【完結】幽閉の王を救えっ、でも周りにモブの仕立て屋しかいないんですけどぉ?

北川晶

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60 プリンパーティー(クロウside)

     ◆プリンパーティー(クロウside)

 前略、前世の姉であった、巴と静へ。
 ぼくをさんざん、モブ顔だと、けなしてくれたけれど。そのモブ顔のおかげで、こってりに飽きた陛下が、あっさりモブのぼくを見初めてくださいました。
 今ぼくは、陛下に肩を抱かれながら、ロマンティックに海を眺めています。うらやましいだろう?
 九郎でBLはないわぁ、なんて言い腐ってらっしゃいましたが、ここは乙女ゲームの裏ルートなので、オッケーなのです。ふーんだっ。
 どのロベルトか知らないが、あのロベルト様に似ていると言っていた、イアン様が相手だぞ?
 ギャーギャーとヤバいテンション上げてた、イケボもそのままだぞ?
 耳元で囁かれると、比喩でなく腰が抜けるぞ? 良いだろう、へっへ。

 なんて、思っている場合ではありません。
 陛下と寄り添って、海をみつめる、このシチュエーションが。もう、マジで恐れ多くて、キュン死寸前なんです。
 一度は腹をくくった、ぼくですが。
 恋を昨日、自覚したばかりで。初恋だ、キャーなんて。先ほどまで思っていた、ぼくなのです。
 前世と合わせて四十年以上、こんな甘い雰囲気を一度も嗅いだことがなく。
 ど、ど、動揺が激しくて。どこを見たらよいのやら。
 目線が、波の動きに引き寄せられて、グルグル回って。地べたにいるのに、車酔いしそうです。
 贅沢な悩みなのは、重々承知の上です。姉たちよ、すみません。

「クロウ、我は名ばかりの王だ。おまえが目を輝かせて語る、歴代の英雄王たちと比べたら、なにも成していない我は、さぞや見劣りするだろう。それでも、そばにいてくれるか?」
 いつもキリリとして、厳しい眼差しをしている陛下が、どこか頼りなさそうにつぶやく。
 そんな陛下に、ぼくは胸がギューンと引き絞られた。
 なんで、そんなに弱気に? アイキンの俺様王様に戻ってくださいませっ。

「なにも成していないなどと、とんでもない。イアン様はたったおひとりで、バミネの脅威から国民を守っているではありませんか? この孤島で、陛下が人知れず戦っていることを、民が知ったら。必ず陛下を、尊崇の気持ちでみつめることでしょう。イアン様はすでに、大きなことを成し得ています。カザレニア国民のことを、第一に考えてくださる、立派な王様です」

 そうだ、どの歴代の英雄王よりも、陛下は素晴らしいのだっ。
 なにも、卑下するようなことはない。

「それに、僕は王様だから、イアン様をお慕いしているのではありません。僕も、僕の弟も、気遣ってくださるその優しさに、魅かれたのです」
「そうか。おまえに褒められると、くすぐったい気になる。嬉しい、のだろうな。おまえの言葉は心強く、励みになる。これからもどうか、そばで我を支えてくれ」

 肩を抱く手で、陛下は、ぼくの二の腕を優しく撫でた。
 陛下は体格が大きく、手も長いし、腕も太いし、なんだかすっぽりと陛下の腕に包まれてしまって。
 それを意識すると。頭がのぼせそうになる。
 でも、胸板が厚いから、寄っかかると、頼もしくて。
 自分にないものに、憧れる性質ゆえに、カッコイイ、好きぃって。なりまする。

「海風で、体が冷えてしまうな。そろそろ城に戻ろう。温かい紅茶でも、飲みたい気分だ…ふたりで」
 陛下は後半の方は囁くように言って、海を照らすの光が目に入ったのか、目をやんわり細める。
 うーん、てい骨に響くボイスと、気高き笑のビビビコンボで、気絶しそうです。
「冷えましたか? また、マントの中に入りますか?」
 でも陛下に、寒い思いをさせられませんっ。
 ぼくのマントの性能は、ご存知でしょう? とばかりに、前を開こうとしたら。
 陛下は、眉を吊り上げて怒った。
「そうではない。ふたりで紅茶を飲もうと誘ったのだっ」
 ひえぇ、甘々モードを読み切れず、申し訳ありませんでした。恋愛ビギナーなのでお許しを。

 ペコペコと頭を下げながら、立ち上がって、通路に入ると。
 陛下は秘密の扉をぴったりと閉じ。扉の下の方に差し込み口があるのだが、そこに扉止めを入れ込んだ。
 どうやら、簡易のロックみたいだ。

「外側の扉に穴があって、そこを押すと、この枷が外れるのだ。海を渡る民が、万一にも閉め出されないように、配慮してある」
「昔の王様も、イアン様のように、民を大切にしていたのですね?」

 その話を聞いて、ぼくは人知れず、忍者のカラクリ屋敷を思い出していた。
 一子相伝の隠し通路や、海賊チックな鎖の手摺り、いろいろな仕掛けとか、似ている要素があるじゃん?
 面白かったぁ。

 扉が閉まると、海風もピタリと止まり。空気の流れも止まって。密封されたような、静かな空間になった。
 ランプを持った陛下が、ぼくの、海風に乱れた髪を直してくれる…お優しい。
 頭を撫でるように、そっと、そっと、指先で、髪の一本一本を直していくような、丁寧な仕草に。

 背筋がソワソワッとした。
 あの、美容院とかで、髪を触られると、ソワソワってする、気持ちのいいやつ。はわわぁっ…。

 ぼくも、お返しに。陛下の髪を直しちゃったりして。
 陛下の髪は、しっとりしてたっぷりした、重みのある髪だから、そうそう乱れないけど。
 ふたりで身なりを整え合って、えへっと、笑い合う。ほのぼの。

 通路は、ランプの灯りだけが頼りの、真っ暗な空間だから。陛下は、ぼくの手を引いてくれる。
 大きくて、温かい手に包まれていると、すっごい安心感があって。
 ぼくは陛下に、なにもかもを委ねても大丈夫だと思うのだった。

 そして、秘密の通路を抜けて倉庫を出て。外でシヴァーディと合流した。
 そこでぼくは、大事なことを聞きそびれていたなと思い、こっそり陛下にたずねてみる。

「婚礼衣装は、どうしたらよいでしょうか?」
 結婚しないと、陛下が決めたのなら。ぼくが手掛ける婚礼衣装もお役御免となってしまうが。
 でも別に、キャンセルでも構わない。
 っていうか、陛下が誰とも結婚されないなら、ぼくは嬉しい。
 お祝辞が駄目になって、喜んではいけないのかもしれないけれど。陛下が気乗りのしないものだったのだから、いいよね?
 そう思っていたら。
 陛下が『いずれクロウと結婚するから、そのときまで衣装は取っておこう』なんて、爆弾発言をかましてきたっ。

 けっ、結婚っ!?

 ここ四十年以上、恋人なんかいたこともなかったのに。
 告白されて、一時間も経っていないのに。もう結婚話?
 わぁっ、展開早くね? 怖い怖い。
 いや、嫌じゃないんですけどぉ…。

 でも、陛下は。男のぼくに告白する前に、ちゃんと先々のことまで考えて、行動してくれたのだろう。
 戯れではないと言っていた、その言葉は本当なのだ。
 紳士なのですね、さすがです。

 この世界では、同性同士の結婚もアリ、らしい。
 そこら辺は、あまり勉強していなかったが。戦争などもちらほらあり、戦災孤児を養子として積極的に引き受けることで、同性の夫婦を容認する。確か、そのような形だったような…。

「王族がした前例はないが、ま、なんとかなるだろう」
 陛下は、簡単に言うけれど。
 いやいや、なんとかなりませんよっ!
 王族ですよ? 強力な火炎魔法が途絶えたらどうするんですかっ!?
 絶対、みんなに反対されるに決まってる!!

 でも、陛下は楽観的で、表情は穏やかだし。
 そばにいるシヴァーディもたしなめたりしなかった。

 注意しなくて、い、いいんですか?
 そんなことを、あじゃこじゃ考えていたら、いつの間にか王城についていた。
 陛下がゆっくり歩いてくれたから、全然つらくなかったよ。
 くだりは楽ちんだけど、帰りは登山的なものを覚悟していたから、拍子抜けだ。

 それで、それで。
 王城に帰ったら、なんと、庭でプリンパーティーが開催されていた。
 うわぁ? 芝生の上に、白いレースのテーブルクロスが敷かれた机。
 その上に、グラスに乗ったプリンが、いっぱい並べられていて。壮観ですぅ。
 茶器も、白い陶磁器のセットで、紅茶が映えます。
 机の中央には、タワー状になった入れ物に、焼き菓子がふんだんに盛られていて。ホテルのケーキバイキングみたいっ。すっごーい。
 いや、ホテルのケーキバイキング、行ったことないけど。でも、よくテレビでこういうの映されてたの、見たよ?
 ぼくは、プリンのグラスを迷いなく手に取り、その黄色いプルプルを、スプーンで叩く。
 そうしたら、ぶるるるぅん、ってなるよね?
 つるつるつやつやなプリン。この世界では初めて見たかも。美味しそう。ふあぁぁ。

「イアン様、見てくださいっ、プルプルですよっ」
 興奮して、陛下を振り返り。スプーンの背でプリンをぺんぺん叩く。
 母上が知ったら、はしたないって怒られそうなので、内緒です。

 そしたら、陛下は。ぼくのほっぺと同じだなんて、へんてこなことを言う。
「僕のほっぺは、プリンではありません」
 食べても美味しくありませんよ、と。苦笑して思っていると。
 いいや、これと同じだ、と言って。陛下がまたぼくのほっぺを引っ張った。

 いひゃいいひゃい、なにするんれすかぁ?

 仮にも、こ、こ、恋人に、この仕打ちはひどいですぅ。
「ずいぶんと、楽しそうですね?」
 そこに、薄紫色のドレスをまとった、王妃様と。チョンを抱いたシャーロット様が現れた。
 緑の芝生に春の日差し、そして王族の黄金色の髪の毛が、ベストマッチで、キラキラです。

「母上、クロウは、我の大事な人になったのです」
 そうしたら、陛下が突然。王妃様にカミングアウトしちゃった。

 ええぇぇっ、大丈夫なのですか?
 なんか、王城のみんながいるような、こんな開けた場所で、重大発表しちゃって?
 しかもお母様に、男と付き合っていますなんて、言っちゃって?

 これは前世でも、かなりハードル高い事案だと思いますけどぉ?
 それに、今、この場に居合わせているのは、陛下の恋路を邪魔する、悪役キャラトップスリーですぞ?

 そのうちのひとりは、ぼくだけどねっ!

 王妃様は、主人公の身分が低いことを理由に、陛下の恋路を邪魔する。
 でもぼくは、平民かつ男である。
 陛下がぼくと仲良しなのを公言したら、絶対に反対しますよね?

「あらあら、素敵ねぇ。わかっていますとも。陛下の笑顔を取り戻すなんて、とても素晴らしいことですもの?」
 え? 好感触?
 王妃様は絶対に、反対してくると思ったけれど。大丈夫ですか?

 あぁ、それとも。ぼくと陛下がお付き合いとか、そういうことを考えもしていないのかもしれない。
 だったら、息子に良い親友ができたわ、くらいに思っているのかも。
 なるほど。だから、なんだか嬉しそうなのですね?

「それって、クロウ様をお嫁さんにするってこと?」
 胸を撫でおろしていたら、殿下がぶっ込んできた。
 ひえぇっ、これはもう誤魔化せません。
 お兄様大好きっ子、超絶ブラコンのシャーロット様だよ?
 修羅場確実ですっ。って、思っていたのだが…。

「やったわ、チョンちゃん。私たちもこれで家族よっ?」
 え? 殿下も反対しないの?
 そんなにチョンと家族になりたいの?
 猫好きなのですね。

 つか、お兄様より猫でいいのですか? 殿下。
 チョンと家族になれるなら、男の嫁でも構わない勢いで、猫に夢中とか。大丈夫?

 ええ? マジですか? アイキンでは、王妃様も殿下も、クロウと同じくらい、ウザい悪役キャラになっているはずなんだけど。
 まぁ、攻略本をチラ見しただけで、読み込んでいないから、なんとも言えないけど。

 そして、ぼくだが。
 陛下の想いを拒絶したら、ぼく自身が陛下の恋路を邪魔する悪役キャラになってしまうな。
 ぼくは、この世界でお邪魔ムシにだけはならないと、決めているんだ。

 じゃ、陛下の想いを受け入れてもいいよね?

 ぼくがこういうふうに思うように、王妃様も殿下も、陛下の邪魔をしない方向へ進んだのだろうな?
 きっと、そういうことなんだ。

「兄上ッ、どういうことですかっ? 嫁ってなんですか? なんでこんな話になっているのですかっ!!」
 あっ、うるさいのがいた。
 ぼくの弟くんが、お邪魔キャラになりかけています。

「てか、クソ陛下ッ。なに、兄上は俺のもの、みたいなドヤ顔してんだ? あぁぁん? 何様だっ!」
 だから、王様だよ、チョン。
 ツッコめないんだから、そのボケはやめてくれよ。

「はいはい、わかった、わかった。ほら、チョン。プリンやるからな? 美味しいぞ?」
 ぼくはプリンを指先ですくって、チョンの口に突っ込んだ。
 強制的に、黙らせる兄指導。
 だって、耳元でうるさいのだもの。陛下の悪口も言うし。
 わかりはしないと思っていても、気が気じゃないんだよね?

 見やると、陛下は机に集まり談笑する人たちの方を向いていた。良かった。
 それでは、ぼくも失礼して。せっかくのプリンをいただこう。
 プルプルをスプーンですくって、黄色い幸せを口に運ぶ。
 うーん、この味、久しぶりぃ。
 甘くてミルキーで、口の中でとろけるぅ。

 もしかして、アイリスがアルフレドに、プリンレシピを伝授したのだろうか? アイリス、グッジョブっ!
「クロウ…」
 そうしたら、プリンを堪能しているぼくの方へ、シヴァーディとセドリックが並んでやってきた。
「クロウ、ありがとう」
 シヴァーディにお礼を言われたが。なんのことだかわからない。
 一応、はぁと、返事はした。
 そしてふたりは、陛下の元へ歩いていくが。
 去り際、セドリックが親指を立てて、ニカッと笑った。

 うーん、なんでしょう?
「ツンツンのシヴァたんがデレたぁ? すごいですわ、クロウ様。さすが、総愛されキャラ、ですわね?」
 アイリスは、またもや一言、爆弾発言をかますと。
 シャーロットに呼ばれて、ぼくの背後から去って行った。

 つか、足音も立てずに、後ろに立たないでください。心臓が止まります。

 いやいや、それより。総愛されって、なんですか?
 なんでモブのぼくが、そのようなことに?
 ぼくの知らないアイキンが、まさか、あるというのですか?

 いい加減、詳しく教えてください、アイリスぅ…(泣)。

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