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47 なんでこんなに、もっちりふんわりなのだっ?(イアンside)
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◆なんでこんなに、もっちりふんわりなのだっ?(イアンside)
本土から、孤島に建つ王城を眺めたとき。森の緑や、町並みは、一切見えない。
海側全面に王城が建っているように見えるのだが。島の西側には植物が群生する森林があり。町並みもある。
今は、人はいないが。建物はそっくりそのまま残っているのだ。
森には、小規模ながら、珍しい植物や小動物が生息している。
冬の間、小動物は寒さに身を縮め、気配を隠していたが。三月中旬の今頃になると、リスや小鳥の生気を感じられるようになる。
「うわぁ、少し肌寒いですけど、空気が新鮮で気持ち良いですね?」
木々には、緑の若葉が芽吹き始めていて。木漏れ日に照らされたその彩は、エメラルドのように輝いていた。
「キラキラしていますよ、イアン様。綺麗ですねぇ?」
クロウは上を向いて、木の葉と太陽の光が、チラチラする様子を楽しんで見ている。
我は、いつも見ている光景なので、それほど感動しないが。
美しい物を美しいと思える、その感性が。素敵だと思う。
我は、クロウと手をつないで森を歩きながら、気になっていたことをたずねた。
「クロウ、我はおまえに、だいぶつらく当たった。我が怖いだろう? 嫌いになっただろう? それでも、こうして我とともにいてくれるのは。我が王だから、仕方なく…か?」
その質問に、クロウは一瞬目を丸くして。すぐに柔らかい微笑みを浮かべた。
「いいえ、イアン様はいつもお優しかったですよ?」
「優しくした覚えなど、ほぼない」
初対面から。我は、クロウの人柄も知らず、毛嫌いした。
一番信用ならぬ、バミネの言葉なんかを信じて。
クロウを、害ある者と思い込んで。疑念を募らせ、いつも睨んでいたし。蹴り飛ばしたし。剣を突きつけたし…。
あぁ。嫌われる要素しかない。
そう思うと。すっごく胸が痛い。腹も、しくしく痛んできた。
「僕を胡散臭く思いながらも、接してくださいました。無視して、放っておくこともできたでしょう。斬りつけることもできたでしょう。でも、そうはせず。僕と向き合ってくださいました。それは、優しさだと思うのです」
「…お人好しだな、おまえは」
普通なら、自分が胡散臭いと思われていると感じた時点で、怒るだろう。嫌うだろう。
でも、それを優しさなどと良いように取って。
前向きというか。突拍子がないというか。そういうところが、クロウにはあるなと。我は思い返していた。
剣を突きつけたときも、大丈夫だと返事をした。
他人に剣を向けられたら、訳がわからぬ中でも、謝り倒したり。命乞いをしたり。必死に言い訳したりするだろうと思うのだが。
クロウは、終始冷静で。自分の非を認めつつ。それでも、王の婚礼衣装を仕立てたいと、しっかり主張した。
真摯に、己の気持ちを打ち明けたのだ。
我はクロウを暗殺者だと思い、その本性を引きずり出そうとしたのに。
そんなものは、クロウの中にはなくて。
手を突っ込んで、ない裏を無理に探ったら、おもちゃが出てきた…そんな意外性、不可思議な世界に引きずり込まれてしまった感があった。呆気にとられたのだ。
クロウと相対すると、いつも我は驚かされ。楽しくなってしまう。
そんなクロウだから、魅かれてしまうのだろうな。
魅了の魔法をかけられてしまったと、誤解したくらいに。魅かれているのだ。
「そんなこと、ありません。僕は、ズルくて、したたかな男なのです」
「ズルい? おまえのように善良な者が?」
お人好しという言葉を、クロウは否定した。
ズルいや、したたかは、人の良いクロウには縁遠い言葉だと思うのに。
「善良では、ありません」
クロウが、悲しげにつぶやく。
情けなく眉を下げる、その顔を見た瞬間、体の奥の方でざわざわするのを感じ。焦る。
今まで、こんな気持ちになったことはない。
悲しみでも怒りでもなく、もどかしいような、じれったいような…とにかく、クロウが朗らかでいてくれないと。なんか、嫌で。どうしたのかと、心配してしまう。
心配…。そうだ。我はクロウを、心配しているのだ。
人を心配する、ということが。今まであまりなかったように思う。
我の周りにいる者たちは、みんな強くて、心に芯があって、我が心配するような隙などなかった。
唯一…ラヴェルの父親であり、我の教育係をしていたロイドが、病のときは。
快癒を願って。心配して、夜も眠れなかったが。
亡くなったときは。心が痛くなるほどに、悲しみに溺れたが。
それも、ずいぶん昔のことで。だから、忘れていたのだが。
そうだ。心配というのは、心がさざめく、できれば感じたくない気持ちのことだったな?
「おまえが、したたかな男なものか。おまえほど柔らかく、男から遠い男など、おらぬ」
そう言って、我はクロウの頬に手を当てた。
話や空気感を変えたかったからだが。
親指が、頬の上で弾んで。や、柔らかっ。
クロウを柔らかいと断じたが。
心が柔らかい、というつもりだったのだが。
まさか、実体までも、こんなに柔らかいとはっ。
唐突に、これをどれぐらいの強さで摘まんだら、痛がるのか、気になってしまった。
好奇心に負け。
我は、クロウの両頬を、両手の指先で摘まんで、左右に引っ張った。
な、なんだと? なんでこんなに、もっちりふんわりなのだっ?
我は、指先の感触に驚いていた。
柔らかい、この弾力。
羽根布団でも、こんなに柔らかくないぞ?
そして、クロウの顔が。人の顔とは、こんなに伸びるものなのか?
いや、我の顔はこんなに伸びない。
ミュイーンと音がするような、頬の伸び縮み、そしてクロウの変な顔に。つい夢中になってしまった…が。
「い…いひゃい、いひゃいれす、イアンひゃま?」
なんか、クロウが涙目になってきたから。パッと手を離した。
「痛いっ。ひ、ひどいです、陛下ッ」
「ははっ、軟弱なやつだな。そして、やっぱりおまえは柔らかかった」
笑い飛ばしは、したものの。内心、胸がドキドキしていた。
それほど強い力ではなかったはずだが、クロウは赤くなった頬を、手でさすっている。
先ほど、猫は柔らかくて小さくて脆いものだと、クロウがシャーロットに教えていた。
クロウは、自分は猫じゃないとも言っていたが。
クロウだって…やっぱり。柔らかくて、小さくて、脆くて、そして温かいものではないか。
本土から、孤島に建つ王城を眺めたとき。森の緑や、町並みは、一切見えない。
海側全面に王城が建っているように見えるのだが。島の西側には植物が群生する森林があり。町並みもある。
今は、人はいないが。建物はそっくりそのまま残っているのだ。
森には、小規模ながら、珍しい植物や小動物が生息している。
冬の間、小動物は寒さに身を縮め、気配を隠していたが。三月中旬の今頃になると、リスや小鳥の生気を感じられるようになる。
「うわぁ、少し肌寒いですけど、空気が新鮮で気持ち良いですね?」
木々には、緑の若葉が芽吹き始めていて。木漏れ日に照らされたその彩は、エメラルドのように輝いていた。
「キラキラしていますよ、イアン様。綺麗ですねぇ?」
クロウは上を向いて、木の葉と太陽の光が、チラチラする様子を楽しんで見ている。
我は、いつも見ている光景なので、それほど感動しないが。
美しい物を美しいと思える、その感性が。素敵だと思う。
我は、クロウと手をつないで森を歩きながら、気になっていたことをたずねた。
「クロウ、我はおまえに、だいぶつらく当たった。我が怖いだろう? 嫌いになっただろう? それでも、こうして我とともにいてくれるのは。我が王だから、仕方なく…か?」
その質問に、クロウは一瞬目を丸くして。すぐに柔らかい微笑みを浮かべた。
「いいえ、イアン様はいつもお優しかったですよ?」
「優しくした覚えなど、ほぼない」
初対面から。我は、クロウの人柄も知らず、毛嫌いした。
一番信用ならぬ、バミネの言葉なんかを信じて。
クロウを、害ある者と思い込んで。疑念を募らせ、いつも睨んでいたし。蹴り飛ばしたし。剣を突きつけたし…。
あぁ。嫌われる要素しかない。
そう思うと。すっごく胸が痛い。腹も、しくしく痛んできた。
「僕を胡散臭く思いながらも、接してくださいました。無視して、放っておくこともできたでしょう。斬りつけることもできたでしょう。でも、そうはせず。僕と向き合ってくださいました。それは、優しさだと思うのです」
「…お人好しだな、おまえは」
普通なら、自分が胡散臭いと思われていると感じた時点で、怒るだろう。嫌うだろう。
でも、それを優しさなどと良いように取って。
前向きというか。突拍子がないというか。そういうところが、クロウにはあるなと。我は思い返していた。
剣を突きつけたときも、大丈夫だと返事をした。
他人に剣を向けられたら、訳がわからぬ中でも、謝り倒したり。命乞いをしたり。必死に言い訳したりするだろうと思うのだが。
クロウは、終始冷静で。自分の非を認めつつ。それでも、王の婚礼衣装を仕立てたいと、しっかり主張した。
真摯に、己の気持ちを打ち明けたのだ。
我はクロウを暗殺者だと思い、その本性を引きずり出そうとしたのに。
そんなものは、クロウの中にはなくて。
手を突っ込んで、ない裏を無理に探ったら、おもちゃが出てきた…そんな意外性、不可思議な世界に引きずり込まれてしまった感があった。呆気にとられたのだ。
クロウと相対すると、いつも我は驚かされ。楽しくなってしまう。
そんなクロウだから、魅かれてしまうのだろうな。
魅了の魔法をかけられてしまったと、誤解したくらいに。魅かれているのだ。
「そんなこと、ありません。僕は、ズルくて、したたかな男なのです」
「ズルい? おまえのように善良な者が?」
お人好しという言葉を、クロウは否定した。
ズルいや、したたかは、人の良いクロウには縁遠い言葉だと思うのに。
「善良では、ありません」
クロウが、悲しげにつぶやく。
情けなく眉を下げる、その顔を見た瞬間、体の奥の方でざわざわするのを感じ。焦る。
今まで、こんな気持ちになったことはない。
悲しみでも怒りでもなく、もどかしいような、じれったいような…とにかく、クロウが朗らかでいてくれないと。なんか、嫌で。どうしたのかと、心配してしまう。
心配…。そうだ。我はクロウを、心配しているのだ。
人を心配する、ということが。今まであまりなかったように思う。
我の周りにいる者たちは、みんな強くて、心に芯があって、我が心配するような隙などなかった。
唯一…ラヴェルの父親であり、我の教育係をしていたロイドが、病のときは。
快癒を願って。心配して、夜も眠れなかったが。
亡くなったときは。心が痛くなるほどに、悲しみに溺れたが。
それも、ずいぶん昔のことで。だから、忘れていたのだが。
そうだ。心配というのは、心がさざめく、できれば感じたくない気持ちのことだったな?
「おまえが、したたかな男なものか。おまえほど柔らかく、男から遠い男など、おらぬ」
そう言って、我はクロウの頬に手を当てた。
話や空気感を変えたかったからだが。
親指が、頬の上で弾んで。や、柔らかっ。
クロウを柔らかいと断じたが。
心が柔らかい、というつもりだったのだが。
まさか、実体までも、こんなに柔らかいとはっ。
唐突に、これをどれぐらいの強さで摘まんだら、痛がるのか、気になってしまった。
好奇心に負け。
我は、クロウの両頬を、両手の指先で摘まんで、左右に引っ張った。
な、なんだと? なんでこんなに、もっちりふんわりなのだっ?
我は、指先の感触に驚いていた。
柔らかい、この弾力。
羽根布団でも、こんなに柔らかくないぞ?
そして、クロウの顔が。人の顔とは、こんなに伸びるものなのか?
いや、我の顔はこんなに伸びない。
ミュイーンと音がするような、頬の伸び縮み、そしてクロウの変な顔に。つい夢中になってしまった…が。
「い…いひゃい、いひゃいれす、イアンひゃま?」
なんか、クロウが涙目になってきたから。パッと手を離した。
「痛いっ。ひ、ひどいです、陛下ッ」
「ははっ、軟弱なやつだな。そして、やっぱりおまえは柔らかかった」
笑い飛ばしは、したものの。内心、胸がドキドキしていた。
それほど強い力ではなかったはずだが、クロウは赤くなった頬を、手でさすっている。
先ほど、猫は柔らかくて小さくて脆いものだと、クロウがシャーロットに教えていた。
クロウは、自分は猫じゃないとも言っていたが。
クロウだって…やっぱり。柔らかくて、小さくて、脆くて、そして温かいものではないか。
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