【完結】幽閉の王を救えっ、でも周りにモブの仕立て屋しかいないんですけどぉ?

北川晶

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65 陛下に誓いのくちづけを…。

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     ◆陛下に誓いのくちづけを…。

「おまえは、我の愛しい死神だからだ」
 死神である、ぼくを好いてくれた陛下に。戸惑いの眼差しを向けたら。
 陛下はぼくに、そう告げた。
 そこには、慈愛の感情があふれていて。ぼくは、とても感動したのだが。

「嫌われからの、愛しい死神、キターーッ」

 場違いなつぶやきをしたアイリスが、アルフレドの胸に、パタリと倒れ込んだ。
 アイリスぅ、せっかくのシリアスムードが台無しですよ。
 他の皆さんも、ジト目でアイリスを見ていますよ?
 気絶ですか? うらやましい…。

 でもそれを合図、というか。機会に。みなさんは、いったん解散の運びとなりました。
 まぁ、アイリスも。バミネの悪口雑言を浴びて、疲弊していたのだろうし。ぼくもヒステリックに泣きわめいてしまい、恥ずかしかったので。ちょうど良かったです。

 でも、泣きじゃくるのは、成人男性としてどうかと思いますが。
 ぼくにとっては重大事、というか。アイデンティティーの崩壊一歩手前というか、心が打ち砕かれ、というか。ヤバい展開だったのです。
 お見苦しい点は、申し訳ありませんでした。

「兄上、ぼくは、そろそろ時間がヤバいのですが。大丈夫ですか?」
 チョンが足元で、可愛らしい声を出す。
 うん。大丈夫。もう取り乱したりしないよ、という気持ちで、チョンにうなずくと。
 渋々、チョンは自室に入っていった。

 チョンにも心配をかけてしまったな。
 弟の前で、あんなふうにべちょべちょ泣いたことなんか、ないから。チョンもびっくりしてしまったんだろうな? 
 あぁ、兄の威厳が。

 サロンのソファセットに、アフタヌーンティーの用意をしてくれたラヴェルが、退室し。部屋には、ぼくと陛下だけになった。
 ひと息ついて。陛下はぼくに、事の顛末を話してくれた。

 バミネに、先王を死に追いやられ。
 その後、陛下は幽閉状態になった。
 騎士様やラヴェルも、バミネに追い込まれて、この島へやってきたということ。などだ。

 アイキンの事前知識で、ぼくは陛下が幽閉されていることを知っていた。
 王の座を欲しがるバミネに、命が脅かされているのだろうことも、察していた。
 でも、真に、理解はできていなかったんだな?

 真実は、かなりシビアな状態だ。

 もしも、ぼくの仕立てが済んで、すぐに…となったら。
 いや、いや、そんなことさせないし。絶対、阻止してみせる。
 でも。残された時間は限りなく少ない、ということだ。

「先王が亡くなって…十年の時が過ぎた今。アナベラとバミネは本格的に王の座に手を伸ばし始めたのだろう」
「それで、死に装束ですか? 悪趣味なことを考える男だ」

 このぼくに、死に装束などという忌まわしいものを作らせるなんて。本当に許せない。

 まぁ、前世で。巴と静に、天使と悪魔のモチーフで衣装を作ったこともあったけど。
 悪魔は、忌まわしいっちゃあ、忌まわしいけど。
 闇も、突き詰めれば美学、みたいな面もあって。
 美しく、格好良く、スタイリッシュを追求できる、良い題材だと思うし。シンメも映える。
 大抵、アニメや漫画の悪魔は、見惚れるほどの美しさであるし…うん。話がそれているな。

 他にも、喪服だって作ることが、あるわけだから。負を感じさせるものは、ぼくは全部ノータッチです、なんてことは言わないよ?
 そこは、一応仕立てのプロとして。依頼があれば受けるけれど。

 けどさ、ぼくが思うに。まだ御存命の方に、死に装束を作るというのは。すっごい失礼な話じゃん?
 そういうことなんだよ。

 今ぼくの目の前で、生き生きと話をされている陛下が。
 ぼくの衣装を着て、棺におさまる。
 血の気を失った顔で。
 その情景が、一瞬脳裏を通り過ぎ。また泣きそうになった。
 それを想像させる、それこそが罪だと思うんだよっ。

 いやぁーーっ、そんなこと、絶対阻止するしぃ。
 そんなことは、現実に絶対にしないんだからなぁぁ。

 つか、あいつっ。ぼくへの究極の嫌がらせじゃねぇかよ、これは。
 公爵家を追い出しただけじゃ、足らねぇのかよっ?
 王の逆鱗に触れて、ぼくが成敗されるのを、楽しみに待っていたっていうのかよっ?
 自分の作ったものを着て、王が死んでも、ぼくの心的ダメージがゲージを振り切るじゃねぇかよっ!

 あいつは。バミネは。ただ物理的に人を殺すだけでは、足りないのだ。
 人の心を傷つけて。人の心を殺して。楽しんでいる。
 最悪の悪の権化だ。ムキーーーッ!

「僕が誤解しているとわかった時点で、教えていただきたかったです。そうすれば、こんなおぞましいものをっ」
 憤りのままに立ちあがり、ぼくは再び、あの衣装を切り刻んでしまおうと思い、トルソーのところへ向かおうとした。
 それを、陛下に腕を引いて止められる。
 でも、ぼくは。今度こそ本懐を遂げようと。強い意志で、向かおうとしたのだけど。
 背後から陛下に、きつくきつく、抱き締められてしまった。
 そんなんされたら。動けません。
「…我は、その衣装を着て…死にたい」
「嫌ですっ、ぼくは、嫌だっ!!」

 ぎゃーっ、な、なにを言い出すんですかっ、陛下っ?
 死ぬとか、貴方の口から、聞きたくありませんっ。

 でもそれで、ぼくは。
 陛下が、目の前にある死をみつめて過ごして来たのだと、実感してしまった。なんてことだ。
 そして、陛下は。陛下亡き後、ぼくが陛下を思い出すこと、それ自体が、自分の生きた証明になるのだと語った。

 ぼくが陛下を想って、傷つけば。嬉しい、と。
 なんて、ささやかな願い。
 自分を覚えていてくれるだけでいい、なんて。そんなの、悲しすぎます。
 
 ボロボロに泣いて、顔がぐちゃぐちゃなのは、自覚していたが。
 顔を上げて、陛下をみつめた。
「一生、泣いて生きろと。お命じですか?」

 自分だけに与えられた、けれど悲哀が過ぎる、その命令に。
 ぼくの胸に、ほの暗い喜びが湧いて。
 唇が、笑みに歪んだ。

 陛下のお望みなら、なんでも叶えます。たとえ、一生泣いて過ごすことになっても。それが、陛下がぼくだけに与えてくれた、痛みならば。

 陛下は、酷い男だと自分を貶め。ぼくがこれ以上、傷つかないよう配慮してくれる。
 死に装束を作る、ぼくが悪いのではない、と。

 酷い男だなんて、あり得ない。陛下はいつだって、お優しい方だ。
 ぼくは陛下の足元にひざまずき。臣下の礼を取る。
 そして、陛下に誓った。

「一番おつらいのは、陛下ではありませんか。なのに、僕のことなど心配して…そればかりか、心の重荷まで、僕に分けてくださる。イアン様からいただいたものは、たとえ癒えぬ傷でも、大事に抱えてまいります」
「我の最後の衣装を、心無い何者かに譲ってはならぬ。おまえがその手で、完璧に、最後まで作り上げろ。おまえの王に相応しい、最高の衣装を」

 ここでうなずいたら、あのおぞましいものを、処分できなくなる。
 だけど。陛下の望みは、叶えるべきもの。
 どんな望みであっても。叶えると。与えると。ぼくは先日、森の中で、誓ったではないか。

「王命を、承ります」
 差し出された陛下の手を、ぼくは捧げ持つ。その手の甲に、うやうやしく唇を落とした。

 陛下に、誓いのくちづけを…。

 どれだけ、ぼくがつらくても。
 どれだけ、ぼくの心が引き裂かれて悲鳴を上げても。
 それを無視して、ぼくは陛下の望みを叶えます。
 それで…たとえ、この身が朽ちたとしても…。


 ★★★★★

 別枠の『幽モブ アダルトルート』にて、65.5話、アイリスの買った薄い本、があります。
 Rー18です。読まなくても、本編に影響はありませんが。より、作品をおたのしみいただけます。Rが大丈夫な方は、よろしければ、ご覧ください。

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