【完結】幽閉の王を救えっ、でも周りにモブの仕立て屋しかいないんですけどぉ?

北川晶

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2-20 心地よすぎて眠くなる

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     ◆心地よすぎて眠くなる

 五月の連休明け、学園に登校しても、陛下はいなかったが。
 ランチタイムを終えて、食堂から教室へと戻ると。
 陛下が…あの麗しい金髪の、スラリとした立ち姿の陛下が、いましたっ!!

「イアン様、おおお、お久しぶりでございますぅ…」
 ぼくは、サカサカと陛下に寄っていくと。涙がちょちょぎれる嬉しさで、陛下に笑みを見せた。
 本当は、ガバァ、ブチュウ、といきたいところだが。
 校内なので。お互いに手をつなぐぐらいで我慢します。

 貴族なので、はしたないことは人前でしてはいけないのです。貴族、めんどくさっ。

「あぁ、クロウ。会いたかったぞ。マジで。切実に」
 ぼくがたまに、マジで、って使うものだから。
 陛下にも、その言葉遣いが移ってしまいました。
 いけません。それは、国王的には、相応しくない言葉。
 でも、ふたりきりのときならいいですよね? 気安い感じというか。心を開いている感じというか? 心の距離が縮まります。

 ぼくたちは、再会の感動に、つないだ手を離せずにいた。
 目と目を見交わし、お互いに笑顔になって。
 恋人たちの逢瀬を祝して、壮大な挿入曲が背後に流れている…みたいなイメージです。

 でも、目の前の陛下の顔をうかがうと。なにやら疲労の色が見えますね?
 いつもの、キラリとした瞳の輝きが、少ないし。
 クマ、というほどではないが。目元にお疲れのシワが…。

 大変です。早く座りましょう。
 ぼくらは手をつないだままで、教室の椅子に並んで腰かける。

「イアン様、お疲れではないのですか? 学園に来るよりも、少し、王宮で休まれた方が?」
「いや、王宮にいれば、仕事をしてしまうし。なにより、クロウの顔を見ることが、我には一番のいこいなのだ」

 そう言ってくださるのは、ありがたい。
 ぼくだって、一週間も陛下の顔を見ることができなくて。完全に陛下不足です。枯渇です。
 しの供給に飢えていますっ。

 陛下がぼくを見て、憩いだと思うように。
 ぼくも、陛下のエキスを補給しなければなりません。
 あぁ、こうして陛下のそばにいるだけで。陛下の爽やかな香りとか。体温とか。空気感とか。なにもかもに癒されますぅ。
 浄化のミストを、浴びているかのようですぅ。

「クロウは連休中、どうしていた? ウィレム伯爵領の件は?」
「はい。連休中に、父とともにウィレム領に行き、池作りの指南をしてきました」
 ざっくりと、陛下に、ウィレム領でのことを話した。

 ぼくたちよりも先に、伯爵領へ帰郷していたベルナルドは。彼の父に、ぼくと話したことを告げたが。
 やはりうまく伝わらず。
 池を作るなんて、神の御業みわざだ、と相手にしてくれなかったようだ。

 それで、ぼくらがウィレム邸に着いて。おもてなしを受けたあと。
 さっそく、ウィレム邸の近くにある農地にて、実験を試みることにした。
 まぁ、ため池を作るのは、ベルナルドだけど。

 ベルナルドが、池を作るため。畑ひとつ分の場所を、土魔法で掘削していく。
 残土は、土管を作る。
 ため池から、各々の田畑へ水を供給できるように、水路を作る用だ。

 ベルナルドは、池を作る予定の敷地三分の一を掘削したところで、魔力が尽きた。
 でも、池など作れるわけがない、と言っていた後継様が。息子の頑張りを見て、奮起し。掘削を手伝ってくれた。
 たが。やはり、三分の一で魔力が尽き。続きは明日ということになった。

 晩餐の席で、ため池の効用を、後継様にしっかりアピールし。将来持続して、水不足のリスクを回避した農業運営ができるようになると、説明する。
 ぼくの提案に。後継様は、公爵である父を気に留める。
 今まで、公爵家に依頼してきた事柄を、終えるような提案に、乗っても良いものか? と。

 良いに決まっている。

 お金を払わなくて良くなる、技術革新(ってほどでもないが、ため池のない世界では、革新的だよね?)をさせずに、お金を払うように仕向けるのは。アコギってものです。
 公爵たるもの、良民から貪ってはいけません。

 まぁ、普通に考えて、公爵は収入源が奪われることに難色を示すのではないかと、ウィレム卿は思っていたのだろう。
 でも。なにやら上機嫌で。公爵は、ふふんと鼻を鳴らすのだった。
「ウィレム卿、うちの息子、賢いだろう? 陛下も、このテストケースが成功したら、全土にため池を普及させようと、クロウの提案に興味津々なのだ」

 親馬鹿である。
 公爵の威厳はどこへ? でも仕方がない、父上だものね。

「クロウの英知の恩恵に、いち早く触れられたウィレム卿は、実に運が良い御仁だ。大船に乗ったつもりで、どうか、カザレニア国の農業の発展に尽力できるよう、息子の提案を受けてくれないか?」

 ぼくの提案を受け入れ。それでも、もしも水が枯渇したら。もう手は貸さないよ、と公爵に言われたくなかったウィレム卿は。
 公爵がぼくに、あまりにもデロアマだったから…。驚いていた。
 なんか、すいません。

 で、公爵のオッケーが貰えるなら、それは喜んで尽力いたします、となって。
 翌日からの池作りに、ウィレム家一同は、積極的に取り組むようになった。

 朝から、ベルナルドが、土魔法で池の区分を整地し。底や脇を、強めに固めて。水を入れられるようになるところまで、ため池を作り上げた。
 そこに、ぼくが、ドバっと水を入れると。それは、それは、見事なため池ができたのだ。

 これほどの規模の池を、人工で作り出すことができると、思っていなかったウィレム親子は。ほぼ自分たちで作ったというのに。美しい池を見て、目を丸くしたのだった。

「これで、この辺りの田畑は、この、ため池の水を使うことで、水不足の問題は解消されるはずです。日常的に水を貯めておくことで、水源の余り水も、川に流すことなく、有効に使えますよ?」
「素晴らしいです、クロウ様。このようなお知恵を授けていただき、ウィレム伯爵家一同、感謝の念に堪えません」

 後継様が、喜んでくれたので。良かったです。
 ここ十年の、公爵家の不義理が、これで消えたわけではないだろうが。
 少しでもお力になれたのなら、嬉しいことです。

 水路の工事や、領内の池の設置など。それはこれから、徐々に増やし、整備していく形になる。
 しかし、将来の農業の発展に、光が見え。
 領内の農民や、領民たちは、伯爵家の皆様と一緒になって喜び。労働に前向きになったのだった。めでたしめでたし。


「あ、今年分のお水は、父上が予定通り、水路に水を流し入れ。増やしておきました。ウィレム領の今年の収穫量は、田畑が改善されれば、元通りになることでしょう」
 説明し終えると、目をやんわり細めて、ぼくをみつめていた陛下は。うんうんとうなずいて。ぼくの頭をそっと撫でるのだった。

「よく頑張ったな? クロウ。我は、我の花嫁が、このように有能で、鼻が高い」
 そう言って、ぼくの指先を、陛下は指でいじってくる。

 陛下の人差し指が、ぼくの手の甲をするりとなぞると。その些細な感触に、ゾワリとする。
 気持ちが良い方の、ゾワリ、だ。
 くすぐったいような。頭の後ろがソワソワするような。口がハワワとなるような。

「あぁ、クロウ。我はもっと、おまえに触れたいのに。校内では、思うままに触れられなくて、もどかしいな。早く嫁に来い」
 その気持ちは、全面的に同意ですけど。
 みなさんが一生懸命、準備を進めてくれているでしょう?

「…八月一日に、結婚の日取りが決まったではありませんか? もう少しの辛抱でございます。それに、ぼくは一生懸命、陛下と対になる婚礼衣装を縫っているのですよ? 楽しみにしていてくださいね?」
「八月まで、待てぬ」
 陛下は、唇をへの字にして。じろりとぼくを睨む。
 そんな、怒られても困りますぅ。

 それで、ぼくは。陛下が少しでも心が満たされるように。ぼくの魔力を陛下に送った。
 シオンがたまに、ぼくから漏れ出ている魔力を吸って、気持ち良さそうにしているから。
 ぼくと陛下の魔力は、相性が良いみたいだし。気持ち良くなってくれたらいいな、と思って。

 ぼくのエキスを、存分に浴びてくださいませっ。

 そうしたら、陛下は。目を丸くした。
「なんだ、これは? 手のひらが熱くて、す、すごく、いい」
「ぼくの魔力です。気持ち悪くないですか?」
「いや、むしろ。心地よすぎて眠くなる。木漏れ日のような、春の日差しのような、ぬくぬく、ぽかぽかした、あたたかさだ。魔力に、このような使い方が、あるとは…な?」
 ポツポツとつぶやいた陛下は、ぼくの肩に頭を預け。長い金のまつ毛を、そっと伏せた。
「おまえがいないと、よく眠れないのだ…クロウ、早く、嫁に来い…」
 徐々に、肩に重みがかかってくる。

 マジ寝ですか? ふふ。おやすみなさいませ、陛下。

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