【完結】幽閉の王を救えっ、でも周りにモブの仕立て屋しかいないんですけどぉ?

北川晶

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74 ラストダンスは死神と ③

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 陛下は、優しく手を差し伸べて、ぼくをスマートにエスコートしてくれる。
 陛下の護衛騎士であるシヴァーディを残し、他のセドリックやラヴェルやアイリスたちは、先んじてエントランスの大ホールへ移動していた。
 そこには、陛下とぼくの、結婚式のために。王城にいる、すべての人たちが集まっている予定だ。

 陛下に手を引かれ、階段の上に立つと。今日の主役の登場を、みんなが拍手で迎えてくれる。

 カザレニア国を支える、大貴族やその家族たちを招いて、舞踏会がここで開催されていた、と。王家の伝記には書かれてあったが。
 ホールを埋め尽くしただろう、そのときと比べれば。今、ここにいる人たちの数は、ごくごく少ない。
 三十人ほどだ。
 けれども。今まで陛下を支えてくれた、陛下の家族のような、かけがえのない三十人だ。

 ぼくは。こんなぼくが。冴えないモブの男が。陛下のような、輝かしい人の隣に立つことを。寛大にも許してくれる方々に、感謝の気持ちしかない。

 勇敢に、バミネの脅威から、今まで陛下をお守りしてくれて、ありがとう。
 陛下だけでなく。ぼくにも、笑顔を向けてくれて、ありがとう。

 エントランスへ続く、なだらかな曲線の階段を。陛下と手をつないで降りていく。
 なんだか、童話のお姫様にでもなったような気持ちで、胸がくすぐったい。
 モブが姫とか、心苦しい限りだけど…。

 階段を三段ほど残し、陛下が立ち止まる。
 そして集まってくれたみなさまへ、挨拶した。

「先日、我は。ここにいるクロウ・エイデンを伴侶に迎えた。彼が仕立てた、この婚礼衣装を着て。我を今まで支えてくれた、親愛なる仲間たちの前で、婚姻の誓いをしたかったのだ。我にとっては。どんな神よりも。どんな司祭よりも。皆が、尊く、大事で、かけがえのない者たちである。ゆえに、この場で行う宣誓が、厳正であることを。皆に証人となってもらいたい。のちのちクロウに、咎や不幸がもたらされないよう。どうか、彼を守ってほしい」

 陛下の言葉に、驚いてしまった。
 のちのちのぼくの処遇まで、気にかけてくれるなんて。

 でも、戸惑う気持ちは。
 陛下の誓いの言葉で、いったん流されてしまった。

「クロウ、永遠の愛を、ここに誓う。我の伴侶となるか?」

 はわわ、黄金色のまつ毛にけぶる、光差し込む、キラキラの海色の瞳が。ぼくだけを、まっすぐにみつめていて。その美麗さの、半端ない威力に。余計な思考が霧散してしまったぁ。
 いや、お返事をしなければ。えっと、返事…。

「イアン様。永遠の愛を誓います。イアン様の伴侶にしてください」

 声がぶるぶる震えるくらいに、緊張して。胸が、ギューンと掴まれるくらいに痛くなった。
 でもその痛みは、つらいものではなくて。
 体中から幸福感があふれ出す、幸せの痛みなのだ。

「これは、母が持っていた王家の紋章入りの指輪だ。宝石もなく、サイズも直せなくて、申し訳ないが。母上が花嫁となるおまえに、ぜひ持っていてほしいと…」
 びっくりして、ホールにいる王妃様に目を向けると。柔らかいグリーン色のドレスをまとった美しい人は、素敵な笑顔でそっとうなずいてくれた。

 陛下の恋路を邪魔する悪役キャラだなんて、一瞬でも思ってしまって、すみませぇぇん。

 ぼくの左手をとった陛下は、指輪をはめてくれるのだが。
 華奢な体躯ながら、ぼくの指は関節が大きくて。指輪が入ったのは、小指だった。

 でも、いいんだ。薬指は、シロツメ草の指輪の定位置だから。

 すぐに枯れてしまうだろうと、わかっているが。ぼくはあのあと小さな巾着を作って、その指輪を大事に取っておいてある。
 衣装で使う、飾りの紐でネックレスを作って。現在、首にかけております。
 王家の紋章の入った指輪は、それは貴重なものだが。
 ぼくにとっては、陛下の手作りであるあの指輪が、最高の結婚指輪なんだよね?

 指輪をはめたあと、陛下はぼくを抱き寄せて、唇をしっとりと覆う柔らかいくちづけを落とした。
 大勢の人の前でキスするなんて、思わなかったから。ぼくは内心アワアワしていたんだけど。
 みんながワッと拍手喝采してくれたから。
 恐縮して…。でも、それ以上に嬉しくて。すっごく感動したんだ。
 だって、信じられないじゃん?
 前世では、恋人も友達もいないままに、流れ星に当たって死んだぼくが。みんなにお祝いされて、王様と結婚するなんてさ。

 本当に、夢オチだけは勘弁してください、神様。

「クロウ、踊ろう。ファーストダンスは主催がするものだ」
 陛下の手に引かれ、ホールの真ん中に立つと。ワルツを踊った。

 もちろん、管弦楽団の音楽などはないが。ふたりの心の中には、同じリズムの曲が流れていて。息はぴったり合っていた。
 陛下とは、初めてダンスしたのに。不思議だな?

 エントランスの右脇の方では、食事やお菓子、飲食のできる場が設けられており。そこで招待客が、乾杯をしながら。ぼくたちのダンスを、見守っている。

 左手は、肩の位置で陛下に握られ。
 右手は、ぼく的史上最高傑作となった刺繍に触れないよう、気を使って、陛下の左胸の端の方に、そっと添えた。
 大理石が敷き詰められた床の上を、くるくる回っているが。
 雲の上でダンスしてるみたいに、足元がふわふわするぅ。

「イアン様、島を出たあとの僕のことなど、心配しなくていいのです。イアン様のお体を守ることだけを、どうか、お考えください」
 先ほどの、宣誓の前の話が。霧散しながらも、心に引っかかっていて。ぼくは陛下に、ダンスしながら囁いた。
 とにもかくにも、陛下がバミネの毒牙から逃れることが、最優先事項なのだ。

 でも、陛下はとても上機嫌で。
 いつもは口を引き結んでいることが多いのに。今日は終始、微笑みを浮かべている。
 あぁ、そんな、麗しいお顔に笑みが標準装備されたら、誰も彼もが、瞬殺間違いなしですぅ。

「我はいつでも、おまえのことを考えているぞ? 我の可愛い花嫁だからな? おまえの今後が、心配でならないのだ」
 口説いている気は、ないはずなのに。素で、ぼくを魅了する言葉をつむぐから。ポッと頬が赤くなって。困ってしまう。
 つか、心の中では、ガハッと吐血案件です。

「それより、なんでおまえは、ダンスの女性パートを、そのように流麗に踊れるのだ? シャーロットでさえ、このように軽やかには踊れないぞ?」
「あぁ、それは。弟にダンスを教えるのに、女性パートを踊っていたので。そのうち弟が、僕よりも背が高くなったものですから。僕はもっぱら、女性パートを踊らされたのですよ」
「そうなのか? モグラを取ってくるような弟だと聞いていたから、まだ幼い子供を想像していたのだが。クロウより、背が高いのか…」
 物思いをするように、陛下は眉間を寄せて小首を傾げた。

「いえいえ、背が高いばかりで、キスやハグをせがんでくるうちは、まだまだお子ちゃまです」
 そう言ったら、陛下は微笑みを少し引きつらせた。

「き、キスやハグを、せがむ、のか?」
「家族的な挨拶ですよ」
「まぁ、おまえは美人だし。弟にとっても自慢の兄なのだろう。我にとっても、自慢の花嫁だがなっ」

 よくわからないが、陛下は語尾を強めていった。
 大丈夫です。美人という言葉がお世辞なのは、承知しておりますよ? 分はわきまえております。

「ダンスの最中にそのようなことを言われたら、ドキドキしすぎて、足を踏んでしまいそうです」
 陛下は背が高いので、つい上目づかいになってしまうが。
 ぼくが言うと、陛下はほんのり頬を赤らめた。
 純粋で、清廉な人なのだな?
 お可愛らしい、と思って。小さく笑うと。
 陛下も微笑んで。ふたりでクスクスと笑い合った。

「かつて、このホールでは。大勢の客人がダンスに興じていた。幼い頃に、ドレスをヒラヒラさせて舞い踊る客人たちを、ここで見たことがあった」
 過去を思い出し、陛下はぼくに教えてくれた。

 舞踏会のシーンは、王家の伝記にも、たびたび登場しているので。本の描写で想像を膨らませる。
 小さな王子が、会場をちょろちょろしていたとしたら…やべ、マジクソ可愛らしいな。

「おまえと初めて出会ったのは、このエントランスだ。大ホールの真ん中に、ポツンと立っていた黒尽くめの男は、我と目が合い、すぐさま膝を床についた。そのとき、この黒マントがふわりとひるがえって、裾が床に広がるサマが。ドレスが広がったように見えた。父が存命だった華やかな時代を、おまえを目にして思い出したのだ」

 くるりと体勢を入れ替えたとき、マントの裾は空気を含んで、朝顔状にふわりと広がる。
 ぼくはズボンを履いているけれど、マントの動きは、確かにドレスがひらひらしているように見えるだろう。

「思えば、あのとき、我は。おまえに一目惚れをしたのかもしれないな?」
 そうですかぁ?
 いやいや、陛下のお言葉を否定なんかいたしませんけどぉ。
 ぼくは、成敗回避に必死な覚えしかありませんでしたけどぉ?
 なんて。胸の内で笑ってしまう。

「僕はもちろん、麗しの陛下に目が釘付けになりましたよ? 階段から降りてきた陛下の後ろには、後光のごとき光が差し、そのまばゆさに目が潰れそうで、神々しくて、僕は…」
「もうよい。なぜだか、褒められている気がしない」
「そうですかぁ? すっごい褒めているんですけどぉ?」
「王妃よ、語尾を伸ばすのはやめなさい。なんか、イラッとするのだ」
 そう言いつつも、陛下は喉奥でククッと笑っているけど。

 そんな、ちょっと気安い、他愛ない話をしつつ。ひとしきり踊って。
 息が上がってきたところで、ぼくたちは礼をしあってダンスを終えた。

 そうしたら、今度はここに集まった客人たちが、ホールに出てきて踊り始める。
 食事が置いてある一角で、乾杯する陛下とぼくに。
 みんながひとりひとり、お祝いの言葉を贈ってくれて。
 ダンスと祝杯と笑顔に満ちた結婚披露パーティーは、日が暮れるまで、賑やかに続いたのだ。

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