 陛下の言葉に、セドリックは異論をはさむ。和やかな空気の中で。

「おまえは不敬だから、却下だ」
 そう言って、陛下はサロンの中へ入っていった。

 陛下がひとりで、クロウと会うのは。今までは、胸が締め付けられるような危機感を持っていたが。
 今は、もう大丈夫だと思える。
 あの、ぽややんとした男に、陛下が害されるとは思えない。

「嫉妬、したのか? シヴァ」
 廊下で、私を愛称で呼ぶ、セドリックとふたりきりになり。私は言いよどむ。
 はっきりそうだと言えば、こいつを調子に乗せかねない。

「…陛下が、魅了をかけられたのではと思うくらいには、おまえはクロウに、入れ込んでいた」
「確かに、クロウは初見で、庇護欲をそそる者だった。騎士は、弱き者を守る性質だからな。だが、俺はちゃんと見極めていたぞ? クロウに暗殺は無理か、その気はあるか。その疑念を早々に払拭しただけだ。それに…」
 セドリックは、ニヤリと笑って、私のそばに寄り。頬に手を当てた。
「クロウは美人だが。俺の好みは、おまえの方」
「世辞は、いらない」
「世辞ではないと、知っているだろう? 俺の情熱を受け止めた、この、心と、体で…」
 いつも剣を握っている、大きく、ごつごつした手を、頬から滑らせ。セドリックは、私の正中に指を突きつけた。
 そんなことをされたら、心臓がドキリと跳ねる。

「シヴァ…おまえと出会ったのは、もう十一年前か。あの頃から、愛しているのはおまえだけだ」
「もう、あの頃の私ではない…大きく、醜い傷があるのだ」
 怒りや興奮がなければ、私の傷が赤く浮かび上がることはなく、普段はそれほど目立たない。
 だが、傷があることは事実だ。

 セドリックが、学生のときに好きだと言ってくれたときの顔では、ない。

あなどるな。こんな傷ごときで、俺の愛は薄れない。それに…この傷は、俺とおまえの、悔恨だ。俺があのとき、ヘマをせず、バミネに捕まりさえしなければ…」
「おまえのせいではない。バミネは私を恨んでいたのだから、遅かれ早かれ、私の顔に傷をつけただろう。私は、モテた記憶はないのだがな」

 笑い話にしようと、軽い感じで言ったのに。
 セドリックは真面目な顔つきを崩さずに、言う。
「容姿も剣筋も光り輝いていたおまえは、俺を一目惚れさせたのだから、美しいに決まっている。おまえが俺のものだから、誰も名乗りをあげなかったにすぎない。俺からおまえを奪う強者など、いるわけないからな」
 つまり、この世で一番強いのは自分だと言っている、セドリックに呆れて。私は鼻で笑った。

「ゆえに、俺のシヴァに傷をつけた、バミネは許さない。いつか、あいつの腹に、十本の剣を突き立ててやる」
 そう言って、セドリックは私の傷を舐めた。舌先がゆるりと動いて、くすぐったい。

「王城では、そういうことをしない約束だ」
「陛下も大きくなられたし。そろそろ解禁でもいいのではないか?」
「駄目だ。まだシャーロット殿下は十三歳。不埒を目にする年ではなかろう?」
 不満げに、セドリックは口をとがらせるが。
 陛下が目を止めるような美人のクロウに、セドリックもなびいてしまうかも、と。嫉妬と焦燥に、目が曇った私だ。
 彼に誘われたら、断る自信は、もうない。

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