【完結】幽閉の王を救えっ、でも周りにモブの仕立て屋しかいないんですけどぉ?

北川晶

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52 これって、デートじゃね?

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     ◆これって、デートじゃね?

 昼食を終えて、ラヴェルの指示通り、ぼくはサロンを出た。
 外出だというから、黒のマントを着用。春先なので、花壇とか森の地べたとか、花が咲き始めてきているけれど。人間には、まだ肌寒いんだよね。
 外出って、また森に行くのかな?
 でも、時間を決めて、お出掛けなんて。まるでデートみたいですねぇ…。

 あれ? これって、デートじゃね?

 気づいて、ぼくはハタと思いを巡らす。
 昨日、森に出掛けたときは、突発的だったから。あまり気にならなかったし、意識もしていなかったんだけど。
 今日は、恋を自覚してからの、初めてのお出掛けじゃね?

 ヤベェ、ドキドキしてきたぁ!!

 あああぁぁ、初めてのデートに、この黒尽くめ、マズいんじゃね?
 でも、黒いのしか、島に持ってきていない。つか、本土にもないけど。あああぁぁぁ。

 つか、ふたつの人生合わせての、初デートなんですけどぉ?
 どうしたらいいの? どうしたらいいのっ? とグルグルしつつ、白い大理石のエントランスを抜け。ラヴェルが称した玄関につく。

 あぁ、どうやってここまで来たのか、覚えていません。
 つか、王城の入り口は、玄関などという規模ではないと思いますっ。
 見上げるほどに高くて大きくて、重厚な両開きの扉なのだから。なんて、心の逃避行をしてみたり…。

「クロウ様、いってらっしゃいませ」
 ラヴェルが、厳かな様子で、扉を開けてくれる。

 い、いってらっしゃい? 行くの? 行っちゃうの? ぼくぅ。

 扉の向こうは、外の日差しがまぶしくて、目に突き刺さってくる。
 目が明るさに慣れて、外を見やると。庭先で、陛下とシヴァーディがぼくを待っていた。

 ふぉぉぉぉ、麗しさのツートップですぅ。春の日差しに負けない、きらびやかさですぅ。

 立ち襟に、ふんだんに刺繍がなされた、上質な上着を、身にまとった陛下は。その濃紺の生地を、黄金色の髪で光らせて。
 金髪の流れの奥に、垣間見える首の太さや。上着を盛り上げるほどの、立派な胸板や。背筋を伸ばして、威風堂々とした長身が。男性の色気を醸し出している。
 黒ズボンに黒い長ブーツを合わせ、シックに整えていた。かっけーっ。

 あぁっ、これぞ、白馬に乗った王子様。白馬に乗ってないけど。王様だけど。

 そして、陛下に付き従う、シヴァーディまでも。
 黄金の髪の陛下の後ろに、控えめにはべる、銀髪の騎士。
 太陽と月。光と影。
 清廉であり華麗な美しさが、陛下と並ぶと相乗効果で。美々しくて、目が潰れそうです。

「兄上、しっかりしてください」
 チョンの一声で、ぼくは我に返った。

 はっ、見惚れ過ぎました。美しさの波に溺れて、昇天しかけていました。

 つか、チョンも一緒に行くのか? …行くのかぁ?
 兄弟同伴の初デートは、痛くね?

「…では、行くか」
 陛下の前に立っていながら、動かないぼくを見兼ねたのか。陛下は、ぼくの手を引いて、歩き出す。
 昨日も、手をつないで歩いたけれど。今日は意識しちゃって、はにかんでしまう。
 モブが、はにかんでも、可愛くもなんともないのは知っているよ?
 でもさ、気持ちがさっ! ぼくの恋愛ビギナーとしての心持ちが、追いつかないわけよ。
 スマートにこなせないわけよ。
 ぎゃぁーーって、なっちゃうわけよっ!

「クロウ、昨日、我に忠誠を誓ってくれたが…」
 あっ、グルグルしている場合ではない。陛下に、ちゃんとおもてなしをしなければ。
 せめて、話をちゃんと聞かないとなっ。

 庭を抜けて、王城の入り口である門を抜け、石畳を歩いていく。
「我のそばにいてくれるのは、嬉しいが。おまえが島にずっといたら、先日言っていた弟が、困るのではないか?」

 陛下は、自分こそ苦境に立っているというのに、ぼくの家族の心配をしてくれて…お優しい。
「御心配には及びません。弟は母と暮らしております。詳しい事情は申せませんが、元気にしております。この間も、モグラを取ってきまして、室内に放されて、大変だったのですよ」

 ぼくは、ふたつの人生で初めて、モグラを見た。

 親指姫の話の中に出てくるだけの、伝説の生き物だと思っていたんだ。
 なのに、実物を目の前に。チョンが置きやがって。
 しかも、生きているんです。
 ぼくは、逃げようとして部屋の隅に行こうとするモグラをひっつかんで、窓の外に放り投げてしまいました。
 インドア派のくせに、プロ野球選手も真っ青な、見事な投球フォームでなっ。

 だって…王城に、モグラを解き放つわけには、いかないでしょうがっ!

 チョンには、もちろん厳重注意をしましたとも。
 でも。あの、掴んだときのモニュッとした感触。
 キュッと鳴くしぃ? 生暖かい温度も。
 なんか、猫を抱っこするのとは異質の感覚で…モニュが、き、気持ち悪かったですぅ。

 もしもアイキンとは別の、ダンジョン系のゲームに転生していたら、ぼくはきっと、生きていけなかったと思うよ。
 モグラで、ひぇぇぇっと叫ぶくらいだからね。
 本当にヤバいときは、キャーは出ないね。ひぇぇぇっ、だね!

 つか、とてもじゃないが、ゴブリンを剣で倒せたり出来やしないよ。
 転生先が、アイキンで良かったです。
 ま、アイキンも。ストーリー展開がエグイけど。
 王様を救出するまでは、この世界で良かったとは、言えないかな?

「モグラを取って、室内に放すくらいの元気さは、あるのだな? 良かった。しかし、やんちゃな子供だな?」
 陛下は、シオンのことを、幼い子供だと思っているみたいだ。
 そりゃ、ぼくより身長が大きな子が、モグラを捕まえてきたりはしないだろうしな。

 猫ゆえにだよ、あれは。
 もう、マジで早く呪いを解かなければならないぞ?
 シオンの、セクシーでありながら品行方正という、レアキャラが崩壊してしまう前に。

 そんな他愛もない話をしているうちに、住居城館の一番端にある、一番大きな門の前についた。
 防御塀に囲まれた、鉄製の頑丈な門、というかアーチ形の鉄扉だ。

 シヴァーディが重い扉を開けていき、ぼくと陛下に、どうぞと示す。
 ぼくたちは門をくぐった。敷地の外に出ると、眼下に、島の全容が見える。
「いってらっしゃいませぇ、陛下、クロウ様」
 思いも寄らない声がして、ぼくが振り返ると。敷地の中に、チョンを抱っこしたアイリスがいて。にこやかに手を振っている。お見送り、かな?
 シヴァーディが手を離して、大きな門が、ガガーンと鼓膜が破れるほどの轟音を立てて、閉じた。
 わかっていても、大きな音が鳴れば、心臓がキュッとなって、身をすくめてしまうものだ。

 つか、あれ? チョンは一緒に行かないの? ま、いいか。

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