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幕間 兄弟のこそこそ話 ③
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◆兄弟のこそこそ話 ③
日はとっぷり暮れまして。
昼間は、陛下に告白されたり、プリンパーティーがあったり。いろいろと、華やかで素敵なことがあったのですが。
今ぼくは、ベッドの上で正座をさせられています。
目の前で、腕を組んで仁王立ちする、弟のせいです。
「それで? なにがどうなって、あんなことに? 兄上っ」
今は。猫でもないのに、シャーという威嚇音が聞こえてきそうな勢いです。
ぼくはベッドの上で、文字通り肩身を狭くしまして。経過を報告させていただく次第です、はい。
「お散歩の途中で、陛下に…好いていると、言われましてぇ」
でもさ、なぜ弟に、言い訳めいた報告をしなければならないのだっ?
そうだ。ぼくは悪くない。しっかり顔を上げて、ぼくは告げたっ。
「僕も、お慕いしていると言って。恋人になりましたぁ」
エヘッと笑うと。シオンは猫でもないのに、牙を剥き出して怒った。
「それでっ、どうしてっ、結婚なんて話にっ、なるのですかっ!?」
一応、こそこそで怒られています。外に聞こえたら大変だからね。
だけどシオンったら。切れ長の目元が、さらに吊り上がって。マジで怖いんですけどぉ?
弟の機嫌を損ねないように。ぼくは、もじもじと、ぽつぽつと、言い訳を連ねていくしかなかった。
「へ、陛下が。今ある結婚話は、なしにするが。婚礼衣装は、僕と陛下がするとき用に取っておこうって。それで、バミネからネックレスを取り戻して、弟を救いなさいって、そのようなことを…」
ぼくは、陛下が。ぼくのこともシオンのことも考えて、衣装をキャンセルしないでくれたのだと。優しい判断なのだと、解釈したのだけど。
シオンはそうではなかった。
「結婚はしないけど、衣装は作れ? それって、なにか、おかしくないですか? 兄上は、結婚するまでのつなぎで、遊ばれるんじゃないんですか? 結婚をダシにする、男の常套句なんじゃないんですか?」
そんな、立て板に水のごとく。ベラベラと、不安要素を並べたてやがって…。
だけど、なるほど。そういう考え方も確かにあるな。
前世でも、離婚するする詐欺とか、よく聞いたもんね。でもさ。
「もしも陛下が、僕ごときで遊ぶ気になるのなら、それでもいいよ。陛下は、この孤島に閉じ込められて、苦しんでおられる。僕はその、慰めになろうと思い、そばに置いてくださいと、昨日、お願いしたんだ。それに陛下は、とても紳士だよ。夜、部屋に呼ばれたっておかしくないのに。恋愛に慣れていない僕に気遣って、ゆっくり進めてくださるし。ネックレスのことも、衣装をキャンセルしたら、僕やシオンが困るだろうと思って、そう言ってくださったんだよ? 感謝しなければ」
「いいえ。兄上を、軽く扱うようなら、僕は、相手が王様だろうと許せません。僕ごときで遊ぶ気に、なんてっ。いけませんよっ。もっと、ご自分を大事にしてください。まさか…もう体を捧げたり、していないでしょうねっ?」
「し、し、し、してないよっ?」
初めてのチュウは、してしまいましたが…。
なんて、馬鹿正直に、もごもごしてしまうが。
つか、こんな話するの、恥ずかしいんですけど?
「身内で、こういう赤裸々な話、したくないってば」
前世では、ぼくは言うに及ばず、恋人なしでしたが。
巴と静の、恋人とか。彼氏とかの話も、聞いたことがなかったんだよな。
姉弟でそういう話を、したこともなかったし。
巴と静は、それなりに美人で、ボンキュッボンのナイスバディだったので、モテそうだが。
やっぱ、オタクだったから。リアルと付き合うの、大変だったのかな?
これは、二次元恋愛専門だった、ぼくの偏った考えではあるが。
前世で。二次元とリアルのバランスを取れない、不器用なオタクは。二次元のオタ活が楽しすぎて、リアルに目を向ける暇はなし、的な人も多かったような気がするんだよねぇ?
だって、前世には楽しいものがいっぱいあって。ゲームも小説も漫画も楽しいってなったら、本当に時間がなかったもんな。
ぼくなんか、恋人いなくっても、睡眠時間削って、ゲームしてた口だしね。
はいっ。この不器用なオタクというのは、ぼくのことですっ。
二次元に全振りしたせいで、リアルで生きるのが、超つらかったですっ。
そんな言い訳、モテない理由にならないけどねっ。
恋人いなかったのを、オタクのせいにしちゃ、駄目なんだろうけどねっ。
「なにを言っているのですか? 兄上。兄上は、公爵家の血を受け継ぐ、正統なる後継者です。兄上のお相手となる方は、公爵家の存続を左右する、重要な意味を持つのですよ? 恥ずかしがっている場合ではなく、誰と情交したのか、家の者に話すのは義務です」
えええぇ? そんなの、聞いたことないけど。
シオンが知りたいだけでしょ?
それに、公爵家の後継者とか、すっかり忘れてたし。
つか、ずっと平民の意識で暮らしてたし。
公爵家には、バミネがいるんだから、ぼくの入る余地なくね?
「今更、なにを言ってんだ? シオン。僕は平民の仕立て屋のクロウだよ。公爵家を追い出されて、十年以上も過ぎ。僕が後継者だなどと、誰も信じやしないし。僕も、戻る気などない。つか、戻れやしない」
それが、事実なのだ。
変な夢を持っていたら、現実で暮らしていけない。
いつか公爵家に戻って、両親と可愛い弟に囲まれて幸せに暮らす、なんて。夢想していたって、腹は膨れないんだ。
だったらその時間、手を動かして、仕事をしないと。現実で、母と弟を、幸せにするのだっ。
っていう気持ちもあるけど。ぼくはぶっちゃけ。
前世の記憶を思い出した、十年前に。この世界がアイキンのゲーム内世界だと気づいたとき。
とにもかくにも、生き残るための行動をし。
公爵家という肩書は、ただ、クロウにはそういう背景がありました、くらいにしか受け止めていないのだ。
だから本気で、公爵家に戻るという考えは、持っていなかった。
その空気を感じたのか。シオンは、仕方ないですねぇ、というように眉を下げた表情をし。腕組みをほどいて、ベッドに正座するぼくの隣に、腰かけた。
「母から、言われたのです。クロウは、真っ直ぐしか見ないから。貴方はクロウの周りを見てあげて、と。兄上は、僕たちを生かすために、手に職をつけて。それに邁進したでしょう? すごい集中力で、それを成し遂げたのは、さすが兄上と思うのですが。…僕たちの体に公爵家の血が流れていることは、目をそらせぬ事実なのです。バミネに、この血は流れていない。これがどういうことか、わかっていますよね?」
え、どういうことですか? わかりません。
弟に教えを乞うのは、恥ずかしいですけど。教えてくださいという目で見ていたら。
シオンは、軽く笑った。
「僕に言われなくても、わかっているよ、という顔ですが。あえて、言いますよ? バミネは、バジリスク公爵家を継げない。バジリスクの魔力を持つ者を、後継に立てられないのなら、バジリスク公爵家は取り潰されるということです」
「そうなの?」
「とぼけないでください。バジリスクの魔力は、王家を支える重要な魔力なのだと、陛下から聞いたのでしょう? その魔力を持ち得ないものが、バジリスク公爵を名乗れるはずもない」
陛下と話した、重要なことは。ボディガードであり、ぼくと一心同体のシオンには、あらかた話していた。
チュウとかハグとか、そういうのは、話してないけどぉ…。
「でも、僕らにも、魔力はないじゃないか?」
「今は、です。でも、ないわけじゃないと思うのです。僕の感覚では、魔力の入っているツボに、蓋をされているだけのような感じです。でも、バジリスクの魔力を受け継ぐ僕らが、おいそれと、誰彼かまわずお付き合いして、タネをばら撒いたらマズいでしょうが? だから兄上のお相手は、明確にしておかなければならないのですよ」
「でも、陛下は王様だよ? 誰彼かまわずではないし。男性…だし。種をバラまくことにはならないのだから。陛下は良いでしょ? つか、この言い方、なんか嫌だな。種とか、下品ですっ」
口をへの字にして、シオンを睨む。
そうしたら、兄上は二十歳にもなって純情だな、と呆れていた。
「とにかく、兄上は、公爵家の正統なる後継者の自覚を持ってください。魔力が戻れば、バジリスクに戻れなくても、王家を支える一族として、新たに家を興すことも、可能かもしれませんよ?」
「でっかい夢だなぁ? シオン。そんなこと考えていたとは。僕の弟は賢くて、最高だ。でも、お邪魔ムシになることだけは、僕は許しません!」
ぼくが断言すると。シオンは目を丸くした。
「…お邪魔ムシってなんですか?」
「陛下の恋路を邪魔する者のことだ。この末路は、大変悲惨なものになる。邪魔をすればするほど、好感度は下がっていき。不敬罪で、国外退去は良い方で。反逆罪で処刑とか。みぐるみ剥がれて、ボロ雑巾のように、魔物の住む森に捨てられたり、魔王に嫁がされたり、それはもう、悲惨な目にあうのが定石なのだっ」
ぼくは、前世で見た小説の内容を思い出し。こんこんとシオンを説得した。
シオンがこんな大変な目にあうなんて、無理無理。
「まもの、とか。まおう、とか。なんなんですか?」
この世界に、魔物や魔王はいないようだ。それは良かった。あとダンジョンも不要です。
「そこは、今は良いのだ。とにかく、陛下のお邪魔をすれば、シオンの人生が終わってしまうっ。僕は、ひしひしと感じている…今おまえは、お邪魔ムシになりかけているのだっ」
ビシッと、シオンに指をさし、強めに警告する。
ゲームの強制力が、変なふうに発動しているのか?
悪役キャラが、悪役の使命を果たさないから。きっとシオンにお鉢が回ってきたのだろう。
でも、それで、シオンが人生終了のお知らせとか。絶対にダメです。
ここは前世の知識を駆使して、断固阻止させていただきますよ、公式さん!
「弟よ、僕はおまえを愛している。ゆえに、道を正さねばならないっ」
「兄上…それって」
隣に座るシオンの、二の腕を掴んで。ぼくは真剣な眼差しで訴える。
シオンは感動したような顔つきで、あえぐように言った。
「それって…兄上が邪魔されたくないだけでしょう?」
「ち、違うしぃ? シオンのことしか考えてないしぃ?」
また、ジト目で睨まれる。
弟よ、なぜにそんな目で兄を見るようになってしまったのか?
「ま、いいでしょう。クソ陛下は、超絶ムカつくが。兄上の幸せを、お邪魔ムシしたくはありません。でも、無体されたり、泣く羽目になったら。容赦なく邪魔しますよ? それは…弟として。看過できないラインですからね?」
そう言って、シオンはぼくの顔を手で引き寄せて、こめかみにチュウした。
「僕も、兄上を愛しているんですからね?」
低い声がビンビンする、若手声優と同じイケてるボイスで耳元に囁くと。ぎゅうっと、体を抱き締められる。
うんうん。兄を盗られたくない気持ちってやつだよね?
シオンは、お兄ちゃん大好きっ子だから、それで口うるさくなっちゃったんだよね?
でも行き過ぎると、マジで処刑ルートに入っちゃうから、気をつけような?
だが、とりあえず。これで、シオンをうまく矯正できただろう。
早めに気づいて、良かった、良かった。という気持ちで、ぼくはシオンの背をテンテンした。
この城に来た当初は、どうなることやらと思っていたが。
陛下との距離も縮まって、今は、なんの憂いもなく、仕事を進められている。
どうやったら、陛下をお救い出来るのか?
バミネの脅威を防ぐには、どうしたらいいのか?
考えることは多いけれど。陛下のそばで、陛下の心を癒しながら、ゆっくり『幽閉の王を救え、大作戦』の計画を練っていこう。
衣装作りも、いよいよ折り返し。さぁ、バンバン縫っていくぞぉ。
日はとっぷり暮れまして。
昼間は、陛下に告白されたり、プリンパーティーがあったり。いろいろと、華やかで素敵なことがあったのですが。
今ぼくは、ベッドの上で正座をさせられています。
目の前で、腕を組んで仁王立ちする、弟のせいです。
「それで? なにがどうなって、あんなことに? 兄上っ」
今は。猫でもないのに、シャーという威嚇音が聞こえてきそうな勢いです。
ぼくはベッドの上で、文字通り肩身を狭くしまして。経過を報告させていただく次第です、はい。
「お散歩の途中で、陛下に…好いていると、言われましてぇ」
でもさ、なぜ弟に、言い訳めいた報告をしなければならないのだっ?
そうだ。ぼくは悪くない。しっかり顔を上げて、ぼくは告げたっ。
「僕も、お慕いしていると言って。恋人になりましたぁ」
エヘッと笑うと。シオンは猫でもないのに、牙を剥き出して怒った。
「それでっ、どうしてっ、結婚なんて話にっ、なるのですかっ!?」
一応、こそこそで怒られています。外に聞こえたら大変だからね。
だけどシオンったら。切れ長の目元が、さらに吊り上がって。マジで怖いんですけどぉ?
弟の機嫌を損ねないように。ぼくは、もじもじと、ぽつぽつと、言い訳を連ねていくしかなかった。
「へ、陛下が。今ある結婚話は、なしにするが。婚礼衣装は、僕と陛下がするとき用に取っておこうって。それで、バミネからネックレスを取り戻して、弟を救いなさいって、そのようなことを…」
ぼくは、陛下が。ぼくのこともシオンのことも考えて、衣装をキャンセルしないでくれたのだと。優しい判断なのだと、解釈したのだけど。
シオンはそうではなかった。
「結婚はしないけど、衣装は作れ? それって、なにか、おかしくないですか? 兄上は、結婚するまでのつなぎで、遊ばれるんじゃないんですか? 結婚をダシにする、男の常套句なんじゃないんですか?」
そんな、立て板に水のごとく。ベラベラと、不安要素を並べたてやがって…。
だけど、なるほど。そういう考え方も確かにあるな。
前世でも、離婚するする詐欺とか、よく聞いたもんね。でもさ。
「もしも陛下が、僕ごときで遊ぶ気になるのなら、それでもいいよ。陛下は、この孤島に閉じ込められて、苦しんでおられる。僕はその、慰めになろうと思い、そばに置いてくださいと、昨日、お願いしたんだ。それに陛下は、とても紳士だよ。夜、部屋に呼ばれたっておかしくないのに。恋愛に慣れていない僕に気遣って、ゆっくり進めてくださるし。ネックレスのことも、衣装をキャンセルしたら、僕やシオンが困るだろうと思って、そう言ってくださったんだよ? 感謝しなければ」
「いいえ。兄上を、軽く扱うようなら、僕は、相手が王様だろうと許せません。僕ごときで遊ぶ気に、なんてっ。いけませんよっ。もっと、ご自分を大事にしてください。まさか…もう体を捧げたり、していないでしょうねっ?」
「し、し、し、してないよっ?」
初めてのチュウは、してしまいましたが…。
なんて、馬鹿正直に、もごもごしてしまうが。
つか、こんな話するの、恥ずかしいんですけど?
「身内で、こういう赤裸々な話、したくないってば」
前世では、ぼくは言うに及ばず、恋人なしでしたが。
巴と静の、恋人とか。彼氏とかの話も、聞いたことがなかったんだよな。
姉弟でそういう話を、したこともなかったし。
巴と静は、それなりに美人で、ボンキュッボンのナイスバディだったので、モテそうだが。
やっぱ、オタクだったから。リアルと付き合うの、大変だったのかな?
これは、二次元恋愛専門だった、ぼくの偏った考えではあるが。
前世で。二次元とリアルのバランスを取れない、不器用なオタクは。二次元のオタ活が楽しすぎて、リアルに目を向ける暇はなし、的な人も多かったような気がするんだよねぇ?
だって、前世には楽しいものがいっぱいあって。ゲームも小説も漫画も楽しいってなったら、本当に時間がなかったもんな。
ぼくなんか、恋人いなくっても、睡眠時間削って、ゲームしてた口だしね。
はいっ。この不器用なオタクというのは、ぼくのことですっ。
二次元に全振りしたせいで、リアルで生きるのが、超つらかったですっ。
そんな言い訳、モテない理由にならないけどねっ。
恋人いなかったのを、オタクのせいにしちゃ、駄目なんだろうけどねっ。
「なにを言っているのですか? 兄上。兄上は、公爵家の血を受け継ぐ、正統なる後継者です。兄上のお相手となる方は、公爵家の存続を左右する、重要な意味を持つのですよ? 恥ずかしがっている場合ではなく、誰と情交したのか、家の者に話すのは義務です」
えええぇ? そんなの、聞いたことないけど。
シオンが知りたいだけでしょ?
それに、公爵家の後継者とか、すっかり忘れてたし。
つか、ずっと平民の意識で暮らしてたし。
公爵家には、バミネがいるんだから、ぼくの入る余地なくね?
「今更、なにを言ってんだ? シオン。僕は平民の仕立て屋のクロウだよ。公爵家を追い出されて、十年以上も過ぎ。僕が後継者だなどと、誰も信じやしないし。僕も、戻る気などない。つか、戻れやしない」
それが、事実なのだ。
変な夢を持っていたら、現実で暮らしていけない。
いつか公爵家に戻って、両親と可愛い弟に囲まれて幸せに暮らす、なんて。夢想していたって、腹は膨れないんだ。
だったらその時間、手を動かして、仕事をしないと。現実で、母と弟を、幸せにするのだっ。
っていう気持ちもあるけど。ぼくはぶっちゃけ。
前世の記憶を思い出した、十年前に。この世界がアイキンのゲーム内世界だと気づいたとき。
とにもかくにも、生き残るための行動をし。
公爵家という肩書は、ただ、クロウにはそういう背景がありました、くらいにしか受け止めていないのだ。
だから本気で、公爵家に戻るという考えは、持っていなかった。
その空気を感じたのか。シオンは、仕方ないですねぇ、というように眉を下げた表情をし。腕組みをほどいて、ベッドに正座するぼくの隣に、腰かけた。
「母から、言われたのです。クロウは、真っ直ぐしか見ないから。貴方はクロウの周りを見てあげて、と。兄上は、僕たちを生かすために、手に職をつけて。それに邁進したでしょう? すごい集中力で、それを成し遂げたのは、さすが兄上と思うのですが。…僕たちの体に公爵家の血が流れていることは、目をそらせぬ事実なのです。バミネに、この血は流れていない。これがどういうことか、わかっていますよね?」
え、どういうことですか? わかりません。
弟に教えを乞うのは、恥ずかしいですけど。教えてくださいという目で見ていたら。
シオンは、軽く笑った。
「僕に言われなくても、わかっているよ、という顔ですが。あえて、言いますよ? バミネは、バジリスク公爵家を継げない。バジリスクの魔力を持つ者を、後継に立てられないのなら、バジリスク公爵家は取り潰されるということです」
「そうなの?」
「とぼけないでください。バジリスクの魔力は、王家を支える重要な魔力なのだと、陛下から聞いたのでしょう? その魔力を持ち得ないものが、バジリスク公爵を名乗れるはずもない」
陛下と話した、重要なことは。ボディガードであり、ぼくと一心同体のシオンには、あらかた話していた。
チュウとかハグとか、そういうのは、話してないけどぉ…。
「でも、僕らにも、魔力はないじゃないか?」
「今は、です。でも、ないわけじゃないと思うのです。僕の感覚では、魔力の入っているツボに、蓋をされているだけのような感じです。でも、バジリスクの魔力を受け継ぐ僕らが、おいそれと、誰彼かまわずお付き合いして、タネをばら撒いたらマズいでしょうが? だから兄上のお相手は、明確にしておかなければならないのですよ」
「でも、陛下は王様だよ? 誰彼かまわずではないし。男性…だし。種をバラまくことにはならないのだから。陛下は良いでしょ? つか、この言い方、なんか嫌だな。種とか、下品ですっ」
口をへの字にして、シオンを睨む。
そうしたら、兄上は二十歳にもなって純情だな、と呆れていた。
「とにかく、兄上は、公爵家の正統なる後継者の自覚を持ってください。魔力が戻れば、バジリスクに戻れなくても、王家を支える一族として、新たに家を興すことも、可能かもしれませんよ?」
「でっかい夢だなぁ? シオン。そんなこと考えていたとは。僕の弟は賢くて、最高だ。でも、お邪魔ムシになることだけは、僕は許しません!」
ぼくが断言すると。シオンは目を丸くした。
「…お邪魔ムシってなんですか?」
「陛下の恋路を邪魔する者のことだ。この末路は、大変悲惨なものになる。邪魔をすればするほど、好感度は下がっていき。不敬罪で、国外退去は良い方で。反逆罪で処刑とか。みぐるみ剥がれて、ボロ雑巾のように、魔物の住む森に捨てられたり、魔王に嫁がされたり、それはもう、悲惨な目にあうのが定石なのだっ」
ぼくは、前世で見た小説の内容を思い出し。こんこんとシオンを説得した。
シオンがこんな大変な目にあうなんて、無理無理。
「まもの、とか。まおう、とか。なんなんですか?」
この世界に、魔物や魔王はいないようだ。それは良かった。あとダンジョンも不要です。
「そこは、今は良いのだ。とにかく、陛下のお邪魔をすれば、シオンの人生が終わってしまうっ。僕は、ひしひしと感じている…今おまえは、お邪魔ムシになりかけているのだっ」
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悪役キャラが、悪役の使命を果たさないから。きっとシオンにお鉢が回ってきたのだろう。
でも、それで、シオンが人生終了のお知らせとか。絶対にダメです。
ここは前世の知識を駆使して、断固阻止させていただきますよ、公式さん!
「弟よ、僕はおまえを愛している。ゆえに、道を正さねばならないっ」
「兄上…それって」
隣に座るシオンの、二の腕を掴んで。ぼくは真剣な眼差しで訴える。
シオンは感動したような顔つきで、あえぐように言った。
「それって…兄上が邪魔されたくないだけでしょう?」
「ち、違うしぃ? シオンのことしか考えてないしぃ?」
また、ジト目で睨まれる。
弟よ、なぜにそんな目で兄を見るようになってしまったのか?
「ま、いいでしょう。クソ陛下は、超絶ムカつくが。兄上の幸せを、お邪魔ムシしたくはありません。でも、無体されたり、泣く羽目になったら。容赦なく邪魔しますよ? それは…弟として。看過できないラインですからね?」
そう言って、シオンはぼくの顔を手で引き寄せて、こめかみにチュウした。
「僕も、兄上を愛しているんですからね?」
低い声がビンビンする、若手声優と同じイケてるボイスで耳元に囁くと。ぎゅうっと、体を抱き締められる。
うんうん。兄を盗られたくない気持ちってやつだよね?
シオンは、お兄ちゃん大好きっ子だから、それで口うるさくなっちゃったんだよね?
でも行き過ぎると、マジで処刑ルートに入っちゃうから、気をつけような?
だが、とりあえず。これで、シオンをうまく矯正できただろう。
早めに気づいて、良かった、良かった。という気持ちで、ぼくはシオンの背をテンテンした。
この城に来た当初は、どうなることやらと思っていたが。
陛下との距離も縮まって、今は、なんの憂いもなく、仕事を進められている。
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考えることは多いけれど。陛下のそばで、陛下の心を癒しながら、ゆっくり『幽閉の王を救え、大作戦』の計画を練っていこう。
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