【完結】幽閉の王を救えっ、でも周りにモブの仕立て屋しかいないんですけどぉ?

北川晶

文字の大きさ
73 / 176

58 王城へ至る道 ④(クロウside)

しおりを挟む
     ◆王城へ至る道(クロウside)

 キスされて、涙ぐんでしまった。
 陛下にキスされたことが、嫌だったわけじゃない。
 崇高なるカザレニアの国王を、自分が汚してしまった。あまりにも恐れ多くて。そんな気持ちになってしまったんだ。
 だけど、おののき、震えるぼくを、陛下は優しく抱き締めてくれて。
 安心させるみたいに、背中を撫でてくれたんだ。お優しいぃ。

「我は、結婚はしない。いずれ…その話は片をつける」
 やはり、バミネに強要されている結婚話なのですね?
 それには従わないのですか? そういう決意をしたのでしょうか?
 ぼくは、その話を聞いて、ホッとしたけれど。
 嬉しいって、思っちゃいけないのかな?

 婚約しているかどうか、わからないけど。婚約破棄って、どの物語でも結構な大ごとになるではないか?
 それだけが心配です。
 陛下の負担に、ならなければ良いのですが。

「けじめをつけぬうちに、おまえに手を伸ばすのは、不実なことだと、わかっている。だが、おまえのそばは、心地好い。ずっと、そばにいたいのだ」
 そこは、大丈夫です、陛下。
 ぼくも、陛下をお慕いしているのですから。どんどん、ばんばん、手を伸ばしてくださいませ。
 いや、この言い方では、はしたないですな。ウェルカムです…も、違うか?
 考えているうちに、陛下は話を進めていった。

「おまえは、我の心を初めて揺さぶった、特別な者だ」
 それって、陛下も初恋ってことですか?
 ええぇっ? う、嬉しいですぅ。

 でも、モブが初恋で、良いのかなぁと、ちらりと思いますが。
 美的感覚ヤバい的な?
 ま、ぼくを美しいとは、さすがに思っていないでしょうけど。
 そばにいて心地好いと、言うのだから。たぶん、ぼくのぽややんとしたところが、ほのぼのして、お気に召したのではないかなぁ?
 シオンには、よく『しっかりしてください、兄上』などと、怒られる部分だけどね。
 短所は、他人が見たら長所、ってこともあるよねぇ?

「おまえは、柔らかくて、温かくて、こうして触れていると、なんだか心が和むのだ。触れたい、と思う好きなのだ」
 え? 触れたい、好きって。に、肉欲的な?
 キャーーッ、。照れます。
 ぼくも、他ジャンルの薄い本を、巴と静のせいで目にしたことあるんですけど。
 あんなこと、陛下がなさるんですか? ぼくを相手に?
 いやいや、陛下はそのような、無体な真似はされませんよね?

 初恋なんです。ピュアなんです。

 お美しい陛下は、ぼくが思い浮かべた下品な行いなど、いたしません。
 ぼくは、キスもしたことがなかったのに、こういう知識ばかりが多くて、耳年増みみどしまで、いけません。
 初恋同士、なのだから。純粋なラブを進めていくのです。

 あの腐った知識は忘れるのです。…いや、万が一のときに、忘れない方が良いかも、だけど。

 いやいや、たぶん、ないから。下ネタ系は忘れよう、うん。
「我が…おまえに触れることを、許してほしい」
「僕のような者が、許すなど…」

 つか、ぼくが、陛下に触れるのを、ためらっているのです。おののいているのです。
 陛下は、王様なのですから。なんでもしてくださっていいのです。
 うーん、これでは、また、はしたない感じです。
 えっと、うまく応えられません(泣)。

 そうして戸惑っていたら、陛下がギュッと、力を込めて抱き締めてくれた。
「陛下…」
 ビギナーゆえに、うまく応えられず、すみません。

「この気持ちは、決して戯れなどではない。クロウが好きだ。信じてくれ」
「信じますっ。イアン様のお気持ち、とても嬉しいです」
 すかさず、食い気味に、ぼくははっきりと告げた。

 恥ずかしいとか、無理とか、恐れ多いとか、思っていないで。真摯に告白してくれた陛下に、ぼくもちゃんと想いを返さないと。
 陛下が不安に思うことなど、なにひとつないのですから。

「昨日、そばにいると誓いました。僕のこの気持ちも、戯れなどではありません。イアン様が望むものを、僕はイアン様に、すべて捧げます」
 ぼくの気持ちは、貴方をお慕いし、命を懸けて貴方のそばに居続ける。そのような強い感情です。
 だから、陛下。心配しないで。
 ぼくが貴方をいとう場面など、決してありません。
 そういう気持ちで、微笑みかけた。

 ご結婚など、陛下の事情は、ぼくにはまだよくわからない。
 結婚するお相手がいるうちは、男であり、平民であるぼくに、陛下が触れるのは良くないこと。これは、一般的な常識だ。
 でも、この島から出られず、孤独を抱える陛下に、常識とか、無粋じゃね?

 今の、陛下のお心、お気持ちが、なにより優先されるし、大事なことなのだと思うのだ。
 それに、ぼくにとって陛下は、無条件に従うべき相手で。
 慕う相手で。敬愛する相手で。…恋する相手だ。

 先ほどは、あまりの恐れ多さに、キスされて涙ぐんでしまったけれど。
 キスが嫌だったわけじゃない。

 触れた唇から、陛下の存在が、体に染み込んで来るみたいで。嬉しかった。
 ゼロ距離、じゃなくて。
 もっと近くに。同化するみたいに。混ざり合うように。心までも寄り添うように。近く感じたのだ。

 陛下の唇も、熱かったが。
 ぼくも熱くなって。気持ち良くて。
 大きな手のひらで撫でられると、心臓が破裂するかと思うくらいドキドキした。

 ぼくの心と体が、陛下に恋をしていると、はっきり示している。
 そんな相手に、触れることを許して…なんて言われたらさぁ。
 拒否などできるものかーいっ。

 陛下が望むのなら、ぼくはそれを与えるだけだ。
 それでなくても、衣装を作り上げるまで、数週間しかない。
 ずっとこの島にいたい、とは願ったが。納品したあと、どういうふうに事が進むか、わからないからな。

 でも、この数週間は、絶対に邪魔されない、貴重な期日だ。
 その短い間、陛下がぼくになにかを求めるのなら。ぼくはなんだって差し上げる。

 時間も、想いも、体さえも。

 触れて良いと言うのは、恥ずかしいので。陛下にそっとうなずいて見せると。
 陛下は安堵の笑みを浮かべて、唇と唇を触れ合わせるだけの、優しいキスをした。

 ほら、陛下はやはり、紳士なのだ。
 いきなりベロチューするような、獣ではない。
 ホッ。ぼくも初恋で恋愛初心者なので、どうかこれからも、お手柔らかにお願いします。

 陛下がモブを選ぶのは、アイキンの世界的には、アウトかもしれない。
 でも、主人公のアイリスは、別の道を進んでいるから。
 そのメインルートの裏で、陛下とモブの恋バナが、進んでいても良いのではないか?

 だって、陛下がぼくを望んでいるのだ。

 ぼくも好きなのだから、それに応えたいじゃないか。単純に。
 主人公とか、ゲームとか、ルートとか、関係なく。
 平民でも、王様でも、モブでもなくて。

 ぼくは。クロウはイアン様と恋をするっ。

 誰にも、公式にも、邪魔させないからなっ!
 つか…公式様。温かく見守っていただけると幸いです(弱気)。

しおりを挟む
感想 10

あなたにおすすめの小説

悪役側のモブになっても推しを拝みたい。【完結】

瑳来
BL
大学生でホストでオタクの如月杏樹はホストの仕事をした帰り道、自分のお客に刺されてしまう。 そして、気がついたら自分の夢中になっていたBLゲームのモブキャラになっていた! ……ま、推しを拝めるからいっか! てな感じで、ほのぼのと生きていこうと心に決めたのであった。 ウィル様のおまけにて完結致しました。 長い間お付き合い頂きありがとうございました!

俺、転生したら社畜メンタルのまま超絶イケメンになってた件~転生したのに、恋愛難易度はなぜかハードモード

中岡 始
BL
ブラック企業の激務で過労死した40歳の社畜・藤堂悠真。 目を覚ますと、高校2年生の自分に転生していた。 しかも、鏡に映ったのは芸能人レベルの超絶イケメン。 転入初日から女子たちに囲まれ、学園中の話題の的に。 だが、社畜思考が抜けず**「これはマーケティング施策か?」**と疑うばかり。 そして、モテすぎて業務過多状態に陥る。 弁当争奪戦、放課後のデート攻勢…悠真の平穏は完全に崩壊。 そんな中、唯一冷静な男・藤崎颯斗の存在に救われる。 颯斗はやたらと落ち着いていて、悠真をさりげなくフォローする。 「お前といると、楽だ」 次第に悠真の中で、彼の存在が大きくなっていき――。 「お前、俺から逃げるな」 颯斗の言葉に、悠真の心は大きく揺れ動く。 転生×学園ラブコメ×じわじわ迫る恋。 これは、悠真が「本当に選ぶべきもの」を見つける物語。 続編『元社畜の俺、大学生になってまたモテすぎてるけど、今度は恋人がいるので無理です』 かつてブラック企業で心を擦り減らし、過労死した元社畜の男・藤堂悠真は、 転生した高校時代を経て、無事に大学生になった―― 恋人である藤崎颯斗と共に。 だが、大学という“自由すぎる”世界は、ふたりの関係を少しずつ揺らがせていく。 「付き合ってるけど、誰にも言っていない」 その選択が、予想以上のすれ違いを生んでいった。 モテ地獄の再来、空気を読み続ける日々、 そして自分で自分を苦しめていた“頑張る癖”。 甘えたくても甘えられない―― そんな悠真の隣で、颯斗はずっと静かに手を差し伸べ続ける。 過去に縛られていた悠真が、未来を見つめ直すまでの じれ甘・再構築・すれ違いと回復のキャンパス・ラブストーリー。 今度こそ、言葉にする。 「好きだよ」って、ちゃんと。

BLゲームの世界でモブになったが、主人公とキャラのイベントがおきないバグに見舞われている

青緑三月
BL
主人公は、BLが好きな腐男子 ただ自分は、関わらずに見ているのが好きなだけ そんな主人公が、BLゲームの世界で モブになり主人公とキャラのイベントが起こるのを 楽しみにしていた。 だが攻略キャラはいるのに、かんじんの主人公があらわれない…… そんな中、主人公があらわれるのを、まちながら日々を送っているはなし BL要素は、軽めです。

裏乙女ゲー?モブですよね? いいえ主人公です。

みーやん
BL
何日の時をこのソファーと過ごしただろう。 愛してやまない我が妹に頼まれた乙女ゲーの攻略は終わりを迎えようとしていた。 「私の青春学園生活⭐︎星蒼山学園」というこのタイトルの通り、女の子の主人公が学園生活を送りながら攻略対象に擦り寄り青春という名の恋愛を繰り広げるゲームだ。ちなみに女子生徒は全校生徒約900人のうち主人公1人というハーレム設定である。 あと1ヶ月後に30歳の誕生日を迎える俺には厳しすぎるゲームではあるが可愛い妹の為、精神と睡眠を削りながらやっとの思いで最後の攻略対象を攻略し見事クリアした。 最後のエンドロールまで見た後に 「裏乙女ゲームを開始しますか?」 という文字が出てきたと思ったら目の視界がだんだんと狭まってくる感覚に襲われた。  あ。俺3日寝てなかったんだ… そんなことにふと気がついた時には視界は完全に奪われていた。 次に目が覚めると目の前には見覚えのあるゲームならではのウィンドウ。 「星蒼山学園へようこそ!攻略対象を攻略し青春を掴み取ろう!」 何度見たかわからないほど見たこの文字。そして気づく現実味のある体感。そこは3日徹夜してクリアしたゲームの世界でした。 え?意味わかんないけどとりあえず俺はもちろんモブだよね? これはモブだと勘違いしている男が実は主人公だと気付かないまま学園生活を送る話です。

転生令息は冒険者を目指す!?

葛城 惶
BL
ある時、日本に大規模災害が発生した。  救助活動中に取り残された少女を助けた自衛官、天海隆司は直後に土砂の崩落に巻き込まれ、意識を失う。  再び目を開けた時、彼は全く知らない世界に転生していた。  異世界で美貌の貴族令息に転生した脳筋の元自衛官は憧れの冒険者になれるのか?!  とってもお馬鹿なコメディです(;^_^A

BL世界に転生したけど主人公の弟で悪役だったのでほっといてください

わさび
BL
前世、妹から聞いていたBL世界に転生してしまった主人公。 まだ転生したのはいいとして、何故よりにもよって悪役である弟に転生してしまったのか…!? 悪役の弟が抱えていたであろう嫉妬に抗いつつ転生生活を過ごす物語。

【完結】薄幸文官志望は嘘をつく

七咲陸
BL
サシャ=ジルヴァールは伯爵家の長男として産まれるが、紫の瞳のせいで両親に疎まれ、弟からも蔑まれる日々を送っていた。 忌々しい紫眼と言う両親に幼い頃からサシャに魔道具の眼鏡を強要する。認識阻害がかかったメガネをかけている間は、サシャの顔や瞳、髪色までまるで別人だった。 学園に入学しても、サシャはあらぬ噂をされてどこにも居場所がない毎日。そんな中でもサシャのことを好きだと言ってくれたクラークと言う茶色の瞳を持つ騎士学生に惹かれ、お付き合いをする事に。 しかし、クラークにキスをせがまれ恥ずかしくて逃げ出したサシャは、アーヴィン=イブリックという翠眼を持つ騎士学生にぶつかってしまい、メガネが外れてしまったーーー… 認識阻害魔道具メガネのせいで2人の騎士の間で別人を演じることになった文官学生の恋の話。 全17話 2/28 番外編を更新しました

処理中です...