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92 愛の力で王を救えっ! ③
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突然、海の上に現れた、白い道をたどって。王城から大勢の人がやってきた、となれば。その神秘の状況に、カザレニア国民が驚くのも、無理はない。
本土の海岸に、神の集団が降り立った、くらいの驚愕ぶりで。民たちは、遠巻きにこちらを見やっていた。
「陛下、ここは民たちに、説明をした方が良いのではありませんか?」
ラヴェルが、陛下に助言し。陛下も、そうだなと、うなずきを返している。
「少々お待ちください。陛下に声を張らせるわけにはいきません。ぼくの魔法で、なんとかできそうなので、やってみます」
声や音というのは、振動であると、前世の知識で知っていた。
空気中には、必ず水分があり。それを震わせることで、広範囲に、陛下の声を届けることが、できそう?
原理は、なんとなくわかっているので。
ま、とりあえず、やってみよう。
ぼくは、空に手をかざして。できるだけ遠くまでの水分の感覚を手中におさめるイメージをして。口を開いた。
「ぴっ」
陛下が、ぴ? とつぶやいて。ぼくを、いぶかしげに見る。
『ピンポンパンポーンン』
ぼくの声だけど、よく放送の前に流れる、お知らせの合図を言ってみたら。結構な音量で、遠くまで響き渡ったので。良い感じ。
どうぞ、と。手で、陛下に水を向けた。
「我は…」
陛下は、自分の声が遠くに響いたのに、一瞬驚いて。
でも、気を取り直して、背筋を伸ばした。
「我は、カザレニア国王、イアン・カザレニア二十四世である」
その宣言に、国民はドヨドヨッと戸惑いの声を漏らすが。
陛下の声を聞き漏らさぬように、すぐに口を閉じて。言葉に、耳を傾けた。
「愛する、我がカザレニア国民の前に、十年あまりも姿を見せられなかったことを、我は心苦しく思っている。国王という地位にありながら、国政に関われなかったことは、身を切られるほどのつらさであった。だが、どうか、許してほしい。我はこの十年間、前王の妹であるアナベラと、その息子であるバミネに、王城のある孤島にて、幽閉状態にあったのだ」
センセーショナルな、その国王の告白に。
国民は憤りをあらわにした。
国が誇る王家の者を、閉じ込めるとは何事だっ、と。
ほとんどが、王に同情的な、怒りの声だった。
そうでしょ? そうでしょ?
カザレニア国民は、王家が長年、国民を敵国から守ってきた、勇敢に戦ってきた一族だと知っているのだもの。
王家をないがしろにするわけもなく。王家の存在を忘れているわけでもない。
みんな、我らの国王が、自分たちの前に現れるそのときを、待っていたのだ。
「我はアナベラたちに、島の外へ出たら、国民を害すると脅されてきた。それゆえ、今まで、唯々諾々と彼らに従う他はなかったのだ。カザレニア国、最後の王となることを、我は覚悟した。死するまで、国民を守る義務が、我にはあり。国民を守って命を落とすのは、当然のことと。我はつい先ごろまで、それを確かに了承していた」
そうして、眉間にしわを寄せる、苦悶の顔つきで。陛下は一度、口を閉ざす。
つい先ごろ、というのは。
昨日まで、ということだ。
十年という年月を。陛下は苦しみ抜いてきたのだな?
低く落ち着いた声音で語られる、衝撃の事実を、国民も固唾をのんで聞き入っている。
「しかし、バミネは。我のみならず。我の愛する者の命まで脅かした。我は、王以前に、ひとりの人間として。我のことを長い年月支えてくれた同胞や、愛する者を、守りたいと思い。そして、そのためには。我のこの命をも、守らなければならないと。考えを改めたのだ」
そして、陛下はひとつ大きく息を吸い込み。決然と、告げた。
「愛する者が、我に生きてほしいと願ってくれた。だから、我は。精一杯に。ひたむきに。生きよう。愛する者と、ともに生きてゆきたいと…そう、思った」
陛下の言葉に、涙が出た。
生きることをあきらめていた、陛下が。
ぼくを守るため。そして家族のため。仲間のため。勇気を出して、立ち上がる決意をしてくれたのだ。
長年の想いを覆すということは、それほど簡単なことではないと、ぼくは思う。
ぼくだって、なかなかコミュ障という悪癖を、払拭できないんだもの。スケールは段違いだけど。
でも。だからなおさら。
恐怖や使命という、ぶっとい鎖を断ち切ってくれた陛下は、尊いと思うのだ。
「命は、生きることは、尊いと、我を諭してくれた。我を逃がそう、救おうと尽力し、生きる道を示してくれた者がいる。我の愛すべき伴侶、クロウ・エイデンだ」
陛下が、ぼくの背中に手を添えてぇ?
隣に、な、並ばされてしまったぁ?
ええぇぇ? いきなり、なにを言い出すんですか? 陛下ッ。
国民も場違いなモブの登場に、今日一、どよめいていますよ?
「クロウのおかげで、バミネに国民を害される心配がなくなり。海を割って、穏便に島から脱出することができ。こうして、皆の前で話をすることもできるようになったのだ。クロウは我が国の英雄だっ!」
オオオッッ、と。みなさんが盛り上げてくれるのですけど。
ひえぇ。どっ、どうしたらいいのやら?
ぼくは、こういうとき。エヘラッと、笑うしかない、というか?
だって、ヘコヘコ会釈してキョドったら、陛下の立場を悪くしちゃうじゃん?
だから。笑って誤魔化させてくださいぃ。
「我はこれから、王宮へ凱旋し。復権を主張するつもりだ。皆は、どうか。我の行く末を見守ってもらいたい」
陛下がうなずいたので。放送は一応切ったのですけど。
もうっ、大勢の人の前で、こんなこと言っちゃって良かったんですかぁ?
だけど、海岸にいる人たちは、陛下の演説に感動し。ものすごい拍手と喝采を送ってくれた。
そして、どんどんと、人々が海岸へと押し寄せてきていている。
みんな、陛下のお姿を、ひと目拝見したいと思っているのだな?
その気持ち、とてもよくわかります。王家の方々の存在自体が、国民には憧憬の的なのだ。
「陛下、見事な演説でしたわ。国民がクロウの功績を知っていれば、頭の固い貴族どもも、そうそう、クロウが王妃になることへの反対は、出せませんものね? 先手を打つことは大事なことですわ?」
でも、ぼくのアタフタには気づくことなく、王妃様…陛下の母上様は、満足そうに陛下にうなずきを返している。
あぁ、王妃様は、王城を脱出したあともまだ、ぼくを陛下の伴侶と認めてくださっているのですね? ありがたいことです。
「っていうか、クロウ。なんだ、この魔法は? 声を遠くへ届ける魔法なんて、見たことも聞いたこともないぞ? 闇魔法か? まさか、聖魔法なのか?」
興奮した様子で、セドリックがぼくに聞いてきた。
好奇心で目がキラキラしている。
「えっと、空気中の水分を震わせると、声が伝わるのです。それを維持したまま、遠くへ飛ばす。水魔法の応用なのですけど?」
「応用? 先ほど初めて魔法を使ったというのに、こんなことまでするなんて、大したものです。海を割るというのも、実は半信半疑でしたが。やってのけたのは、すごいことですよっ」
シヴァーディも、なんか、褒めてくれて。
陛下も感心したという顔でぼくを見てくれる。
「本当に。我の伴侶は有能で、素晴らしい」
エヘヘ。そんなぁ。照れ。照れ。
「クロウ、シオン」
そこに、聞き慣れた声が響いた。
ぼくが働いていた、仕立て屋の店長である、大叔母様と。その店を仕切るジェラルド商会の長である大叔父様だ。
ふたりは、ぼくたちに駆け寄り。ガバッと抱きついた。
ハグにしては熱烈です。
「あぁ、クロウ、シオン、無事だったのね? 心配していたわ」
「シオンは呪いが解けているのか? 良かったな」
大叔母の豊満な胸に、押しつぶされそうになるほど、締めつけられ。
シオンは、大叔父に頭をグリグリ撫でられて。大変だったけど。
大叔母たちも、バミネの脅威を見知っているから。本当に心配してくれたのだろう。
「大叔母様、母上はお元気ですか?」
「えぇ、元気ですとも。私たちは店の方にいて。騒ぎを聞いて駆けつけたのだけど。ミリシャは屋敷にいるわよ」
大叔母は、こっそりと教えてくれる。
ミリシャというのは、母上の名前です。
でも、良かった。アナベラにもバミネにもまだ嗅ぎつけられていないようで。
母を害されることが、一番心配だったからね。
ぼくは振り返って、陛下にふたりを紹介した。
「陛下、ぼくたちをバミネから匿い、保護して助けてくれた、ジェラルド大叔父様と、母の叔母に当たるエレノア様です」
ふたりは、陛下と王妃様を前にして、とても美しい臣下の礼を取った。
エレノア様は、元々子爵家の令嬢だったので、こういう挨拶はお手の物だ。
「クロウたちを保護してくれて、感謝する。貴殿らの功績がなければ、今、我は、ここにはいられない」
「ご挨拶させていただきます。クロウの縁戚である、ジェラルド・オスカーでございます。陛下、もったいないお言葉、ありがとうございます。陛下がお姿を見せられない事態に、商会一同、憂いておりました。こうしてお目にかかれて、言葉を交わす栄誉までいただけて、感激いたしております」
大叔父に続いて、大叔母も口を開く。
「陛下、本土への御帰還、誠におめでとうございます。私、先々代国王様の演説を目にしたことがありまして。黄金の長い髪をなびかせる、偉大なるお姿が、陛下とそっくりでございました。麗しいお姿を拝見でき、恐悦至極にございます」
「そうでしょう? 大叔母様。ぼくも陛下を初めてお見かけしたとき、大叔母様がしてくれた、先々代国王様の話のことを思い出したものです。今、目の前にいる陛下も、ブロンドがきらめき。海色の瞳は、凛とした光を帯びて輝き。その威厳ある態度、国民を悪意の手から守り切った情熱、すべてが魅力的で。先々代の王にも劣らぬ、神々しさですっ」
勢い込んで、話に口をはさんでしまった。
大叔母様に、礼儀がなっていない、と目で叱られ。肩をすくめる。す、すみませぇんん。
でも、ぼくの高圧テンションに慣れ始めている陛下は。ぼくの頭を撫でて、苦笑するだけだ。
そんなぼくと陛下のやり取りを、ふたりは微笑ましく見てくれた。
「ジェラルド殿、我らはこれから王宮へ行くつもりなのだが。交戦があるかもしれないので、母上や妹、使用人たちを、連れて行くわけにはいかない。できれば、彼らの保護を頼まれてくれないか?」
「ありがたく承ります。我が商会は、荷を運ぶ際の警護のため、屈強な剣士がそろっておりますし。王城には劣りますが、それなりの屋敷を構えておりますゆえ。安心してお任せください。陛下をお支えした御仁たちを、手厚くおもてなしさせていただきたいと思います」
すると、陛下が。ジェラルド大叔父の耳に、こっそりと囁いた。
「クロウが、王室御用達は仕立て屋の夢だと言っていた。すべて片づいた折には、その件も考えよう」
「へ、陛下…」
ぼくは、ワタワタしてしまう。
確かに、島で、そのようなお話はしましたが。
こうやって聞くと、あざといというか。け、決して、それ目当てで言ったわけではないのですぅ。
「それは、陛下のお眼鏡にかなったときに、お考えいただければ結構ですよ」
大叔父様は、陛下には茶目っ気のウィンク付きで。そう、その場を濁した。
さすが、国一番の大商人。余裕の受け答えです。
でも、ぼくのことは目で怒った。す、す、す、すみませぇぇんんん。
本土の海岸に、神の集団が降り立った、くらいの驚愕ぶりで。民たちは、遠巻きにこちらを見やっていた。
「陛下、ここは民たちに、説明をした方が良いのではありませんか?」
ラヴェルが、陛下に助言し。陛下も、そうだなと、うなずきを返している。
「少々お待ちください。陛下に声を張らせるわけにはいきません。ぼくの魔法で、なんとかできそうなので、やってみます」
声や音というのは、振動であると、前世の知識で知っていた。
空気中には、必ず水分があり。それを震わせることで、広範囲に、陛下の声を届けることが、できそう?
原理は、なんとなくわかっているので。
ま、とりあえず、やってみよう。
ぼくは、空に手をかざして。できるだけ遠くまでの水分の感覚を手中におさめるイメージをして。口を開いた。
「ぴっ」
陛下が、ぴ? とつぶやいて。ぼくを、いぶかしげに見る。
『ピンポンパンポーンン』
ぼくの声だけど、よく放送の前に流れる、お知らせの合図を言ってみたら。結構な音量で、遠くまで響き渡ったので。良い感じ。
どうぞ、と。手で、陛下に水を向けた。
「我は…」
陛下は、自分の声が遠くに響いたのに、一瞬驚いて。
でも、気を取り直して、背筋を伸ばした。
「我は、カザレニア国王、イアン・カザレニア二十四世である」
その宣言に、国民はドヨドヨッと戸惑いの声を漏らすが。
陛下の声を聞き漏らさぬように、すぐに口を閉じて。言葉に、耳を傾けた。
「愛する、我がカザレニア国民の前に、十年あまりも姿を見せられなかったことを、我は心苦しく思っている。国王という地位にありながら、国政に関われなかったことは、身を切られるほどのつらさであった。だが、どうか、許してほしい。我はこの十年間、前王の妹であるアナベラと、その息子であるバミネに、王城のある孤島にて、幽閉状態にあったのだ」
センセーショナルな、その国王の告白に。
国民は憤りをあらわにした。
国が誇る王家の者を、閉じ込めるとは何事だっ、と。
ほとんどが、王に同情的な、怒りの声だった。
そうでしょ? そうでしょ?
カザレニア国民は、王家が長年、国民を敵国から守ってきた、勇敢に戦ってきた一族だと知っているのだもの。
王家をないがしろにするわけもなく。王家の存在を忘れているわけでもない。
みんな、我らの国王が、自分たちの前に現れるそのときを、待っていたのだ。
「我はアナベラたちに、島の外へ出たら、国民を害すると脅されてきた。それゆえ、今まで、唯々諾々と彼らに従う他はなかったのだ。カザレニア国、最後の王となることを、我は覚悟した。死するまで、国民を守る義務が、我にはあり。国民を守って命を落とすのは、当然のことと。我はつい先ごろまで、それを確かに了承していた」
そうして、眉間にしわを寄せる、苦悶の顔つきで。陛下は一度、口を閉ざす。
つい先ごろ、というのは。
昨日まで、ということだ。
十年という年月を。陛下は苦しみ抜いてきたのだな?
低く落ち着いた声音で語られる、衝撃の事実を、国民も固唾をのんで聞き入っている。
「しかし、バミネは。我のみならず。我の愛する者の命まで脅かした。我は、王以前に、ひとりの人間として。我のことを長い年月支えてくれた同胞や、愛する者を、守りたいと思い。そして、そのためには。我のこの命をも、守らなければならないと。考えを改めたのだ」
そして、陛下はひとつ大きく息を吸い込み。決然と、告げた。
「愛する者が、我に生きてほしいと願ってくれた。だから、我は。精一杯に。ひたむきに。生きよう。愛する者と、ともに生きてゆきたいと…そう、思った」
陛下の言葉に、涙が出た。
生きることをあきらめていた、陛下が。
ぼくを守るため。そして家族のため。仲間のため。勇気を出して、立ち上がる決意をしてくれたのだ。
長年の想いを覆すということは、それほど簡単なことではないと、ぼくは思う。
ぼくだって、なかなかコミュ障という悪癖を、払拭できないんだもの。スケールは段違いだけど。
でも。だからなおさら。
恐怖や使命という、ぶっとい鎖を断ち切ってくれた陛下は、尊いと思うのだ。
「命は、生きることは、尊いと、我を諭してくれた。我を逃がそう、救おうと尽力し、生きる道を示してくれた者がいる。我の愛すべき伴侶、クロウ・エイデンだ」
陛下が、ぼくの背中に手を添えてぇ?
隣に、な、並ばされてしまったぁ?
ええぇぇ? いきなり、なにを言い出すんですか? 陛下ッ。
国民も場違いなモブの登場に、今日一、どよめいていますよ?
「クロウのおかげで、バミネに国民を害される心配がなくなり。海を割って、穏便に島から脱出することができ。こうして、皆の前で話をすることもできるようになったのだ。クロウは我が国の英雄だっ!」
オオオッッ、と。みなさんが盛り上げてくれるのですけど。
ひえぇ。どっ、どうしたらいいのやら?
ぼくは、こういうとき。エヘラッと、笑うしかない、というか?
だって、ヘコヘコ会釈してキョドったら、陛下の立場を悪くしちゃうじゃん?
だから。笑って誤魔化させてくださいぃ。
「我はこれから、王宮へ凱旋し。復権を主張するつもりだ。皆は、どうか。我の行く末を見守ってもらいたい」
陛下がうなずいたので。放送は一応切ったのですけど。
もうっ、大勢の人の前で、こんなこと言っちゃって良かったんですかぁ?
だけど、海岸にいる人たちは、陛下の演説に感動し。ものすごい拍手と喝采を送ってくれた。
そして、どんどんと、人々が海岸へと押し寄せてきていている。
みんな、陛下のお姿を、ひと目拝見したいと思っているのだな?
その気持ち、とてもよくわかります。王家の方々の存在自体が、国民には憧憬の的なのだ。
「陛下、見事な演説でしたわ。国民がクロウの功績を知っていれば、頭の固い貴族どもも、そうそう、クロウが王妃になることへの反対は、出せませんものね? 先手を打つことは大事なことですわ?」
でも、ぼくのアタフタには気づくことなく、王妃様…陛下の母上様は、満足そうに陛下にうなずきを返している。
あぁ、王妃様は、王城を脱出したあともまだ、ぼくを陛下の伴侶と認めてくださっているのですね? ありがたいことです。
「っていうか、クロウ。なんだ、この魔法は? 声を遠くへ届ける魔法なんて、見たことも聞いたこともないぞ? 闇魔法か? まさか、聖魔法なのか?」
興奮した様子で、セドリックがぼくに聞いてきた。
好奇心で目がキラキラしている。
「えっと、空気中の水分を震わせると、声が伝わるのです。それを維持したまま、遠くへ飛ばす。水魔法の応用なのですけど?」
「応用? 先ほど初めて魔法を使ったというのに、こんなことまでするなんて、大したものです。海を割るというのも、実は半信半疑でしたが。やってのけたのは、すごいことですよっ」
シヴァーディも、なんか、褒めてくれて。
陛下も感心したという顔でぼくを見てくれる。
「本当に。我の伴侶は有能で、素晴らしい」
エヘヘ。そんなぁ。照れ。照れ。
「クロウ、シオン」
そこに、聞き慣れた声が響いた。
ぼくが働いていた、仕立て屋の店長である、大叔母様と。その店を仕切るジェラルド商会の長である大叔父様だ。
ふたりは、ぼくたちに駆け寄り。ガバッと抱きついた。
ハグにしては熱烈です。
「あぁ、クロウ、シオン、無事だったのね? 心配していたわ」
「シオンは呪いが解けているのか? 良かったな」
大叔母の豊満な胸に、押しつぶされそうになるほど、締めつけられ。
シオンは、大叔父に頭をグリグリ撫でられて。大変だったけど。
大叔母たちも、バミネの脅威を見知っているから。本当に心配してくれたのだろう。
「大叔母様、母上はお元気ですか?」
「えぇ、元気ですとも。私たちは店の方にいて。騒ぎを聞いて駆けつけたのだけど。ミリシャは屋敷にいるわよ」
大叔母は、こっそりと教えてくれる。
ミリシャというのは、母上の名前です。
でも、良かった。アナベラにもバミネにもまだ嗅ぎつけられていないようで。
母を害されることが、一番心配だったからね。
ぼくは振り返って、陛下にふたりを紹介した。
「陛下、ぼくたちをバミネから匿い、保護して助けてくれた、ジェラルド大叔父様と、母の叔母に当たるエレノア様です」
ふたりは、陛下と王妃様を前にして、とても美しい臣下の礼を取った。
エレノア様は、元々子爵家の令嬢だったので、こういう挨拶はお手の物だ。
「クロウたちを保護してくれて、感謝する。貴殿らの功績がなければ、今、我は、ここにはいられない」
「ご挨拶させていただきます。クロウの縁戚である、ジェラルド・オスカーでございます。陛下、もったいないお言葉、ありがとうございます。陛下がお姿を見せられない事態に、商会一同、憂いておりました。こうしてお目にかかれて、言葉を交わす栄誉までいただけて、感激いたしております」
大叔父に続いて、大叔母も口を開く。
「陛下、本土への御帰還、誠におめでとうございます。私、先々代国王様の演説を目にしたことがありまして。黄金の長い髪をなびかせる、偉大なるお姿が、陛下とそっくりでございました。麗しいお姿を拝見でき、恐悦至極にございます」
「そうでしょう? 大叔母様。ぼくも陛下を初めてお見かけしたとき、大叔母様がしてくれた、先々代国王様の話のことを思い出したものです。今、目の前にいる陛下も、ブロンドがきらめき。海色の瞳は、凛とした光を帯びて輝き。その威厳ある態度、国民を悪意の手から守り切った情熱、すべてが魅力的で。先々代の王にも劣らぬ、神々しさですっ」
勢い込んで、話に口をはさんでしまった。
大叔母様に、礼儀がなっていない、と目で叱られ。肩をすくめる。す、すみませぇんん。
でも、ぼくの高圧テンションに慣れ始めている陛下は。ぼくの頭を撫でて、苦笑するだけだ。
そんなぼくと陛下のやり取りを、ふたりは微笑ましく見てくれた。
「ジェラルド殿、我らはこれから王宮へ行くつもりなのだが。交戦があるかもしれないので、母上や妹、使用人たちを、連れて行くわけにはいかない。できれば、彼らの保護を頼まれてくれないか?」
「ありがたく承ります。我が商会は、荷を運ぶ際の警護のため、屈強な剣士がそろっておりますし。王城には劣りますが、それなりの屋敷を構えておりますゆえ。安心してお任せください。陛下をお支えした御仁たちを、手厚くおもてなしさせていただきたいと思います」
すると、陛下が。ジェラルド大叔父の耳に、こっそりと囁いた。
「クロウが、王室御用達は仕立て屋の夢だと言っていた。すべて片づいた折には、その件も考えよう」
「へ、陛下…」
ぼくは、ワタワタしてしまう。
確かに、島で、そのようなお話はしましたが。
こうやって聞くと、あざといというか。け、決して、それ目当てで言ったわけではないのですぅ。
「それは、陛下のお眼鏡にかなったときに、お考えいただければ結構ですよ」
大叔父様は、陛下には茶目っ気のウィンク付きで。そう、その場を濁した。
さすが、国一番の大商人。余裕の受け答えです。
でも、ぼくのことは目で怒った。す、す、す、すみませぇぇんんん。
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