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50 王の悪夢(イアンside)
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◆王の悪夢(イアンside)
森で、クロウが我に忠誠を誓った。
艶やかな黒髪に、木漏れ日の光を乗せて。まるで天使が、我に跪いているかのよう。
許されるのなら、仕事が終わっても、我のそばにいたいと申し出てくれた。
それは、とても嬉しいこと。我も、クロウといつまでも、ともにいたいと願ったから。
ふと、口端に笑みが浮く。
その、同じ格好で。クロウが、大理石の白い床の上に座っていた。
これは、初対面のときの、クロウだ。
そう、なんとなく頭の中で思っている。
ふわりと広がったマントが、白い大理石に、黒い染みをポツリとつけたようだと。そう思ったのだ。
クロウの、切れ長の目や、バランスよく整った、小さな鼻と唇。その美しい顔が、うつむいているから、見えなくて。
我は、彼の顎を取って、顔を上げさせた。
クロウは我を、少し潤んだ、熱を感じさせる眼差しでみつめる。
今では知っている、驚くほどに柔らかかった、白い頬。
色づいたサクランボのような、美味しそうに見える唇。
「塔の上で、クロウとキスしたんでしょう?」
不意に、セドリックの声が聞こえたような気がした。
我は、この唇に、触れたか? キスをしたか?
顔を寄せていくと。クロウは不思議そうな顔つきで、我をみつめる。
いや、していない。キスは、していない。
だからクロウは。このようにきょとんとしているのだ。
だが、我は。
いや。我の意識なく動く、この体は。
クロウの体を押しやって、大理石の床の上に組み敷いた。
細い腕を掴んで、標本のように床に張りつけてしまう。
あのとき。初対面のとき、こんなことはしていない。
けれど、初めてクロウを目にしたとき。我は思ったのだ。
この小さな唇に噛みついて。泣かせてやりたい。この華奢な体を組み敷いて、制圧して、床に張りつけて、屈服させたい…と。
今、目の前のクロウを、大理石の床に押し倒して。白い背景に、黒尽くめのクロウが横たわっている。
軽くて、小さくて、柔らかくて、脆い、その体を。組み敷くのは簡単だ。
上に覆いかぶさるだけで、彼は、ほら、動けなくなる。
我は、クロウの体を抱き締める。彼が痛いと鳴かないように、優しく。でも。その感触を、味わうように。ゆっくり。じっくり。
「陛下、そばに置いていただけませんか?」
春の日差しのように温かい、いつもの微笑みで、クロウが言う。
そばに、いたいか?
なら、もっと抱き締めても良いか?
くちづけても、良いか?
そのサクランボの唇に、かじりつきたいのだ。その柔らかい頬を、食べたいのだ。
そっと、顔を寄せると。クロウは告げた。
「陛下の盾となり、バミネからイアン様をお守りしてみせます」
そうして、我の腕の中から跡形もなく…消えた。
ハッ、と息を吸い込み。我は寝台の上で目を覚ました。
夢だった。良かった。
いや良くない。我の盾になって、クロウが死ぬなど。
それに、こんな夢を見たのは、昨夜、セドリックが変なことを我に言ったからだ。
忌々しい。一言文句を言わなければ、気が済まないっ。
我は、身支度を済ませ。廊下で寝ず番をしているセドリックを、王の居室に引き入れた。
「おはようございます、陛下。よく眠れましたか?」
寝てないくせに、朝から、はつらつとした顔で、笑う男を。我は睨みつけた。
「よく眠れたか、ではないっ。おまえが変なことを言ったせいで、我は、変になった」
「…変、とは? 夢精ですか?」
またもや、デリカシーのないことを言ってくる。
この年で、夢精で驚いたりするかっ。
「違うっ…おまえは、シヴァーディを食べたいと思ったことはあるか? いや、切り刻んで食するような、ガチなやつではなく。噛みたいとか、そういうことを考えたことが…」
我は、毛量が多くて、いささか邪魔な金髪をかき回し。大したことではないのだが、というように装いつつ。聞きにくい、プライベートなことに切り込んだ。
ヘタをしたら、変どころか、性癖とか、変態とか、そういう部類になるような気がして。
「ありますよ。普通です」
しかしセドリックは、あっけらかんと言う。
隠すようなことでもない、それぐらいの軽い感じだ。
ギラギラしい、太陽の笑顔で。朝から、暑苦しいなっ。
「普通…か? 人を食べたいと思うことが? 変ではないのか?」
みんなが思うことなら、我も安心だが。本当か?
「全然、変じゃないですよ。食べちゃいたいくらい、可愛いということなら。しょっちゅうですけど? だから、情交の際は、噛んで…甘く、優しくですよ? そして肌を舐めて、味わって。ふたりで高まって…極めれば。気持ちは落ち着きますよ」
「そ、そこまで。思っていないが…おまえも警護中、見ただろう? クロウの、あの、柔らかい頬を。ぎゅーんと伸びるのだぞ? 歯触りが良さそうで、食べたいのだ」
クロウは、どこもかしこも、甘そうに見える。
アルフレドが作る、デザート菓子のような食感なのではないか、と思っていた。
ふんわり柔らかい、マドレーヌのような。
もっちり口の中で弾む、ゼリーやババロアのような…。
「あぁ、確かに美味しそうですね。でも、好いた相手なら、唇も乳首も美味しいですよ」
セドリックのあけすけな物言いに、我は、頭をハンマーで殴られたような気になった。
言われたら、クロウで、そういうの想像してしまうではないかっ?
脳裏によぎりそうな、クロウの色っぽい表情を頭から追い出して。我はセドリックを睨む。
本当に。まだそういうのは、いらないんで。
我は、震える手で彼を制し。つぶやいた。
「わかった。我は変ではない、ということだな。下がっていい」
「陛下とクロウは体格差があるので、情交の際には…」
「下がっていい!」
かぶせ気味に、セドリックのエロい忠告を途中でさえぎった。
朝から話す内容ではないっ。
ちょっと残念そうな顔で、彼は廊下に出ていった。ったく。
でもやはり、食べたいという欲求は、セクシャルなものに通じるのだな?
クロウの、サクランボの唇をかじりたいと思うのは。本当の意味で、かじるのではないのなら。キスしたい、と同義…なのだろうし。
夢の中で、クロウの体を抱き締めて。体が高ぶったのだから。我は…クロウに欲情しているのだ。
つまり、体の関係を持ちたい、好き、なのだな?
セドリックなんかに、教えられるのは。なんだか腹立たしいが。
己の気持ちを、わからされた。
あぁ。確実に認識した。
森で、クロウが我に忠誠を誓った。
艶やかな黒髪に、木漏れ日の光を乗せて。まるで天使が、我に跪いているかのよう。
許されるのなら、仕事が終わっても、我のそばにいたいと申し出てくれた。
それは、とても嬉しいこと。我も、クロウといつまでも、ともにいたいと願ったから。
ふと、口端に笑みが浮く。
その、同じ格好で。クロウが、大理石の白い床の上に座っていた。
これは、初対面のときの、クロウだ。
そう、なんとなく頭の中で思っている。
ふわりと広がったマントが、白い大理石に、黒い染みをポツリとつけたようだと。そう思ったのだ。
クロウの、切れ長の目や、バランスよく整った、小さな鼻と唇。その美しい顔が、うつむいているから、見えなくて。
我は、彼の顎を取って、顔を上げさせた。
クロウは我を、少し潤んだ、熱を感じさせる眼差しでみつめる。
今では知っている、驚くほどに柔らかかった、白い頬。
色づいたサクランボのような、美味しそうに見える唇。
「塔の上で、クロウとキスしたんでしょう?」
不意に、セドリックの声が聞こえたような気がした。
我は、この唇に、触れたか? キスをしたか?
顔を寄せていくと。クロウは不思議そうな顔つきで、我をみつめる。
いや、していない。キスは、していない。
だからクロウは。このようにきょとんとしているのだ。
だが、我は。
いや。我の意識なく動く、この体は。
クロウの体を押しやって、大理石の床の上に組み敷いた。
細い腕を掴んで、標本のように床に張りつけてしまう。
あのとき。初対面のとき、こんなことはしていない。
けれど、初めてクロウを目にしたとき。我は思ったのだ。
この小さな唇に噛みついて。泣かせてやりたい。この華奢な体を組み敷いて、制圧して、床に張りつけて、屈服させたい…と。
今、目の前のクロウを、大理石の床に押し倒して。白い背景に、黒尽くめのクロウが横たわっている。
軽くて、小さくて、柔らかくて、脆い、その体を。組み敷くのは簡単だ。
上に覆いかぶさるだけで、彼は、ほら、動けなくなる。
我は、クロウの体を抱き締める。彼が痛いと鳴かないように、優しく。でも。その感触を、味わうように。ゆっくり。じっくり。
「陛下、そばに置いていただけませんか?」
春の日差しのように温かい、いつもの微笑みで、クロウが言う。
そばに、いたいか?
なら、もっと抱き締めても良いか?
くちづけても、良いか?
そのサクランボの唇に、かじりつきたいのだ。その柔らかい頬を、食べたいのだ。
そっと、顔を寄せると。クロウは告げた。
「陛下の盾となり、バミネからイアン様をお守りしてみせます」
そうして、我の腕の中から跡形もなく…消えた。
ハッ、と息を吸い込み。我は寝台の上で目を覚ました。
夢だった。良かった。
いや良くない。我の盾になって、クロウが死ぬなど。
それに、こんな夢を見たのは、昨夜、セドリックが変なことを我に言ったからだ。
忌々しい。一言文句を言わなければ、気が済まないっ。
我は、身支度を済ませ。廊下で寝ず番をしているセドリックを、王の居室に引き入れた。
「おはようございます、陛下。よく眠れましたか?」
寝てないくせに、朝から、はつらつとした顔で、笑う男を。我は睨みつけた。
「よく眠れたか、ではないっ。おまえが変なことを言ったせいで、我は、変になった」
「…変、とは? 夢精ですか?」
またもや、デリカシーのないことを言ってくる。
この年で、夢精で驚いたりするかっ。
「違うっ…おまえは、シヴァーディを食べたいと思ったことはあるか? いや、切り刻んで食するような、ガチなやつではなく。噛みたいとか、そういうことを考えたことが…」
我は、毛量が多くて、いささか邪魔な金髪をかき回し。大したことではないのだが、というように装いつつ。聞きにくい、プライベートなことに切り込んだ。
ヘタをしたら、変どころか、性癖とか、変態とか、そういう部類になるような気がして。
「ありますよ。普通です」
しかしセドリックは、あっけらかんと言う。
隠すようなことでもない、それぐらいの軽い感じだ。
ギラギラしい、太陽の笑顔で。朝から、暑苦しいなっ。
「普通…か? 人を食べたいと思うことが? 変ではないのか?」
みんなが思うことなら、我も安心だが。本当か?
「全然、変じゃないですよ。食べちゃいたいくらい、可愛いということなら。しょっちゅうですけど? だから、情交の際は、噛んで…甘く、優しくですよ? そして肌を舐めて、味わって。ふたりで高まって…極めれば。気持ちは落ち着きますよ」
「そ、そこまで。思っていないが…おまえも警護中、見ただろう? クロウの、あの、柔らかい頬を。ぎゅーんと伸びるのだぞ? 歯触りが良さそうで、食べたいのだ」
クロウは、どこもかしこも、甘そうに見える。
アルフレドが作る、デザート菓子のような食感なのではないか、と思っていた。
ふんわり柔らかい、マドレーヌのような。
もっちり口の中で弾む、ゼリーやババロアのような…。
「あぁ、確かに美味しそうですね。でも、好いた相手なら、唇も乳首も美味しいですよ」
セドリックのあけすけな物言いに、我は、頭をハンマーで殴られたような気になった。
言われたら、クロウで、そういうの想像してしまうではないかっ?
脳裏によぎりそうな、クロウの色っぽい表情を頭から追い出して。我はセドリックを睨む。
本当に。まだそういうのは、いらないんで。
我は、震える手で彼を制し。つぶやいた。
「わかった。我は変ではない、ということだな。下がっていい」
「陛下とクロウは体格差があるので、情交の際には…」
「下がっていい!」
かぶせ気味に、セドリックのエロい忠告を途中でさえぎった。
朝から話す内容ではないっ。
ちょっと残念そうな顔で、彼は廊下に出ていった。ったく。
でもやはり、食べたいという欲求は、セクシャルなものに通じるのだな?
クロウの、サクランボの唇をかじりたいと思うのは。本当の意味で、かじるのではないのなら。キスしたい、と同義…なのだろうし。
夢の中で、クロウの体を抱き締めて。体が高ぶったのだから。我は…クロウに欲情しているのだ。
つまり、体の関係を持ちたい、好き、なのだな?
セドリックなんかに、教えられるのは。なんだか腹立たしいが。
己の気持ちを、わからされた。
あぁ。確実に認識した。
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