68 / 176
53 クロウの夢(イアンside)
しおりを挟む
◆クロウの夢(イアンside)
話があると言って、昼食のあとクロウを呼び出した。
玄関から出てきたクロウは、いつもの黒尽くめの格好だったけれど。なんだか今日は、可愛く見えた。
黒い瞳が、王家の物語を話すときのように、最初からピカピカしている。
血色の悪い頬が、今はほんのり色づいていて。小さな唇が、無防備に少し開いている。
夢の中で見たクロウのように、ちょっと妖艶で、誘うような雰囲気を感じ。
鼓動が高鳴り、頭がのぼせてくる。
こ、これは。うっとり…というやつか?
我に見惚れているのか? 可愛いやつめ。すぐにもギュッとしたい。
「にゃおーん」
クロウの猫が、甲高く鳴いて。うっとりしていたクロウが、ハッと息をのむ。
瞳の焦点が合って、意識が戻ったみたいだ。
我も、イケナイ妄想から意識が戻った。
うぅ…まぁ、いい。ここで、ふたりでみつめ合っていても仕方がないからな。
「では、行くか」
彼を誘うように、我は手を引いて歩く。
昨日も、手をつないで歩いたというのに。
昨夜、彼を押し倒す夢なんか見てしまったから。なんとなく、意識してしまって。
手をつなぐだけで、体が熱くなってくる。
でも、モグラを捕まえてくる、やんちゃな弟の話をするクロウには。当たり前だが、そんな色っぽいものを連想する雰囲気はなくて。
自分ばかりが、恋を意識しているという、後ろめたい思いもあったけれど。
彼の微笑みを見れば、すぐにもいつもの調子を取り戻せた。
ぎこちなくつなぐ、手の体温を。今は、心地好いと感じている。
我はクロウを連れて、今日は、城の敷地から出るつもりだった。
住居城館の敷地内からは、城しか見えないようになっている。
しかし、出口である大きな門をくぐれば、眼下に島の全容が広がるのだ。
高台からは、家屋敷や、城下の町並み、そして港までもが、遠目に見えている。
「いってらっしゃいませぇ、陛下、クロウ様」
門が閉まるところで、猫を抱くアイリスに声をかけられた。
お、お邪魔猫がお留守番だ。よし、素晴らしい働きだ、アイリス嬢よ。
猫がいなくても、ふたりきりにはなれないが。護衛のシヴァーディはセドリックと違って分をわきまえているから。邪魔立てすることはないだろう。
そして門は閉じられた。
島中に響き渡る、門の開閉音に。クロウは一度経験しているはずなのに、首をすくめる。
「来たときも思ったのですが。大きな音ですね?」
「レトロセキュリティーだ。わざと、このような大きな音が鳴るように出来ている。城内にいても、ここを誰かが通れば、わかるから。人員の少ない今は、便利だぞ。先人の知恵に助けられているな?」
「これも、歴史の一部なのですね? 素敵です」
にっこり微笑んで、うなずくクロウの、その表情や。
首をすくめる仕草や。
握る手の中にある、小さな手を意識すると。鼓動が変なふうに跳ね上がる。
この感覚は、もうわかった。彼を好きだと思うと、心臓が高鳴るのだな。
町並みを指差して、クロウに説明する。
我の客人第一号への、おもてなしだ。
「島のふもとには、帆船が停泊できる大きな港。城下には店が並び、中腹には、王の臣下とその家族が暮らす邸宅がある。島の中だけで生活が成り立つ、活気のある城塞都市だったのだ。十年前まではな…」
彼に目を戻すと。景色を眺めていると思っていたクロウと、思いがけなく目が合って…ドキリとした。
握った手に、力がこもる。
すると彼の手も、ひときわ熱くなったように感じた。
「僕が働いているジェラルド商会の店長も、十年前まで城下でお店を開いていたのです。退去させられるまでは…」
クロウの言葉を受け、我は目を伏せ、苦々しくつぶやいた。
「港から、島の頂上に建つ城に、上がってくる道すがら。おまえは、その目で見てきたはずだ。どの店も閉まり。城下には、人などひとりもいない。今は、ほこり舞う廃墟だな」
「僕が、一人目になっては、駄目でしょうか?」
思いも寄らないことを言われ、我はクロウをみつめる。
「もちろん、まずはお衣装を、立派に仕立て上げなければなりませんが。もし、陛下にお気に召していただけたら。城下にお店を持ちたいのです。王室御用達は、仕立て屋の夢ですからね?」
もじもじしながら、夢を語るクロウは、とっても可愛らしい。
そして、凛々しい。
おそらくこれは、ただの夢物語ではないのだ。
将来、こうなりたいという、未来の指針である、現実的な夢だ。
だから、恥ずかしいけれど、必ず叶えるという強い意志があって。
それを口にするクロウが、可愛くて、凛々しいのだな、と我は思った。
「僕が島でお店を出したら、それを聞きつけた本土の人たちが、島へ渡って商いをし始めます。人々の力は、ひとりひとりはちっぽけでも、寄り集まれば、大きな大きな力になるのです。そうしたら、きっと。バミネなど、ひとたまりもありません。大衆の力は、あいつひとりの力では止められやしないっ。大勢の人が来るようになったら、この島は、すぐにも賑やかになりますね?」
春の麗らかさをまとう、暖かな笑みで、彼はそう言う。
我のあきらめきった、凍てつく空気などまるで読めない、ほのぼの日和のクロウが、おかしくて。悲しくて、ならなかった。
喉の奥で、笑いをかみ殺し。神妙な口調で告げた。
「…そうだな。城下に店を出すのなら。我が余程、満足する衣装を、作り上げなければならないな。おまえの腕前を見せてもらうぞ」
「はい。頑張ります。イアン様」
胸に夢を描いて、未来をみつめる彼を見て。我の気持ちは暗く沈んだ。
クロウが衣装を作り上げたら、我の命は尽きるのだ。
王室御用達は、仕立て屋の夢…か。
クロウの夢は、どうやら果たせそうもない。
話があると言って、昼食のあとクロウを呼び出した。
玄関から出てきたクロウは、いつもの黒尽くめの格好だったけれど。なんだか今日は、可愛く見えた。
黒い瞳が、王家の物語を話すときのように、最初からピカピカしている。
血色の悪い頬が、今はほんのり色づいていて。小さな唇が、無防備に少し開いている。
夢の中で見たクロウのように、ちょっと妖艶で、誘うような雰囲気を感じ。
鼓動が高鳴り、頭がのぼせてくる。
こ、これは。うっとり…というやつか?
我に見惚れているのか? 可愛いやつめ。すぐにもギュッとしたい。
「にゃおーん」
クロウの猫が、甲高く鳴いて。うっとりしていたクロウが、ハッと息をのむ。
瞳の焦点が合って、意識が戻ったみたいだ。
我も、イケナイ妄想から意識が戻った。
うぅ…まぁ、いい。ここで、ふたりでみつめ合っていても仕方がないからな。
「では、行くか」
彼を誘うように、我は手を引いて歩く。
昨日も、手をつないで歩いたというのに。
昨夜、彼を押し倒す夢なんか見てしまったから。なんとなく、意識してしまって。
手をつなぐだけで、体が熱くなってくる。
でも、モグラを捕まえてくる、やんちゃな弟の話をするクロウには。当たり前だが、そんな色っぽいものを連想する雰囲気はなくて。
自分ばかりが、恋を意識しているという、後ろめたい思いもあったけれど。
彼の微笑みを見れば、すぐにもいつもの調子を取り戻せた。
ぎこちなくつなぐ、手の体温を。今は、心地好いと感じている。
我はクロウを連れて、今日は、城の敷地から出るつもりだった。
住居城館の敷地内からは、城しか見えないようになっている。
しかし、出口である大きな門をくぐれば、眼下に島の全容が広がるのだ。
高台からは、家屋敷や、城下の町並み、そして港までもが、遠目に見えている。
「いってらっしゃいませぇ、陛下、クロウ様」
門が閉まるところで、猫を抱くアイリスに声をかけられた。
お、お邪魔猫がお留守番だ。よし、素晴らしい働きだ、アイリス嬢よ。
猫がいなくても、ふたりきりにはなれないが。護衛のシヴァーディはセドリックと違って分をわきまえているから。邪魔立てすることはないだろう。
そして門は閉じられた。
島中に響き渡る、門の開閉音に。クロウは一度経験しているはずなのに、首をすくめる。
「来たときも思ったのですが。大きな音ですね?」
「レトロセキュリティーだ。わざと、このような大きな音が鳴るように出来ている。城内にいても、ここを誰かが通れば、わかるから。人員の少ない今は、便利だぞ。先人の知恵に助けられているな?」
「これも、歴史の一部なのですね? 素敵です」
にっこり微笑んで、うなずくクロウの、その表情や。
首をすくめる仕草や。
握る手の中にある、小さな手を意識すると。鼓動が変なふうに跳ね上がる。
この感覚は、もうわかった。彼を好きだと思うと、心臓が高鳴るのだな。
町並みを指差して、クロウに説明する。
我の客人第一号への、おもてなしだ。
「島のふもとには、帆船が停泊できる大きな港。城下には店が並び、中腹には、王の臣下とその家族が暮らす邸宅がある。島の中だけで生活が成り立つ、活気のある城塞都市だったのだ。十年前まではな…」
彼に目を戻すと。景色を眺めていると思っていたクロウと、思いがけなく目が合って…ドキリとした。
握った手に、力がこもる。
すると彼の手も、ひときわ熱くなったように感じた。
「僕が働いているジェラルド商会の店長も、十年前まで城下でお店を開いていたのです。退去させられるまでは…」
クロウの言葉を受け、我は目を伏せ、苦々しくつぶやいた。
「港から、島の頂上に建つ城に、上がってくる道すがら。おまえは、その目で見てきたはずだ。どの店も閉まり。城下には、人などひとりもいない。今は、ほこり舞う廃墟だな」
「僕が、一人目になっては、駄目でしょうか?」
思いも寄らないことを言われ、我はクロウをみつめる。
「もちろん、まずはお衣装を、立派に仕立て上げなければなりませんが。もし、陛下にお気に召していただけたら。城下にお店を持ちたいのです。王室御用達は、仕立て屋の夢ですからね?」
もじもじしながら、夢を語るクロウは、とっても可愛らしい。
そして、凛々しい。
おそらくこれは、ただの夢物語ではないのだ。
将来、こうなりたいという、未来の指針である、現実的な夢だ。
だから、恥ずかしいけれど、必ず叶えるという強い意志があって。
それを口にするクロウが、可愛くて、凛々しいのだな、と我は思った。
「僕が島でお店を出したら、それを聞きつけた本土の人たちが、島へ渡って商いをし始めます。人々の力は、ひとりひとりはちっぽけでも、寄り集まれば、大きな大きな力になるのです。そうしたら、きっと。バミネなど、ひとたまりもありません。大衆の力は、あいつひとりの力では止められやしないっ。大勢の人が来るようになったら、この島は、すぐにも賑やかになりますね?」
春の麗らかさをまとう、暖かな笑みで、彼はそう言う。
我のあきらめきった、凍てつく空気などまるで読めない、ほのぼの日和のクロウが、おかしくて。悲しくて、ならなかった。
喉の奥で、笑いをかみ殺し。神妙な口調で告げた。
「…そうだな。城下に店を出すのなら。我が余程、満足する衣装を、作り上げなければならないな。おまえの腕前を見せてもらうぞ」
「はい。頑張ります。イアン様」
胸に夢を描いて、未来をみつめる彼を見て。我の気持ちは暗く沈んだ。
クロウが衣装を作り上げたら、我の命は尽きるのだ。
王室御用達は、仕立て屋の夢…か。
クロウの夢は、どうやら果たせそうもない。
194
あなたにおすすめの小説
悪役側のモブになっても推しを拝みたい。【完結】
瑳来
BL
大学生でホストでオタクの如月杏樹はホストの仕事をした帰り道、自分のお客に刺されてしまう。
そして、気がついたら自分の夢中になっていたBLゲームのモブキャラになっていた!
……ま、推しを拝めるからいっか! てな感じで、ほのぼのと生きていこうと心に決めたのであった。
ウィル様のおまけにて完結致しました。
長い間お付き合い頂きありがとうございました!
俺、転生したら社畜メンタルのまま超絶イケメンになってた件~転生したのに、恋愛難易度はなぜかハードモード
中岡 始
BL
ブラック企業の激務で過労死した40歳の社畜・藤堂悠真。
目を覚ますと、高校2年生の自分に転生していた。
しかも、鏡に映ったのは芸能人レベルの超絶イケメン。
転入初日から女子たちに囲まれ、学園中の話題の的に。
だが、社畜思考が抜けず**「これはマーケティング施策か?」**と疑うばかり。
そして、モテすぎて業務過多状態に陥る。
弁当争奪戦、放課後のデート攻勢…悠真の平穏は完全に崩壊。
そんな中、唯一冷静な男・藤崎颯斗の存在に救われる。
颯斗はやたらと落ち着いていて、悠真をさりげなくフォローする。
「お前といると、楽だ」
次第に悠真の中で、彼の存在が大きくなっていき――。
「お前、俺から逃げるな」
颯斗の言葉に、悠真の心は大きく揺れ動く。
転生×学園ラブコメ×じわじわ迫る恋。
これは、悠真が「本当に選ぶべきもの」を見つける物語。
続編『元社畜の俺、大学生になってまたモテすぎてるけど、今度は恋人がいるので無理です』
かつてブラック企業で心を擦り減らし、過労死した元社畜の男・藤堂悠真は、
転生した高校時代を経て、無事に大学生になった――
恋人である藤崎颯斗と共に。
だが、大学という“自由すぎる”世界は、ふたりの関係を少しずつ揺らがせていく。
「付き合ってるけど、誰にも言っていない」
その選択が、予想以上のすれ違いを生んでいった。
モテ地獄の再来、空気を読み続ける日々、
そして自分で自分を苦しめていた“頑張る癖”。
甘えたくても甘えられない――
そんな悠真の隣で、颯斗はずっと静かに手を差し伸べ続ける。
過去に縛られていた悠真が、未来を見つめ直すまでの
じれ甘・再構築・すれ違いと回復のキャンパス・ラブストーリー。
今度こそ、言葉にする。
「好きだよ」って、ちゃんと。
BLゲームの世界でモブになったが、主人公とキャラのイベントがおきないバグに見舞われている
青緑三月
BL
主人公は、BLが好きな腐男子
ただ自分は、関わらずに見ているのが好きなだけ
そんな主人公が、BLゲームの世界で
モブになり主人公とキャラのイベントが起こるのを
楽しみにしていた。
だが攻略キャラはいるのに、かんじんの主人公があらわれない……
そんな中、主人公があらわれるのを、まちながら日々を送っているはなし
BL要素は、軽めです。
裏乙女ゲー?モブですよね? いいえ主人公です。
みーやん
BL
何日の時をこのソファーと過ごしただろう。
愛してやまない我が妹に頼まれた乙女ゲーの攻略は終わりを迎えようとしていた。
「私の青春学園生活⭐︎星蒼山学園」というこのタイトルの通り、女の子の主人公が学園生活を送りながら攻略対象に擦り寄り青春という名の恋愛を繰り広げるゲームだ。ちなみに女子生徒は全校生徒約900人のうち主人公1人というハーレム設定である。
あと1ヶ月後に30歳の誕生日を迎える俺には厳しすぎるゲームではあるが可愛い妹の為、精神と睡眠を削りながらやっとの思いで最後の攻略対象を攻略し見事クリアした。
最後のエンドロールまで見た後に
「裏乙女ゲームを開始しますか?」
という文字が出てきたと思ったら目の視界がだんだんと狭まってくる感覚に襲われた。
あ。俺3日寝てなかったんだ…
そんなことにふと気がついた時には視界は完全に奪われていた。
次に目が覚めると目の前には見覚えのあるゲームならではのウィンドウ。
「星蒼山学園へようこそ!攻略対象を攻略し青春を掴み取ろう!」
何度見たかわからないほど見たこの文字。そして気づく現実味のある体感。そこは3日徹夜してクリアしたゲームの世界でした。
え?意味わかんないけどとりあえず俺はもちろんモブだよね?
これはモブだと勘違いしている男が実は主人公だと気付かないまま学園生活を送る話です。
転生令息は冒険者を目指す!?
葛城 惶
BL
ある時、日本に大規模災害が発生した。
救助活動中に取り残された少女を助けた自衛官、天海隆司は直後に土砂の崩落に巻き込まれ、意識を失う。
再び目を開けた時、彼は全く知らない世界に転生していた。
異世界で美貌の貴族令息に転生した脳筋の元自衛官は憧れの冒険者になれるのか?!
とってもお馬鹿なコメディです(;^_^A
BL世界に転生したけど主人公の弟で悪役だったのでほっといてください
わさび
BL
前世、妹から聞いていたBL世界に転生してしまった主人公。
まだ転生したのはいいとして、何故よりにもよって悪役である弟に転生してしまったのか…!?
悪役の弟が抱えていたであろう嫉妬に抗いつつ転生生活を過ごす物語。
【完結】薄幸文官志望は嘘をつく
七咲陸
BL
サシャ=ジルヴァールは伯爵家の長男として産まれるが、紫の瞳のせいで両親に疎まれ、弟からも蔑まれる日々を送っていた。
忌々しい紫眼と言う両親に幼い頃からサシャに魔道具の眼鏡を強要する。認識阻害がかかったメガネをかけている間は、サシャの顔や瞳、髪色までまるで別人だった。
学園に入学しても、サシャはあらぬ噂をされてどこにも居場所がない毎日。そんな中でもサシャのことを好きだと言ってくれたクラークと言う茶色の瞳を持つ騎士学生に惹かれ、お付き合いをする事に。
しかし、クラークにキスをせがまれ恥ずかしくて逃げ出したサシャは、アーヴィン=イブリックという翠眼を持つ騎士学生にぶつかってしまい、メガネが外れてしまったーーー…
認識阻害魔道具メガネのせいで2人の騎士の間で別人を演じることになった文官学生の恋の話。
全17話
2/28 番外編を更新しました
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる