【完結】幽閉の王を救えっ、でも周りにモブの仕立て屋しかいないんですけどぉ?

北川晶

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59 プリンパーティー(イアンside)

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     ◆プリンパーティー(イアンside)

 好きと言い、お慕いしてると言われ。キスもして。
 恋人になったのだろうか、と。なんとなく実感の湧かない中。
 心と体は、ふわふわしていて、落ち着かない気分だが。自分が気に入っている場所で告白できて、クロウの可愛らしい様子を、いっぱい拝めて。我は、満足している。

 ふたりで身を寄せていれば、温かいが。海風はまだ冷たく。
 クロウが風邪を引いたら困るので。しばらく海をみつめたあと、城へ戻ることにした。

 暗い通路を歩くとき、少し照れくさい思いで、彼の手を握る。
 自分の手の中に、すっぽりとおさまってしまう彼の手は、指が細く長く。柔らかくて。小さいのに、包まれるような、安堵感をもたらしてくれる。

 剣を握るゆえに、硬くて、武骨な、大きいばかりの我の手とは、根本的に違うな。

 彼の手を握っていると。穏やかさに、胸が温まり。ワクワクと、心が躍る気持ちにもなる。
 通路を抜け、シヴァーディと合流しても。ずっと、この手をつないでいたいと思った。

「イアン様、結婚はしないと、先ほどおっしゃっていましたが…婚礼衣装は、どうしたらよいでしょうか?」
 内緒話のように、クロウはこっそりと聞いてきた。
 今、作っている衣装を、ないがしろにされたと思っているだろうか?
 このまま作らず、先延ばしにすれば、我の命の猶予も増えるのだろうか?
 しかしバミネは、それをまず、許さないだろうし。クロウにネックレスを返してやりたい。

 幽閉の王である我には。それくらいしか、クロウにしてやれないからな。

「結婚は、いずれクロウとする。そのときまで、衣装は取っておこう。だから、存分に力を振るってくれ」
 こう言えば、クロウは手を尽くし、懸命に衣装を作り続けるだろう。

「ぼ、僕と結婚っ!? できるのですか? いえ、その、嬉しいことではありますが。男同士で結婚は、出来るのでしたっけ?」
「できるぞ。養子をとることが、前提条件だ。王族がした前例はないが。ま、なんとかなるだろう?」

 もしも生きて、孤島を出られたら。もちろん、クロウをめとるつもりだ。
 だが、そんな未来のことよりも。今は、生き残ることすら、難しい局面である。
 バミネに追い詰められた状況下で、王族だの世継ぎだの、そのようなことを言っている場合ではない。

 我はもう、残された日々を好きに、自由に生きることにした。
 好きな者をそばに置いて。好きな者と、できれば結婚もするのだ。
 式などなくても良い。誓い合えさえすれば…。

 その場面を思い浮かべるだけで、我はなんだか。花びらに包まれるような、柔らかく、良い香りに包まれた、なにもかもが満たされるような、心持ちになった。
 あやふやな現状で、クロウに結婚という言葉を持ち出すのは。誠実ではない。
 それはわかっているが。それでも手放せないほど。結婚の場面を思い浮かべるほど。我はクロウを、好きになってしまったのだ。

 眼前の、死への恐怖の前に、クロウを立たせて。
 我は、己の戦慄を、誤魔化しているのかもしれない。
 クロウに、救いの手を差し伸べているのかもしれない。すがっているのかもしれない。
 けれど、その役目は、クロウでなければならなかった。
 好きな相手だからこそ、圧倒的恐怖をかげらせることができる。

 我は、クロウを抱き締めて、死の影から目をそらす。

 なにも知らぬ、小さな者に、その役目を負わせることには後ろめたさがある。
 けれど。つらい思いばかり、させる気はなかった。
 
「それに、クロウは、バミネから報酬を受け取らなければならないから。衣装は、作り上げなければな。ネックレスを取り戻し、弟を救わなければならないだろう?」
 クロウの弟を、なにかから救うことができたなら。こんな我でも、少しは彼の役に立つだろうか?

「弟のことまで考えてくださり、ありがとうございます、イアン様。でも、確かに。ネックレスを取り戻して、弟を救ったら。心置きなくイアン様のそばに…いつまでもいられます」
 頬をほんのり染めて、はにかむように微笑むクロウが…なんか、口から炎吐きそうなほど可愛いんだが?

 あぁ、さっきしたばかりだが、もう、キスしたい。

 ギュッとして、頭からガジガジかじりたいっ。
 などと、ひとり、胸の内でワタワタしていたら。
 もう、王城に帰ってきてしまった。もっと、ゆっくり歩けばよかった。

「イアン様がゆっくり歩いてくださったから、登り道もつらくありませんでした。お気遣いくださり、ありがとうございます」
「…いや」
 クロウのためにゆっくり歩いたのではなかったが。
 クロウがゆっくりと感じるくらいには、ゆっくり歩いていたということだ。
 ということは、これ以上ゆっくりにはできなかったということか? むぅ。

 王城の、大きな音の鳴る門を、通り過ぎるとき。クロウはやっぱり首をすくめた。
 フフッ、何回見ても、可愛いなぁ。
 そして石畳を登っていき、住居城館の入り口に当たる、門をくぐる。

 すると、なにやら騒がしい、というか。賑やかな声が聞こえてきた。
 城と後宮の境にある庭に、大きなテーブルが置かれ。大勢の人が、その周りに集まっていた。

 テーブルの上には、茶器やお菓子。そして大量のプリンが、並べられている。
 明るい日差しの中で、みんな笑顔で談笑していて。なにやら、お茶会のような様子だった。

「陛下、クロウ様。お帰りなさいませ」
 ラヴェルがサッと寄ってきて、我たちの前で、頭を下げた。
「この騒ぎは、いったい何事だ?」
 我の代わりに、シヴァーディがラヴェルにたずねた。
 彼もあずかり知らないことだったようだ。

 ラヴェルは、我に向かって説明をする。
「あの、アイリス様が、プリンを食べたいと申しまして。アルフレドが張り切って作ったのですが。どうせなら、みんなを集めて、庭先でプリンパーティーをしようと。アルフレドが用意した次第です」

 庭には、王城に勤める者が、みんないて。テーブルに並んだ軽食を口にして。和気あいあいと楽しんでいるようだった。
 このような賑やかな情景は、幼い頃…まだ父王が生きていた頃に開かれた、舞踏会以来のような気がした。
 クロウは、なにかに呼ばれるように、ふよぉぉ、とテーブルに寄っていき。プリンの入ったグラスを手にして、振り返った。
「イアン様、見てくださいっ。プルプルですよっ」
 スプーンの背で、プリンを叩いて。クロウはプルプルさせて見せた。

 海で、城に帰ったらふたりで紅茶でも、とクロウを誘っていたのだが。
 思いがけないお茶会で、流れてしまったのは残念だ。
 でも、クロウがウキウキしているから、それはそれでよい。

 それにしても…そのプリンのプルプル具合は、つい最近、どこかで見たものだ。どこだったか…。
「あっ、おまえのほっぺと同じではないかっ」
 そうだ、昨日、クロウの頬を引っ張った、あのときの感覚と同じだった。
 ムニュムニュでプルプル。

「陛下。僕のほっぺは、プリンではありません」
 呆れたような顔で、クロウは苦笑するが。
 おまえのほっぺでなくて、なんだというのだっ。
「いいや、これと同じだ。はははっ、なぜこんなにもプルプルなのだっ?」
 我は、クロウのほっぺを指先で摘まんで、引っ張った。
 むにゅぅ、とよく伸びる。
 あんまり伸びるから、また笑いが込み上げてしまう。
 可愛くて、微笑ましくて、面白い。

「ずいぶんと楽しそうですね? 陛下」
 そこに、母上と、黒猫を抱っこしたシャーロットが現れた。
「お、おうひひゃま…」
 クロウが会釈しようとするので、仕方なく頬から手を離す。
 プルプルを、もっと堪能させろっ。

「かしこまらないで頂戴? お茶会は無礼講よ? こうして、みんなが一堂に集まるのは、久しぶりで。心が浮き立ちますね?」
 柔らかな風に、薄紫色のドレスの裾を揺らして。母は目を細める。
 父が生前の頃の、輝かしい日々を。母も懐かしく思い出しているのだろう。

「それに、陛下がこのように笑うところも、久しぶりに見ましたわ? クロウ、陛下と仲良くしてくださって、ありがとう。母として、息子が楽しげにしているところを見られるのは、とても嬉しいことなのよ?」
「もったいないお言葉です」

 すました顔で、会釈するクロウだが。
 手にはプリンを持っているので。しまらないな。

 クロウをいじって、遊んでいるところを、母に見られてしまった我は。王にあるまじきで、恥ずかしくなるが。
 母が嬉しく思っているのなら、まぁ、いいか。

「母上、クロウは、我の大事な人になったのです。我の心を救ってくれた、かけがえのない人だ」
「へ、陛下?」
 突然の報告に、クロウはワタワタしていたが。
 我は構わず、クロウの肩をしっかり抱いて、母に紹介した。

「あらあら、素敵ねぇ。わかっていますとも、陛下の笑顔を取り戻すなんて、とても素晴らしいことですもの? 大事に想うのなら、決して手放してはいけませんよ?」

 母は、のほほんとした感じで言う。
 結婚相手とまでは、思っていないかもしれないが。
 後半部は、すごく真面目な声のトーンだったから。わかっているのかもしれない。
 でも、王族だから、とか。身分が、世継ぎが、というようなことは言わなかった。

 バミネに脅かされ、元は、のほほんとしていた母も。前王妃として、子を守るべく、厳しく律してきた。
 長く孤島に閉じ込められ、危機感もひしひしとつのらせているのだろう。
 ここにきて、王族のなんたるかというよりも、己が己らしくあり、子供が子供らしくあり、そしてとにかく生き残ることに、重きを置き始めているのかもしれない。

 心を凍らせた息子を、母は常々もどかしく思っていて。
 その心を溶かしたクロウに、単純に感謝している。我にはそのように見えた。

 つまりクロウは、母のお眼鏡にかなったということだ。
「お兄様? それって、クロウ様をお嫁さんにするってこと? だったら、チョンちゃんも、私の家族になるってことだわよね? やったわ! チョンちゃん、私たちもこれで家族よ?」
 シャーロットは、わかっているのかいないのか、ズバリと斬り込んできたが。
 なにやら、喜ぶ視点が普通と違うような?
 その、お邪魔猫と家族になることが、一番嬉しいのか? 妹よ。

 そして、そのお邪魔猫は、シャーロットの腕から飛び降りて、クロウの体によじ登るのだった。
 ふられたな、妹よ。

「ニャーニャーニャー」
 なにやら、クロウに文句を言っている黒猫。
 ふふん、そうだ、チョンよ。
 クロウは、我のものになったのだ。もう、おまえだけのものではないのだっ。

 優越感にひたった顔で、猫を見やると。
 チョンは、我を睨んでニャーニャー言い出す。牙を出しても、おまえなど、怖くないわっ。

「はいはい、わかった、わかった。ほら、チョン。プリンやるからな? 美味しいぞ」
 無理矢理、黙らすように。クロウはプリンを指ですくって、チョンの口に突っ込んだ。
 クロウは清楚で、仕草も洗練とした印象なのだが…意外と荒っぽいな。

 だが、ふと。我は、自分がクロウにそうやっている状況を想像してしまった。
 指先に乗せたプリンを…我の太い指を、その小さき唇でくわえるクロウ…マズいっ。この想像は駄目だ。

 我はクロウから目をそらし、別のことを考えることにした。
 なにはともあれ、告白して両想いになった、この日は。皆が集って笑い合う、近年にない善き日となった。
 きっと、クロウとアイリスという新しい風が、王城に吹いたおかげなのだろうな?

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