【完結】幽閉の王を救えっ、でも周りにモブの仕立て屋しかいないんですけどぉ?

北川晶

文字の大きさ
60 / 176

49 おまえは我の死神だから(イアンside)

しおりを挟む
     ◆おまえは我の死神だから(イアンside)

 胸に抱かれながら。クロウは、つぶらな瞳で我を見上げたまま、告げた。
「イアン様、僕をずっと、そばに置いていただけませんか?」

 そ、それって、どういう意味だ?
 結婚か? プ、プロポーズか? 我の伴侶になるということか?
 いや、それはまだ早いんじゃないか?
 しかし、家族に紹介をしたし、早くもないのか?
 いやいや、そもそも男同士だし。なに飛躍した馬鹿なことを考えているのだっ。
 などと。激しく動揺して。目を丸くした。

「ずっと? 納品したあとも、ずっと、この城にいるということか? 我の、そばに?」
 思わず確認してしまう。クロウの真意がわからなくて。
「お許しを、いただけるなら」
 するとクロウは、我からそっと身を離し。その場で、地に膝をついた。
 あの、印象的なマントが、ふわりと空気を含んで、クロウを中心にして、黒く丸い円を描く。

 初対面のときも、そのように広がったマントに。彼の美しさに、目を奪われたのだと。思い出した。

「陛下に、永遠の忠誠を誓います。僕が陛下を、バミネから守ります。必ず、イアン様を自由の身にしてみせます」
 あぁ、忠誠かと思い。ちょっと、がっかりしてしまった。
 いや、忠誠も。
 己の人生を捧げるという、重いものだから。人によっては結婚よりも、厳格な意味を持つのだが。

 そのときはなんとなく、恋の告白かと思ってしまったから。
 なんというか、肩透かしのような。なんというか…。

「おまえが、我を守るのか?」
 というか、この小さい黒丸が、我を守るとか。どういう思考で、こういうことを言い出したのか。不思議で。
 つい口先で笑ってしまった。

 いけない。彼は真剣なのだから。ちゃんと考えなければ。
「ちっぽけな、この身でございます。強力な助けの手には、なれないでしょう。でも、僕の力の限りに。陛下のおそばに置いていただければ…盾ぐらいには…なれるかと…」

 盾? クロウが我の盾になって、我の目の前で死ぬのか?
 そんなことはさせない。

 瞬時に怒りがメラリと湧き起る。
 バミネの剣に、クロウが斬られる。そんな場面が、リアルに想像できて。

 だが、クロウがそばにいれば。
 バミネを殺すことはできないが。クロウを守ることはできる、かも。
 相手がバミネでなければ。ちゃんと守ってやれるしな。

 あぁ、なんて。情けない王なのだろう。
 この国の頂点に立っているはずなのに、クロウひとり、思いのままに守ってやることができないなんて…。
 自分が権威のある王だったなら、なんとしてでもバミネの脅威から、クロウを守ってやる。

 しかし、己は死にゆく身。

 苦しみを胸に秘めつつ。我は…望みという名の、許しを口にした。
「いいだろう。そばにいろ」
 お許しが出た、と思ったのか。彼は喜々として顔を上げた。
 木漏れ日の光が、クロウの黒い瞳に映り込み、夜空に星を散らしたように輝いている。綺麗な目だな。

 我は、一生忘れない。

「おまえは我の死神だから。我が死ぬとき、我のそばにいるのは、おまえでなければならない」
 バミネはもう、我の殺害を決意している。
 死に装束を作るということは、処刑準備の最たるものだ。
 あとは、ただ、タイミングを待っているだけ。
 我の尊厳を、落として、嘆きのどん底へ突き落してから、殺す。
 悪趣味にもバミネは、クロウが死に装束を作っている間、我が脅え、恐怖していると思って。その姿を想像し、楽しんでいるのだ。
 もしくは、死へのカウントダウンに恐れおののいていると、あざけっているのか。

 とにかく。我に残されているのは、クロウが衣装を仕立て上げるまでの、ほんの短い時間にすぎない。

 猶予など、ない。ならば。
 我がそばにいて心地よいと思える者を、そばに置くくらい、良いだろう?
 死ぬときに、クロウを目に映して、死んでも。良いだろう?

「本当に? あ、ありがとうございます。僕、頑張ります」
 クロウは、いかにも嬉しそうに。晴れやかに笑った。
 年老いて死ぬ、その長い時間、一緒にいられると…そういうふうに勘違いしたかな?

 でも、すまない、クロウ。
 おまえが我を守っても。それほど長い時間、一緒にはいられないだろう。

 安心させるように、ささやかながら、口角を上げて、笑みを浮かべた。
 クロウに手を差し伸べて、我は彼を引っ張り上げ。再びギュッと抱き締める。
 彼が音を上げない程度に、力加減をして。
 クロウは可愛い猫だから。優しく、そっと、抱き締めるのだ。

 自分よりも華奢な体を腕に抱き。この小さき者を守りたい。自分の手で守ってやりたいと、切実に思った。
 塔の上でも、そう思ったが…よく考えてみれば。

 それは、叶えられないことであった。

 もうすぐバミネに殺害されるのだろうから。
 今、腕の中にいる者ひとりさえ、守ることができないなんて。
 クロウは、自分のことをちっぽけだと評したが。
 我こそ、ちっぽけで、なんの力もない王なのだと。自嘲した。

 だが。我の命がある限りは、おまえを守るよ。クロウ…。

しおりを挟む
感想 10

あなたにおすすめの小説

悪役側のモブになっても推しを拝みたい。【完結】

瑳来
BL
大学生でホストでオタクの如月杏樹はホストの仕事をした帰り道、自分のお客に刺されてしまう。 そして、気がついたら自分の夢中になっていたBLゲームのモブキャラになっていた! ……ま、推しを拝めるからいっか! てな感じで、ほのぼのと生きていこうと心に決めたのであった。 ウィル様のおまけにて完結致しました。 長い間お付き合い頂きありがとうございました!

俺、転生したら社畜メンタルのまま超絶イケメンになってた件~転生したのに、恋愛難易度はなぜかハードモード

中岡 始
BL
ブラック企業の激務で過労死した40歳の社畜・藤堂悠真。 目を覚ますと、高校2年生の自分に転生していた。 しかも、鏡に映ったのは芸能人レベルの超絶イケメン。 転入初日から女子たちに囲まれ、学園中の話題の的に。 だが、社畜思考が抜けず**「これはマーケティング施策か?」**と疑うばかり。 そして、モテすぎて業務過多状態に陥る。 弁当争奪戦、放課後のデート攻勢…悠真の平穏は完全に崩壊。 そんな中、唯一冷静な男・藤崎颯斗の存在に救われる。 颯斗はやたらと落ち着いていて、悠真をさりげなくフォローする。 「お前といると、楽だ」 次第に悠真の中で、彼の存在が大きくなっていき――。 「お前、俺から逃げるな」 颯斗の言葉に、悠真の心は大きく揺れ動く。 転生×学園ラブコメ×じわじわ迫る恋。 これは、悠真が「本当に選ぶべきもの」を見つける物語。 続編『元社畜の俺、大学生になってまたモテすぎてるけど、今度は恋人がいるので無理です』 かつてブラック企業で心を擦り減らし、過労死した元社畜の男・藤堂悠真は、 転生した高校時代を経て、無事に大学生になった―― 恋人である藤崎颯斗と共に。 だが、大学という“自由すぎる”世界は、ふたりの関係を少しずつ揺らがせていく。 「付き合ってるけど、誰にも言っていない」 その選択が、予想以上のすれ違いを生んでいった。 モテ地獄の再来、空気を読み続ける日々、 そして自分で自分を苦しめていた“頑張る癖”。 甘えたくても甘えられない―― そんな悠真の隣で、颯斗はずっと静かに手を差し伸べ続ける。 過去に縛られていた悠真が、未来を見つめ直すまでの じれ甘・再構築・すれ違いと回復のキャンパス・ラブストーリー。 今度こそ、言葉にする。 「好きだよ」って、ちゃんと。

BLゲームの世界でモブになったが、主人公とキャラのイベントがおきないバグに見舞われている

青緑三月
BL
主人公は、BLが好きな腐男子 ただ自分は、関わらずに見ているのが好きなだけ そんな主人公が、BLゲームの世界で モブになり主人公とキャラのイベントが起こるのを 楽しみにしていた。 だが攻略キャラはいるのに、かんじんの主人公があらわれない…… そんな中、主人公があらわれるのを、まちながら日々を送っているはなし BL要素は、軽めです。

裏乙女ゲー?モブですよね? いいえ主人公です。

みーやん
BL
何日の時をこのソファーと過ごしただろう。 愛してやまない我が妹に頼まれた乙女ゲーの攻略は終わりを迎えようとしていた。 「私の青春学園生活⭐︎星蒼山学園」というこのタイトルの通り、女の子の主人公が学園生活を送りながら攻略対象に擦り寄り青春という名の恋愛を繰り広げるゲームだ。ちなみに女子生徒は全校生徒約900人のうち主人公1人というハーレム設定である。 あと1ヶ月後に30歳の誕生日を迎える俺には厳しすぎるゲームではあるが可愛い妹の為、精神と睡眠を削りながらやっとの思いで最後の攻略対象を攻略し見事クリアした。 最後のエンドロールまで見た後に 「裏乙女ゲームを開始しますか?」 という文字が出てきたと思ったら目の視界がだんだんと狭まってくる感覚に襲われた。  あ。俺3日寝てなかったんだ… そんなことにふと気がついた時には視界は完全に奪われていた。 次に目が覚めると目の前には見覚えのあるゲームならではのウィンドウ。 「星蒼山学園へようこそ!攻略対象を攻略し青春を掴み取ろう!」 何度見たかわからないほど見たこの文字。そして気づく現実味のある体感。そこは3日徹夜してクリアしたゲームの世界でした。 え?意味わかんないけどとりあえず俺はもちろんモブだよね? これはモブだと勘違いしている男が実は主人公だと気付かないまま学園生活を送る話です。

転生令息は冒険者を目指す!?

葛城 惶
BL
ある時、日本に大規模災害が発生した。  救助活動中に取り残された少女を助けた自衛官、天海隆司は直後に土砂の崩落に巻き込まれ、意識を失う。  再び目を開けた時、彼は全く知らない世界に転生していた。  異世界で美貌の貴族令息に転生した脳筋の元自衛官は憧れの冒険者になれるのか?!  とってもお馬鹿なコメディです(;^_^A

BL世界に転生したけど主人公の弟で悪役だったのでほっといてください

わさび
BL
前世、妹から聞いていたBL世界に転生してしまった主人公。 まだ転生したのはいいとして、何故よりにもよって悪役である弟に転生してしまったのか…!? 悪役の弟が抱えていたであろう嫉妬に抗いつつ転生生活を過ごす物語。

【完結】薄幸文官志望は嘘をつく

七咲陸
BL
サシャ=ジルヴァールは伯爵家の長男として産まれるが、紫の瞳のせいで両親に疎まれ、弟からも蔑まれる日々を送っていた。 忌々しい紫眼と言う両親に幼い頃からサシャに魔道具の眼鏡を強要する。認識阻害がかかったメガネをかけている間は、サシャの顔や瞳、髪色までまるで別人だった。 学園に入学しても、サシャはあらぬ噂をされてどこにも居場所がない毎日。そんな中でもサシャのことを好きだと言ってくれたクラークと言う茶色の瞳を持つ騎士学生に惹かれ、お付き合いをする事に。 しかし、クラークにキスをせがまれ恥ずかしくて逃げ出したサシャは、アーヴィン=イブリックという翠眼を持つ騎士学生にぶつかってしまい、メガネが外れてしまったーーー… 認識阻害魔道具メガネのせいで2人の騎士の間で別人を演じることになった文官学生の恋の話。 全17話 2/28 番外編を更新しました

処理中です...