【完結】幽閉の王を救えっ、でも周りにモブの仕立て屋しかいないんですけどぉ?

北川晶

文字の大きさ
123 / 176

2-3 強制力は最小限でお願いいたしますぅ

しおりを挟む
     ◆強制力は最小限でお願いいたしますぅ

 殿下とアイリスへ、そして前王妃様にもご挨拶をして。ぼくは、王宮を出ることになった。
 最後に、陛下に挨拶できなかったことが、心残りだなぁ。

 王宮の出入り口の前に、公爵家の馬車が止まっている。
 ラヴェルがお見送りしてくれたので。ぼくは馬車に乗る前に、彼の手を取って、お願いした。

「ラヴェル、陛下のおそばに、ついていてくれるか? 陛下はお強い方だけど、王城での心の傷は、まだ癒えていないんだ。セドリック様やシヴァーディ様、アルフレドみたいな、古参の者がそばにいてくれることが、一番心強いだろうと思う。ラヴェルは、陛下に最も近しい、頼りにしている者だから。陛下のお心に、寄り添ってあげて?」

「クロウ様、せっかく、クロウ様と陛下のおそばで、お世話ができる喜びを、かみしめていたというのに、三ヶ月も離れなくてはならないなんて…でも、ご結婚されたら、晴れて、クロウ様は王妃となられる。私はカザレニア国王とその王妃に仕えられるその日を、指折り数えて待つことにいたします。クロウ様の代わりなどには、なれませんが。私の力の限り、陛下をお支えし。クロウ様に、よくやったと褒めてもらえるよう、精進いたします」

 すでに、茶色い瞳を涙でウルウルさせているラヴェルは。赤茶色の髪から犬耳が出ているような錯覚をしてしまうくらいの懐きようで。相変わらずである。

 おかしいな。スーパー執事の威厳が見えない。

 それはともかく。
 ぼくは馬車に乗り込んで。一週間ほどを過ごした王宮から去った。

 公爵家の馬車は、どっしりした立派なもので。内装も、クッションのきいた椅子や、飴色の上等な木材でできた車体で、重厚感がある。
 平民のときに乗った、辻馬車と比べると。振動もおさえられて、乗り心地が段違いに良い。

 ぼくは、車内でひとりになり。先ほどの、アイリスとの話を考えていた。
 アイリスは、ぼくが指輪を返そうとしたとき『がえんじない』と言われたのだと説明したら。

「だったら、大丈夫よ。クロウ様から指輪を返されたくない、という意味でしょう? 大丈夫、大丈夫」
 とは言っていたが、口元は明らかに引きつっていて。
 アイキンⅡの中での『がえんじない』が、いかに強固な呪言であるかを、物語っているようだった。

 あぁ、気が重い。
 学園に通うようになったら、陛下とは会えるけれど。
 アイキンⅡのゲームが開始されるってことだろう?
 主人公が誰なのかも、わからないし。攻略対象も、半分以上、知らない人だろうし。
 もしも、ゲームの強制力が働いてさ、陛下が主人公を好きになったら?
 今日みたいに、海色の瞳を凍らせて、ぼくに死罪を…陛下が、言い渡したりしたら…。

 ひえぇぇ、考えただけで、泣きそうなんですけどぉ?

 今朝まで、陛下は、優しくて、温かい眼差しで、ぼくを見てくれていたけれど。
 あの、愛情たっぷりの表情で、ぼくのことを、もう見てくれなくなるのかなぁ?
 そんなの、嫌だなぁ。

 なにが一番嫌って。もちろん、愛する陛下の心変わりは嫌だけど。
 それよりも、今まで築いてきた関係性が、よくわからない力で捻じ曲げられて、なかったことにされてしまう、その恐ろしさが嫌なのだ。

 それでなくても、コミュ障の気は、残っているというのに。
 学園に行った途端、陛下やシオンやアイリスたちに『おまえ、誰?』みたいな目で見られたら。心が死にます。確実です。

 あぁ、神様、公式様。どうか、強制力は最小限でお願いいたしますぅ。

 なんて、祈っていたら。公爵家についた。
 王宮は大きいから、敷地内でも馬車移動するくらいに、広くて。隣接、という感じではないのだが。公爵位は王族の次に高い地位だから。ある意味、王宮のお隣さんくらいのところに、屋敷が建っているんだよね?

 馬車の扉が開けられて、外に出ると。
 一番に、母上が手を広げて迎えてくれた。

「お帰りなさい、クロウ。もう、顔も出さないで、王宮に行ってしまうのだから。薄情な息子ね? 島から無事に出たことは、シオンや叔母様から聞いて知っていたけれど、顔を見るまでは安心できないものなのよ?」
 柔らかく、包むようにハグされて。ぼくは、母のぬくもりをかみしめた。
 あぁ、やっぱり。ここがぼくの帰る場所。そう思ってしまう。

「ご心配おかけして、すみませんでした。母上」
「兄上ぇ、お帰りなさいませぇ」
 ぼくと母が抱き合う、その上から、シオンがガバッとハグしてきて。
 もう、さっき会ったばかりだというのに、甘えんぼの弟で困ったもんだ。
 外見はすっかり大人びているというのに。

「さぁ、食事の支度もできているぞ、クロウ。これでようやく、家族水入らずだな?」
 嬉しそうに、父が笑顔で言い。
 ぼくら四人は、玄関の向こう、明るい室内へと歩を進めた。


 一週間前、ここを訪れたときは、十年分の埃が溜まっていたかのような、荒れた様相だった公爵邸。
 でも今は、隅々まで手入れが行き届いていて、明るく、華やかで、ちょっとギラギラしい感じの屋敷に戻っていた。
 すごいよ、ラヴェル。短期間でここまで戻すとは。さすが執事の鑑だな。

 使用人も大勢いて、母はその差配を、よどみなく取り仕切っている。すでに公爵家の女主人として、屋敷に馴染んでいた。

「なんか、きらびやか過ぎて、場違い感半端ない」
 思わず、つぶやくと。シオンが言った。

「なにを言っているのですか? 兄上。つい最近まで、王宮で暮らしていたくせに」
「王宮の方が、質素だよ。陛下も前王妃様も、華美なものは好まれないから。王族が暮らす区域は、離れのこじんまりとした、小さめのパレスといったところかな?」
「でも、ここが兄上の実家なのですから。慣れてください。陛下と喧嘩したら、陛下と離縁したら、ここに帰ってくるのですよ?」
「縁起でもない。まだ結婚もしていないのに」

 ぼくは、ちょっとムッとして、口をとがらせる。
 アイキンⅡが始まったら、シャレにならないかもしれないから。ピリピリしているのだ。

「お、怒らないでください、兄上ぇ。どうしたのですか? 今日、会ったときは、ラブラブな空気で胸焼けしそうなくらいだったのに。ぼくの嫌味なんか、鉄壁バリアで跳ね返していたではありませんか?」

 ぼくの八つ当たりに、シオンがオロオロし始めた。
 ま、弟に当たっても仕方がない。
 ぼくは、彼のしっとりウェーブの髪をクシャリと撫でて、笑みを浮かべた。

「いろいろ、あとで説明する。とりあえず、夕食にしよう。お腹空いた」
 つぶやいたら、使用人に部屋へ案内され。さらには、上等な衣装に着替えさせられて。ディナールームに連行された。
 ひえぇ、夕食食べるのに、いちいち着飾らなきゃダメなの? 面倒くさいんですけどぉ?

しおりを挟む
感想 10

あなたにおすすめの小説

悪役側のモブになっても推しを拝みたい。【完結】

瑳来
BL
大学生でホストでオタクの如月杏樹はホストの仕事をした帰り道、自分のお客に刺されてしまう。 そして、気がついたら自分の夢中になっていたBLゲームのモブキャラになっていた! ……ま、推しを拝めるからいっか! てな感じで、ほのぼのと生きていこうと心に決めたのであった。 ウィル様のおまけにて完結致しました。 長い間お付き合い頂きありがとうございました!

俺、転生したら社畜メンタルのまま超絶イケメンになってた件~転生したのに、恋愛難易度はなぜかハードモード

中岡 始
BL
ブラック企業の激務で過労死した40歳の社畜・藤堂悠真。 目を覚ますと、高校2年生の自分に転生していた。 しかも、鏡に映ったのは芸能人レベルの超絶イケメン。 転入初日から女子たちに囲まれ、学園中の話題の的に。 だが、社畜思考が抜けず**「これはマーケティング施策か?」**と疑うばかり。 そして、モテすぎて業務過多状態に陥る。 弁当争奪戦、放課後のデート攻勢…悠真の平穏は完全に崩壊。 そんな中、唯一冷静な男・藤崎颯斗の存在に救われる。 颯斗はやたらと落ち着いていて、悠真をさりげなくフォローする。 「お前といると、楽だ」 次第に悠真の中で、彼の存在が大きくなっていき――。 「お前、俺から逃げるな」 颯斗の言葉に、悠真の心は大きく揺れ動く。 転生×学園ラブコメ×じわじわ迫る恋。 これは、悠真が「本当に選ぶべきもの」を見つける物語。 続編『元社畜の俺、大学生になってまたモテすぎてるけど、今度は恋人がいるので無理です』 かつてブラック企業で心を擦り減らし、過労死した元社畜の男・藤堂悠真は、 転生した高校時代を経て、無事に大学生になった―― 恋人である藤崎颯斗と共に。 だが、大学という“自由すぎる”世界は、ふたりの関係を少しずつ揺らがせていく。 「付き合ってるけど、誰にも言っていない」 その選択が、予想以上のすれ違いを生んでいった。 モテ地獄の再来、空気を読み続ける日々、 そして自分で自分を苦しめていた“頑張る癖”。 甘えたくても甘えられない―― そんな悠真の隣で、颯斗はずっと静かに手を差し伸べ続ける。 過去に縛られていた悠真が、未来を見つめ直すまでの じれ甘・再構築・すれ違いと回復のキャンパス・ラブストーリー。 今度こそ、言葉にする。 「好きだよ」って、ちゃんと。

BLゲームの世界でモブになったが、主人公とキャラのイベントがおきないバグに見舞われている

青緑三月
BL
主人公は、BLが好きな腐男子 ただ自分は、関わらずに見ているのが好きなだけ そんな主人公が、BLゲームの世界で モブになり主人公とキャラのイベントが起こるのを 楽しみにしていた。 だが攻略キャラはいるのに、かんじんの主人公があらわれない…… そんな中、主人公があらわれるのを、まちながら日々を送っているはなし BL要素は、軽めです。

裏乙女ゲー?モブですよね? いいえ主人公です。

みーやん
BL
何日の時をこのソファーと過ごしただろう。 愛してやまない我が妹に頼まれた乙女ゲーの攻略は終わりを迎えようとしていた。 「私の青春学園生活⭐︎星蒼山学園」というこのタイトルの通り、女の子の主人公が学園生活を送りながら攻略対象に擦り寄り青春という名の恋愛を繰り広げるゲームだ。ちなみに女子生徒は全校生徒約900人のうち主人公1人というハーレム設定である。 あと1ヶ月後に30歳の誕生日を迎える俺には厳しすぎるゲームではあるが可愛い妹の為、精神と睡眠を削りながらやっとの思いで最後の攻略対象を攻略し見事クリアした。 最後のエンドロールまで見た後に 「裏乙女ゲームを開始しますか?」 という文字が出てきたと思ったら目の視界がだんだんと狭まってくる感覚に襲われた。  あ。俺3日寝てなかったんだ… そんなことにふと気がついた時には視界は完全に奪われていた。 次に目が覚めると目の前には見覚えのあるゲームならではのウィンドウ。 「星蒼山学園へようこそ!攻略対象を攻略し青春を掴み取ろう!」 何度見たかわからないほど見たこの文字。そして気づく現実味のある体感。そこは3日徹夜してクリアしたゲームの世界でした。 え?意味わかんないけどとりあえず俺はもちろんモブだよね? これはモブだと勘違いしている男が実は主人公だと気付かないまま学園生活を送る話です。

転生令息は冒険者を目指す!?

葛城 惶
BL
ある時、日本に大規模災害が発生した。  救助活動中に取り残された少女を助けた自衛官、天海隆司は直後に土砂の崩落に巻き込まれ、意識を失う。  再び目を開けた時、彼は全く知らない世界に転生していた。  異世界で美貌の貴族令息に転生した脳筋の元自衛官は憧れの冒険者になれるのか?!  とってもお馬鹿なコメディです(;^_^A

BL世界に転生したけど主人公の弟で悪役だったのでほっといてください

わさび
BL
前世、妹から聞いていたBL世界に転生してしまった主人公。 まだ転生したのはいいとして、何故よりにもよって悪役である弟に転生してしまったのか…!? 悪役の弟が抱えていたであろう嫉妬に抗いつつ転生生活を過ごす物語。

【完結】薄幸文官志望は嘘をつく

七咲陸
BL
サシャ=ジルヴァールは伯爵家の長男として産まれるが、紫の瞳のせいで両親に疎まれ、弟からも蔑まれる日々を送っていた。 忌々しい紫眼と言う両親に幼い頃からサシャに魔道具の眼鏡を強要する。認識阻害がかかったメガネをかけている間は、サシャの顔や瞳、髪色までまるで別人だった。 学園に入学しても、サシャはあらぬ噂をされてどこにも居場所がない毎日。そんな中でもサシャのことを好きだと言ってくれたクラークと言う茶色の瞳を持つ騎士学生に惹かれ、お付き合いをする事に。 しかし、クラークにキスをせがまれ恥ずかしくて逃げ出したサシャは、アーヴィン=イブリックという翠眼を持つ騎士学生にぶつかってしまい、メガネが外れてしまったーーー… 認識阻害魔道具メガネのせいで2人の騎士の間で別人を演じることになった文官学生の恋の話。 全17話 2/28 番外編を更新しました

処理中です...