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2-4 えこひいきは許しませーん!
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◆えこひいきは許しませーん!
公爵邸での、初めての夕食。そして家族そろっての、久しぶり食卓だ。
子供のとき、別邸で、家族四人で食事をしたことがあるから。父を含んでの食事が、初めてではないのだけど。
シオンなんかは、物心ついていなかったみたいだから。
こうして四人で食事をするのは、初めての感覚かもしれないな。
公爵邸のディナールームは、来賓、来客をもてなすためのもので。大きくて豪華絢爛。
天井にぶら下がる、透明な石がキラキラ輝くシャンデリアは、総重量が何キロあるのぉ? と叫びたくなるような大きさで。
落ちてきたら死ぬな、と思う。ネガティブ思考なら、任せておけっ。
そして、テーブルは五十人くらいは座れるくらいの、超、長、長机。
末席の人はきっと、父の席からは、顔が豆粒サイズに見えるに違いない。
上座には父。左手側に母、右手側はぼくとシオンが並ぶ。
家族での食事は、その長机に四人だけが座る。なんか…空間がもったいない。
そう思ってしまうのは。前世で、七畳くらいのダイニングで、大人五人家族がひしめき合っていた、食事風景の記憶があるからか?
大叔母様の屋敷でも、大きな部屋で食事をしていたけれど。
あそこは、なんとなく居候感があったからなぁ?
それに、ここまで大きな食堂でもなかった。
王宮でも、来客用のディナールームは別にあり。普段の食事は、家族専用の食堂という感じで。
ある意味、大叔母様の屋敷の食堂よりも、こじんまりとしていたのだ。
「いつも、ここで食べているのか? もっと小さな部屋で食べればいいのに?」
こっそりシオンに聞くと。昔からこの仕様らしい、と言う。ふーん。
まぁ、それはともかく。食事は豪勢で。スープ、前菜、副菜、サラダ、メインディッシュ、サラダ、パン、デザートなどなど、次から次に出てくる。
いや、無理無理、そんなに食べられないから。
すでにメインディッシュの前に、お腹がいっぱいになりました。
「クロウ、口に合わないか?」
箸が止まる…というか、カトラリーを置くぼくを見て。父が言えば。使用人がビクリとする。
大丈夫、そんなに構えないで。
「とても美味しいです。でもぼくは、それほど量は食べないので。仕立て屋をしていたときも、食事は二の次で。よく食事を抜いて、シオンに叱られたものです」
「それはいけないな。そうだ。しっかり食べて、シオンのような体格になれば、陛下もクロウを伴侶に、などと言わなくなるかもしれない」
あれ? ぼくの鳥ガラをディスられてる?
カチンときながら、ぼくは愛想笑いを返す。
「もう、食べても太るだけですよ。二十歳を越えていますから。でも、食事はもったいないので、夜食にいただきます。これからは、ぼくの食事はパンとメインとサラダだけにしていただけますか?」
使用人に告げると、そのように料理長に伝えますと言ってくれた。よしよし。
「それで…父上は。ぼくと陛下の結婚に反対していらっしゃるのですか?」
ズバリ、たずねる。
今日の話の様子とかを見て、なんとなくそう思っていたんだ。
式を、なんとか先延ばしにしたい、というようなニュアンスをひしひし感じた。
すると、父もその話をしたかったのだろう。食事をすすめながらも、口を開く。
「反対ではない。家族が王族の一員になることは、とても名誉なことだ。しかし、クロウが陛下に輿入れするということは、我が公爵家の後継に、クロウを選べないということだからな」
それはそうだろう。当たり前?
でも、それは別に、関係ないというか。
「公爵家には、ぼくよりも優秀なシオンがいるのですから、なにも痛手はないでしょう?」
心底意味がわからず、首を傾げると。
シオンと父が、グリンと顔を回して、ぼくを凝視した。
なーにー? ふたりで、こっち向くの、怖いんですけどぉ?
「兄上、どうしてぼくが、兄上より優秀なんて話になるのですか? ぼくはなんでも、兄上の言うとおりにやってきただけで。魔力も勉学も、兄上にかなうわけがないではないですかっ?」
「馬鹿を言うな、どう見ても、ぼくよりシオンの方が優秀だよ。剣術の腕前も、騎士並みだし。勉学や魔力なんかは、これから学園で習熟していけば、めきめき伸びるし。若くてピッチピチ、伸びしろ充分。しかも美男子、ダンスも華麗。ケチのつけようがないじゃないか?」
ぼくに褒め倒されて、シオンは頭を抱えた。
照れ隠しかぁ? 素直に喜ぶがいい、弟よ。
「あぁ、これ。マジで言ってるから、始末が悪い。陛下との結婚が決まって、少しは良くなっていたかと思ったが。この過小評価は、本当に崩せないなっ」
ブツブツとシオンが言うのに、ぼくは、よくわからないが反論する。
「過小評価? 評価が低いか? もちろん、今、言ったことは、シオンの良いところのほんの一部だよ? もっと褒めて、父上にアピールした方が良かったか? いくらでも言えるぞ? シオンは…」
「いいえ、もう結構です。これ以上の褒め殺しは、精神ダメージ必至なので、やめてください」
顔を赤くして、シオンは固辞する。
そうかぁ? ぼくは言い足りないくらいだけど。
すると、父が、ぼくに説得口調で言ってくる。
「クロウ、おまえは。子供の頃から神童と噂されるほどの、賢さがあったが。とにかく、歴代のバジリスク公爵家の者をしのぐ、魔力量だ。王幾道を一時間以上も出現させたうえ、声を王都に伝わらせる、あの放送とやらも、おまえがやったものだと聞いた。そのような魔法の使い方をする者は、見たことがない。おまえは魔法の才覚も並外れているということだ。そのような才人を、王妃に据えてしまうのは。カザレニア国にとって損失になりえるのだ」
「王妃になれば、陛下の元で、カザレニア国発展のために、尽力するつもりですけど? つか、才人などと、大袈裟な。ぼくは、ただの仕立て屋です」
十年、ずっとチクチクしていたので。そんなハードル上げられても困りますよ?
でも、父は。公爵家当主の顔で、厳然と告げるのだ。
「もう仕立て屋ではない。バジリスク公爵令息にして、カザレニア国次期王妃なのだ。だが魔法の才を、王妃になることで、王宮に埋もれさせてしまうのは、惜しいと言っている。とりあえず、クロウ。おまえは自分の立ち位置に、もっと自覚を持つべきだ」
「…つまり。ぼくの結婚に反対はしない。公爵家の跡継ぎはシオン、ということで。よろしいですか?」
なんか、ごねているけど。
要は、そういうことだよね? 反対しないって、言ったもんね?
すると、父は。軽い笑みを浮かべつつ、言いにくそうに、もごもご言った。
「…クロウ。公爵令息として結婚し、跡継ぎを生んでから、陛下と結婚というのは、どうだ?」
「は?」
父も、口元が引きつっているから、それが荒唐無稽なものだという自覚はあるのだろうが。
「いったい、どうしたら、そういう話になるのですか?」
ぼくは。こめかみを、怒りでピクピクさせながら、たずねる。我慢、我慢。
「クロウの魔力を、公爵家に残したいではないか? 優秀な血脈を残すのも、公爵家の義務だ」
「それでぼくは、愛のない結婚をして。子を産んだ妻ともども、公爵家に置いていき。そのあと、へらへらと陛下と結婚しろと? …父上」
「い、い、一提案に過ぎない。怒るな、クロウ」
怒りの波動が伝わっているのか、父はアタフタしながら、ぼくを見やる。
「シオンの子も、優秀な公爵家の血脈であると思いますが? 第一、ぼくの子が、ぼくと同じ魔力量があるとは限らないでしょう? 父上は、愛のない結婚を強いるほどに、魔力量のある優秀な子だけが欲しいのですか? 父上の言葉には、愛を感じません」
「そんなわけない。クロウもシオンも、愛しているに決まっている。だから。愛しているからこそ。私はミリシャに似たおまえに、爵位を譲りたいのだぁ」
その言葉に、もう怒りが抑えられなくなり。ぼくは叫んだ。
「父上、えこひいきは許しませーん!」
ぼくの怒声とともに、ディナールームがビョッと冷たくなった。
でも、ぼくは怒っていたので。気がつかなかったけれど。
「なんですか、その理由は。つか、ぼくが手塩にかけて育て上げたシオンを、ないがしろにするとは何事ですかっ? シオンは、それはそれは心優しく、努力家で、真面目で、良識のある良い男なのです。シオンが母より父上と顔が似ているから? 後継にしないというのですかっ? そんな、クソな理由は、受け付けませんんんっ」
ガオーッ、と。なにかが後ろで鳴いているけど。今、怒ってるから、黙っててっ。
「え、えこひいきではない。後継を長子にこだわるのは、た、大家としては当然のことなのだ」
「長男でも次男でも、後継がいるのだから、それでいいでしょうが? 大体、親が子供を選り好みしたら、ダメでしょっ? どちらも、可愛い、我が子。そうやって子育てするのが、基本でしょ? 父上がそのような態度であるなら、ぼくはシオンを連れて公爵家を出ます。家出ですっ。シオンはぼくが、デロデロに愛しますからっ」
「兄上、デロデロに愛されるのは楽しみなんですが。とりあえず、後ろのドラゴンを仕舞ってください」
シオンが冷静にツッコんできて。
ひとりヒートアップしていたぼくは。シオンが背後を指差すので、振り向いた。
「…ドラゴン?」
そうしたら、薄青の、ぼくの二倍くらいの大きさのドラゴンが、地団太踏んで、アンギャ―って、言ってる。
振り向いたぼくと、目が合って。
ドラゴンも、ぼくを見て。驚いた顔をしている。…は?
「うわっ、なんだこれ?」
「兄上の怒りの具現化ですよ。たぶん」
ま、怒ったけど。
無意識で、変なの出しちゃったね?
ぼくより、ちょっと大きいくらいのドラゴンだから。ギリ、ディナールームにおさまっているけど。
これ以上、どすどすされたり、尻尾を振り回されたら、屋敷が半壊してしまう。
ぼくは、ぼくの怒りと連動して、床を踏み鳴らすドラゴンに指をさす。
そうすると、猫のように、指先の匂いを嗅いできたから。
そのまま、チョンと鼻をつついて。魔法解除。
ドラゴンは、さらさらと蒸発するように消えたのだった。
ま、空気中の水分を凍らせて出来た、ドラゴンだろうからね?
「いやぁ、無意識は怖いね? やはり魔力コントロールを学ぶのは大切だな。それで、父上。先ほどの話は…」
「いやいや、なかったことにするんじゃない。ドラゴン出すとか、放送するとか、やっぱりこの逸材を手放すわけにはいかないぞ」
ぼくが流麗に話を戻そうとしたのに。
父上は、驚愕と興奮に色めきだった様子で、ぼくを見やる。
「いえ、これは父上もシオンもできるでしょ? 放送は、大気中の水分を震わせて、遠くへ飛ばす。ドラゴンは空気中の水分を集めて固めただけですから。原理がわかれば、誰だってできますよ」
「「できるかっ」」
父とシオン、同時に声を出す。仲良しだね?
公爵邸での、初めての夕食。そして家族そろっての、久しぶり食卓だ。
子供のとき、別邸で、家族四人で食事をしたことがあるから。父を含んでの食事が、初めてではないのだけど。
シオンなんかは、物心ついていなかったみたいだから。
こうして四人で食事をするのは、初めての感覚かもしれないな。
公爵邸のディナールームは、来賓、来客をもてなすためのもので。大きくて豪華絢爛。
天井にぶら下がる、透明な石がキラキラ輝くシャンデリアは、総重量が何キロあるのぉ? と叫びたくなるような大きさで。
落ちてきたら死ぬな、と思う。ネガティブ思考なら、任せておけっ。
そして、テーブルは五十人くらいは座れるくらいの、超、長、長机。
末席の人はきっと、父の席からは、顔が豆粒サイズに見えるに違いない。
上座には父。左手側に母、右手側はぼくとシオンが並ぶ。
家族での食事は、その長机に四人だけが座る。なんか…空間がもったいない。
そう思ってしまうのは。前世で、七畳くらいのダイニングで、大人五人家族がひしめき合っていた、食事風景の記憶があるからか?
大叔母様の屋敷でも、大きな部屋で食事をしていたけれど。
あそこは、なんとなく居候感があったからなぁ?
それに、ここまで大きな食堂でもなかった。
王宮でも、来客用のディナールームは別にあり。普段の食事は、家族専用の食堂という感じで。
ある意味、大叔母様の屋敷の食堂よりも、こじんまりとしていたのだ。
「いつも、ここで食べているのか? もっと小さな部屋で食べればいいのに?」
こっそりシオンに聞くと。昔からこの仕様らしい、と言う。ふーん。
まぁ、それはともかく。食事は豪勢で。スープ、前菜、副菜、サラダ、メインディッシュ、サラダ、パン、デザートなどなど、次から次に出てくる。
いや、無理無理、そんなに食べられないから。
すでにメインディッシュの前に、お腹がいっぱいになりました。
「クロウ、口に合わないか?」
箸が止まる…というか、カトラリーを置くぼくを見て。父が言えば。使用人がビクリとする。
大丈夫、そんなに構えないで。
「とても美味しいです。でもぼくは、それほど量は食べないので。仕立て屋をしていたときも、食事は二の次で。よく食事を抜いて、シオンに叱られたものです」
「それはいけないな。そうだ。しっかり食べて、シオンのような体格になれば、陛下もクロウを伴侶に、などと言わなくなるかもしれない」
あれ? ぼくの鳥ガラをディスられてる?
カチンときながら、ぼくは愛想笑いを返す。
「もう、食べても太るだけですよ。二十歳を越えていますから。でも、食事はもったいないので、夜食にいただきます。これからは、ぼくの食事はパンとメインとサラダだけにしていただけますか?」
使用人に告げると、そのように料理長に伝えますと言ってくれた。よしよし。
「それで…父上は。ぼくと陛下の結婚に反対していらっしゃるのですか?」
ズバリ、たずねる。
今日の話の様子とかを見て、なんとなくそう思っていたんだ。
式を、なんとか先延ばしにしたい、というようなニュアンスをひしひし感じた。
すると、父もその話をしたかったのだろう。食事をすすめながらも、口を開く。
「反対ではない。家族が王族の一員になることは、とても名誉なことだ。しかし、クロウが陛下に輿入れするということは、我が公爵家の後継に、クロウを選べないということだからな」
それはそうだろう。当たり前?
でも、それは別に、関係ないというか。
「公爵家には、ぼくよりも優秀なシオンがいるのですから、なにも痛手はないでしょう?」
心底意味がわからず、首を傾げると。
シオンと父が、グリンと顔を回して、ぼくを凝視した。
なーにー? ふたりで、こっち向くの、怖いんですけどぉ?
「兄上、どうしてぼくが、兄上より優秀なんて話になるのですか? ぼくはなんでも、兄上の言うとおりにやってきただけで。魔力も勉学も、兄上にかなうわけがないではないですかっ?」
「馬鹿を言うな、どう見ても、ぼくよりシオンの方が優秀だよ。剣術の腕前も、騎士並みだし。勉学や魔力なんかは、これから学園で習熟していけば、めきめき伸びるし。若くてピッチピチ、伸びしろ充分。しかも美男子、ダンスも華麗。ケチのつけようがないじゃないか?」
ぼくに褒め倒されて、シオンは頭を抱えた。
照れ隠しかぁ? 素直に喜ぶがいい、弟よ。
「あぁ、これ。マジで言ってるから、始末が悪い。陛下との結婚が決まって、少しは良くなっていたかと思ったが。この過小評価は、本当に崩せないなっ」
ブツブツとシオンが言うのに、ぼくは、よくわからないが反論する。
「過小評価? 評価が低いか? もちろん、今、言ったことは、シオンの良いところのほんの一部だよ? もっと褒めて、父上にアピールした方が良かったか? いくらでも言えるぞ? シオンは…」
「いいえ、もう結構です。これ以上の褒め殺しは、精神ダメージ必至なので、やめてください」
顔を赤くして、シオンは固辞する。
そうかぁ? ぼくは言い足りないくらいだけど。
すると、父が、ぼくに説得口調で言ってくる。
「クロウ、おまえは。子供の頃から神童と噂されるほどの、賢さがあったが。とにかく、歴代のバジリスク公爵家の者をしのぐ、魔力量だ。王幾道を一時間以上も出現させたうえ、声を王都に伝わらせる、あの放送とやらも、おまえがやったものだと聞いた。そのような魔法の使い方をする者は、見たことがない。おまえは魔法の才覚も並外れているということだ。そのような才人を、王妃に据えてしまうのは。カザレニア国にとって損失になりえるのだ」
「王妃になれば、陛下の元で、カザレニア国発展のために、尽力するつもりですけど? つか、才人などと、大袈裟な。ぼくは、ただの仕立て屋です」
十年、ずっとチクチクしていたので。そんなハードル上げられても困りますよ?
でも、父は。公爵家当主の顔で、厳然と告げるのだ。
「もう仕立て屋ではない。バジリスク公爵令息にして、カザレニア国次期王妃なのだ。だが魔法の才を、王妃になることで、王宮に埋もれさせてしまうのは、惜しいと言っている。とりあえず、クロウ。おまえは自分の立ち位置に、もっと自覚を持つべきだ」
「…つまり。ぼくの結婚に反対はしない。公爵家の跡継ぎはシオン、ということで。よろしいですか?」
なんか、ごねているけど。
要は、そういうことだよね? 反対しないって、言ったもんね?
すると、父は。軽い笑みを浮かべつつ、言いにくそうに、もごもご言った。
「…クロウ。公爵令息として結婚し、跡継ぎを生んでから、陛下と結婚というのは、どうだ?」
「は?」
父も、口元が引きつっているから、それが荒唐無稽なものだという自覚はあるのだろうが。
「いったい、どうしたら、そういう話になるのですか?」
ぼくは。こめかみを、怒りでピクピクさせながら、たずねる。我慢、我慢。
「クロウの魔力を、公爵家に残したいではないか? 優秀な血脈を残すのも、公爵家の義務だ」
「それでぼくは、愛のない結婚をして。子を産んだ妻ともども、公爵家に置いていき。そのあと、へらへらと陛下と結婚しろと? …父上」
「い、い、一提案に過ぎない。怒るな、クロウ」
怒りの波動が伝わっているのか、父はアタフタしながら、ぼくを見やる。
「シオンの子も、優秀な公爵家の血脈であると思いますが? 第一、ぼくの子が、ぼくと同じ魔力量があるとは限らないでしょう? 父上は、愛のない結婚を強いるほどに、魔力量のある優秀な子だけが欲しいのですか? 父上の言葉には、愛を感じません」
「そんなわけない。クロウもシオンも、愛しているに決まっている。だから。愛しているからこそ。私はミリシャに似たおまえに、爵位を譲りたいのだぁ」
その言葉に、もう怒りが抑えられなくなり。ぼくは叫んだ。
「父上、えこひいきは許しませーん!」
ぼくの怒声とともに、ディナールームがビョッと冷たくなった。
でも、ぼくは怒っていたので。気がつかなかったけれど。
「なんですか、その理由は。つか、ぼくが手塩にかけて育て上げたシオンを、ないがしろにするとは何事ですかっ? シオンは、それはそれは心優しく、努力家で、真面目で、良識のある良い男なのです。シオンが母より父上と顔が似ているから? 後継にしないというのですかっ? そんな、クソな理由は、受け付けませんんんっ」
ガオーッ、と。なにかが後ろで鳴いているけど。今、怒ってるから、黙っててっ。
「え、えこひいきではない。後継を長子にこだわるのは、た、大家としては当然のことなのだ」
「長男でも次男でも、後継がいるのだから、それでいいでしょうが? 大体、親が子供を選り好みしたら、ダメでしょっ? どちらも、可愛い、我が子。そうやって子育てするのが、基本でしょ? 父上がそのような態度であるなら、ぼくはシオンを連れて公爵家を出ます。家出ですっ。シオンはぼくが、デロデロに愛しますからっ」
「兄上、デロデロに愛されるのは楽しみなんですが。とりあえず、後ろのドラゴンを仕舞ってください」
シオンが冷静にツッコんできて。
ひとりヒートアップしていたぼくは。シオンが背後を指差すので、振り向いた。
「…ドラゴン?」
そうしたら、薄青の、ぼくの二倍くらいの大きさのドラゴンが、地団太踏んで、アンギャ―って、言ってる。
振り向いたぼくと、目が合って。
ドラゴンも、ぼくを見て。驚いた顔をしている。…は?
「うわっ、なんだこれ?」
「兄上の怒りの具現化ですよ。たぶん」
ま、怒ったけど。
無意識で、変なの出しちゃったね?
ぼくより、ちょっと大きいくらいのドラゴンだから。ギリ、ディナールームにおさまっているけど。
これ以上、どすどすされたり、尻尾を振り回されたら、屋敷が半壊してしまう。
ぼくは、ぼくの怒りと連動して、床を踏み鳴らすドラゴンに指をさす。
そうすると、猫のように、指先の匂いを嗅いできたから。
そのまま、チョンと鼻をつついて。魔法解除。
ドラゴンは、さらさらと蒸発するように消えたのだった。
ま、空気中の水分を凍らせて出来た、ドラゴンだろうからね?
「いやぁ、無意識は怖いね? やはり魔力コントロールを学ぶのは大切だな。それで、父上。先ほどの話は…」
「いやいや、なかったことにするんじゃない。ドラゴン出すとか、放送するとか、やっぱりこの逸材を手放すわけにはいかないぞ」
ぼくが流麗に話を戻そうとしたのに。
父上は、驚愕と興奮に色めきだった様子で、ぼくを見やる。
「いえ、これは父上もシオンもできるでしょ? 放送は、大気中の水分を震わせて、遠くへ飛ばす。ドラゴンは空気中の水分を集めて固めただけですから。原理がわかれば、誰だってできますよ」
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