【完結】幽閉の王を救えっ、でも周りにモブの仕立て屋しかいないんですけどぉ?

北川晶

文字の大きさ
58 / 176

47 なんでこんなに、もっちりふんわりなのだっ?(イアンside)

しおりを挟む
     ◆なんでこんなに、もっちりふんわりなのだっ?(イアンside)

 本土から、孤島に建つ王城を眺めたとき。森の緑や、町並みは、一切見えない。
 海側全面に王城が建っているように見えるのだが。島の西側には植物が群生する森林があり。町並みもある。
 今は、人はいないが。建物はそっくりそのまま残っているのだ。

 森には、小規模ながら、珍しい植物や小動物が生息している。
 冬の間、小動物は寒さに身を縮め、気配を隠していたが。三月中旬の今頃になると、リスや小鳥の生気を感じられるようになる。

「うわぁ、少し肌寒いですけど、空気が新鮮で気持ち良いですね?」
 木々には、緑の若葉が芽吹き始めていて。木漏れ日に照らされたそのいろどりは、エメラルドのように輝いていた。
「キラキラしていますよ、イアン様。綺麗ですねぇ?」
 クロウは上を向いて、木の葉と太陽の光が、チラチラする様子を楽しんで見ている。
 我は、いつも見ている光景なので、それほど感動しないが。
 美しい物を美しいと思える、その感性が。素敵だと思う。

 我は、クロウと手をつないで森を歩きながら、気になっていたことをたずねた。
「クロウ、我はおまえに、だいぶつらく当たった。我が怖いだろう? 嫌いになっただろう? それでも、こうして我とともにいてくれるのは。我が王だから、仕方なく…か?」
 その質問に、クロウは一瞬目を丸くして。すぐに柔らかい微笑みを浮かべた。
「いいえ、イアン様はいつもお優しかったですよ?」
「優しくした覚えなど、ほぼない」

 初対面から。我は、クロウの人柄も知らず、毛嫌いした。
 一番信用ならぬ、バミネの言葉なんかを信じて。
 クロウを、害ある者と思い込んで。疑念を募らせ、いつも睨んでいたし。蹴り飛ばしたし。剣を突きつけたし…。

 あぁ。嫌われる要素しかない。

 そう思うと。すっごく胸が痛い。腹も、しくしく痛んできた。
「僕を胡散臭く思いながらも、接してくださいました。無視して、放っておくこともできたでしょう。斬りつけることもできたでしょう。でも、そうはせず。僕と向き合ってくださいました。それは、優しさだと思うのです」
「…お人好しだな、おまえは」

 普通なら、自分が胡散臭いと思われていると感じた時点で、怒るだろう。嫌うだろう。
 でも、それを優しさなどと良いように取って。
 前向きというか。突拍子がないというか。そういうところが、クロウにはあるなと。我は思い返していた。

 剣を突きつけたときも、大丈夫だと返事をした。
 他人に剣を向けられたら、訳がわからぬ中でも、謝り倒したり。命乞いをしたり。必死に言い訳したりするだろうと思うのだが。
 クロウは、終始冷静で。自分の非を認めつつ。それでも、王の婚礼衣装を仕立てたいと、しっかり主張した。
 真摯に、己の気持ちを打ち明けたのだ。

 我はクロウを暗殺者だと思い、その本性を引きずり出そうとしたのに。
 そんなものは、クロウの中にはなくて。
 手を突っ込んで、ない裏を無理に探ったら、おもちゃが出てきた…そんな意外性、不可思議な世界に引きずり込まれてしまった感があった。呆気にとられたのだ。

 クロウと相対すると、いつも我は驚かされ。楽しくなってしまう。
 そんなクロウだから、魅かれてしまうのだろうな。
 魅了の魔法をかけられてしまったと、誤解したくらいに。魅かれているのだ。

「そんなこと、ありません。僕は、ズルくて、したたかな男なのです」
「ズルい? おまえのように善良な者が?」
 お人好しという言葉を、クロウは否定した。
 ズルいや、したたかは、人の良いクロウには縁遠い言葉だと思うのに。
「善良では、ありません」
 クロウが、悲しげにつぶやく。
 情けなく眉を下げる、その顔を見た瞬間、体の奥の方でざわざわするのを感じ。焦る。
 今まで、こんな気持ちになったことはない。
 悲しみでも怒りでもなく、もどかしいような、じれったいような…とにかく、クロウが朗らかでいてくれないと。なんか、嫌で。どうしたのかと、心配してしまう。

 心配…。そうだ。我はクロウを、心配しているのだ。

 人を心配する、ということが。今まであまりなかったように思う。
 我の周りにいる者たちは、みんな強くて、心に芯があって、我が心配するような隙などなかった。

 唯一…ラヴェルの父親であり、我の教育係をしていたロイドが、病のときは。
 快癒を願って。心配して、夜も眠れなかったが。
 亡くなったときは。心が痛くなるほどに、悲しみに溺れたが。

 それも、ずいぶん昔のことで。だから、忘れていたのだが。
 そうだ。心配というのは、心がさざめく、できれば感じたくない気持ちのことだったな?
「おまえが、したたかな男なものか。おまえほど柔らかく、男から遠い男など、おらぬ」
 そう言って、我はクロウの頬に手を当てた。
 話や空気感を変えたかったからだが。

 親指が、頬の上で弾んで。や、柔らかっ。

 クロウを柔らかいと断じたが。
 心が柔らかい、というつもりだったのだが。
 まさか、実体までも、こんなに柔らかいとはっ。

 唐突に、これをどれぐらいの強さで摘まんだら、痛がるのか、気になってしまった。
 好奇心に負け。
 我は、クロウの両頬を、両手の指先で摘まんで、左右に引っ張った。

 な、なんだと? なんでこんなに、もっちりふんわりなのだっ?

 我は、指先の感触に驚いていた。
 柔らかい、この弾力。
 羽根布団でも、こんなに柔らかくないぞ?
 そして、クロウの顔が。人の顔とは、こんなに伸びるものなのか?
 いや、我の顔はこんなに伸びない。
 ミュイーンと音がするような、頬の伸び縮み、そしてクロウの変な顔に。つい夢中になってしまった…が。

「い…いひゃいいたいいひゃいれすいたいです、イアンひゃま?」
 なんか、クロウが涙目になってきたから。パッと手を離した。
「痛いっ。ひ、ひどいです、陛下ッ」

「ははっ、軟弱なやつだな。そして、やっぱりおまえは柔らかかった」
 笑い飛ばしは、したものの。内心、胸がドキドキしていた。
 それほど強い力ではなかったはずだが、クロウは赤くなった頬を、手でさすっている。
 先ほど、猫は柔らかくて小さくて脆いものだと、クロウがシャーロットに教えていた。
 クロウは、自分は猫じゃないとも言っていたが。

 クロウだって…やっぱり。柔らかくて、小さくて、脆くて、そして温かいものではないか。

しおりを挟む
感想 10

あなたにおすすめの小説

悪役側のモブになっても推しを拝みたい。【完結】

瑳来
BL
大学生でホストでオタクの如月杏樹はホストの仕事をした帰り道、自分のお客に刺されてしまう。 そして、気がついたら自分の夢中になっていたBLゲームのモブキャラになっていた! ……ま、推しを拝めるからいっか! てな感じで、ほのぼのと生きていこうと心に決めたのであった。 ウィル様のおまけにて完結致しました。 長い間お付き合い頂きありがとうございました!

俺、転生したら社畜メンタルのまま超絶イケメンになってた件~転生したのに、恋愛難易度はなぜかハードモード

中岡 始
BL
ブラック企業の激務で過労死した40歳の社畜・藤堂悠真。 目を覚ますと、高校2年生の自分に転生していた。 しかも、鏡に映ったのは芸能人レベルの超絶イケメン。 転入初日から女子たちに囲まれ、学園中の話題の的に。 だが、社畜思考が抜けず**「これはマーケティング施策か?」**と疑うばかり。 そして、モテすぎて業務過多状態に陥る。 弁当争奪戦、放課後のデート攻勢…悠真の平穏は完全に崩壊。 そんな中、唯一冷静な男・藤崎颯斗の存在に救われる。 颯斗はやたらと落ち着いていて、悠真をさりげなくフォローする。 「お前といると、楽だ」 次第に悠真の中で、彼の存在が大きくなっていき――。 「お前、俺から逃げるな」 颯斗の言葉に、悠真の心は大きく揺れ動く。 転生×学園ラブコメ×じわじわ迫る恋。 これは、悠真が「本当に選ぶべきもの」を見つける物語。 続編『元社畜の俺、大学生になってまたモテすぎてるけど、今度は恋人がいるので無理です』 かつてブラック企業で心を擦り減らし、過労死した元社畜の男・藤堂悠真は、 転生した高校時代を経て、無事に大学生になった―― 恋人である藤崎颯斗と共に。 だが、大学という“自由すぎる”世界は、ふたりの関係を少しずつ揺らがせていく。 「付き合ってるけど、誰にも言っていない」 その選択が、予想以上のすれ違いを生んでいった。 モテ地獄の再来、空気を読み続ける日々、 そして自分で自分を苦しめていた“頑張る癖”。 甘えたくても甘えられない―― そんな悠真の隣で、颯斗はずっと静かに手を差し伸べ続ける。 過去に縛られていた悠真が、未来を見つめ直すまでの じれ甘・再構築・すれ違いと回復のキャンパス・ラブストーリー。 今度こそ、言葉にする。 「好きだよ」って、ちゃんと。

BLゲームの世界でモブになったが、主人公とキャラのイベントがおきないバグに見舞われている

青緑三月
BL
主人公は、BLが好きな腐男子 ただ自分は、関わらずに見ているのが好きなだけ そんな主人公が、BLゲームの世界で モブになり主人公とキャラのイベントが起こるのを 楽しみにしていた。 だが攻略キャラはいるのに、かんじんの主人公があらわれない…… そんな中、主人公があらわれるのを、まちながら日々を送っているはなし BL要素は、軽めです。

裏乙女ゲー?モブですよね? いいえ主人公です。

みーやん
BL
何日の時をこのソファーと過ごしただろう。 愛してやまない我が妹に頼まれた乙女ゲーの攻略は終わりを迎えようとしていた。 「私の青春学園生活⭐︎星蒼山学園」というこのタイトルの通り、女の子の主人公が学園生活を送りながら攻略対象に擦り寄り青春という名の恋愛を繰り広げるゲームだ。ちなみに女子生徒は全校生徒約900人のうち主人公1人というハーレム設定である。 あと1ヶ月後に30歳の誕生日を迎える俺には厳しすぎるゲームではあるが可愛い妹の為、精神と睡眠を削りながらやっとの思いで最後の攻略対象を攻略し見事クリアした。 最後のエンドロールまで見た後に 「裏乙女ゲームを開始しますか?」 という文字が出てきたと思ったら目の視界がだんだんと狭まってくる感覚に襲われた。  あ。俺3日寝てなかったんだ… そんなことにふと気がついた時には視界は完全に奪われていた。 次に目が覚めると目の前には見覚えのあるゲームならではのウィンドウ。 「星蒼山学園へようこそ!攻略対象を攻略し青春を掴み取ろう!」 何度見たかわからないほど見たこの文字。そして気づく現実味のある体感。そこは3日徹夜してクリアしたゲームの世界でした。 え?意味わかんないけどとりあえず俺はもちろんモブだよね? これはモブだと勘違いしている男が実は主人公だと気付かないまま学園生活を送る話です。

転生令息は冒険者を目指す!?

葛城 惶
BL
ある時、日本に大規模災害が発生した。  救助活動中に取り残された少女を助けた自衛官、天海隆司は直後に土砂の崩落に巻き込まれ、意識を失う。  再び目を開けた時、彼は全く知らない世界に転生していた。  異世界で美貌の貴族令息に転生した脳筋の元自衛官は憧れの冒険者になれるのか?!  とってもお馬鹿なコメディです(;^_^A

BL世界に転生したけど主人公の弟で悪役だったのでほっといてください

わさび
BL
前世、妹から聞いていたBL世界に転生してしまった主人公。 まだ転生したのはいいとして、何故よりにもよって悪役である弟に転生してしまったのか…!? 悪役の弟が抱えていたであろう嫉妬に抗いつつ転生生活を過ごす物語。

【完結】薄幸文官志望は嘘をつく

七咲陸
BL
サシャ=ジルヴァールは伯爵家の長男として産まれるが、紫の瞳のせいで両親に疎まれ、弟からも蔑まれる日々を送っていた。 忌々しい紫眼と言う両親に幼い頃からサシャに魔道具の眼鏡を強要する。認識阻害がかかったメガネをかけている間は、サシャの顔や瞳、髪色までまるで別人だった。 学園に入学しても、サシャはあらぬ噂をされてどこにも居場所がない毎日。そんな中でもサシャのことを好きだと言ってくれたクラークと言う茶色の瞳を持つ騎士学生に惹かれ、お付き合いをする事に。 しかし、クラークにキスをせがまれ恥ずかしくて逃げ出したサシャは、アーヴィン=イブリックという翠眼を持つ騎士学生にぶつかってしまい、メガネが外れてしまったーーー… 認識阻害魔道具メガネのせいで2人の騎士の間で別人を演じることになった文官学生の恋の話。 全17話 2/28 番外編を更新しました

処理中です...